69 秘密のゲートづくり
私はしがみついてくるリーアの頭を撫でてあげると、幸せそうな表情になる。
まだこの年だと甘えたい年頃だよね。
そういえばお母さんはいないんだろうか?
話を聞かないからもしかしたらいないのかもしれない。
この世界では親がいない子供も少なくない。
街の外に行く人なら魔物の危険もあるし盗賊の危険もある。
街に居たって暴力的な人は居るし、悪い貴族に騙されてしまう人だっているだろう。
「話は分かった。 いや、大量の兵と冒険者が敗北した相手を1人で倒すとか、その魔物を城へ売りに行くとか、陛下相手にその利益の一部を貰うとか大きな疑問は解消していないが。 この街のために利益の交渉をしてくれたことには素直に感謝しよう。 かなりの金額が街に入ってきたが、無駄遣いはせず、領民のためになることに使うと誓おう」
別にお城に売りに行ったわけではないんだけどね。
王様が買取るっていうから売っただけだ。
利益に関してはなんとなく自分やサクラたちのいる街にも利益が欲しいと思っただけで、街のためなんて考えてなかったし。
でも住民のために使うって言ってくれたし結果は良しとしよう。
「うまく使って良い街にしてもらえれば十分ですよ」
「もちろんだ。 これで無駄遣いしていたら我が家どころか君や陛下の顔に泥を塗ることになってしまう」
王様は言われたから適当にお金送ってくれただけだろうし、私のお金でもないので気にしないけど。
それに、私から見ても何にどう使われてたかなんてわからないし。
「話しはこれでおしまいですか?」
「ん? ああ、そうだな。 こちらからの話は以上・・・・・・いや、食材を提供してくれるという話はできるか? この前貰った物が凄く美味しかったからな」
「私はカーミトの街についてお話をしたいです」
ロイドさんとリーアが別の話もしたいと言うので、もう少し話をすることにした。
「いいですよ。 まずはカーミトの街だけど、さっきも言った通り精霊たちの力を借りて整地中で、一度全部更地にして新たに建物や道を作ろうと思ってるの。 ただサクラが領主を引き受けてくれた場合、建物や道を作る時にサクラにも相談するつもり。 他に何か聞きたいことはある?」
「サクラが領主になるとして、いきなり領主をやれと言われてもできないと思いますけど?」
「もちろんそのことは考えてるよ。 王様には私が選んだ人を領主にする場合は教育係や使用人などを手配してくれるように頼んであって、候補一覧を作ってくれてるはず」
「国王様に直接お願いですか・・・・・・ユリアさんはすごいことをしますね」
リーアは不思議な物を見る目で私を見てくる。
「特に質問が無ければ次に行っていいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
まだ話し合いは終わってないのでサクサク進めていく。
「次は食材に関してですね。 その話をする前に今後の話をしないといけません」
「今後の話?」
「はい。 カーミトの街が完成したら向こうに住もうと思ってます。 なので向こうに住んでしまうと食材の提供が難しくなってしまいます。 今だけでいいなら提供するのは特に問題ないですけど」
「つまりこの街から出ていくという事か? 土地はどうするんだ?」
「厚かましいお願いですが、残してもらえると嬉しいですね。 ある理由でこの街の土地を利用したいので」
いや、ゲートは精霊契約でできるようになる能力だし知られていてもいいんだった。
逆に教えておかないと使いにくくなる。
王様の反応的に知らない人が多そうだけど。
「その理由は聞いても大丈夫なことか?」
「大丈夫ですよ」
私は立ち上がって何もないところにゲートを作ると、いきなり現れた門に案の定2人が驚いている。
「これは精霊と契約すると使えるようになるゲートで、いろいろ条件はありますがゲート間を行き来できるようになるんです」
ゲートを私の部屋に繋ぎ、3人で私の家に行く。
「この通り、すでにゲートを設置してある場所には自由に行くことができます」
2人とも目を丸くして開いた口が塞がらない。
本日何回目だろうか。
「まあそんなわけで移動用にゲートを置ける拠点があると便利なんですよ。 頻繁には来ないかもしれませんけど、このゲートを通ればカーミトの街からここまで食材を運ぶこともできますね」
「精霊使いとはこんなこともできるのか・・・・・・わかった、土地はこのまま君に預けておこう。 もし可能であればこの辺りの土地にも畑作ってほしいが難しいか?」
「難しいというよりは面倒ですね。 カーミトの街でどれくらいの規模で畑を作るかにもよりますけど、向こうで広い範囲の畑を作るならここの畑は必要ないですし。 もし向こうが小さくてここに畑を作る場合、毎日ここに来ないといけないのと、管理する精霊を雇わないといけません。 あと、カーミトの街を孤児と精霊のための街にしようと思ってるので、孤児院も向こうに移そうと思ってます」
「孤児を集めるのか?」
「各街で孤児の面倒を見るより、一か所に集めて面倒を見たほうが総合的な負担が少なくなると思うんですよ。 なので孤児を引き取る街にしたいんです。 これは私の意見なのでサクラとも相談しないとですが」
まあそれは便宜上で、実際は子供たちにちゃんとした衣食住を与えるためだ。
今の孤児院を見ていると、最低限の食事と衣服しか与えられていない。
住む場所は補修されてるだけとはいえ、まだ大丈夫だ。
でもあんなにやせてる子供を見るのはつらい。
もちろんそんなのは私個人の感想だし、街としても支援はちゃんとしていると思う。
でもお金は有限だし、王様の話しぶり的に食料問題を抱えている場所も多いようだ。
そんな中、孤児のために食料を提供してるのは凄い事なのかもしれない。
だとしても、子供たちがひもじい思いをしているのには変わらない。
だから私は孤児たちを集めて、まとめて面倒を見ようと思っている。
ディアのおかげで食料は畑で何とでもなるし、着る物も頻繁に買う必要はない。
住む場所なんかは土魔法でできるので、土地代しかかからないし。
「それで各街から支援金を貰おうという事か。 なるほどな、孤児院の管理をしなくていいなら街としてはありがたい」
「今の所支援金を貰うつもりはありませんよ、引き取るだけです。 絶望的に運営が厳しかったらお願いするかもしれませんが、それは実際やってみてからですかね」
冒険者としてお金を稼ぐことはできるので、当面の資金は問題ない。
最初は私の畑で賄うつもりだけど、最終的には孤児たち用に畑を用意するつもりだし。
「そんな考えで大丈夫か? 実際に引き取ってから行き詰ると困るのは孤児たちだぞ?」
「もちろん事前に人数と費用も計算しますよ。 そのうえでちゃんと考えます」
「それならいいが・・・・・・まあこちらで手伝えることがあったら言ってくれ、できるかぎりの協力はしよう」
よし、これであとはサクラに話しをするだけだ。
この話し合いが終わったらさっそく孤児院に行ってみよう。
「じゃあゲートを片付けますのでお屋敷の部屋に戻りましょう」
ゲートを通って屋敷に戻った後、ゲートを解除する。
するとそれを見ていたリーアがお願いをしてきた。
「このゲートを私の部屋にも作ってもらえませんか? いつでもユリアさんに会えるように」
「ゲートを作っても私しか開けられないよ? ゲートを閉じると繋がりもなくなるからノックしても私の所に届かないし」
「ずっと開けておくことはできないんですか?」
「開けてる間は魔力を使うからね。 ずっとは厳しいかな」
リーアのためにゲートを作るのも開けっ放しにしておくのも別にいい。
咄嗟に魔力を消費するとは言ったけど、実際減ってるかは知らないし。
でも開けっ放しにしていると他の人も通れてしまうのが怖い。
何か対策を考えつけば別に作ってもいいんだけど・・・・・・
あ、いい事思いついた。
「そうですか・・・・・・残念です」
「あとは食材の話だけですね」
思いついたことは後で試すとして、残りの話をしてしまおうと思う。
「ああ、とりあえずはカーミトの街が復興して君が向こうに引っ越すまででかまわない。 それ以降はまた再度話し合いをしたいと思う」
一通りの食材が欲しいと言われたので、うちで作ってる野菜や果物を全部出す。
ロイドさんはメイドさんに料理長を呼んでもらい、リーアを含めた3人で試食をしながら値段を決めていった。
主に2人で食べる用なので量は多くないけど、単価はかなり高めに設定してくれた。
市販の物より美味しいから当然だと言われたけど、だいぶ高い値段をつけてくれた気がする。
輸送費も人件費もかかっていないので、高く売れるとそのまま利益になる。
だから普通の食材屋にちょっと申し訳ない気もする。
まあこれはディアが頑張ってくれたからだし、また新しい果物を探してあげないとだね。
お菓子作りでもいいか。
「よし、じゃあこの契約で頼む。 運ぶのは兵士を向かわせるから、そのまま渡してくれればいい。 さて、俺は仕事があるのでそろそろ部屋に戻るが、君はゆっくりしていってくれ。 何だったら昼食を用意するが?」
「この後サクラの所に話をしに行こうと思ってますので、今日は遠慮しておきます」
「そうか、じゃあサクラ嬢によろしくな」
そう言ってロイドさんは契約書類を持って料理長と共に部屋を出て行った。
さて、秘密のゲートづくりをしましょうかね。
「もう帰っちゃうんですか?」
ゲートの事を考えていたらリーアが腕にしがみつき上目遣いで私を見上げてくる。
天然なの? わざとなの?
「帰る前にリーアの部屋に行きたいんだけどいいかな?」
「わ、わたしの部屋ですか!?」
「ダメなら諦めてサクラの所に行ってくるけど」
「いえ、ぜんぜん大丈夫です! むしろ来てください!」
なぜそんなに興奮しているのか・・・・・・
リーアは私の手を引いて、部屋まで案内してくれる。
「ここがわたしの部屋です」
リーアが扉を開けて中に入るので、私も引っ張られて中に入る。
中は貴族の部屋というよりは女の子の部屋という感じだ。
全体的に白を基調としており、タンスもこの世界では珍しく白く塗装されている。
普通の家はそのまま木の色だし。
チェストも白く塗装されていて小さなぬいぐるみや花が乗せてある。
高そうな絵画や装飾品なんかが飾ってない可愛いらしい部屋だ。
いや、家具なども高い物なんだろうけど、高そうなイメージよりかわいいイメージが強い。
この部屋にゲートはちょっと合わない気がするなぁ・・・・・・塗装もできないし。
私が部屋を見て悩んでいるとリーアが不安そうな表情で話しかけてきた。
「変、でしょうか。 わたしは可愛いと思っているんですが・・・・・・」
「変じゃないよ、すごく可愛い部屋だと思う。 リーアに似合ってると思うよ」
「本当ですか!」
「うん。 ただね、さっき話してたゲートは色を変えられないから、この部屋に設置するとそこだけ浮いちゃうなって」
「大丈夫です! 部屋の印象よりゲートの方が大事です! 何ならゲートの色に合わせた部屋にしてもいいくらいです!」
勢いよく力説するリーア、まあ本人がいいならいいか。
でもなるべく目立たないところにしたいよね。
しばらく部屋を眺めた後、奥の方の壁を見ながらリーアに話しかける。
「ねえこの壁ってどれくらい厚い? 少し削っても平気?」
「計ったことはありませんがそれなりの厚さがあると思います。 隣の部屋も少し離れていますし」
「じゃあちょっと削っていい?」
「はい!」
部屋の壁を削るのに即答するリーア。
そんなにゲートが欲しいんだろうか。
確かに便利だけど、私は家に居ないことが多いから会える機会はそんなに多くない気がするけど。
許可は貰ったので壁を削っていき、削った壁の奥にゲートを設置する。
次にその削った部分に蓋をするように土魔法で木の扉を付ける。
土魔法の扉は、内側の範囲を土魔法で囲うと勝手に登録扉になり、扉だけ設置するとただの扉になる。
でも設置した後にも変更できるので、扉だけ設置しても登録扉にはできる。
で、この扉の登録をリーアだけにしておけば、ゲートを開けっぱなしにしてもリーアがこの登録扉を開けない限り、他の人はゲートの場所まで行けない。
「リーア、この扉に触れてみて」
「は、はい」
リーアに触れてもらい登録する。
これで私とリーア以外の人は入れない。
「これでこの扉はリーアしか開けられないようになったよ」
リーアに開け閉めしてもらった後、私が開けられないことを証明する。
まあ私は登録扉に追加できるので、今開けられなくても登録できるし、何なら魔法解除しちゃえば普通に通れるというね。
まあ今回はリーア以外の人が開けられないということが伝わればいいから、これで問題ない。
「この開けた先にゲートを開いておくから来たい時に来てね。 ゲートの先はどこか希望はある?」
「ユリアさんの家がいいです!」
「じゃあ屋根裏に繋げておこうか」
一旦ゲートで私の家に行き、閉じる。
屋根裏に新しいゲートを設置したらリーアの家と繋ぐ。
このゲートはこのまま開けっ放しでいいかな。
「はい、完成。 この扉はリーアしか開けられないから、ちゃんと閉めておけば他の人が出入りすることは無いよ。 もちろんうちの方から誰かが通ることもないし」
「いいんですか? 魔力を消費するって・・・・・・」
「さっきはリーアのお父さんがいたから誤魔化したけど、私からしたら魔力の消費ってそこまで多くないの。 だから繋げておくのは問題ないんだけど、開けておくと誰でも通れちゃうんだよね。 男の人や知らない人がいつでも家や部屋に来れるのは嫌でしょう?」
「なるほど、それはわかります。 あ、という事は私は信頼されているんでしょうか」
「信頼してなかったらゲートなんて繋がないよ」
リーアは嬉しそうに両手を頬に当てている。
顔も真っ赤だ、そんなにうれしいのかな?
「ただ、うちに来るのはいいけど、私はあまり家にいないと思うよ? 手紙でも置いて行ってくれればこっちから行くけど」
「わかりました、何かあれば手紙を置いておきます」
「じゃあせっかくゲートを作ったんだし、このまま帰ろうかな。 サクラの所に行くけどリーアはどうする?」
「一緒に行きたいですがお勉強もありますので・・・・・・ユリアさんが良ければ夜に結果を教えてもらえませんか?」
「夜に?」
「はい、夜寝る時間なら部屋にいますので。 お勉強は別の部屋ですし、寝る時間以外は私も部屋にいないことが多いんです」
「なるほど、了解。 それなら夜にお邪魔するね」
「はい、お待ちしています」
手を振るリーアと別れて扉を閉める。
そしてそのまま家を出た私は孤児院へ向かった。




