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86 リーアの手紙

「てめぇ! 俺をバカにしてんのか!?」

「そうやってすぐに頭に血がのぼって手が出るのを、単純な脳筋野郎と言って何か間違ってんのか?」



 掴まれていた冒険者が怒鳴って掴んでいた冒険者を投げ飛ばすと、テーブルにぶつかりテーブルが壊れてしまった。

 最初の大きな音は椅子が壊れた音だったらしい。



「喧嘩してますね」

「もう・・・・・・何してるんですか! ここで暴れないでください!」



 スズランさんが止めようと叫んでも聞く耳を持たない2人。

 声も届いていない様子だったため、直接止めに行ったスズランさん。

 さすがに物が壊れたりしたら放置はできないよね。


 近づいてやめるよう説得していたが、軽く払われただけでスズランさんは勢いよく倒れてしまった。 

 鍛えてる冒険者の軽くは一般人にとっては軽くない。


 私が助けに行こうとした時、冒険者は2人とも壁まで吹っ飛ばされた。

 周りのみんなも何が起こったのかわからず、飛んで行った冒険者の方を見ている。


 吹っ飛ばされた冒険者たちも何をされたのかわからなかったようで、それをお互いのせいにして今度は殴り合いが始まった。

 すると今度は、2人とも地面に叩きつけられるように倒れる。

 周りの冒険者たちは何が起きてるんだ?と言う顔で2人を見ている。


 でも私にはわかる、スズランさんの精霊スーちゃんが怒っている。

 実際怒ってるのかはわからないけど、纏ってる雰囲気が何となく怒っているように見える。


 このままではまずいと思い、私はスズランさんのところに近づく。



「スズランさん。 スーちゃんを止めないと2人とも危険ですよ?」

「え、スーちゃん?」



 スーちゃんはスズランさんの頭上で緑色に光った状態で両手を冒険者の方に向けている。

 冒険者の方を見ると周りは風を感じないけど、風圧で押さえつけられているようで動けないみたいだ。

 しかも押さえつけられてるせいか、呼吸もできてなさそう。



「このままだと窒息死しちゃいそうですね」

「っ!? スーちゃん! もうやめて!」


 スズランさんの呼びかけでスーちゃんの光も収まり、スズランさんの頬にしがみつく。

 その声を聞いた野次馬冒険者がスズランさんの方を見る。


 主人が攻撃されてスーちゃんが反撃したって事かな。

 ディアの時は光らなかったけど、鬱陶しい冒険者を躊躇なく攻撃していたし。



「スーちゃん急にどうしちゃったの?」



 頬にしがみついてるスーちゃんを撫でながらスズランさんが困惑しているが、スーちゃんは喋れない。



「たぶん主人のスズランさんを守ろうとしたんだと思います。 スズランさんが冒険者に攻撃されたと思って怒ってたみたいですし」

「そうだったんですね。 ありがとうスーちゃん」



 ディアがいないので喋れない精霊の事はわからないけど、状況的には間違ってないと思う。



「それにしても精霊って強いんですね。 ディアが最弱みたいなこと言ってたので弱いのかと思ってましたけど、冒険者2人をあっさり制圧しましたね」

「私もこんなに強いとは思ってませんでした。 2人とも最近上がったばかりですが一応Cランクの冒険者なんですが」



 この小さい精霊がこれだけ強いって事はディアはもっと強いって事だよね?

 王女とか言われてたし。

 戦いで役に立たないとか言ってたけど、十分すぎる強さなんじゃない?


 それともCやBランクってそんなに強くないのかな?

 他の人が戦ってる所を見てみたいかも。



「ん? もう収まったのか」



 騒ぎを聞いてきたのか、ギルマスさんが後ろにいた。



「スーちゃんが制圧して終わりましたよ」



 ギルマスさんに私が見てた範囲で起きたことを説明する。



「スズランは大丈夫そうだな。 しかしさすが小さくても精霊だ、Cランク程度では相手にならないか」



 気を失っている冒険者を見ながら笑っている。



「これは精霊が強いのか冒険者が弱いのか」

「お前さんからしたら他の冒険者はみんな弱いだろ」

「他の人が戦ってる所を見たことないのでわからないですね」

「俺もお前さんの戦いを直接見たわけじゃないが、実績だけを見ると頭一つどころか天と地ほどの差があると思うぞ」



 そんなに差があるんだ。

 世界最強は何と比べてるんだろうか?

 一般冒険者より強いのはわかるけど、もしかしたら似たような強さの人がいるって事なのかな?



「何なら今度合同で依頼受けてみたらどうだ?」

「最近は忙しいので遠慮しておきます」

「そうなのか? 依頼を受けてるようには見えないが」

「もともと身分証のために冒険者になっただけですからね。 今は精霊たちと一緒に作業してるので、そっちで忙しいんです」



 サクラの教育がどれくらいかかるのかわからないけど、街の方を早く整地する分には困ることはないと思う。



「うーん、ギルドとしてはそれだけ強いんだから、もっと高難易度依頼を受けてほしいんだがな」

「何かあるんですか?」

「いや、今はない」



 無いなら受けられないじゃないか。

 私は呆れた表情でギルマスさんを見る。



「そんなにやりたいなら依頼が来たら指名してやるぞ?」

「面白そうな依頼なら受けてもいいですよ」

「依頼に面白いとかあるのか? 報酬がいいとかか?」

「珍しい魔物とか、お肉が美味しい魔物でしょうか?」



 魔物は動物に似ている物もいるんだから、美味しいお肉とかが取れる魔物もいるはずだ。

 オークロードも美味しかったし。

 おいしそうな食材の事を考えていたら、今度はギルマスさんが何言ってんだ?という目でこっちを見る。



「報酬より食材なのか?」

「美味しいお肉が報酬みたいなものじゃないですか」



 お金より美味しい物の方が欲しい。

 野菜や果物が入手できれば種からの栽培が可能かもしれないので、植物型魔物も歓迎だ。



「やはり天才の考えることは一般人には理解できんな」

「え、美味しい物食べたくないですか?」

「今あるものでも不満はないしな。 高級な肉なら貴族連中に売って、もっといい装備が欲しいと思うのが冒険者だと思うぞ?」



 ギルマスさんが普段何を食べてるか知らないけど、私が知ってる宿屋の食べ物を基準に考えると、とても美味しいとは思えない。

 たまにならいいけど、あれを毎日は嫌だ。



「まあいい、何か依頼が来たら連絡しよう。 俺は仕事に戻る、スズランも早めに仕事に戻れよ」



 気絶した2人の冒険者が運ばれていくのを確認したギルマスさんは、二階へ戻って行った。



「私も戻らないとですね」



 スズランさんもカウンターに戻っていく。

 スズランさんがカウンターに座ると、スーちゃんはまた腕に寄りかかるようにして寝ている。



「じゃあ私も依頼が終わりましたし、そろそろ帰りますね」



 スズランさんに挨拶をして家に帰る。




 ギルドに行ってからはたまに孤児院に差し入れを持っていくだけで、しばらくはまたカーミトの街の整地をしていた。


 整地も6割ほど終わったある日、リーアからの手紙が置いてあった。

 ゲートをつないでから一度も連絡が無かったので、初めての手紙だ。


 手紙の内容は、王都で開催される催し物に行かないか、と言うお誘い?だった。

 ただ詳細は書かれてなくて、ただお誘いだけが書かれていた。

 内容も日時も気になったので、日が暮れてからリーアの部屋に行った。



 寝る時間にしか使わないと言っていたので、そのまま待つことにする。

 しばらく待っていると、リーアが寝間着姿で部屋に入ってきた。



「リーア、こんばんは。 久しぶりだね」

「あ、ユリアさんこんばんは。 手紙を読んで来てくださったんですね」

「うん。 催し物の内容も日時も書かれてなかったから、その確認だけでもしようと思ってね」

「今回のお誘いは国王様、と言うより、アマリリス様からのお誘いだと聞いています」



 あれ、リーアからのお誘いじゃなかったのか。



「そうなの? リーアからお城の催し物に一緒に行こうというお誘いだと思ってたんだけど」

「えっと、アマリリス様が国王様にお願いして、国王様からお父様の所に連絡が来て、私がその伝言をユリアさんに伝えたんです」



 何と遠回りな。

 それならサクラにお願いするのが一番早いでしょうに。

 それとも王族や貴族的に必要なやり取りだったりするのかな?



「じゃあリーアも内容は知らないって事?」

「いえ、時期的に戦技大会のことだと思います。 国中から腕に自信のある人を集めてみんなの前で戦う大会で、上位入賞者はもちろん、勝ち上がれなくても国王様に認められた人には報酬が出ます。 身分関係なく参加できるので、かなりの人が参加する大会ですよ」



 よくあるトーナメントで勝ち上がっていくとかそんな大会かな?

 この世界の人たちがどれくらい強いのかは見てみたいと思ってたし、ちょうどいいかもしれない。



「面白そうだね。 行ってみたいけどいつだかわかる?」

「開催が10日後で、その2日前にはお城に到着を知らせないといけません」



 2日前に知らせないといけないとなると、カーミトの街の整地がぎりぎり終わるかどうかってところかな。



「サクラやリーアも行くの?」

「わたしは魔法で戦うところを見たいので、見に行きたいんですが、お父様が行けないので今回わたしは見に行けません。 でもユリアさんが行くのであれば私も一緒に連れて行って欲しいんです」



 連れて行くのは問題ないかな、ゲートで一瞬だし。



「外出許可がもらえるなら連れて行くのはいいよ」

「お父様が行けないと聞いたときに『ユリアさんと一緒に行く』という条件での許可はもらっています」

「なら問題ないね。 じゃあ8日後に王都に行こうか」

「8日後だと間に合わなくないですか? その日にお城まで行かないといけませんし。 あ、もしかしてまたお姫様抱っこで・・・・・・」



 リーアの顔が真っ赤になる。

 さすがにそれはめんどくさすぎるかな。

 自分で走るくらいならコウスラで移動したい。



「王都にもゲートがあるから移動はすぐだよ。 サクラから何も聞いてない?」

「王都にもあの扉があるんですね。 サクラはお勉強が忙しいようで、しばらく会えていません」



 お勉強とお茶会がどれだけ長いかわからないけど、ずっとお城にいるわけじゃないと思うけど。

 ただ時間が合わないだけかな?



「まあそういう事だから移動はすぐできるから大丈夫。 あとはサクラにも声をかけてみようかな、時間があれば一緒に行きたいし」

「そうですね。 サクラも一緒に行けたら楽しそうです」

「じゃあサクラには私から言っておくね」

「はい、お願いします」




 翌日お昼、サクラのお勉強の時間前に整地を中断して、一度会いに行く。

 戦技大会のお誘いと、その期間お勉強を休めるかの確認をしてもらう。



 確認してもらった結果「大会当日だけ」という条件でサクラも一緒に見に行けることになった。


 あとは集合前日までに整地を終わらせないと。



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