82 お城に書類を届けに
ジャスミンがうちに来てからしばらく経ち、整地は3割ほど終わった。
建物は壊れているけど意外と無事な物が残っていて、保管用に作った倉庫がどんどん拡張されている。
無事な物に関してはサイズに関係なく収納できるので、倉庫まで運ぶのは問題ないけどね。
書類(重要かどうかは面倒なので確認してない)もある程度溜まってきたので、そろそろお城に持って行った方がいいかな?
ちなみにディアが畑を作ると言ってたので任せていたら、かなり広い範囲を畑にしていた。
これは後で戻すの大変じゃないかな・・・・・・
そんなこんなで、今日は書類を届けるためにお城に行こうと思っている。
ジャスミンは結局引きこもっていて、まだ外に出ていない。
私としても気持ちの整理がつくまではそっとしておくつもりだ。
食事のために朝と夜には顔を合わせているので、元気なのは確認してるし。
ジャスミンに朝の分の魔力をあげた後、お城に行くことを伝えてからゲートを通る。
久し振りにお城に行くと部屋には家具が増えていた。
サクラが勉強するのに必要な物や、お茶会用なのかテーブルなどが置かれていた。
部屋を出てデイジーやマリーに挨拶しようと思ったけど、確かお昼まではお勉強の時間だと言っていたはずなので、王様の執務室へ直接向かう。
地図を見ながら王様の執務室まで来たけど、相変わらず人に会わない。
このお城の警備がどうなっているのかすごく気になる。
まさか入り口で確認してるからお城の中は見張ってないなんてことないよね?
そんなことを考えながら執務室の扉をノックする。
「だれだ」
「ユリアです、カーミトの街の書類がある程度溜まったので持ってきました」
「おおユリアか、入ってくれ」
入室許可が出たので扉を開けて中に入ると、王子、マリー、デイジーもいた。
勉強の時間じゃなかったみたいだ。
私が中に入ると、デイジーがソファから降りて抱きついて来る。
そのままだと歩けないので抱っこしてあげると首にしがみついてくる。
しがみついてくるデイジーの背中を撫でながら王様のいる机の前まで行く。
王子は何も言わず黙ってこっちを見ていて、マリーは笑顔でこっちを見ている。
収納から集めた紙束を出して王様に渡す。
紙束と言っても、魔物の皮で作られたような巻物みたいな物や、荒い材質の紙の束だ。
「なんの書類を集めるかは聞いてなかったので、見かけた物は全部集めてきました。 内容も確認せず集めたので、どうでもいい物も混ざってると思います」
見てはいけない物が混ざっていて「知られたからには生かしておくわけには!」的な展開で追い回されても嫌だからね。
「構わない。 些細な情報でも何かの役に立つものが混ざっているかもしれない。 感謝する」
「じゃあ書類も渡したので帰りますね」
私が帰ると言った瞬間デイジーの腕に力がこもった。
帰してくれないようだ。
「デイジー?」
「んー・・・・・・」
首にしがみついたまま曖昧な返事をするだけのデイジー。
どうしようかな・・・・・・
「急いでないなら少し話がしたいんだがいいか?」
私がどうしようか悩んでいると、王様が話しかけてきた。
整地する以外急いですることもないので了承する。
了承したら、王様と宰相さんは仕事を中断し、王子の座っているソファの方に向かうので、私もマリーの隣に座る。
デイジーはソファに座ってくれないようだ。
「まず、この前の少女がどうしてるかを聞きたい」
「ジャスミンですか? 家に引きこもってますね。 落ち着いたら街を案内しようと思ってたんですけど、もうちょっと時間がかかりそうです」
「いや、問題を起こしてないならいい。 人間を恨んでいるだろうから心配していたんだ」
「この前のは自分の身に危険が迫る前にってだけだったみたいなので、襲われたりしなければ何もしないと思いますよ。 普段はおとなしい子ですし」
王様以外もいるので王都を襲ったとかいうことは言わないようにする。
「そうなのか」
あまり納得はしていない様子の王様。
前に王様に会った時は、王都を襲おうとしたり言い合いになったりしてるから、王様の中では狂暴なイメージがあるのかもしれない。
「問題が無いならいい。 次に、大きな魔物に乗っていたユリアの事が冒険者と騎士の間で噂になっている。 騎士の方は口止めしているが、冒険者の方は国で口止めでがきんから少し広まっているようだ。 それで、大きな魔物って何のことだ?」
この前コウスラに乗ってたのが広まっているのか。
離れた場所で乗ったはずなんだけど・・・・・・あ、森の方まで見えてるんだから多少離れた場所でも見られて当然か。
と言うかコウスラに乗ったまま冒険者と遭遇しちゃってるし。
まあ街の近くでは驚かれるだろうから控えるけど、移動のために頻繁に乗ると思うから知れ渡っても問題はない、と思う。
むしろ広まってくれた方がいちいち説明しなくていい。
「コウスラがフェンリルの姿になれるって話はしましたよね? その事だと思いますよ。 移動が速いので、ゲートが無い場所に急いでいく時はコウスラにお願いしてるんです」
そう言って頭上のコウスラを撫でる。
カーミトの街の整地もゲートの近くのうちは問題なかったけど、ゲートから離れた場所になってからはコウスラに移動をお願いしている。
自分で走ってもいいんだけど、精霊たちも乗せられるのでコウスラの方が速いし楽。
「その話は聞いたが、そのスライムに乗れるのか? あのフェンリルの姿になれたとしても小さい気がするが」
「大きくもなれるんですよ。 最大でこの前討伐したフェンリルと同じ大きさまで大きくなれることは確認してます」
「ちょっとまて、それは危険なんじゃないか? この前の魔物の大軍を簡単に倒すような力があって、街の壁以上のサイズになれるって事だろ?」
「まあそうなりますね。 フェンリルと同じ攻撃ができて属性石を2つ使ってるので、フェンリルより強いかもしれません。 でも、人間を襲ったりしないので大丈夫ですよ。 そもそもこの子は変身して移動する時と私が寝る時以外、食事の時ですら私の頭から降りませんし」
王様も宰相さんも言葉を失っている。
まあ街を1つ滅ぼした魔物の姿になれて、それより強いといったら気が気じゃないよね。
でも、ジャスミンの事を危険だと言っていたディアが何も言わないんだから、大丈夫だと思う。
たぶん・・・・・・
「そんな魔物が暴走したら止められんぞ? 本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫だと思いますよ? 何かあれば私が止めますし。 逆に野放しにするより私と一緒にいたほうが安全だと思いますけど?」
フェンリルより強いかもしれない魔物を野放しは大惨事になると思う。
フェンリルは街を住処にしてたけどコウスラが一ヶ所にとどまるかはわからない。
コウスラの速度で徘徊してたら人間はあっという間に全滅するだろう。
まあ私と一緒にいると今後も属性石をあげるだろうから、どんどん強くなるけど。
「それはそうだが・・・・・・」
「それに大きなフェンリルにすると乗りにくいので、普段は馬くらいの大きさにしかしませんよ。 街や王都に近づいたら元に戻しますし、街中で大きなフェンリルにはしませんし」
でも移動する時は当然大きい方が速いので、遠くに行く場合は最大サイズにしている。
ちょっと近くの森に、くらいならそこまで大きくしていないけど。
「うーむ、そこはユリアを信じるしかないか。 それじゃあ最後は確認だ。 この前の騒ぎの後、冒険者から話を聞いたギルドからの報告書を確認した。 数百体のウルフ種と王都の冒険者が戦闘、その後森から大地を覆いつくすような量の、ゴブリン種、オーク種、オーガ種を魔物に乗った少女が討伐と書かれている。 魔物がきえて討伐の証拠がないので魔物に乗った少女を含めて報酬が払えていないと。 なにか間違いはあるか?」
「その通りだと思います。 お城から出た後、ギルドに行って情報を聞いて嫌な予感がして森に行ったんです。 森から離れた場所でウルフ種と戦ってる冒険者の様子を見て大丈夫そうならそのまま帰るつもりでしたが、森からものすごい量の魔物が出てきたのでこの子に倒してもらいました」
再びコウスラを撫でながら話をする。
「嫌な予感、と言うのを聞いてもいいか?」
「ギルドで聞いた話では、全体的に増えてるという事でした。 でも報告では出てきたのはウルフ種だけ。 ゴブリンやいろんな種類が出てきたのなら溢れた分が出てきたんだと思いますけど、足の速いウルフ種だけが出てきてたので、遅い二足歩行系が後から出てくるんじゃないかと思って様子を見に行ったんです。 ゴブリン程度なら問題ないでしょうけどオークとか混ざってたら厳しいかと思って。 実際はオーガもいましたけど」
とはいってもウルフ以外のオークも私が知っているより小さかった。
見たことは無いけど、ゴブリンやオーガも小さく弱かった可能性がある。
「そうか、そのおかげで冒険者たちも助かったわけか。 よし分かった。 ギルドには国を危機から救ったとして、参加冒険者にそれなりの報酬を渡しておこう。 ユリアの報酬は本当に要らないのか? 報告書が本当なら相当な数を倒したのだろう」
「今は整地してるだけですし、特にほしい物も思いつかないので今回はなくてもいいですよ」
「そうか・・・・・・まあ何かあれば言ってくれ、できる事なら手を貸そう」
「その時はお願いします」
何か頼むとしても、整地が終わって街を作り始めてからかな?
話が終わって王様と宰相さんは自分の机に戻って行ったけど、デイジーが放してくれない。
と言うか寝ている。
結構しっかりしがみついているので、力ずくで外すのは怪我をさせそうで怖い。
「デイジー寝ちゃったんだけどどうしよう」
隣に座っているマリーの方を見る。
「何か美味しい物で釣ってみたら? 匂いで起きるかも」
「美味しいものか・・・・・・」
なら卵も手に入ったしクッキーでも作ろうかな。
「じゃあクッキーでも作ろうか。 マリーも一緒に作る?」
「私でも作れるの?」
「材料さえあれば結構簡単に作れるよ」
この世界ではその材料のバターと卵の流通が無いんだけど。
「作ってみたいわ。 覚えたらまた作れるのよね?」
「材料と道具があればできるけど、材料の方は難しいかな。 道具の方はあげてもいいけど、材料はあげてもダメになっちゃうし」
ギルドに冷凍倉庫はあったから凍らせることはできるんだろう。
ただそんなに簡単に作れないのか冷凍や冷蔵の行商はいない。
国ならもしかしたら作れるかもしれないし、卵がカーミトの街で入手できれば作られるかもしれないけど。
「残念ね。 でも覚えておけば何かの時に材料が集まれば作れるし、教えてちょうだい」
「じゃあ移動しようか。 どこで作る?」
普通に考えたら厨房だけど、邪魔だよね。
今の時間なら昼食作ってるだろうし。
「食べ物作るなら厨房じゃないの?」
「それが普通だけど、昼食とか作ってたら邪魔になっちゃうからね。 道具とかは全部用意できるから、加熱のための火が使える場所ならどこでもいいんだけど」
「その作り方は料理人に教えてもらえるのか? 教えてもらえるなら厨房を自由に使っていいぞ。 料理長には昼食は遅れても構わないからしっかり覚えるように一筆書こう。 もし教えられないなら、中庭の石が敷かれてる辺りなら人も来ないし、多少大きな火も使って大丈夫だ」
「マリーにも教えますし、教えるのは構いませんね。 じゃあ厨房に行こうか」
王様から料理長への手紙をもらい、マリーと一緒に執務室を出る。
デイジーは離れないのでそのまま連れていく。
王子?一度も話をしなかったよ。
厨房まで行き、扉を開けるとみんな驚いた表情でこちらを見る。
マリーが来たのにも驚くだろうし、デイジーまでいてしかも寝ている。
「アマリリス殿下とデイジー殿下にユリアさんまで。 今日は何かありましたか?」
驚く料理人たちをかき分けて料理長のアンドレさんが近づいてくる。
「ちょっと作りたいものがあって厨房の一部を使わせてもらおうかと。 王様の許可は貰ってますので」
そういってアンドレさんに王様の手紙を渡す。
王様の手紙を読み終わったアンドレさんが、料理の中断と食材を一時冷蔵倉庫にしまう指示を出していた。
「どうぞ好きな場所を使ってください。 鍋なども邪魔でしたらどかしますので」
「そこは使わないので大丈夫です。 それじゃあ作ろうか」
私の言葉に楽しそうに頷いたマリーと一緒に調理台へ向かった。




