8 サクラと初依頼
冒険者登録をした翌日。
宿で朝食を終えた後、今日は何をしようかと考えながら宿を出ると、今日もサクラが待っていた。
しばらく孤児院にいると言ってたけど、今日はどうしたんだろう。
というか前回も早くに来てたけど孤児院は近いのかな?
「おはよう、サクラ」
「ユリアちゃんおはよう」
「今日はどうしたの? しばらく孤児院にいるって言ってたよね」
「そう思ってたんだけど、院長先生に新しくお友達ができたって話をしたら、夕食までに帰ることを条件に遊びに行ってもいいと許可を貰えたの。 だからユリアちゃんが暇だったら一緒に森に行ってみようかなと思って、その確認をしにきたの。 今日行かなくても、一緒に行く許可は貰えたから、ユリアちゃんの暇な時を教えてもらえればまたそのときに来るよ」
遊びに行く許可が出ただけで、森に行く許可が出たわけじゃないと思うけど?
「うーん、特に予定もないし、せっかく来てくれたから今日行こうか。 昨日冒険者登録もしたし。 というか外じゃなくて中で待ってればよかったのに」
「えっと、孤児院の子供が出入りするのは宿屋の印象が悪くなるみたいで、私は入れないの」
「え、なんで?」
「寝泊まりする場所に孤児がいるのは不衛生だとか、印象が悪くなるとか・・・・・・」
私はそんな風に感じない。
見た目が汚いわけでもないし臭うわけでもない。
お風呂は無くても、水浴びやタオルで体を拭くくらいの事は出来ているのだろう。
服が少しボロいけど洗濯はしてるようで、汚いとは感じない。
やんちゃな子供ならもっと汚れてても普通だ。
サクラが自分の服の裾を掴む手が少し震えている、そんなことを言われて悲しいのだろう。
私なら相手によっては殴っている。
私は震えてるサクラの頭を優しく抱きしめると、背中を撫でる。
「誰が言ったか知らないけど、そんなことはないよ。 私は初めて会った時からサクラにそんなこと思った事ないし。 今度同じこと言われたら私が殴ってあげるよ」
「あはは、殴るのはダメだよ。 でも、ありがとう」
サクラが少し元気になったので、私達は手をつないで冒険者ギルドに向かう。
ギルドに入ると、サクラがFランク用の依頼が貼ってある掲示板から、採集依頼を持ってくる。
FもGも同じとは言ってたけど、依頼の貼ってる場所まで一緒なんだね。
まあ同じ内容なら別にしたら場所の無駄か。
E、Fの依頼を受ける人はいないのか、誰もいない。
2人で受付カウンターに行くと、昨日の人がいた。
「あら、サクラちゃんとユリアさん。 お2人は知り合いだったんですか?」
「私が森で迷ってる時、サクラに助けてもらったんですよ」
「ちがうよ、わたしの方がウルフから助けてもらったんだよ」
私の言葉に慌てて訂正するサクラ。
迷ってたのは本当の事だし、嘘は言ってないと思うけど?
「という事で、お互いが命の恩人という事で仲良くなったんです」
「素敵な友情ですがサクラちゃん、ウルフにあったということは森の奥まで行きましたね? 採集量が少なくても奥は危ないから駄目だって言いましたよね?」
「ごめんなさい」
怒られてシュンとするサクラ。
しかしこればかりは仕方がない。
戦えないのに危ない場所に行ったんだから。
「それで今日は2人で採集ですか?」
「はい。 ユリアちゃんが一緒に来てくれるって言ってくれたので、お言葉に甘えることにしたんです」
「ユリアさんがいるからと言って、無理はしないでくださいよ?」
「はい」
笑顔で答えるサクラと2人で同じ依頼を受けると、ギルドを出て街の門まで行く。
門には初めて来た時と同じ人が立っていた。
「お、今日も採集か? ん?前回の嬢ちゃんも一緒か」
「はい、今日は2人で行ってきます」
「おう、仲が良いようで何よりだ。 気をつけてな」
「行ってきます」
サクラと手をつないで森まで歩く。
傍から見ればピクニックに行くような感じだ。
カゴにはお弁当も水筒も入ってないけど。
サクラから聞いた依頼を受ける時の予定は、孤児院で朝食後にギルドに向かい、依頼を受けて森へ。
夕食に間に合うように、採集量が少なくても日が少し傾いたら切り上げて戻ってくるそうだ。
なのにこの前は少しとはいえ奥まで来てたのか・・・・・・
確かにまだ日は傾いてなかったけどさ。
街からしばらく歩き、前回出てきた場所とは違う場所から森に入る。
同じ場所だと育つまでに時間がかかるから、少しずらして採集するみたいだ。
採集の手伝いをするために私も採集する物を覚える。
白い花が癒し草、これの葉が薬草と呼ばれ、乾燥させて粉末にしたものを少し濡らした幹部に塗ると治りが早くなる。
黒い花が毒消し草、これの葉を乾燥させて粉末にし、飲めば基本的な魔物の毒を治してくれる。
しかし猛毒は治せない。
黄色い花が麻痺治し草、これも葉の部分を乾燥させて粉末にして飲めば麻痺を治すことができる。
毒物などの麻痺や病気による麻痺と幅広く効果があるみたいだけど、口も動かせないほどの麻痺だった場合、飲むことはできない。
というかそこまで強い麻痺だと、呼吸もできず内臓も麻痺して飲めるようになる前に死ぬ可能性が高いらしい。
全部葉の部分を使用するようだけど、種の方が効果が良いようだ。
しかし、種を買い取ってしまうとみんな種を集めてしまうので、絶滅しないように種の買い取りはしていないようだ。
種を回収するのは専門の人がやるみたい。
採集方法は、花を切り落として地面に捨てる。
花部分に種があるようで、これでまた新しく生えてくるらしい。
根っこはかさばるし使わないので地面から出てる部分で刈り取る。
茎ごと持って帰るのは、葉っぱ一枚一枚数えてられないから茎の本数で計算するみたい。
そりゃそうか。
納品用の白いのは結構見かけるけど、黒と黄色は少ない。
この2種類は依頼外だけど、ちょっと高く買い取ってもらえるから、見つけたら一緒に持っていくそうだ。
周囲の音に警戒しながら集めていたら、日が頭上に来ていたので、串焼きで軽くお昼にする。
サクラは最初遠慮していたが、笑顔で食べてくれた。
どうやら朝早かったのもあって朝食前に来ていたようだ。
食後に水を飲み、一休みしてから少しだけ集めて帰ることにする。
今日は奥まで行かなくても集められたからか狼も出てこなかった。
小さなカゴいっぱいの薬草を持ち、手をつなぎながら帰っていると、背中に何か当たる感触があった。
何だろう?と思って振り返ろうとした時、サクラの声がする。
「痛っ!」
サクラの方を見ると右足に長い針が数本刺さっていた。
針の飛んできたであろう方向を向くと、草陰から巨大な毛虫が出てきた。
「うわぁぁぁ、キモい!」
虫が苦手なわけではなかったけど、このサイズはいけない。
私が気持ち悪がっているとサクラの表情が青くなる。
「ポイズン・・・・・・キャタピラー。 何でこんなところに・・・・・・」
「大丈夫? この毛虫は何?」
「ユリアちゃん、逃げて、早く!」
泣きながら震えた声で逃げるように言われるが、サクラを置いていくわけにはいかない。
「じゃあ私が運んであげるから」
「私はもう、助からない。 この毒は猛毒で、すぐに治療しないと助からないの。 だから、ユリアちゃんが無事なら、早く逃げて」
しゃくりあげながら話してくれるサクラ、針の刺さった場所を見てみると、短時間でかなり腫れている。
一度深呼吸して混乱する頭を落ち着ける。
私は針にあたっても平気だった。
多分「絶対防御」の効果で針も猛毒も効いてない。
なら、逃げる必要はない。
まずは目の前の脅威を何とかしないと。
私は収納からメイスを取り出すと、一気に近づいて毛虫の頭に振り下ろす。
「たぁ!」
抵抗して針を飛ばしてきたがやっぱり私には効いていない。
毒も効かないし針も刺さらない。
メイスが直撃して頭がつぶれると、倒れてしばらくピクピク動いていたが、じきに動かなくなる。
見てるのは気持ち悪いけど非常事態だからそんな事言ってられない。
毛虫が動かなくなったのを確認すると、サクラの様子を見る。
さっきより腫れがひどくなっていて、サクラは気絶してしまっている。
私は駆け寄り、刺さっている針を全部抜く。
観察眼で状態を見ると恐怖、昏睡、猛毒・・・・・・と状態異常がいくかついていた。
私は急いで治療の魔法をかける。
どうやって治すのかイメージがわかないけど、とりあえず「治れ!」と思いつつ魔法を使う。
「パナシーア」
私の頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出すと、サクラの腫れている足にかざしていた手の先が光り出す。
腫れている足に光の魔法をかけるが、腫れが引かない。
今度は魔力をもっと込めて魔法をかける。
しばらくかけていると腫れも引き、脹脛にいくつか針の刺さってたあとは残ってるけど、腫れた部分は無くなった。
私はサクラの状態を確認して猛毒などがなくなっていたことを確認すると、サクラに声をかける。
「サクラ!」
しばらく声をかけながら揺すると、ゆっくり目を開けてくれた。
「よかった、目を覚ました!」
「あれ、私、猛毒に・・・・・・」
「もう大丈夫だよ、私が治したから」
私は横になってるサクラの頭をなでる。
「ユリアちゃん治療の魔法が使えたんだ」
「今日初めて使ったよ」
「そうなの? でも、助けてくれてありがとう」
「まだ立てなさそうだね」
「うん、全身に力が入らない。 迷惑かけてごめんね」
「大丈夫だよ、私が連れて帰るから。 サクラはゆっくり休んでて」
「ありがとう・・・・・・」
まだ意識が朦朧としてるのか、弱々しく話すと寝てしまった。
安心したら今度は怒りが込み上げてきた。
「ここは安全なんじゃないの? 戦えない人が来るための場所じゃないの? サクラの反応からしてこの毛虫がここにいるのはイレギュラーなことなのかもしれないけど、誰か他に森に入ってないの? 情報はなかったわけ?」
私は毛虫を睨むと収納する。
証拠品だから持って帰らないわけにはいかない。
自分の持っていたカゴとサクラの落としたカゴを収納し、サクラを背負って街まで向かう。




