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66.幕間02  言えない秘密

家計簿を前にして、部屋の空気が死んでいた。


昼下がりの食卓。


いつもなら、ネムリアが半分寝ながら茶を飲み、ヴォルカが穏やかに台所の片づけをし、フローラが季節の花を整えている時間だった。


だが今日は違う。


机の上には、数枚の帳簿が置かれている。


食料の買い入れ。

港との取引記録。

家の修繕に使った資材の控え。

薬草や布、油、薪、塩。


そして、ユキト個人の財布から出ていった金の流れ。


フローラが静かに指先で帳簿を押さえている。


ヴォルカは青ざめていた。


ネムリアは眠たげな目をしているが、その瞳だけは妙に冴えている。


ユキトは、正座していた。


理由は分からない。


いや、分かっている。


分かっているからこそ、逃げ道がない。


「ユキトさん」


ヴォルカの声は震えていた。


怒っているというより、まだ信じたくない声だった。


「最近、お金の減り方がおかしいんです」


「……はい」


「食料が足りないわけではありません。家の修繕に使ったわけでもありません。港で必要な物を買った記録にも、合いません」


「……はい」


「私たちへの贈り物でも、ないんですよね」


「……はい」


ユキトは床を見ていた。


見上げたら死ぬ。


この空気は、見上げた瞬間に死ぬやつだった。


フローラが帳簿を一枚めくる。


音がやけに大きく聞こえた。


「最初は、何か準備しているのかと思いました」


「……」


「これから一緒に暮らすために、私たちに黙って何か整えているのかと」


「……」


「あなたは先日、私たちに言いましたね」


ユキトの肩が、わずかに跳ねた。


「これからも、妻として、一緒にいてほしい、と」


「……はい」


「そして私たちは、あなたの言葉を受け入れました」


「……はい」


「そのあとで、私たちはもう、家族になったはずです」


フローラの声は穏やかだった。


穏やかだからこそ、怖かった。


「ユキトさん」


「はい」


「説明してください」


ユキトは黙った。


喉が乾く。


背中に汗が流れる。


ヴォルカはまだ悲しそうに見ている。

フローラは完全に裁きの目をしている。

ネムリアは、じっとユキトを見ていた。


ユキトは一度だけ口を開きかけて、閉じた。


無理だ。


これは無理だ。


言えるわけがない。


だが、言わなければもっと悪くなる。


ユキトは目を閉じた。


そして、小さく言った。


「……店に」


「店?」


ヴォルカが聞き返す。


「行ってました」


「何の店ですか」


フローラの声が低くなる。


ユキトは床を見たまま、さらに小さくなった。


「……キャバクラ」


空気が止まった。


ヴォルカが息を呑んだ。


フローラの指が帳簿の上で止まった。


ネムリアは、ゆっくり瞬きをした。


「きゃばくら」


ネムリアが、言葉の意味を確かめるように繰り返す。


「女の子と、お酒飲むところ?」


「……はい」


「ユキトさん」


ヴォルカの声が、今度は明確に震えた。


「女の人のいるお店に、通っていたんですか?」


「……通っていたというか」


「通っていたんですか?」


「……はい」


ヴォルカの顔から血の気が引いた。


フローラは静かに目を伏せた。


ネムリアは少し首を傾げる。


「でも」


ネムリアが言った。


「ユキトのすきなの、かなりへん」


「おい」


「爆乳ドラゴン娘」


「やめろ」


「封印されてるやつ」


「やめろって」


「たすけてほしそうなやつ」


「具体的に言うな!」


ネムリアは眠そうに続けた。


「だから、あんしんしてた」


ヴォルカが、はっとしたように顔を上げる。


フローラも、ほんのわずかに目を細めた。


それは三人にとって、共通認識だった。


ユキトの女の好みは、ひどく偏っている。


ただ胸が大きければいいわけではない。

ただ竜であればいいわけでもない。

ただ美人ならいいわけでもない。


封印されている。

危険だけど弱っている。

こちらを見ている。

解放されるのを待っている。

世界を壊しかねないが、今はどこか寂しそう。


そんな女。


そんな面倒くさい属性をすべて満たす存在など、そうそういない。


だから三人は、心のどこかで油断していた。


ユキトが外でふらふらしても、最後には戻ってくる。

いや、そもそも彼の性癖を満たす女が簡単に現れるわけがない。


そう思っていた。


フローラがゆっくり顔を上げる。


「まさか」


その声を聞いた瞬間、ユキトの肩がびくりと跳ねた。


フローラは静かに言った。


「そのお店は、ただの女性が接客する店ではありませんね」


「……」


「ユキトさん」


「……」


「答えなさい」


ユキトは、もう一度目を閉じた。


そして、死刑台に上がる囚人のような声で言った。


「……封印された爆乳ドラゴン娘がコンセプトのキャバクラです」


部屋が、完全に無音になった。


外で鳥が鳴いた。


風が窓を揺らした。


誰も動かない。


誰も喋らない。


数秒後、ヴォルカがぽつりと言った。


「……あるんですか?」


ユキトは小さく頷いた。


「……ありました」


「そんな店が?」


「……ありました」


「封印された、爆乳、ドラゴン娘が?」


「……はい」


ヴォルカは口元に手を当てた。


衝撃の方向が分からなくなっている顔だった。


フローラは静かに息を吐く。


「なるほど」


その声は、とても静かだった。


「私たちは油断していたわけですね」


「……」


「ユキトさんの趣味はあまりにも特殊だから、そう簡単に代替品など現れないと」


「……」


「ですが、商売というものは恐ろしいですね」


フローラは微笑んだ。


優しい笑みではない。


花聖竜が神罰を落とす前の顔だった。


「需要があれば、供給される」


ユキトは震えた。


ネムリアがぽつりと言う。


「異世界、こわい」


「この世界の店だよ」


「もっと、こわい」


ヴォルカが震える声で聞いた。


「ユキトさん」


「はい」


「その……お店では、何をするんですか?」


「いや、普通に酒飲んで話すだけだぞ。本当に。それ以上はない。本当にない」


「話すだけですか?」


「本当だって! そこは本当! 俺、そこまでクズじゃない!」


フローラが静かに言った。


「そこまで、という言い方が引っかかりますね」


「今のは言葉の綾!」


ユキトは慌てて手を振った。


「本当に飲んで話すだけ! 向こうも演技! こっちも分かってる! 俺だってそこは分かってる!」


「分かっていて通ったんですね」


「……はい」


「分かっていて、お金を使いすぎたんですね」


「……はい」


「分かっていて、私たちに黙っていたんですね」


「……はい」


フローラは微笑んだまま、何も言わなくなった。


怖い。


死ぬほど怖い。


ヴォルカは泣きそうな顔をしている。


「ユキトさん……私たちでは、足りませんでしたか?」


「違う!!」


ユキトは即座に顔を上げた。


「それは違う! お前たちが足りないとか、そういう話じゃない!」


「では、どういう話なんですか?」


フローラが刺す。


ユキトは詰まった。


どういう話なのか。


自分でも分からない。


いや、分かっている。


最低すぎて、言語化したくないだけだ。


ユキトはしばらく口をぱくぱくさせた後、観念したように肩を落とした。


「……癒やしが欲しかった」


ヴォルカの目が揺れた。


「私たちでは、癒やせませんでしたか?」


「違う! そうじゃない! お前たちは本物なんだよ!」


「本物?」


「重いんだよ!」


言った瞬間、ユキトは自分で終わったと思った。


ヴォルカの表情が固まる。


フローラの笑みが消える。


ネムリアの目が少しだけ細くなる。


ユキトは慌てて両手を振った。


「違う! 今のは違う! いや違わないけど違う!」


「どちらですか」


「お前たちは大事なんだよ! 本当に! だからこそ、こっちもちゃんと向き合わなきゃいけないだろ!」


「それで?」


「店の女の子は、設定なんだよ!」


部屋の空気がさらに冷えた。


ユキトはもう止まれなかった。


「封印されてるって言っても本当に封印されてるわけじゃない! 世界を滅ぼす過去もない! 俺が助けなきゃ壊れるわけでもない! ただそういう設定で、こっちを持ち上げてくれるだけなんだよ!」


ヴォルカが呆然とする。


フローラは目を閉じた。


ネムリアは小さく頷いた。


「つまり」


ネムリアが言った。


「責任のない封印ドラゴン娘」


「……はい」


「お金を払うと、ユキトを待っててくれる」


「……はい」


「たすけなくてもいい」


「……はい」


「でも、たすけた気分にはなれる」


「……はい」


ネムリアはしばらく黙った。


それから、静かに言った。


「最低」


「はい」


ユキトは即答した。


反論の余地はなかった。


ヴォルカが震える声で言った。


「ユキトさん……私、封印されていました」


「はい」


「フローラさんも、封印されていました」


「はい」


「ネムリアさんも、封印されていました」


「はい」


「私たちは、本当にあなたに解放されました」


「はい」


「そのあなたが、私たちに一緒に生きてほしいと言いました」


「はい」


「私たちも、それを受け入れました」


「はい」


「それなのに、あなたはお金を払って、偽物の封印されたドラゴン娘に会いに行っていたんですか?」


言葉にされると、最低さがすごかった。


ユキトは額を床につけた。


「申し訳ございませんでした」


フローラが静かに言う。


「顔を上げなさい」


「嫌です」


「上げなさい」


「上げたら死ぬ気がします」


「上げなさい」


ユキトはゆっくり顔を上げた。


フローラは微笑んでいた。


「そのお店の名前は?」


「……言わなきゃダメ?」


「言いなさい」


「……封印竜宮ドラゴンハート」


ネムリアが、わずかに反応した。


「名前、ちょっといい」


「ネムリア」


フローラが低く呼んだ。


「ごめん」


ネムリアはすぐ謝った。


ヴォルカが悲しそうに言う。


「指名した方はいるんですか?」


「……」


「いるんですね」


「……はい」


「どんな方ですか?」


「……言わなきゃダメ?」


「言ってください」


ユキトは唇を震わせた。


「……黒髪赤目の、黒竜っぽい子」


ヴォルカが止まった。


フローラがユキトを見た。


ネムリアも見た。


ユキトは死んだ目で続けた。


「でも違うんだ。似てるけど違う。あくまでコンセプトで、名前も違うし」


「名前は?」


「……ヴォルナ」


ヴォルカの顔から表情が消えた。


「ユキトさん」


「はい」


「私に似た、封印されたドラゴン爆乳娘のキャストを指名していたんですか?」


「……はい」


「お金を払って?」


「……はい」


「私がここにいるのに?」


「……はい」


ヴォルカは両手で顔を覆った。


「ひどいです……」


「本当にすみませんでした」


フローラが静かに聞く。


「他には?」


「……」


「他にもいますね」


「……はい」


「言いなさい」


「……淡い桃髪で、神聖系の、巫女っぽい子」


「名前は?」


「……フロリア」


フローラは微笑んだ。


完全に目が笑っていなかった。


「続けなさい」


「……緑髪で、眠そうで、夢魔系の」


「名前」


「……ネムリナ」


ネムリアが小さく首を傾げた。


「わたし、いるのに?」


「はい」


「家で、ねてるのに?」


「はい」


「本物、ねてるのに?」


「はい」


「偽物に、会いに行った」


「はい」


ネムリアは少し考えた。


そして言った。


「じゃあ、今日から本物も有料」


「待って」


「一回、金貨一枚」


「高い!」


「膝枕、追加料金」


「家庭内課金やめろ!」


ネムリアは眠そうに言った。


「店より安い」


「それは……そうかもしれないけど……!」


フローラが帳簿を閉じた。


ぱたん、という音が響く。


「話は分かりました」


「……はい」


「つまり、ユキトさんは私たちに不満があったわけではない」


「はい! それは本当に!」


「ただ、責任のない幻想にお金を払って逃げていた」


「……はい」


「しかも、その幻想は私たちを雑に模したものであった」


「……はい」


「共同生活に使うはずだったお金にまで影響を出した」


「……はい」


「最低ですね」


「はい」


ユキトはまた額を床につけた。


弁解などなかった。


これは負けだ。


完全敗北だった。


だが、ここで終わらないのがこの家だった。


ヴォルカがぽつりと言った。


「……でも」


ユキトは恐る恐る顔を上げる。


ヴォルカはまだ泣きそうな顔をしていた。


「少しだけ、分かる気もします」


「ヴォルカ?」


「私たちは、本物です。だから、重いです」


その言葉に、ユキトの胸が詰まる。


「私たちは、ユキトさんに助けられました。あなたに選ばれました。私たちも、あなたを選びました」


「……」


「だから、怖くなる時もあるんですよね」


「……」


「逃げたい時も、あるんですよね」


ユキトは何も言えなかった。


ヴォルカは優しすぎる。


こういう時にまで、こちらの弱さを見ようとする。


だからこそ、余計に刺さる。


フローラが静かに言った。


「理解はします」


ユキトは顔を上げた。


「ですが、許すとは言っていません」


「はい」


「お金を使い込んだこと」


「はい」


「黙っていたこと」


「はい」


「私たちに似た女性にお金を払っていたこと」


「はい」


「そして、夫婦になったばかりの私たちから逃げたこと」


ユキトは、何も言えなかった。


その一言だけは、妙に深く刺さった。


「……はい」


ネムリアが手を上げる。


「罰」


フローラが頷いた。


「必要ですね」


ユキトは震えた。


「……ちなみに、どんな?」


フローラは微笑んだ。


「まず、そのお店には二度と行かないこと」


「はい」


「次に、使った分はあなた個人の労働で補填すること」


「はい」


「しばらく小遣いはなし」


「はい」


「それから」


フローラは少しだけ間を置いた。


「今夜、詳しく聞かせてもらいます」


「何を?」


「そのお店で、どのような設定が使われていたのか」


ユキトの顔が引きつった。


「え」


「私たちとしても、夫が何に逃げていたのか正確に把握する必要があります」


「いや、それは別に」


「必要があります」


「ないと思う」


「あります」


ネムリアがぽつりと言った。


「本物の、参考にする」


「しなくていい!」


ヴォルカが真面目な顔で頷く。


「ユキトさんが、そういうものを求めていたなら……私たちも、少しは」


「やめろ! 違う! そういう方向じゃない!」


「封印されればいいんですか?」


「違う!」


「鎖ですか?」


「違う!!」


「助けを求める感じですか?」


「ヴォルカが言うと洒落にならねえんだよ!」


ネムリアが眠そうに言う。


「じゃあ、ユキトを封印する?」


「何でだよ!」


「お金、使えない」


「合理的すぎる!」


フローラは穏やかに微笑んだ。


「いい案ですね」


「よくない!」


「反省するまで、花聖結界で」


「家庭内監禁!」


「言い方が悪いですね。療養です」


「もっと怖い!」


ヴォルカが少しだけ真剣な顔になる。


「ユキトさん」


「……はい」


「もう、行かないでください」


その声は、怒りよりも痛みに近かった。


「私たちが重いなら、重いと言ってください」


「……」


「逃げたいなら、逃げたいと言ってください」


「……」


「でも、知らないところで、私たちに似た誰かに会いに行くのは嫌です」


ユキトは何も言えなくなった。


ふざけて逃げる場面ではなかった。


最低な理由で金を使い、最低な言い訳をし、それでも目の前の女は、自分が傷ついたことをちゃんと言葉にしてくれている。


ユキトは小さく息を吐いた。


「……悪かった」


今度は、軽い謝罪ではなかった。


「本当に、悪かった」


ヴォルカは目を伏せた。


フローラは静かに見ている。


ネムリアも、黙っている。


ユキトは続けた。


「お前たちが重いって言ったのは、最低だった。でも……本当に、たまに怖くなるんだよ」


「怖い?」


「俺が助けたとか、俺が選んだとか、これから一緒に生きるとか。そういうの全部、俺には大きすぎる時がある」


誰も茶化さなかった。


「だから、責任のない場所に逃げた。金払って、都合よく褒められて、都合よく頼られて、帰れば終わる場所に」


ユキトは苦く笑った。


「最低だな」


フローラは少しだけ目を伏せた。


「最低です」


「そこは否定しねえのかよ」


「しません」


「はい」


ネムリアが立ち上がる。


とことことユキトの前まで来て、その頭を両手で挟んだ。


「ユキト」


「はい」


「にげるなら、家の中で逃げて」


「……」


「外だと、さみしい」


ユキトは目を逸らした。


こういうのが一番きつい。


怒鳴られる方が楽だった。


「……はい」


ネムリアは満足したように頷いた。


そして言った。


「あと、店の設定資料、見たい」


「台無しだよ」


「だいじ」


「大事じゃねえ」


「敵を知る」


「敵じゃねえよ」


フローラが微笑む。


「敵ですよ」


「敵なの!?」


ヴォルカも静かに頷いた。


「少なくとも、家計の敵です」


「それはそう」


ユキトは反論できなかった。


その後。


ユキトは店の会員証を没収された。


小遣いも没収された。


しばらく港への単独外出も禁止された。


さらに、三人による緊急対策会議が開かれた。


議題は、


「夫が責任のない封印ドラゴン娘に逃げないため、家庭内でどこまで健全に需要を吸収できるか」


だった。


ユキトは全力で止めた。


止めたが、誰も聞かなかった。


ヴォルカは真面目に悩みながら言った。


「やはり、封印されている雰囲気が必要なのでしょうか」


フローラは冷静に答えた。


「ただし本当に封印すると過去の傷に触れます。演出の範囲に留めるべきです」


ネムリアは眠そうに言った。


「ユキトを封印して、三人で見に行く」


「それ、俺が客じゃなくて展示物になってるだろ!」


ネムリアは頷いた。


「封印された最低夫」


「やめろ!」


フローラが静かに微笑む。


「良い名前ですね」


「よくない!」


ヴォルカが少しだけ困った顔で言う。


「でも、ユキトさんには似合うかもしれません」


「ヴォルカまで!?」


ネムリアが指を立てる。


「封印された最低夫ユキト」


フローラが続ける。


「入場料は生活費に入れましょう」


ヴォルカが真面目に頷く。


「それなら、使い込んだ分も返せますね」


「待て待て待て待て!」


ユキトは立ち上がろうとした。


だが、その瞬間、ネムリアに袖を掴まれた。


「にげた」


「逃げてねえ!」


フローラが言う。


「逃げようとしましたね」


「してない!」


ヴォルカが悲しそうに見る。


「また逃げるんですか?」


「その目やめろ!」


ユキトは崩れ落ちた。


勝てない。


この家では、どれだけ逃げ足が速くても勝てない。


そして翌日。


家の玄関に、ネムリア作の小さな札が立てられた。


『封印された最低夫 反省中』


ユキトはそれを見て叫んだ。


「撤去しろおおおおおおおおお!!」


だが、誰も撤去しなかった。


その札は一週間、家の前に置かれ続けた。


港から来た職人がそれを見て、腹を抱えて笑った。


王国の使者がそれを見て、何も聞かなかったことにした。


ユキトはその日、静かに泣いた。


そして二度と、封印竜宮ドラゴンハートには行かなかった。


ただし。


後日、ネムリアがぽつりと言った。


「フロリア、ちょっと気になる」


フローラが微笑んだ。


「ネムリア?」


「ごめん」


その日、家の空気は再び少しだけ冷えてユキトがとばっちりを受けた。

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