9 サクラを宿屋へ
サクラを背負ったまま街の門に近づくと、兵士が私の所に走ってくる。
「どうした、何かあったのか?」
背負っているぐったりしたサクラを見て聞いてくる。
「大きな毛虫みたいなのに針で刺されたんです。 たしかポイズンキャタピラーってサクラは言ってました」
「は!? ポイズンキャタピラーが森の入り口に出たのか!? え、じゃあその子は・・・・・・」
ぐったりしているサクラを見て、兵士の人は口元に手をやり、悲しそうな表情になる。
出かける時に元気に話していた子がこんな状態で帰ってきたら、そりゃそんな顔になるよね。
「大丈夫です、治療はしました。 今は疲れて寝てるだけです」
「そ、そうか良かった。 しかしどうやって治したんだ?」
「魔法で治しただけです。 私はこれからギルドに文句を言いに行きますので失礼します。 安全な森だって言ってたのに入り口近くにあんな危ないものがいたなんて」
「あ、ああ」
怒っている私に気圧された兵士と別れ、私はギルドに向かう。
ギルドに入るとまっすぐ受付に行く。
怒った私と背負われてるサクラを見て周りがざわつく。
「な、何かありましたか?」
いつもの受付嬢が対応してくれる。
「あの森の入り口にポイズンキャタピラーがいたんだけど」
「ポイズンキャタピラーですか? え!? ポイズンキャタピラーが出たんですか!? 森に入り口に!?」
私の話を聞いて最初は理解できなかったのか反応が薄かったけど、その後理解したのか大声を上げる。
その声で周りにも安全な近くの森にポイズンキャタピラーが出たことが伝わり、動揺が走る。
「今回は奥まで行ったわけでもなく森の入り口近くで採集してて、帰ろうとしたときにサクラが針に刺されたの」
「え、ではサクラちゃんは・・・・・・」
受付嬢の言葉でギルド内が静まり返る。
サクラの話を聞く限り、猛毒を受けたら普通は助からないのか、治す方法が限られているのだろう。
「治療はしたからサクラは大丈夫、ただ疲労がひどくて今は寝てるだけ。 あのデカイ毛虫はちゃんと倒してきたし」
「そうですか、よかったです。 これは調査をしないといけませんね」
「今までしてなかったの?」
「いえ、定期的に調査はしてました。 それでも今まで特に何も問題はなかったんです」
調査はされてたのか。
それがしっかりされてたかどうかはわからないけど。
「一応証拠として死体は持ってきてるけど、どこに出せばいい?」
「ありがとうございます。 ではあちらの台に乗せていただけますか?」
駕籠のように運べる棒が付いた台を示す。
私はその台に巨大毛虫を出す。
「うわ、まじだよ」
「大きくないか?」
「俺初めて見た」
「気持ち悪いわ」
「よく倒せたなこんなの」
出した後、野次馬冒険者が騒ぐ。
受付嬢も確認すると、受付横の階段から二階へ上がっていく。
少しすると、細身だけど筋肉質なおじさんが受付嬢と一緒に降りてくる。
「これが森にいたのか? しかも入り口に」
私に聞いてくる。
「はい」
「ふむ・・・・・・」
おじさんは黙り込んでしまう。
しばらく悩むと受付嬢に指示を出す。
「ランクCの冒険者を全員集めてくれ、森を調査する」
「ランクCを全員でですか?」
「こいつは本来日の光を嫌い、成虫になるまでは森の奥にいる。 成虫になったとしても、行動範囲が広がるだけで日の光が強い森の入り口の辺りまで来ることはない。 それにこいつは移動も遅く、じっとしてることが多い魔物だ。 だから森の奥に行ったのならまだしも、入り口近くでこいつに会うことはない。 だがこいつが森の入り口まで来てたという事は、住処を追われたってことだ」
「森の奥で何かが暴れてるってことですか?」
「猛毒を持つこいつが逃げ出すほどの魔物がいるんだろう。 もしかしたらCの連中でもどうにもならんかもしれない」
「緊急依頼を出しますか?」
おじさんは私達をちらっと見た後、また受付嬢と話す。
「そうだな。調査を行っていたとしても気づけなかったギルド側の落ち度だ。 杜撰な調査をしてたと言われても反論できない状況だし、名誉回復のためにも徹底的にやるぞ。 今後の調査も力を入れさせるようにしてくれ」
「わかりました、ランクCを対象に緊急依頼書を作成します」
受付嬢が緊急依頼を出しにカウンターへ走って行く。
話を聞いていた冒険者たちはまたざわついている。
真摯に対応してくれたことで、私の気持ちも少し落ち着いてきた。
そんな中、おじさんは私に話しかけてくる。
「こいつは重要資料として高額で買い取ろう。 その子への見舞金も込みだ」
「今後森が安全になるならかまいません」
「すまないがそれは無理だ」
「どういうことですか?」
意外な返答に、私は「え?」と言う表情で無意識に問い返していた。
「お嬢ちゃん、この世界に絶対なんてものはないんだ。 我々がどんなに力を入れて安全調査をしたとしても、たまたま遭遇しなかっただけという事もありえる。 森は広いのに人員と資金には限りがある。 だから今後も絶対安全という保証はできない。それに納得できないのなら、街の中でできる他の依頼を薦めるよ」
そういっておじさんは二階に行ってしまった。
正論過ぎて何も言えなかった。
森は危ない場所、それはみんな知ってることだろう。
当然サクラも。
それを知りつつ森へ行ったのだから、危ない目にあってもそれは自己責任。
それが冒険者というものなのだろう。
その対価にお金をもらっているのだから。
だからサクラもギルドに文句は言わないと思う。
怒ってるのは私だけだ。
私は受付に行き、さっきのおじさんが言ってた買取金を受け取ると、隣の納品場所へ移動する。
「ん、その子はどうした? 寝てるのか?」
納品所のおじさんが寝ているサクラを見て心配している。
「はい。 今は疲れて寝てるだけだから心配しないでください」
「そうか、ならいいが」
寝てるだけと聞いてひとまずおじさんは安心する。
「それで納品なんですけど、薬草の確認だけして達成処理は後日ってできますか?」
「その子は起きないのか?」
「たぶんしばらくは起きないと思います」
「わかった。 よく来てる子だし、今度来た時にカードに記録してやる」
「ありがとうございます」
私はカゴ2個を取り出して1個分は私の方で達成にしてもらう。
もう1個は、確認すると木簡のような物に金額と次回達成処理する事を一筆書いて渡してくれた。
その後、納品場所を出て宿屋へ向かう。
本当は孤児院に送るべきなんだろうけど、冒険者をしてるのは内緒にしてるので、この状態の説明が難しい。
何より、このまま明日の朝になっても起きなかったらまずい。
だからとりあえず宿屋に泊めてもらうように頼むことにした。
商店通りを歩きながら考えていた私は、考えがまとまった後、宿屋の中に入る。
「お帰りなさい。 あれ、その子は孤児院の? 寝ちゃったんですか?」
「この子を一緒に泊めてもいいですか? 部屋は私の部屋でいいですし、この子の分のお金も払いますので」
「それは構いませんが、何かあったんですか?」
「森でちょっと魔物に遭遇しちゃって。 今は疲れて寝てるだけだから心配しなくても大丈夫です」
「大丈夫ならよかったです。 泊まるのならお部屋を変えましょうか。 2人部屋が空いてますのでそちらを使ってください」
「いいんですか?」
「その子の分のお金をいただくならお客様ですから、床で寝かせるわけにはいきません」
「ありがとうございます」
思っていた反応と違う。
サクラが言っていたようなのは誰が言ってたんだろうか?
「これが鍵です、荷物の移動が終わったら1人部屋の方の鍵を返してくださいね」
「あ、私物は置いてないのでこのまま返しますね」
私は値段を聞いて、追加の部屋代と持っていた鍵を渡す。
鍵自体は同じもので、内側から鍵を閉めるための物だから交換しなくても使える。
ただ、鍵に部屋番号が彫ってあるため、交換しないといけないようだ。
「はい、確かに」
鍵を受け取った私は、新しい部屋に入り、サクラをベッドに寝かす。
とりあえず試しに回復魔法をかけてみる。
頭の中には「リカバー」と響いてきた。
けど、光るだけでサクラは起きない。
起きないのならやっぱり孤児院に連絡しないといけないので、受付で孤児院の場所を聞き、外に出る。




