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80 サクラの決意

「城に住むのでなければそれに合わせて家具を用意するだけだ。 あと、教育する部屋だが、ユリアのゲートの部屋を使ってもいいか? その方が移動もなくて楽だろうし、他の者たちに鉢合わせることもないだろう」



 あの部屋はゲートを置く以外使ってないから、使えるなら使った方が部屋としてもいいだろう。

 それに王子に鉢合わせてサクラに酷いこと言ったら、今度は確実に手が出る。



「私はそれでもいいですよ、移動しないのはサクラも楽でしょうし」

「なら必要なものはこの後運ばせておこう。 サクラの方から何か希望はあるか?」



 急に話を振られてびっくりしてわたわたしている。



「わ、わたしは教育をしていただく立場ですので、現状でも十分すぎるくらいです」



 サクラは目を白黒させながら答えている。

 代わりに私から意見を出したほうがいいかな。



「寝泊まりするわけではないので、ベッドやタンスはいらないですね。 勉強するのに必要な机と本棚? 休憩とかもするのなら座ったり横になれるソファとかあってもいいですね。 軽く飲み食いするならテーブルと椅子もあったほうがいいでしょうか?」



 サクラが遠慮するので代わりに私が必要そうなものを挙げていったら、サクラに「何言ってるの!?」って顔で見られた。



「ふむ、その辺りか。 それくらいならすぐに運び込めるな」



 あ、サクラが毎日お城に行くならデイジーやマリーのために果物持って行ってもらうのもいいかな?



「ねえサクラ。 お勉強でお城に行く時うちから果物持って行ってくれない?」

「果物?」

「デイジーやマリーのおやつのためにうちの果物をあげようかと思って。 サクラの教育をしてもらうお礼も兼ねてね」

「いいのか? 領主教育は国の仕事だし、ユリアが気にすることではないぞ?」

「私のやりたい事にいろいろと協力してもらってますからね。 それに、たまにでいいので、マリーたちと一緒にサクラもおやつに誘ってもらえれば、年の近いマリーとサクラなら仲良くなれるかもしれませんし」

「そ、そんな、お姫様とご一緒するなんて恐れ多すぎますよ!」



 隣にいるサクラが青ざめて私の腕をつかんで来る。

 あれ、一緒におやつ食べるのってそんなにダメなこと?



「そうだな・・・・・・デイジーも一緒でいいなら構わんぞ。 デイジーも話し相手ができれば喜ぶだろう」

「・・・・・・」



 サクラが絶望的な表情をしている。

 その反対側にいるデイジーは「やったー!」と喜んでいる。 



「ごめんね、そんなに嫌だとは思わなかったから・・・・・・今からでも断ったほうがいいかな」



 サクラに小声で話しかける。



「えっと、嫌というわけじゃなくて何かしてしまったらと思うと怖くて・・・・・・」

「いきなり襲い掛かったりしなければ問題ないと思うけど。 何か話し方とか作法的なものがまずい感じ?」

「小さい時だけど作法とかは少し学んだから、完ぺきとは言えないけど畏まった場所でなければ多少は大丈夫・・・・・・だと思う。 でも、お姫様の前で恥ずかしくない程の作法は身に着けていないから・・・・・・」



 貴族の作法とか私は全く知らないけど、デイジーやマリーと一緒に食べたりした時は優雅な食べ方とは程遠かった気がする。

 ワイワイ食べてたし普通だった。



「私は作法とか全くわからないけど、私が見た感じデイジーもマリーも作法とかに厳しいようには見えなかったよ? 賑やかに食べてたし」

「そうなの?」

「うん。 というかデイジーはまだ小さいからいいとしても、マリーはお姫様っぽくはない気がする。 優雅とかお淑やかとは無縁そうな感じだし」

「それで結局どうするんだ?」



 私たちが小声で話していたら王様が聞いてきた。

 そういえば王様放置してコソコソ話してたけど、普通ならかなり怒られてることしてるよねこれ。

 サクラも目を見開いて怯えている。



「何回か一緒にしてみて問題があるようならサクラは別で、とかでもいいですか?」

「問題を起こすのか?」



 王様が少ししかめっ面をする。



「何か悪いことをするという意味じゃなくて、サクラは孤児でしたし、作法や話し方で問題があるかもって心配してるんですよ」

「そんなことか。 なんならそのお茶会も作法の練習にしよう。 領主になるなら必要なことだしな。 だから今できなくても気にする必要はないぞ」

「あ、ありがとうございます!」



 王様の提案でサクラも少し安心したようで表情も少し柔らかくなった。



「じゃあサクラは明日からお城に来るって事でいいかな? 院長先生も待たせてるし今日はそろそろ帰ろうか」

「は、はい」

「夕食を一緒にと思ったが人を待たせてるならやめておくか。 ユリアもたまにでいいから娘たちに会いに来てくれ。 2人とも喜ぶだろうしな」

「わかりました」



 私は王様と別れて3人で私の借りてる部屋まで戻り、デイジーと別れた後、モウイの街に戻った。



「すー、はー・・・・・・」



 サクラを孤児院まで送ろうと、家にいたジャスミンに一声かけ、家を出たところでサクラが深呼吸していた。



「大丈夫?」

「あ、うん、大丈夫。 いろいろな事が一気に起きていっぱいいっぱいだったから、少し気持ちを落ちつけてたの」

「強引に進めすぎちゃったかな。 ごめんね」



 サクラに話す前に本当にできるか色々決めてからサクラに話したから、サクラにとっては急なことになってしまった。



「ううん、わたしは今凄く嬉しいの。 街を何とかしたいと言っていたけど、本心では無理だとあきらめてたから。 魔物の事もそうだけど、たとえ魔物がいなくなったとしても街の復興なんて簡単にはできないと思う。 壊れた建物を直すのにも新しく建てるのにも、ものすごいお金や時間がかかると思うし、孤児のわたしにはそんなことできるお金は稼げない。 孤児になったばかりの頃は『わたしが!』と思ってたけど、冒険者のお仕事をしてみて、お金を稼ぐのがいかに大変かを学んだの。 リーアが頑張って何とかすると言ってくれたけど、リーアに迷惑をかけたくはなかったし」



 実際私は精霊たちと一緒に復興作業をしている。

 お金はかかってないけど時間はかなりかかりそうだ。

 これを普通の人がやったらもっと時間かかるだろうし、費用もバカにならないだろう。

 しかし



「サクラはさ。 街が復興すればよかったの? それとも自分の手で復興させたかったの?」



 魔物を倒した後の復興資金をサクラが稼ぐ必要はないはずだ。

 サクラが自分の手で何とかしたいと言うなら別だけど、魔物がいなければ国が勝手に復興させるだろうし。



「大好きな街が復興してほしかっただけ。 だけどわたしのわがままにリーアの人生を無駄にさせるわけにはいかないし。 親友のためと言ってくれたけど、親友だからこそ・・・・・・だから自分の力でできないならあきらめようと思ったの」

「復興してほしいだけならサクラがお金を集める必要はないんじゃないかな? サクラが強くなって魔物と戦うというなら頑張るのもわかるけど、一個人で国が用意した戦力が負けるような魔物の討伐資金なんて稼げないでしょ? 魔物がいなくなった後なら国が勝手に復興させるだろうから、サクラのお金を使う事もないだろうし」

「・・・・・・」



 そこまで考えてなかったのかサクラが唖然としている。 



「結局わたしには何もできない、という事なんだね・・・・・・」



 そう言って俯いてしまった。



「何言ってるの? これからサクラが領主として復興させるんでしょ? 言っておくけど、私は魔物を倒すことや街を更地にすることは出来ても、領主のお手伝いなんてできないからね? そっち方面はサクラのために頑張ってるリーアを頼ってね」



 私の言葉を聞いてはっとした表情でこちらを見る。

 そして微笑みながら口を開いた。



「・・・・・・そう、だよね。 せっかくユリアちゃんが復興できる機会をくれたんだから、落ち込んでる場合じゃないよね。 頑張らないと」



 両手で握りこぶしを作って意気込むサクラと孤児院で別れ、家に帰ってくる。

 そしてドアを開けて家に入ろうとした私の足が止まる。


 家の中には跪いているジャスミンと、それをめんどくさそうに見下ろしているディア、そしてテーブルの上でお祭り騒ぎの精霊たち。

 何この状況、さっき私が帰ってきた時にはジャスミンしかいなかったはずだ。



「ただいまディア。 ・・・・・・これは何してるの?」

「お帰りなの、わたしにもわからないの」



 ジャスミンの方を見るとジャスミンもこっちを向く。



「あなた何者!? 何でこんな所に精霊王女様がいるのよ」

「ディアは王女様なの?」



 私にはわからないのでディアに聞いてみる。



「精霊にそんな人みたいな階級とか無いの。 人族が勝手に呼んでるだけなの。 わたしは普通の精霊より力があるだけなの」

「でも今まで呼ばれたことはあるって事?」

「無いの。 そもそも今まで体を得て実体化したことはないの」

「って言ってるけど?」



 私は再びジャスミンの方を向く。

 今までディアに精霊の事を聞いてたけど、実体化したのは初めてなのか。

 知識だけあった感じなのかな?



「でも、この大きさの精霊様は普通にはいないはずだし・・・・・・というかあなたが契約したのって精霊王女様なの!? しかもこんなに精霊様たちと契約するとかあなた本当に人間!?」



 一応種族としては人間だ。

 と思う、たぶん・・・・・・


 私はジャスミンにディアたちとの出会いの話をした。

 水を撒いた畑の魔力からディアが体を得たこと。

 畑のお手伝いのために精霊を雇った事。

 街の整地のために追加で雇った事。


 その話を聞いたジャスミンの答えは「精霊様を雑用に使うとか何考えてるのよ!」だった。

 いや、提案をしたのはその精霊のディアなんだけど。



「それで、この変異種はどうしたの?」



 精霊の話が落ち着いたところで、ディアがジャスミンのことを聞いてくる。

 変異種と言うのは魔族の事なのかな?

 呼び方が色々あるんだね。



「この子はいろいろあってうちで引き取ることになったの。 だからこれから一緒に住む家族になる子だよ」



 私の説明にディアの表情が険しくなる。

 勝手に住む人増やして機嫌悪くなっちゃったかな?



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