87 水の精霊
リーアからのお誘いを受けて7日後。
無事カーミトの街の整地も終わり、明日はリーアとサクラと一緒に王都に行く日。
サクラはお昼からお勉強のため、別れることになってしまうが仕方ない。
当日までは頑張ってお勉強してもらおう。
ジャスミンは相変わらず家にこもってるけど、少しずつ部屋から出てくるようになっている。
食事の時間以外も一階で見かけるし。
精霊が怖いのか1人でいるけど。
今日も夕食とお風呂も終わって、毎日お祭り騒ぎの精霊たちを眺めていた。
そろそろ寝ようかなと思っていた時、勢いよく家のドアが開いた。
この家のドアを開けられるのは、登録してある私と、私と同じ魔力を持つディアだけ。
他の人は登録してないのでリーアはもちろんジャスミンもサクラも開けられない。
その制限付きのドアが勢いよく開いたのだ。
他に考えられるのは、私の魔法の効果を超える魔力を持った魔法使いが来た可能性。
私は入り口の方を見ると小さな女の子が腕を組んで立っていた。
とても強い魔法使いには見えないけど、天才幼女と言う可能性も0ではない。
私みたいに力をもらった人がいるかもしれないし。
その女の子をよく見ると表情は怒っているようだ。
しかし見た目に見覚えがある。
そう思っていると女の子が声をあげる。
「いつまで待たせる気よ! もう夜じゃない!」
私は意味不明な怒りに一瞬思考が止まった。
この子は何を言ってるんだろう。
待たせる?
今日誰かと約束した覚えはないし、そもそも私はこの子の事は知らない。
しかしこの子の綺麗な水色の髪には見覚えがある。
水の精霊だ。
と言っても、今契約してる精霊以外に精霊の知り合いはスーちゃんしかいないけど。
と、そこであることを思い出した。
私は契約してない精霊と会った事がある。
ディアだ。
ディアは気が付いたら畑にいたし、もしかしたらこの水の精霊も私の魔力を使って生まれた可能性がある。
ディアの方を見ても興味が無いのか見向きもしない。
精霊たちも我関せずと騒いでいる。
少し離れた場所にいたジャスミンは、急な訪問者であたふたしていた。
たぶん精霊だとわかっているから、怒っている精霊を見て困惑してるんだと思う。
「初めましてだと思うけど、あなたは誰?」
「水の精霊よ、見ればわかるでしょ」
結構気が強そうな子だ・・・・・・
「うん、それはわかるんだけど、何でここにいるのかなって」
「あなたの魔力で体を得たからに決まってるじゃない」
やっぱりディアと同じようだ。
「えっと、つまり私が母親になるって事かな?」
「そうよ、私が一緒にいてあげるんだから感謝しなさい。 それにしてもずいぶんと精霊が多いのね。 まさか契約してるわけじゃないわよね?」
「ここにいる精霊たちはお手伝いとして呼んでる子たちだよ。 一応契約はしてるけどね。 ちゃんと契約してるのはこの子だけかな」
私は水の精霊からは死角になっている、隣に座っていたディアを膝の上に乗せて水の精霊に見せる。
「え・・・・・・もう契約してるの? その土の精霊と?」
今までの強気な雰囲気は消えて悲しそうな表情になる。
忙しい子だ。
「この子はデアソリット。 土の精霊であなたと同じく私の魔力で生まれた?実体化した?子だよ」
「まさか魂の契約をしてるの?」
「ディアだけはしてるよ。 えっと、あなたはどうすればいいのかな? 契約していいのかな?」
「何言ってるのよ、すでにこんな大きな精霊と契約してるのに、新しく私と契約なんてしたら死んじゃうでしょ。 生きてたとしても寝たきりになるわよ」
「そうなの?」
私はディアに聞いてみる。
私は大丈夫だと思うけど一応ね。
「ママなら大丈夫だと思うの」
「って言ってるけどどうする?」
「あんた魂の契約までしてるのに主人を危険な目に合わせていいの?」
ディアの言葉にイライラしたような表情でディアを睨んでいる。
「ママと長い間一緒にいたからこそ大丈夫だと思ってるの。 不安なら別の所に行けばいいの」
しかし、ディアの方は全く気にもせず、いつも通りの調子で返している。
「・・・・・・本当に大丈夫なのよね?」
「大丈夫なの」
「なら私も契約するわ。 この体を手放すのも惜しいし」
「じゃあ名前を考えないとね」
デアソリットと同じ考え方なら水とかから決めればいいかな?
「名前はいらないわ。 人間相手に魂の契約なんてしたくないし。 と言うかあんたは何で人間相手に魂の契約してんのよ。 バカじゃないの?」
「ママと初めて会った時にこの人とずっと一緒にいたい、と思ったから。 それだけなの」
「理解できないわね。 数十年で死ぬ人間と魂の契約するなんて、その人間が死んだらその先どうするのよ。 誰とも契約できなくなるじゃない」
「それでもいいと思ったの。 いくら話してもあの時の気持ちはあなたには伝わらないの」
そういえばディアは私が不老不死だと知る前から魂の契約をしてくれた。
私は契約の違いがよくわからないので、水の精霊に契約の違いについて聞いてみた。
すると、魂の契約は契約者と強いつながりを得られる代わりに、契約者が死んでも契約が解除されず、それ以降誰とも契約できなくなると説明された。
それでもいいと思ってくれてたことに嬉しくなり、私は膝の上に座らせたディアを抱き締める。
「えっと、それじゃあ名前を付けずに普通の契約でいいのかな?」
「水の精霊は根性がないみたいだから普通の契約をしてあげてほしいの。 怖い物は仕方ないの」
「誰が根性なしよ! 魂の契約くらい怖くなんてないわよ!」
「無理はしない方がいいの。 今後一生がかかってることだから、尻尾巻いて逃げ出しても笑ったりしないの」
ディアが煽ってるような気がするのは気のせいかな?
水の精霊はディアの言葉に顔を赤くして怒ってるし。
「土の精霊なんかに負けてられないわ。 私にも名前をよこしなさい!」
「いや、そんな無理しなくても・・・・・・」
「ママ、水の精霊は強がってるだけなの。 だから普通の契約にするかこのまま解放してあげたほうがいいの」
「あんたは黙ってなさい! さあ早く名前を付けなさいよ!」
本当にいいのかな?
完全にディアに煽られてむきになってるんだけど・・・・・・
でもこのままだともっとヒートアップしそうだし名前を考えるか。
えっと水からとるとアクア、ウォーター、シー、オーシャン、リバー、レイン。
うーん水を意味する言葉は結構思いつく。
さすがに全部は多いからこの中からデアソリットと同じく3つくらいを選んで・・・・・・シアウとかどうかな?
呼びやすくシャウにすれば言いやすいし、シャウリット。
うん、これにしよう。
「じゃあ、シャウリット。 で、どうかな?」
「シャウリット? ちなみにどういう意味なの? 土の精霊に似たような名前みたいだけど」
「それはわたしも気になってたの」
「えっと。 デアソリットの方は土や大地を意味するダート、アース、ソイルから頭文字をとってダアソ。 そのままだと微妙だったから可愛くなるように少し変えてしてデアソ。 それに精霊を意味するスピリットからリットをとってデアソリットにしたの。 意味としては土や大地の精霊かな。 シャウリットも同じで水や海を意味するシー、アクア、ウォーターからとったシアウを言いやすくしてシャウ。 それでシャウリット」
「響きは気に入ってたけどちゃんと土の精霊という意味があってすごく嬉しいの」
「シャウリットか・・・・・・まあ悪くないわね」
そういうと水の精霊の身体が光った。
これは魂の契約の光だ。
本当に契約しちゃってよかったのかな?
今更だけど。
「まあ契約はしたんだし、あなたの寿命までは一緒にいてあげるわ」
「ママは不老不死だから死なないの」
「は?」
不老不死と聞いたシャウリットが呆けたような表情をしている。
「え、あなた不老不死だったの? という事は私より年上?」
その話を聞いていたジャスミンの方から質問された。
「不老不死だけどなったのは最近だから、年齢は見た目通りだよ」
「いや、聞いた年齢よりは幼く見えるけど」
うるさいよ。
それにジャスミンにだけは言われたくない。
「まあそういうわけだからこれからよろしくね」
「あ、あんたたち、わたしをだましたの!?」
「不老不死の事を言わなかっただけで嘘は言ってないの」
「だったら最初に言いなさいよ、それなら悩まなかったのに!」
「不老不死かどうかで契約を決めてほしくなかったの。 家族になるなら不老不死じゃなくても契約したいと思ってくれる人のほうがいいの」
いや、さっきのは煽られて勢いで契約しただけな気がするけど。
「契約したなら大きくなるまでは魔力あげないといけないよね? おいで」
ディアを隣に座らせてシャウリットの方に手を広げる。
照れているのか警戒してるのか、ゆっくりと近づいてくる。
近くまで来たのでそのまま抱えて膝に乗せて優しく抱きしめながら背中を撫でる。
「ふぁ~」
なんか気の抜けた声を出しながらグデンと寄りかかってくる。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。 思ってたより心地よかっただけ」
すごく眠そうな声で答えてくれる。
疲れてたのかな?
精霊に疲れるとかあるのかわからないけど。
「成長するためにママに魔力を貰ってると、温かくて柔らかい物で包まれてるようなふわふわした気持ちになってくるの」
そういえばディアもこういう反応こそなかったけど、よく寝てた気がする。
いや、今でも移動時に抱っこすると寝てるからディアの性格な気もするけど。
シャウリットは寝てはいないけどたまに「あー」とか「うー」とか言っている。
魔力を吸われてるんだろうけどやっぱり減ってる気がしない。
「そういえばシャウリットが私の娘になるって事はディアの妹になるって事だよね?」
「そうとも言えるの」
「それならこの子にもディアと同じように愛称決めようか。 ディアと似たような語感で考えると・・・・・・シア、かなー? シャウリットはどう?」
「んへー」
ダメだ話が聞こえてない。
「わたしとしては、シアなら呼びやすいの」
「シアはどう? デアソリットはディアお姉ちゃんになるけど」
「んー」
会話にならないので一旦シアを抱えて体から離すが、手で触れてるだけでもダメなようでテーブルに乗せて手を放す。
しばらくして元に戻ったので名前の話をする。
愛称自体は受け入れてくれたけど、ディアの事をお姉ちゃんと呼ぶのは嫌だという事で、呼び方はディアになった。
ちなみに私の呼び方はディアと同じくママになったが、恥ずかしいのかなかなか呼んでくれない。
もう寝る予定だったので、シアも一緒に寝室まで連れて行く。
広めにはしてあるけど、さすがに最初に比べて大きくなったディアと3人だと狭そうだ。
今後シアも大きくなるだろうし、ベッドももっと大きくした方がいいかもしれない。
部屋には椅子やテーブル、タンスなどの家具が置かれてるけど、使ってはいない。
何もないと寂しいので装飾用に置いてあるだけだし。
家具の位置を少しずらして土魔法でベッドの台を横に伸ばして2倍にする。
布団を2つ並べるには当然ベッドも倍にしないといけないからね。
ディアと一緒に寝ることを考えて大き目の布団しか買ってなかったので大き目の布団2つを並べる。
部屋のサイズの割にベッドが大きいけど、寝るだけの部屋だしいいでしょ。
布団を2つ並べたのでずれないように低い柵を設置する。
寝てる間に布団がずれ落ちちゃって寝てる人まで落ちたら大変だ。
私が真ん中になるからディアかシアのどっちかが落ちてしまう可能性がある。
寝室に運ぶために抱っこして、再びとけてるシアを奥に寝かせて、真ん中に私が入るとシアの反対側にディアも入ってくる。
今後はこの配置で寝ることになるのかな。
そんなことを考えながら眠りにつく。




