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71.そっちの方が怖えな

カイトが、自室でネムリアと並んで座っていた頃。


ユキトは、もう寝ていた。


カイトは竜になれた。


灰竜だったらしいが、何が問題なのかユキトはよく知らない。

正直、そこまで興味もなかった。


竜になれた。

純竜だった。


なら、とりあえず大丈夫だろう。


ユキトはそう判断していた。


カイトの顔が硬かったことにも、アリシアが妙に静かだったことにも気づかなかった。



「まあ、何とかなるだろ」


そう思ったのを最後に、意識は沈んだ。


眠りに落ちたはずなのに、目を開けた瞬間、ユキトはすぐにそれが普通の眠りの続きではないと分かった。

暗くない。

明るいわけでもない。


白い、というのも少し違う。

霧を塗り固めて、床と壁のふりをさせたみたいな、輪郭の曖昧な空間だった。


空はない。

地面はある。だが踏んだ感触が薄い。

音も変だった。足を動かしても、靴底が床を擦る気配が妙に遠い。


ユキトは立ったまま、まず自分の手を見た。

握って、開く。問題なく動く。痛みもある。感覚も途切れていない。


次に周囲を見る。

何もない。


異世界の森でもない。

島の家でもない。

現代日本の見慣れた町並みでもない。


ただ、何かを作る前の空白みたいな空間だけが、どこまでも続いている。


「……気味わりぃな」


独り言は、自分で思ったより乾いた声で出た。


妙な夢を見ること自体は、珍しくない。

だがこれは、夢にしては整いすぎていた。

逆に現実にしては、細部が足りなすぎる。


変な場所に放り込まれた。

その認識だけ先に来る。


ユキトは一歩だけ後ろへ重心をずらした。

いつでも動けるように。

逃げ道のない場所でまずやることは、逃げることを諦めることじゃない。

どこまで動けるかを先に測ることだ。


そんな時だった。


何もなかった白の奥に、ひとつだけ輪郭が増えた。


人影だった。


いつからそこにいたのか分からない。

気づいた時には、もういた。


男だった。


くたびれたビジネススーツを着ている。

高そうでも安そうでもない、ただひどく生活に負けた感じのするスーツだった。肩が少し落ち、ネクタイも曲がっている。靴も磨かれていない。全体に、寝不足と諦めが染みついていた。


顔だけが、妙にぼやけていた。


見えないわけじゃない。

目も鼻も口も、そこにあるはずなのに、視線がうまく合わない。

そこだけ世界が拒否しているみたいだった。


男はユキトを見る。

見て、深く息を吐いた。


「……いや、ほんと最悪だな」


開口一番、それだった。


ユキトは眉をひそめる。


男は頭を掻いた。

疲れているというより、もう疲れ切っていた。


「こんな入り方したくなかったんだけど」

「は?」


「神出すの、安直すぎるだろって。俺も思ってる」


「何の話だ」


「この作品、ここまで結構丁寧に積んできたつもりなんだよ。一部であれこれ積んで、ようやく地盤できたところで、二部の導入が神です、時間巻き戻しました、現代行ってください、って雑すぎるだろ。台無しにもほどがある」


男は自嘲気味に笑った。

笑い声は軽いのに、目の前の空気は少しも軽くならない。


「でももう詰んでる。書き手の力量不足。笑えるだろ」

「笑えねえよ」


ユキトは即答した。


「誰だ、お前」


男は少しだけ首を傾けた。


「そこ説明すると余計ややこしくなるから、しない。お前が今理解しなくていいことは、今は説明しない方がいい」

「便利な言い方だな」

「便利だろ。嫌いなんだよ、そういうご都合主義ほんとに……」


ぼやけた顔のまま、男はまたため息をついた。


「時間がない。だから必要なことだけ言う」


その瞬間だけ、男の声の温度が少し変わった。

軽口を叩いていたはずなのに、そこだけ妙に真っ直ぐになる。


「このあとすぐ、現代日本の神が来る」

「……は?」


「そいつはお前に、日本へ戻れって言う」

「断ったら」


「異世界に飛ばされる前まで時間を巻き戻して、全部なかったことにするって脅してくる」


ユキトの目が、わずかに細くなる。


男は続けた。


「アリシアも、カイトも、ヨルカも。今まで積み上がったもんも。お前がこっちで築いたもんも。全部まとめて、最初からなかったことにする、ってそう言うはずだ」


白い空間の静けさが、そこで一段深くなった。


ユキトはすぐには口を開かなかった。


男の言っていることは、意味としては分かる。

分かるが、受け入れるかどうかは別だ。


「なんでそんなことを、俺に教える」


男は肩をすくめた。


「そのまま脅しに乗るな、って言いに来た」

「信用できると思うか?」


「思わないだろうな」


あっさり認めた。


「だから信用はしなくていい。ただ、ひとつだけ頭に置いとけ」

「……何をだ」


男はほんの少しだけ、ユキトへ近づいた。


「本当に何でもできるなら、もっと前に戻してる」


それだけだった。


「二十年だか何だか知らないけど、中途半端にしか巻き戻してないなら、そこには理由がある。限界か、制約か、穴か。少なくとも、好き放題できるわけじゃない」

「推測か」

「そうだよ。俺だって全部知ってるわけじゃない」


男は笑った。

さっきまでより、少しだけ力のない笑いだった。


「情報はここまで。あとは主人公なんだから自分で何とかしろ」

「勝手なこと言ってんな」

「ほんとにな」


そこで男は、一瞬だけ黙った。


ぼやけた顔の向こうから、どういう表情をしているのかは分からない。

ただ、声だけが妙に疲れていた。


「すまんな」


その一言だけ残して、男の輪郭が崩れた。


消え方まで中途半端だった。

霧の中に溶けるみたいに、輪郭から順に白へ戻っていく。


消えた、と思う暇もなかった。




空気が変わった。


さっきまでの白い空間が、そのままひとつ深く沈んだような感覚。

軽い異物感だったものが、一気に重くなる。


息が、少しだけ吸いづらい。


ユキトは何もない前方を見たまま、重心を落とした。


次に現れた存在は、男とは違った。


人の形はしている。

しているが、それを人間と言い切るには、空気の歪み方が違いすぎた。


立っているだけで、周囲の白が均一でいられなくなる。

近い場所ほど静かで、遠い場所ほどざわつく。距離の感覚が逆転するような、嫌な存在感だった。


ユキトはその姿を見て、まず思った。


綺麗だとか、神々しいだとか、そういうことじゃない。


都合を通してくる側の顔だ。


相手はユキトを見る。

その瞬間、わずかに目を見開いた。


ほんの、一瞬だけ。


「……生きているのか」


小さな声だった。


驚きが先に漏れたような、半ば独り言に近い声音。


続いて、さらに小さく呟く。


「戦闘力は調整したはず……」


ユキトの眉が、ほんのわずかに動いた。


その言葉だけは聞き逃さなかった。

反射的に問い返しかけた喉が、一瞬だけ動く。


だが、言わない。


今ここでそれに食いつけば、相手に余計な主導権を渡す。

しかも目の前の存在は、何をどこまで知っていて、何を平然と弄れるのか分からない。


不気味だった。


だからユキトは、何も言わずにその一言を飲み込んだ。


相手の視線が、さらにわずかにずれた。


ユキトの向こう側を見るような目。

島の家。

そこで暮らす妻たち。

子どもたち。

ここに至るまでの時間。


何かを確かめたような、短い沈黙が落ちた。


それ以上は触れず、相手はそのまま本題に入る。


「ユキト。お前には現代日本へ行ってもらう」

「いきなり命令かよ」

「時間がない」


声音に揺らぎはなかった。


「すでに二十年の巻き戻しを行っている。これ以上の遅延は許されない」

「知らねえな」

「知る必要がなかっただけだ」


神は淡々と告げた。


「お前には、現代日本に残した二股状態を清算してもらう」

「……は?」


さすがにユキトの声が止まる。


数拍遅れて、眉間に深く皺が寄った。


「何の話だ」

「因果のもつれだ。放置されたまま残っている」

「知らねえよ」


ユキトは吐き捨てるように言った。


「顔も名前も覚えてねえような女の機嫌取りに、なんで俺が今さら行かなきゃいけねえんだ」

「機嫌取りではない。清算だ」

「同じだろ。ふざけんな」


声が一段低くなる。


「俺、普通に妻子持ちだぞ」

「承知している」

「知ってて言ってんのが一番気持ち悪いんだよ」


白い空間が妙に静かだった。


神は少しだけ黙る。

そして、まるで条件を見直すみたいな口ぶりで言った。


「……なら、息子でもいい」

「は?」


今度こそユキトははっきり言った。


「何言ってんだお前」

「代替として成立する可能性がある」

「意味が分からねえよ」


神は変わらず淡々としている。


「似ている。十分に」

「だから何だ」


ユキトの声には苛立ちだけじゃなく、薄い悪寒が混じっていた。

その判断基準が、人間のものじゃなさすぎた。


「カイトはお前の生き写しに近い容姿だ。因果の受け皿として代替候補にはなる」

「勝手に決めんな」


ユキトは一歩、半歩だけ前へ出る。


「角も尻尾もあるんだぞ。現代日本でどうやって歩かせる気だ。ローブでも被せるのかよ。あっちにそんな便利なもんねえだろ」

「問題ない」

「何がだ」

「あちらでは竜要素は表に出ない」


ユキトの目が止まる。


「……は?」

「角も尾も消える。少なくとも外見には出ない」

「なんだよそれ」

「わたしの世界は、こちらの要素をそのまま通さない」

「便利すぎるだろ」

「そうだな」


否定しなかった。


それが余計に気持ち悪い。


都合がいいことを都合がいいまま認める。

しかも、言い訳もしない。

その開き直り方が、人間の尺度から遠すぎた。


ユキトはそこで小さく舌打ちした。


「やっぱり嫌いだわ、お前らみたいなの」


神は答えない。


ユキトは息を吐き、それから相手をまっすぐ見る。

怒りはある。

だが、そこで怒鳴り散らして終わるほど浅くはなかった。


さっきの男の言葉が頭のどこかに残っている。


本当に何でもできるなら、もっと前に戻してる。


なら、ここにも穴がある。


「ひとつ聞く」


神は止めない。


「そんなことが本当にできるなら、なんで二十年なんて中途半端なところで止まってんだ」

「……」

「好きなだけ戻せるなら、もっと前に戻してるはずだろ。俺が異世界に行く前まで消したいなら、最初からそこまでやってりゃいい」

「……」

「やってないんじゃなくて、やれないんじゃねえのか」


神の目が変わった。


さっきまでの一方的な視線じゃない。

こちらを測り返す目だ。


ユキトはその変化を見て、逆に確信を深める。


「俺に来いって言うのもそうだ。何でもできるなら、俺を使う必要なんかねえ。なのに今さら出てきて、脅してでも動かしたい」


一拍置いて、はっきりと言う。


「追い込まれてんのは、そっちだろ」


神は初めて、明確に黙った。


圧が消えたわけじゃない。

だが、完璧に整っていた空気がほんの少しだけ乱れる。


「……なぜ、それを知っている」


低い声だった。


「誰から聞いた」


ユキトは肩をすくめる。


「全部聞かされたわけじゃねえよ」

「ならなぜ分かる」

「その顔で十分だ」


神の目が細くなる。


ユキトはそこで、わざと少しだけ雑に笑った。


「でもまあ、全部聞いたことにしとく」

「……」

「図星なんだろ」


また沈黙が落ちた。


やがて神は、小さく息を吐いた。

それは諦めに近かったが、敗北ではなかった。


「……お前の異世界転移は、私の想定ではない」

「だろうな」

「異世界側の神の干渉だ。悪意を含んでいる」

「へえ」


ユキトは相槌だけ返す。

急に信じた顔はしない。


神も気にせず続けた。


「だが、あちらへ飛ばされた時点で想定は崩れた。さらに介入が重なった」

「それで二十年巻き戻した」

「でも、それ以上前には戻せない」

「記録が固定されている」


神の声音に、微かな苛立ちが混じる。


「お前の言い方に合わせれば、上書き保存だ。そこを起点にされている。二十年より前へ無理に触れれば、こちらの側が壊れる」

「だから中途半端に二十年で止まってる」


ユキトは少しだけ視線を落とした。


情報としては十分だった。

相手が万能ではないこと。

脅しが全部虚勢ではなく、本当にできる範囲とできない範囲があること。

そこまでは見えた。


神は再び言う。


「それでも、お前には行ってもらう」

「断ると言ったら」

「先ほど言った通りだ」


声音が冷える。


「私はこちらの世界では全能ではない。だが、干渉の手段が尽きたわけでもない」

「例えば」

「綻びを広げることはできる」


空間がわずかに軋む。


「眠っている災厄の封を弱める。偶然で済んでいた破滅を、偶然では済まなくする。こちら側のシステムの封印についても、完全に解くことはできずとも、揺らすことはできる」


こちら側のシステム。

その言い方に、わからないが胸が一瞬だけ嫌な連想が走る。


「やめろ」


ユキトの声が、初めてはっきりと低く落ちた。

神はまっすぐ見返す。


「私は脅しているのではない。選択肢を示している」

「同じだろ」

「お前にとってはな」


その返しが気に入らない。

だが、嘘ではないのも分かる。


この神は世界を好き放題にはねじ曲げられない。

だが、傷口に指を入れるくらいのことはできる。

それは十分すぎるほど厄介だった。


「時間は与える」


神はそう言った。


白く曖昧な空間の中で、その声音だけが妙に硬かった。

押しつけがましいのに、感情は薄い。

命令というより、決定事項の通達に近い。


「三日だ」

「……」

「三日以内に決めろ」


ユキトは相手を見返したまま、何も言わない。


神は続ける。


「お前でもいい。息子でもいい」

「勝手に言ってろ」

「どちらでも、この世界から現代日本へ送る手段は残す」


そこで初めて、神の視線がわずかに下へ落ちた。

白い空間の、存在しないはずの床を見るような仕草だった。


「印を置く」

「印?」

「お前の部屋だ」


ユキトの眉がわずかに動く。


「そこに陣を残す」

「……」

「三日以内に、その陣の上へ立たせろ」

「立たせるだけかよ」

「人が乗れば自動で飛ばす」


言い方が、あまりにも事務的だった。


荷物でも送るみたいに。

誰かの人生を別の世界へ投げ込む話をしているくせに、声色ひとつ変えない。


ユキトの口元がわずかに歪む。


「物扱いかよ」

「そうだ」

「気持ち悪いな」

「そう思うのは自由だ」


自由。

その言葉の使い方まで気に入らない。


神は少しも構わず言葉を継いだ。


「三日以内に使わなければ、こちらで修正を進める」

「巻き戻しを試すか」

「必要な範囲でな」

「必要、ね」


ユキトは吐き捨てるように言った。


神は肯定もしない。否定もしない。

ただ事実だけを置いていく。


「陣はお前にも見える。触れもする。夢では終わらない」

「親切なことで」

「証拠がなければ、お前は動かない」

「よく分かってんじゃねえか」


そこで初めて、神の目がほんの少しだけ細くなった。

だがそれも一瞬だった。


「三日だ」


それだけをもう一度繰り返す。


「選べ。お前が行くか、息子を行かせるか」

「どっちも選ばなかったら」

「お前が嫌う形で話が進む」


脅しのくせに、最後まで脅しとは言わない。

その態度が一番腹立たしかった。


ユキトはしばらく何も言わなかった。

怒鳴るのは簡単だ。

だが、怒鳴ったところでこの相手は揺れない。


代わりに、目だけは逸らさずに言う。


「……三日で家族を秤にかけろってか」

「秤にかけるのは元からお前だ」

「言い方の問題じゃねえよ」

「お前にとってはな」


またそれだった。


ユキトは舌打ちしかけた息を飲み込む。


三日。

陣。

乗れば自動で飛ぶ。

お前でもいい。息子でもいい。

使わなければ、向こうが進める。


覚えるべき情報だけを頭に沈めた瞬間、白い空間が遠のいた。


次に目を開けた時、ユキトは自分の寝台の上にいた。


暗い天井。石造りの壁。使い慣れた寝具。

外では島の夜風が鳴っている。


現実だ。


そう思いかけて、すぐに打ち消す。


ただの悪夢かもしれない。

疲れが見せた、胸糞の悪い夢。


そう片づけようとして、ユキトは床を見た。


寝台から二歩ほど離れた石床に、見覚えのない模様が刻まれていた。


円のようで、円ではない。

文字のような線が枝分かれし、目を離すたびに並びが変わる。

彫られているのに、彫られていない。

光っているようで、光ではない。


線そのものが、石の表面に食い込んでいる。


「……は」


声にならない息が漏れた。


見続けていると気分が悪くなる。

石床の上に模様があるのではなく、石床そのものが模様に侵されているようだった。


夢じゃなかった。


喉が乾く。

首筋を嫌な汗が伝う。


ユキトは床の陣を睨んだまま、しばらく動けなかった。


三日。

乗れば飛ぶ。

俺でもいい。息子でもいい。


冗談じゃない。


まず、この話を妻たちにした時点で終わる。

怒鳴られる。泣かれる。詰められる。たぶん全員違う方向からキレる。


ヴォルカは本気で止めに来る。

フローラは笑わない顔で正論を並べてくる。

ネムリアは黙って袖を掴んだまま離さない。


下手をすれば、神より先に自分が裁かれる。


「……そっちの方が怖えな」


思わず口から漏れた。


いや、笑い事ではない。

笑い事ではないが、本当に怖いものは怖い。


それに、行きたくなかった。


現代日本。

そう聞いても、胸は少しも動かなかった。


母親の顔ですら、もうはっきり思い出せない。

家があった。

学校があった。

制服があった。

たぶん、名前を呼んでくる誰かもいた。


けれど、それだけだ。


そこはもう、自分の生活の場だとは思えなかった。


今さらあそこへ戻って、何をする。

子持ちの既婚者が高校生の顔で教室に座るのか。

机に向かって授業を聞いて、休み時間に同級生と話して、放課後に帰るのか。


無理だ。

想像しただけで吐き気がする。


何より。


ここにはヴォルカがいる。

フローラがいる。

ネムリアがいる。

子供たちがいる。


自分で作った家がある。

面倒を押しつけられながらも整えた暮らしがある。

食事も、風呂も、寝床も、朝の声も、夜の気配も、全部ここにある。


「……行きたくねえよ」


それだけは、はっきり本音だった。


怖いからだけではない。

面倒だからだけでもない。


単純に、離れたくなかった。


ユキトは乾いた喉を鳴らし、もう一度だけ陣を見た。


俺でもいい。

息子でもいい。


その言葉が、どうしても消えない。


「カイトか……」


自分に似すぎた息子の顔が浮かぶ。


代わりにできる。

そう見なされたこと自体が腹立たしい。


けれど、知らないままにはできない。

勝手に決めるのも違う。


ユキトは深く息を吐いた。


「……明日、話すか」


それが一番面倒で、一番避けたいことだった。

だが、避けて済む話ではなかった。

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