10 孤児院に説明をしに
日が暮れ始めた商店通りを歩いていくと、次第に人通りが少なくなっていく。
そのまま歩いて行くと、住宅が無くなってくるけど孤児院は見えない。
「こんな遠くから朝早く来てたの?」
そのまま歩き続け、街を囲う大きな壁の辺りまで来てやっと孤児院が見える。
「宿屋まで何十分かかるのここ・・・・・・」
暗くなり始めたころ、孤児院のドアをノックする。
すると年配の痩せた女性が出てきた。
「はい、何の御用でしょうか?」
突然の訪問に女性は不安そうに聞いてくる。
「私はサクラの友人でユリアと言います」
「あ、新しくできた友人と言う・・・・・・私はこの孤児院で院長をしているカタバミです。 それでご用件は?」
サクラを探しているのか、周囲を見ながら質問して来る。
「今日はサクラと遊んでたんですが、疲れて寝てしまったのでそのまま私の所に泊めようと思って、挨拶と連絡に来ました」
「・・・・・・それは、明日には帰ってこられるのでしょうか?」
「え?」
院長先生からの予想外の質問と悲しそうな表情に、咄嗟に答えられなかった。
いつ起きるかなんてわからない。
しばらく私の所でお泊りしても大丈夫かと話すつもりだったし。
「あの子が冒険者の依頼を受けて街の外へ行っていることは知っています」
「・・・・・・知ってたんですか」
どうやら知っていたようだ。
という事は、サクラに何かあったのを察してさっきの表情だったのかな。
「数日おきに長時間帰ってこない日があったので、後をつけたことがあるんです。 毎回食料をもらってくるのも不思議でしたし。 あの子が盗みを働くとは思っていませんでしたが、孤児に食糧をくれる人がいるとしたらどんな人なのか、危ない事に巻き込まれてはいないかと心配で」
「それで後をつけてたら・・・・・・」
「はい、冒険者ギルドに入って行きました。 すぐに出てきたので、そこまでは見ていたのですが、さすがにそれ以上他の子供達を置いてついていくことはできませんので、そこで帰りました」
「そうでしたか」
「冒険者について詳しくは知りませんが、子供でも依頼を受けることができる、というのは聞いたことがあります。 しかし簡単な物ばかりで安全だと。 安全ならと思い、サクラの好意を素直に受け取っていました。でも、いつか何かあるんじゃないかと、出かけてる間は不安だったんです。 安全と言われても依頼の内容まではわかりませんし」
そこまで話した院長先生が目を閉じる。
「サクラの性格的に無断でお泊りをするなんてことはあり得ません。 眠くなったのなら帰ってくるはずです。 それができない状況という事ですよね?」
院長先生は再び目を開くと、悲しそうな表情で私を見ながら話す。
「さすがに育ててきた院長先生は誤魔化せませんか」
「ここに来ることもできない状態なのでしょうか?」
「疲れて寝てるのは本当です。 そこは安心してください」
「そうですか」
本当に寝てるだけと聞いて一安心した院長先生。
「冒険者のことを知ってるならきちんとお話ししますね。 私とサクラは森で会ったんです。 迷ってる私と薬草採集をしていたサクラ。 そしてサクラに街まで案内してもらい、仲良くなりました。それで、私が昨日冒険者登録をして、今日は一緒に採集に行って来たんです。 そして採集が終わって帰る時、森の入り口にいるはずのない大きな毛虫の魔物がいたんです。 サクラはその猛毒を受けて気絶してしまいました。 すぐに治療して一度起きましたけど、治療の反動か猛毒のせいか疲労がすごくてそのまま眠ってます」
真実を知った院長先生がこの世の終わりのような表情をしている。
しばらく頭を抱えていたが、落ち着きを取り戻し再び話をする。
「サクラが森まで行っていたなんて・・・・・・孤児院のために頑張ってくれているのは嬉しいですが、危ないことはしないでほしいです」
「今回のことはギルドでも問題になって、徹底調査をするみたいです。 本来森の入り口にいるような魔物じゃないみたいですし。 まあ今後安全になっても危ないことしないでほしいというのは同感です」
知り合った子が知らないうちに魔物に襲われて死んでいたなんて話は聞きたくない。
「・・・・・・それで、治療費の方はいくらかかったのでしょうか?」
院長先生は言いにくそうに尋ねてくる。
「治療費? サクラのですか?」
「はい。 どのような治療をしたのかはわかりませんが、重症の状態を治療したとなると、かなり高価な薬を使ったと思います。 孤児は教会での治療は受けられませんし」
教会で治療するんだ。
そこもゲームみたいだね。
「サクラの治療は私が魔法を使ったので、お金はかかってませんよ」
「治療の魔法が使えるのですか!?」
治療系の魔法は珍しいのかな?
でも魔法の本には回復とか治療の魔法も書かれてた気がするんだけど。
「使えますよ」
「もしかして神官様ですか? それとも聖女様ですか?」
「いえ、一般人ですよ? ただの魔法使いです」
「ありがとうございます、本当に何とお礼を言っていいか・・・・・・」
涙を流しながら両手を握って祈るようなポーズになる院長先生。
なら1つ頼もうかな。
「じゃあ1つだけいいですか?」
「はい、私にできる事でしたらなんでも」
「今日の話は聞かなかったことにしてください」
「・・・・・・どういう事でしょう?」
真剣に私の話を聞こうとしていた院長先生が、ポカンとした表情で首を傾げてしまった。
もし院長先生が「サクラが冒険者活動をしている」ということを知っていたと知ったら、サクラは落ち込んでしまうだろう。
だから院長先生には何も知らないというのを貫いてもらおうと思う。
「院長先生はサクラが何をしてるか知らない。 今日は遊び疲れて私の所で寝てる。 それだけです」
「・・・・・・今まで通り知らないフリをしろという事ですか?」
「サクラがそれを望んでますから。 いつまでこの街にいるかわかりませんが、私もなるべくそばにいるようにしますし」
「・・・・・・わかりました、今日はお泊りの連絡だけということで」
少し考えた院長先生は、私の提案を受け入れてくれた。
「ありがとございます。 サクラを1人残して来ているので、私は戻りますね。 おやすみなさい」
「おやすみなさい、サクラをお願いします」
院長先生に見送られながら宿屋まで駆け足で戻る。
すっかり暗くなってしまった。
それにしても、走っても全然疲れなかった。
スキルのおかげなのかな?
宿屋に入り、そのまま部屋に入る。
「あ、ユリアちゃん」
「あれ、もう起きて大丈夫?」
「うん、体はもう大丈夫。 それよりここはどこ?」
サクラは起きていて、ベッドの上に座ったまま周りをキョロキョロ見ている。
「ここは私の泊まってる宿屋だよ」
「え、なんで、わたし・・・・・・」
「心配しなくても宿屋の人には話してあるよ。 それにサクラを一緒に泊めたいって言ったら、わざわざ2人部屋に変えてくれたんだから。 お客様を床に寝かせるわけにはいかないって」
慌てるサクラに許可は貰ってると安心させる。
「わたしが、泊ってもいいの?」
「そのために2人部屋にしてくれたからね。 サクラが出て行っちゃったらこの広い部屋で私1人になっちゃうよ?」
私の言葉で不安そうだったサクラの表情が笑顔になる。
1人部屋と違って椅子やテーブルも置いてあるので、2人部屋の方は結構広い。
「ありがとう」
「それじゃあお風呂行こうか、早くしないと夕食に間に合わなくなっちゃう」
「わたしも行くの?」
「サクラはお風呂嫌い?」
「そんなことはないけど、わたしが入ってもいいのかなって・・・・・・」
「大丈夫だよ。 それじゃあ行こうか」
サクラは遠慮するから少し強引なくらいがちょうどいい。
お風呂場に移動し、脱衣所で衣装変更をしようとしたら、何やら通知が出た。
どうやら視認できる場所に人がいる場合、本当に変更するか確認されるみたいだ。
意外と親切設計。
周囲を確認してもサクラしかいないので、気にせず衣装変更を使ったら驚かれたので、収納ってことにして誤魔化した。
お風呂の後は部屋に戻って2人で夕食。
私には微妙だったけど、サクラは笑顔で食べていた。
屋台の物もそうだけど、この世界?国?街?ではこれが普通のようだ。
その後少し雑談をした後、ベッドに入る。
ベッドに入った後も少し話をしてたけど、お風呂中も夕食中も笑顔だったサクラの表情が急に暗くなる。
「わたし、孤児院に無断でここにいるんだよね。 明日院長先生に何て説明すれば・・・・・・」
そう言えばサクラには孤児院に説明しに行った事を話してなかったね。
「大丈夫だよ。 私が孤児院で院長先生に説明してきたから」
「え・・・・・・」
サクラが絶望的な表情を向ける。
冒険者のことがバレたと思ってるのかもしれない。
いや、バレてるけど。
「遊び疲れて寝ちゃったから、今日は私の所に泊めるって言ってきたよ。 院長先生もサクラをよろしくって言ってたし」
「本当!?」
「本当だよ」
そう言ってあげたら、サクラの表情が安堵の色に変わった。
「明日はすぐ孤児院に帰る? 院長先生には言ってあるし、急いで帰る必要はないけど」
「ううん、明日は朝に帰ろうかなって。 嘘ついてお泊りしてるわけだし」
まあここ数日のサクラの真面目さを考えると「じゃあ明日は遊んでから帰るね」とは言わないよね。
「この宿は朝食も込みだから朝食後、一緒に孤児院に行こうか。 預かってた子を返さないといけないし」
「わかった、よろしくねユリアちゃん」
「じゃあそろそろ寝ようか、おやすみ」
「うん、おやすみ」
こうしてサクラと一緒の初めての依頼は終わった。




