96 ご飯とハンバーグ
「ディア、ただいま。 夜まで暇だから一度戻って来ちゃった」
シアを抱っこしたまま畑に行き、ディアに声をかける。
「お帰りなの。 帰って来たならちょうどいいの。 そろそろ稲を収穫したほうがいいと思うの。 収穫後どうするかわからなかったから、今は成長を遅くしてママが帰ってくるのを待ってる所なの」
「そういえば収穫できるって言ってたね。 それなら王都行く前に収穫してったほうが良かったかな」
私はいつかテレビで見た工程を思い出しながらディアに教え、ディアはその通りに精霊たちに指示を出す。
まずは収穫。
根元の辺りで刈り取り、ある程度の大きさで束ねていく。
次に物干し竿のような物を用意して干し、乾燥させる・・・・・・んだけど。
土の精霊に頼めばすぐに乾燥できるみたいだ。
そう言えば種とかも乾燥させてたね。
機械なんかは当然作れないので、脱穀のために千歯扱きのような物を作って種籾を集める。
集めた種籾から殻を取るんだけど。
目の細かいザルとボウルを用意してすりこぎ棒を作り、一掴み分の殻を取っていく。
殻の取れた玄米を精霊たちに見せると、風の精霊が魔法であっさりと殻を取っていた。
相変わらず精霊の力はすごいし、器用だ。
本来はここで混ざっている石や未熟米、雑草の種や色の悪い米などを取り除かないといけない。
でも風の精霊が殻を取った玄米には混ざってないようで、この工程は必要なさそうだ。
砂糖の時もそうだったけど、精霊はここまで選別できちゃうんだ・・・・・・
さて、最後が一番大変な精米。
さっきのザルとボウルとすりこぎ棒を使って玄米を搗いていく。
これで白くなるまで搗くんだよって教えたら、またも風の精霊が魔法であっさり真っ白なお米にしてしまった。
さっきの殻もそうだけど糠もどこ行ったの?
数秒で精米してしまったので、私が途中まで搗いていた物も風の精霊に渡してまとめて精米してもらう。
その光景を見ても、自分の風魔法で出来る気はしない。
やり方を教えたので再度植えるための分を残して収穫してもらう。
風の精霊が刈り取り、土の精霊が乾燥させたものを火と水の精霊に渡して運んでもらう。
その後、手の空いてる精霊が脱穀&入れ物を作り、種籾を集めていく。
さっきの説明を聞いた後、自分たちのやり方で効率よく動いている。
ディアより小さくて喋れない精霊だけど、結構賢い。
馬鹿にしてたわけじゃないけど、見た目が幼いからどうしても幼い印象が強いんだよね。
しばらくして刈り取りが終わると、今度は風の精霊が種籾を精米していく。
殻を取る作業と精米作業を同時にこなしているようだ。
私は土魔法で木箱を複数作り、精米したお米を入れてもらう。
そして、ある程度いっぱいになった木箱は収納していく。
すべての作業が終わると、精霊たちは家に戻っていった。
ディアは残り、耕して再度種をまいている。
「ママ、全体に水を撒いてほしいの」
「まかせて」
私が水を撒こうとした時、シアがこちらを向く。
「水ならわたしがやろうか? わたしの魔力は、その、ま、ママに貰った物だから、わたしが撒いても同じ効果があるわ」
「ママ」という部分で恥ずかしそうに目をそらしながら提案してくる。
「ここの畑の水やりくらいなら自然回復分でも水はかなり出せるし」
私としては魔力的に問題はないので自分で撒いても変わらない。
でもせっかくやってくれるというなら自主性を尊重し、無理の無い程度にお願いしようかな。
「じゃあお願いしようかな。 無理はしなくていいからね」
「ディアにだけいいカッコさせてられないわ、わたしも何か役に立つのよ」
シアは片手を水田の方に向ける。
しかしそのまま眺めていても水は出てこない。
どうしたのかな?とシアと水田を交互に見ていると、水田の土の色が変わっていく。
水を撒くのではなく土を湿らせてる?
精霊ならではのやり方なのかな?
私にはできない。
土を湿らせた後、水田の端の方に水たまりを作り出す。
よく見ると地面には触れてなくて、浮いている。
「予備の水も出しておいたから好きに使って。 さっきの水の精霊に言えばこの中から適量だけ出すこともできるでしょ」
「わかったの。 もし余裕があるなら畑の方もお願いなの。 きついようだったらママに水を撒いてもらうだけでも大丈夫なの」
「フン、この程度何ともないわ。 向こうの畑に撒いたって余裕よ」
ディアにお願い?煽られた?のでシアを抱っこしたまま畑の方に向かい、シアに水撒きと小さな浮遊ダム?のような物を作ってもらう。
完成後、シアは得意げにうなずいた後私に寄りかかる。
やる事はやったので、いつもの休息状態に移ったようだ。
ディアに完成を告げた後、しばらくディアを眺めていた。
日が暮れてきたころ、部屋に行ってみたけど、リーアはまだ寝ていた。
もしかしてお城で気疲れしてたのかもしれないね。
私はジャスミンに魔力をあげた後、お城の部屋に行き、今日の夕食用にご飯を炊くことにする。
シアを椅子に座らせて、土魔法で土台を作り、その上に石の竈を作る。
そうしないと床が燃えちゃうからね。
その後、土魔法で石の釜と木の蓋を作る。
ザルとボウルにお米と水を入れ、優しく拝み洗いをする。
軽く研いだお米を水に浸け、15分ほど放置。
その間に今日何を作るかを考える。
ご飯があるなら煮物系とか欲しいかも、肉じゃがとか食べたい。
あ、でも醤油とか味醂が無いや・・・・・・というか味噌もないから味噌汁も作れない。
あれ、今ある食材でご飯に合う物って何があるだろう?
しかも食べるのは私以外全員子供だ。
前リーアに作ったステーキを作る?
それならご飯にも合うと思うし子供も好きでしょ。
子供が好きというならハンバーグとかもあり?
いや、ハンバーグソースが作れない。
ケチャップもソースもないし、大根もポン酢もないから和風にもできない。
というかポン酢は子供が食べないかな?
ピザパンは食べてたし、トマトソースとチーズや牛乳なら行けるかな?
トマトソースハンバーグは候補かな。
チーズや牛乳ならドリアとか?
いや、久しぶりのご飯を純粋に楽しみたいから丼物含めて乗せる系は避けたい。
うーん、元の世界でたまにしか料理を手伝ってなかったから、材料見てもレシピが浮かばない、どうしようかな・・・・・・
この世界は私より料理のレパートリーが少ないので、何の参考にもならないし。
よし、トマトソースのハンバーグにしよう。
しばらく考えていたけど、特に思いつかなかったので候補にあがっていたトマトソースのハンバーグを作ることにした。
ピザパンを普通に食べてたし大丈夫だと思うけど、嫌いな子がいたらソースなしハンバーグやステーキを焼いてあげてもいい。
そうと決まればまずはひき肉の用意だ。
せっかくのこの世界で初ご飯の日なので、オークロードのお肉を使う。
お肉をスライスしていき、スライスしたお肉を重ねて細長く切る。
それを90度回転させて細かく切っていく。
そのお肉を観察眼で見てハンバーグの材料を確認する。
基準はわからないけど、ある程度の材料からでないとレシピを確認できない。
なので「アレが食べたいな」と思っても、それに使われているどの材料を観察眼で見ればレシピが出るのかがわからない。
ちなみに卵からハンバーグのレシピは出ないよ。
まあそんな感じで材料を確認。
2~3人分でお肉250gと玉ねぎ半分と卵1。
通常サイズの卵1個の中身が約50gなのでクッキーはそれを基準にして計って作っていた。
なのでハンバーグも同じように計っていく。
数字のみれる量りや計量カップが無いので仕方ない
来ないとは思うけど、また王様たちが来てもいいように多めに作ることにする。
お代わりも考えると結構作っておいた方がいいかな?
小さいのを多めに作っておこうか。
ボウルにみじん切りにして炒めた玉ねぎと、ひき肉、卵、牛乳、パン粉、塩を入れ、こねて粘り気が出てきたら小さめの1つ分を取って、両手で打ち付けて空気を抜き、熱したフライパンに乗せていく。
フライパンいっぱいに乗せたら蓋をして様子を見ながら両面焼く。
焼いてる間に付け合わせにステーキの時と同じ人参とピーマンとコーンを用意していく。
両面焼いた後は串を刺して赤い肉汁が出ないかを確認して大皿に乗せ、第二弾を焼いていく。
この後追加で煮込むし、余熱もあるから多少生でも平気だけどね。
途中で15分たったお米の水を捨て、水の入ってない状態でさらに15分放置。
それが終わたら釜を竈にセットしてお米と水を入れ、沸騰するまで強火にかる。
沸騰したら蓋をして数分ごとに火力を弱めていく。
中火、弱火、とろ火と弱めていき、20分ほどしたところで火を消して5分ほど蒸らす。
蒸らした後はしゃもじで切るように手早く混ぜる。
見た目と香りは問題なさそうだけど・・・・・・
試しに一口食べてみると、ものすごく美味しいかった。
前の世界では祖父母がお米にはこだわっていたので、家で食べるご飯は外で食べるよりすごく美味しかった。
このお米はそれと同じくらいおいしい気がする。
美味しくできたのでお櫃のような物をいくつか作り、それに炊けたご飯を移して収納しておく。
熱でどんどんおいしくなくなるからね。
釜と竈はもう使わないので、洗浄してそのまま収納。
夕食を作っていると、リーアがいつ起きてもいいようにゲートも部屋の扉も開けたままにしてあったので、匂いで起きてきた。
サクラと、起きてきたリーアの2人に見られながら第三弾を焼いている間に、お皿に付け合わせを盛りつけていき、サラダも用意する。
コーンや人参は付け合わせに使ったのでキャベツとキュウリ、それにリンゴでいいかな。
ハンバーグを焼き終わった後、最後にハンバーグを焼いていたフライパンでトマトソースを作る。
トマトソースが完成したらハンバーグを入れて数分煮込んでいく。
煮込み終わったハンバーグをお皿に盛りつけ、全部盛り付けたところでハンバーグにトマトソースをかける。
生クリームはないので代わりに牛乳を波を描くようにかけ、最後に細かく切ったチーズをのせる。
完成したので、ハンバーグを乗せたお皿と予備のハンバーグやサラダも収納しておく。
まだマリーたちが来てないからね。
調理台なども収納していると、口を開いたままよだれを垂らしそうな表情でジーっと料理を眺めていた2人が、何を作っていたのか聞いてきたので、ハンバーグのことを軽く教えてあげた。
マリーたちが来たら食べようね、というとリーアは両手をあげて大喜びし、サクラは両手を頬に当ててニコニコしていた。
リーアはいつも通りだけど、こういう子供っぽいサクラも可愛いね。
私は椅子に座らせていたシアを抱っこしてベッドに腰掛ける。
あとはマリーたちを待つだけなのでのんびりしよう。
「料理、上手なのね」
抱っこされて目を閉じているシアが話しかけてくる。
「どうだろう、私はあまり料理をしてなかったから普通だと思う。 下手ではないと思うけど、作れる料理の種類はあまり多くないし」
「少なくともわたしの知る限りこんなに手の込んだ料理は見たことないわ。 この国の一般家庭では基本的にパンと焼いた肉と野菜を入れたスープくらいで、たまに果物を食べるくらいでしょ。 あとは飲み物としてお茶や蜂蜜酒があるくらいね。 それに蜂蜜酒はほぼ出回ってないし」
そういえば大人=ビールなイメージだけど、この世界で飲んでる人を見たことが無い。
前に王様にリンゴ酒飲ませたらシュワシュワして好きだと言ってた。
ビールって麦とホップだっけ?
ホップが何だか知らないけど、この世界にも小麦があるんだし小麦で作れないのかな?
蜂蜜酒があるからお酒自体はあるんだよね?
出回ってるリンゴの果汁やお酒が無いって事は、お酒は蜂蜜酒だけなのかもしれないけど。
こんな食事状況でバターやチーズを開発したあの村は革新的なんじゃないかな?
「どこでもそんな感じの食事なの? 砂糖はあるみたいだし他にもあるんじゃないの?」
「砂糖はお茶に入れるか、お茶請けとしてそのまま食べるのよ。 料理には使わないわ」
何という事だ、砂糖を料理に使わない?
お茶請けとして食べる?
砂糖をそのまま?
甘いものは好きだけど砂糖をそのままはちょっと・・・・・・そのまま食べるならお菓子にしたい。
「この国の人は食べることに興味が無いのかな? 同じような物だけでよく飽きないね」
「飽きるも何も食べ物がそれしかないんだし仕方ないんじゃない? 他の国に行けば気候の違いで別の食材があるだろうけど」
確かにモウイの街では売ってる種類がかなり少ない。
土地的なものかとも思ってたけど、王都でもそこまで変わらなかった。
輸送難易度的なものもあるだろうけど、物自体が無いんだね。
もしくは大豆や稲みたいに食料として認識されてないか。
ジャガイモも毒だと思われてたし。
「よし。 それなら私がこの国の食事事情を改善しよう」
「え?」
「新しい引っ越し先でそれなりに大きい畑を作るつもりだから、まずは同じ街の食事を改善して、そのまま他の街にも広げていこうと思うんだよね」
「なんでわざわざそんなことを・・・・・・他の人間なんて放っておけばいいじゃない」
「だって、食材がいっぱいあれば新しい料理が生まれるかもしれないじゃない? 私が知らない料理ができれば私も楽しめるからね。 それにやっぱりみんなで美味しい物食べたいじゃない」
「食事を必要としないわたしとしては理解できないけど、それが目標ならわたしも手を貸してあげるわ」
「ありがとう」
私はシアの背中を優しくなでる。
シアは人間が嫌いなんだろうか?
最初に会った時も「人間なんか」と言っていた気がする。
私の魔力で体を作ったから私の所に来ただけで、本当は会いたくもなかったのかもしれない。
ディアはどうだろうか?
初めて会った時から私の事を知らなくても魂の契約をしてくれた。
リーアに抱っこされるのも受け入れてたし、スズランさんのために精霊契約もしてくれた。
絡んできた冒険者をボコったのは私のためだったし、ディアはそこまで人間嫌いではなさそうかな?
あ、でもスズランさんは私がお願いして対応してもらったような気がする。




