76 ジャスミン
「ん? 今倒したウルフ消えちゃったけど普通の魔物じゃない?」
その後も倒したウルフはどんどん消えていくが、冒険者たちは驚くこともなく次々と倒している。
こういう魔物が普通にいるのか、それともこの辺りではよくある事で、ただ慣れただけなのか。
倒せてはいるみたいだし、そのまま様子を見ていたら森の方から増援が来た。
予想通り二足歩行系の魔物だ。
地面が見えなくなるほどの魔物が森から出続けている。
どれだけ魔物がいたの?
「あの量はまずいかな。 弱かったとしてもあの量は体力が持たないだろうし。 コウスラ、あの森から出てきた魔物倒せる?」
コウスラは頷くと、巨大化して森の方に向かって駆けていく。
近づくと、こちらに気付いた冒険者たちが、大型の魔物が来たと騒ぎ始める。
コウスラはそんな冒険者とウルフたちの近くまで行くと、飛び越えて魔物の群れに突っ込んでいった。
すごい跳躍力だ。
魔物の群れの前方に着地したコウスラは、赤いオーラのようなものを纏った後、全身が炎に包まれる。
私は熱くないけど防御スキルの効果?
それともコウスラの効果?
そんなことを考えていると、コウスラが魔物の大軍に突撃していく。
近くにいる魔物には体当たりや噛みつき、離れている魔物には炎のブレスを吐いている。
え、思ってたより強いんだけどこの子・・・・・・同じことができるのは知ってたけど、もしかして強さもフェンリルと同じなの?
しかし魔物の数が多すぎて炎のブレスや体当たりだけでは倒しきれない。
降りて私も戦おうと思っていたら、今度はコウスラが茶色っぽいオーラを纏った。
今度は何するんだろう?
もしかしたらフェンリルがまだ使ってなかった炎の魔法とかあるのかな?
私が様子を見ていると、コウスラが大きく口を開けて遠吠えのようなことをしている。
鳴き声は聞こえないけど。
すると地震が起きた。
これってコウスラの魔法?
それとも自然現象?
回りを見た私は目を見開いた。
地面のあちこちに亀裂が走り、魔物たちが次々と落ちていく。
前にディアが使った魔法と同じだ。
でも規模が違いすぎる。
ディアが手加減していたのはわかるけど、それにしてもこの地割れはすごい。
その後もコウスラは地割れをいくつも作りだし、魔物を落としては亀裂をふさいでいく。
これって生き埋めにして潰す魔法だったんだ・・・・・・
そういえばディアも潰すとか埋めるとか言ってたっけ。
見えてる魔物を全部落とし、森から出てこなくなるとコウスラの纏っていたオーラが消える。
もう終わりかな?
ウルフのいた方を見てみると、ウルフと戦っていた冒険者たちがこちらに武器を向けたまま様子を見ている。
あれ、もしかして敵だと思われてる?
でもこっちから仕掛けなければ襲ってこないよね?
魔物も倒し終わったし、帰って報告しようかと思っていると、森の方から声が聞こえた。
「まさか全部倒されちゃうとは思ってなかったわ」
そう言いながら森から出てきたのは小さな女の子だった。
いや、離れてるのと白いロングのすごいクセッ毛で見にくいけど、角が生えてる?
私はコウスラから降りてその子に近づいて話しかける。
「君のその反応を見るに、君がけしかけたって事かな?」
「そうよ、私が50年かけて従魔を作って人間の王都を潰そうとしたの」
「50年?」
「私は魔族。 見ての通り人間じゃないわ」
そう言って自分の角を指さす。
そんな種族もいるのね。
「で、それが失敗したあなたはどうするのかな? このままおとなしく捕まる気はないよね?」
「私はあなたに負けたのよ? 命を懸けた勝負をした時、敗者は勝者に従うのが一族の掟。 元々王都に大きな被害が出てくれればその後は殺されてもいいと思ってたし、あなたの指示に従うわ。 死ねというなら自害するし、王都に連行するというならおとなしくついていくわ」
こっちは命のやり取りをしたつもりはないんだけど・・・・・・とりあえず連行するのがいいのかな?
地図でも敵対反応はないし、おとなしくしててくれるって言ってるし。
「じゃあお城まで一緒に来てくれる?」
「わかったわ」
女の子はおとなしくついてくる。
一応近くの森に魔物がいないかは確認しておく・・・・・・大丈夫そうだね。
「じゃあ王都に戻るからこの子に乗ってくれる?」
「私が乗っても大丈夫なの? いきなり食べられたりしない?」
「貴女が何もしなければこの子は何もしないよ」
「わ、わかったわ」
乗りやすくしゃがんでくれたコウスラに、おそるおそる近づいて背中に乗る。
コウスラの背中に2人で乗ったら、王都に向かって走ってもらう。
冒険者たちが見ていたが放置した。
王都の近くまで行ったらコウスラには元に戻ってもらい、頭に乗せる。
頭に乗せる時に小声で、一応女の子が変な行動取らないか警戒するようにお願いした。
その言葉を理解してくれるかはわからないけど、少しでも出来る事はしておく。
「その子スライムだったの? 変身できるスライムなんて初めて見たわ」
「この子はコウスラ。 私の家族だよ。 変身については私もよくわからないんだよね」
女の子は物珍しそうにコウスラを見た後に私の方を見る。
「魔物が家族なの?」
「そうだよ。 家族としては、もう1人精霊の子がうちにいるよ」
「人間の家族は?」
「私はわけあって1人になっちゃったから、一緒に住んでるのはコウスラとその精霊の子だけ。 お手伝いの精霊もいるけど」
「あなた精霊使いだったのね。 その子が強いだけだと思ってたけど、複数の精霊様と契約するなんてあなたも相当強いのね」
女の子は金色の目で私をジーっと見つめている。
何だろう?
あ、そういえばこの子の名前聞いてないや。
「そういえば自己紹介がまだだったね、私はユリアだよ」
「これから殺される奴の名前なんて聞いてもしょうがないと思うけど、名乗られたら名乗らないわけにはいかないわね。 私はジャスミンよ」
「何で殺されると思ってるの?」
「私は王都を落とそうとしたのよ? そんなの即処刑でしょ。 それ以前に魔族はそれだけで討伐の対象だもの。 何もしてなくたって見つかったら殺されるわ」
「そうなの? なんで?」
「そんなの私が聞きたいわよ!」
今まで無気力だったジャスミンの表情が怒りの表情に変わる。
種族差別的なものがこの国でもあるんだろうか?
今までハーフエルフと疑われることはあったけど、本物のエルフは見たことない。
物語に出てくるエルフは森にいてあまり出てこないイメージだけど。
そんなことを考えながらジャスミンと歩いていたら門のところまで来ていた。
「戻ったのか嬢ちゃん。 森の状況はどうだった?」
「無事に解決しましたよ。 すぐに報告しようと思って先に戻ってきましたが、他の冒険者の方たちもじきに戻ってくると思います」
「そうか、それは良かった。 ところでその子は? 出ていくときはいなかったよな」
「森の近くで保護したので連れてきました。 身分証がないので代わりに私が通行税を払いますね」
「そうか、嬢ちゃんのカードを見せてもらえるか?」
私は門番にギルドカードを見せる。
「ランクBに王家の紋章・・・・・・本物か?」
「偽物とかあるんですか?」
「いや、無いが・・・・・・表示されてる情報を俺の頭が処理しきれていないようだ。 13歳でランクBの冒険者だけでも意味が分からんのに王家の紋章まである・・・・・・もしかしてエルフの王族だったり?」
今までもハーフエルフだと言われたことはあるけど、とうとうエルフの王族かと疑われてしまった。
「人間の一般人ですよ。 ランクはたまたま出会った魔物倒してたら上がっただけですし、紋章?は通行証になるって王様に勝手につけられたものです」
「そうなのか・・・・・・紋章持ちの連れなら通行税はいらない。 陛下が認めた者だからな」
「そうなんですか? それならこのまま報告に行きますね」
「あ、ギルドに報告へ行くなら騎士を1人同行させてもいいか? 城への報告もしたいから話を聞きたい」
「ギルドの後お城に行くので王様への報告なら私がしておきますよ」
どっちみちお城に行かないと家に帰れないし、ジャスミンも連れて行かないといけない。
「そうか? ならお願いしよう。 この後帰ってきた冒険者たちの話を聞いた後にも報告に行かないといけないからな。 報告が1回で済むならこちらとしては助かる」
「では失礼しますね。 さあ行こうか」
人混みで離れたら困るので、私は隣にいたジャスミンに手を差し伸べる。
ジャスミンが恥ずかしそうに私の手を取ると、2人でギルドに向かって歩き出す。
道中周りの人たちの視線を感じたけど気にせずギルドまで行く。
そのまま中に入り、さっきの受付嬢の所まで行く。
手を引かれたジャスミンは私の後ろに隠れるようについてくる。
「ただいま戻りました、討伐完了したので報告に来ました」
「もう終わったんですか!? それで状況は?」
「冒険者たちに大きな被害はなかったと思います。 完了報告に来ただけなので詳細は帰ってきた冒険者たちに聞いてくださいね」
「え、詳細は教えてもらえないんですか?」
「お城に報告に行かないといけないんですが、その前にギルドにももう安全だと伝えておいた方がいいと思って寄っただけなので、完了報告だけです」
「でもそうすると報酬が決められないのですが」
「報酬ですか? もし何か貰えるようでしたら王様に言っておいてください。 無くても特に文句は言いませんし」
「え、国王様にですか?」
「はい、では私はこれで失礼しますね」
「え、あ、はい・・・・・・」
どうしたらいいのかわからいと言った受付嬢をそのままにして、私たちはギルドを出る。
あとはお城に報告とジャスミンを連れていくだけだ。
ギルドからお城までも手を引いて歩いていたけど、おとなしくついて来ている。
おとなしくついては来るけど、お城までの道中は物珍しいのか周りをキョロキョロ見ていた。
そんなジャスミンを眺めていたらお城に着いたので、門番に話かける。
「終わったので戻ってきました」
「お帰りなさいませ。 えっとその子は・・・・・・?」
「西の森で魔物を倒した時に保護したので、報告のために連れてきたんです」
「西の森へ行っていたのですか?」
「魔物は倒したのでもう大丈夫ですよ、 王様に報告がしたいんですけどどこに行けばいいですか?」
「魔物の脅威は去ったんですね、よかった。 陛下は執務室に居られると思いますが、他の貴族立ち合いの正式な報告をするのであれば、陛下にお伺いをしてから謁見の間にて報告もできますが」
「時間がかかりそうなので、執務室でいいです。 執務室って王様が書類仕事してた部屋ですか?」
「はい。 おそらくその部屋だと思います」
「わかりました、その部屋はわかりますので報告してきますね」




