74 お城の厨房でジャム作り
「陛下! ご無事でしたか!」
「どうした?」
「先程の大きな音の原因を調査中です。 こちらの方から聞こえたようなのですが、今の所それらしき物は何も見つかっておりません」
やばい、そりゃあんな大きな音出せば騎士が来ちゃうよね。
どうしよう.・・・・・・
「さっきの音は私が物を落としただけだ。 特に問題はないから持ち場に戻って構わん」
「落としただけ、ですか?」
「なんだ?」
「いえ、では隊長に報告後、持ち場に戻ります。 失礼します」
頭を下げて騎士たちは戻って行った。
「王様、誤魔化してくれてありがとうございます」
「本当のことを言っても混乱させるだけだしな。 まあ今後は気を付けてほしいが」
「気を付けますが、初めて来たときにいたような貴族がいたら約束はできませね。 さすがにお城は壊しませんけど」
「ほどほどに頼む・・・・・・」
そのあとはジャム作りを見るため、厨房目指して歩き始める。
厨房に着くと、王様はそのまま扉を開けて中に入って行く。
王様の後について厨房の中に入ると、料理をしていた人たちがざわついていた。
その中で1人、目つきの鋭いおじさんが近づいてくる。
「陛下がこのような場所に・・・・・・何かありましたか?」
「いや、この前のジャムがうまく行ってるかと思ってな」
「申し訳ありません、あれからも何回か作ってはみたのですが、まだ・・・・・・」
「そうか。 今日はな、その調理法を教えてくれた者を連れてきた。 この少女がジャムの作り方を教えてくれたユリアだ」
王様が私を紹介してこっちを見るので私も挨拶する。
「冒険者のユリアです。 うまくいかないという事なので、様子を見に来ました」
なんで失敗してるのかがすごく気になるし。
「私はこのお城で料理長を任されている者で、アンドレと申します。 わざわざご足労頂きありがとうございます。 このようなお嬢さんが考えたレシピだとは思いませんでした。 さっそくで申し訳ないですが見てもらえますか?」
見た目に反してすごく丁寧な人だ。
全然表情が変わらないから見た目が怖いままだけど。
私はアンドレさんについて調理台の前まで行く。
とりあえず私は口を出さずに様子を見ることにした。
アンドレさんはリンゴを持ってくると、皮をむいてリンゴを半分にし、さらに半分に切った後へたと芯を取る。
ここまでは問題ないね、まあ切るだけだし。
その後アンドレさんはリンゴをそのまま小さな鍋に入れ、さらに水を鍋に半分ほど入れた後、最大火力で煮始めた。
何してんのー!
「ストップ! ストップです!」
最初は口を出さないつもりだったけど、おかしなことを始めたので思わず止めてしまった。
私はあわてて鍋を火からおろす。
「すみません、どこかおかしかったですか? 言われた通りに作っていたのですが・・・・・・」
火を消しながら眉を寄せて少し困惑顔になるアンドレさん。
余計怖い顔になった。
「・・・・・・教えてもらった手順を聞いてもいいですか?」
「皮をむいてへたと芯を取って鍋で煮るだけ、と」
「煮た後はどうするんですか?」
「煮るだけで完成なのでは?」
それはただのリンゴ煮だ。
それはそれでおいしいけどジャムではない。
「なるほど、ちゃんと伝わってなかったんですね。 これから教えますので見ててくださいね。 わかれば簡単なので」
「よろしくお願いします」
「皮をむいてへたと芯を取るまでは問題ありません。 その後さらに細かくします。 細かくしたリンゴを鍋に入れて蓋をし、中火程度で火にかけます。 リンゴの水分が出ますので水はいりません」
「なるほど・・・・・・」
数分このまま煮るのでそのことを伝えると、教えたことをメモし始める。
そんなメモするほどの内容でもないと思うけど・・・・・・
数分経ったところで再開する。
蓋を取るとリンゴの水分が出てきているのが見える。
王都にあるリンゴでもちゃんと作れるようだ。
まあ私が使ったのもモウイの街で売ってた物だしね。
水分が足りなければすりおろしたリンゴを追加しようと思ってたけど、必要ないみたい。
「この通り、水なしでもこれだけの水分が出てきます」
「ほう、こんなに出るものなんですね」
「ここからは焦げないようにヘラなどで潰しながら混ぜて煮詰めていきます。 水分が無くなってきたら完成ですね」
ヘラを借りてしばらく煮詰めていく。
水分が無くなり奇麗な黄金色になった所で火を止める
「はい、完成です。 わかれば簡単ですよね」
「はい、次からは大丈夫だと思います」
一応味見もしておこうかな。
収納からスプーンを出して食べてみる。
うん、美味しくできてる。
「味も問題ないので食べてみてください」
「では、失礼して・・・・・・」
自分用のスプーンを持ってくると、アンドレさんもジャムを食べる。
「本当に甘いですね。 こんなに甘いリンゴは初めてです」
「ちょうどいいのでデイジーとマリーに持って行ってあげましょうか」
「いえ、さすがに試作品をお出しするわけには・・・・・・」
「あ、ダメなんですね」
教えるためにちゃんと作った物だし別にいいと思ってたけどダメみたいだ。
「ユリアが作った物だし構わんぞ」
そんなやり取りを見ていた王様からの許可が下りた。
「ありがとうございます」
「娘も喜ぶだろうからな」
「ならデイジーの好きなジャムパンを作りましょうか」
いつも食べているパンを1つ出してスライスしていき、パンを焼いてカリカリにした後ジャムを塗る。
リンゴはまだ熱いのでパンだけの過熱にした。
「はい、完成です」
「パンを焼くんですか?」
「パンはすでに焼いた物ですが、さらに焼くと表面がカリカリになって食感がよくなるんですよ。 柔らかい方が好きな人もいるので個人の好みですけどね。 デイジーやマリーはカリカリのパンが好きみたいなので焼いてます」
「すでに焼いてあるパンをさらに焼くなんて発想はありませんでしたね。 今後の参考にさせていただきます」
パンのカリカリ部分を見てたらラスクが食べたくなってきた。
でもこの世界に食パンはないんだよね。
ブールタイプかコッペパンのようなタイプしかない。
いや、別にいいのか。
サンドイッチでも作って耳だけ集めれば作れるし。
「すみません、ちょっと作りたいものがあるんですけど作ってもいいですか?」
私はアンドレさんではなく王様に聞く。
アンドレさんに聞いても結局王様の許可が必要な気がしたからだ。
「それは構わんが他の者に作り方を見せていいのか?」
「何でですか?」
「料理のレシピは貴重な物だろう? ユリアの考えるレシピは独創的な物ばかりだ。 料理人なら大金を出しても欲しがる者もいるだろう」
「別にお金儲けのために考えてるわけではないですし、作りたいならどうぞって感じですけど」
「いや、ユリアがいいならいいが・・・・・・」
たまたま思い出して食べたくなっただけで、私が考えた物でもないし。
「ではサンドイッチでも作りましょう」
収納からいくつかパンを取り出す。
「パンをスライスしてバターを塗ってキャベツ、トマトのスライス、ベーコンの代わりに薄く切って焼いたお肉をパンで挟む。 味付けはお肉焼くときに振った塩だけのBLTサンドもどき完成」
いや、ベーコンもレタスもないし、ただの焼き肉サンドか。
ほんとレタスが早くほしい。
「パンに野菜と肉を挟んで食べるのですか。 切れ目を入れて挟むことはありますが、このような形は初めて見ましたね・・・・・・そのバターというのは何でしょうか?」
「チーズは知ってますか? 同じく牛乳から作れる物ですね。 野菜の水分でパンがフニャフニャにならないようにと、いい香りなので使ってますが、無くも大丈夫です。 さて、サンドイッチは完成ですが今日はここからさらに切っていきます」
食パンの様には切れないので六角形にパンの耳を切る。
これでラスクの材料ができた。
ついでにサンドイッチの方も半分に切る。
なんか三角形や四角のイメージが強いからこの形はちょっと新鮮かも。
「断面がキレイですな、素晴らしい」
「他の野菜や果物を挟んでも美味しいし、小さく切ればその分種類を食べられますね」
「この短時間でそこまで考えているなんて・・・・・・」
もしかして今私が考えて作ってると思ってる?
まあいいや、今はラスクを作りたいし。
「サンドイッチ食べます?」
「頂けるのであれば是非」
「食べたい人は適当に食べていいですよ。 私はこれからが本番なので、もうちょっと作ってます」
「このパンは何のために?」
「さっき切ったパンの耳が欲しかったので、耳を取っても美味しく食べられるサンドイッチにしただけです」
「先程の一瞬で新しく作りたい物を決め、材料を無駄にしないように料理を作ってします発想。 同じ料理を作る物として格の違いを思い知りました・・・・・・」
料理長さんの一言でみんなの視線が私に集まる。
全方向から手元を見られるならいいけど、私を見られると落ち着かないな・・・・・・
「たまたまですよ。 私はラスクを作りますのでサンドイッチでも食べててください」
私がそう言うと真っ先に手を伸ばしたのは王様だった。
確かに王様より先に手を出しづらいとは思うけど、普通は毒見が先じゃない?
本人がいいならいいけど・・・・・・そんな王様を横目に私はラスクづくりを始める。
「まずはフライパンにバターを入れて溶かす。 そこにパンの耳を入れて片面を焼きます」
そのまま片面が焼けるまで放置する。
「焼けてきたらひっくり返して、あとはこのまま焦げないようにしながらカリカリになるまで焼くだけ」
サンドイッチを食べながら何をするのかとみんなが見ている。
アンドレさんはサンドイッチを持ったまま食べるのを忘れて凝視している。
なんか怖いんだけど・・・・・・
こんがり焼けたパンの耳をお皿に移す。
後は砂糖をまぶして完成だ。
「それは塩、ですか?」
「これですか? 砂糖ですよ」
小皿に少し載せて渡してあげる。
お礼を言って砂糖を口に運ぶ料理長さん。
「普通の砂糖と違い純粋に甘いですね。 これはどこに売っているのでしょうか? 白い砂糖は今まで見たこともありませんが」
「これはうちで作ってる砂糖なので売ってないですね。 まだ販売するほどの量は作れてないんです。 今後はどうなるかわかりませんけど」
「そうですか、残念です」
「ユリアよ、それは完成なのか?」
アンドレさんと話してると、王様が早く食べさせろと言わんばかりに聞いてくる。
甘い物好きだねこの王様。
「もういいですよ」
またしても真っ先に手を出す王様。 私も久しぶりのラスクを食べる。
前に食べたのは何年前だろうか。
食パンの耳に比べると薄目だけど、このザックザックする食感がやっぱりいいね。
「フーム、硬いのに簡単に砕けていく不思議な歯ごたえだな。 確かに楽しいな」
王様に続いてみんなも食べると、あちこちから感嘆の声が聞こえる。
美味しいよねラスク。
みんなが何個も食べるのでどんどんなくなっていく。
お試しのつもりでそんなに作ってないから、このままだとデイジーたちの分がなくなってしまう。
私は菜箸でいくつか別の容器に移していく。
「さっきから器用に棒を使うんだな。 それで、それはどうするんだ?」
王様がそれを目ざとく見つけると聞いてくる。
「この棒は私の居た国で料理に使う道具ですね。 なれれば使いやすいですよ。 で、これはデイジーたちの試食分です。 みんながどんどん食べるから分けてるんです」
「あ、ああそうか、すまんな」
「作った物を美味しいと食べてもらえるのは嬉しいですよ。 でもデイジーたちにも食べさせてあげたいから少し分けただけです。 これもジャムパンと一緒に持って行ってあげてください」
「わかった。 おい、メイドを呼んできてくれ」
王様が宰相さんに指示を出してメイドさんを呼びに行かせる。
近くにいたのかすぐ戻って来てジャムパンとラスクのお皿を台車に乗せて運んで行った。
これでお城ですることは終わりかな。




