66 コウスラの登録
「ユリアさん、デアソリットちゃん、ありがとうございました」
「ディアの紹介のつもりだったけど、すごいことになっちゃいましたね」
「いやーいいもの見れた。 精霊契約の瞬間に立ち会えるなんてほとんどの人間が経験してないだろうしな」
ギルマスさんの声に見ていた冒険者も賛同する。
「道を開けろー!!」
ギルド内で冒険者たちが騒いでいると、叫び声が聞こえた。
一瞬で静まり返るギルド。
声のした方の人たちが左右に避けていき、現れたのはさっき吹っ飛ばした冒険者だ。
すっかり忘れてたけど、起きたんだね。
「やってくれたじゃねえかクソガキが! ユリア! 1対1で勝負だ! 俺が勝ったら俺の言うことを聞いてもらうからな!」
「え、私にメリットがないのでお断りします」
「逃げるのか? 腰抜けが!」
「これ以上おじさんにかかわるくらいなら腰抜けでいいので、もう帰ってください」
私の言葉で周りの冒険者からクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「だれがおじさんだ! 俺はまだ20代だ!」
叫びながら剣を抜き、走ってくる。
ギルド内で武器出すのっていいの?
ディアが反応して魔法を使おうとするが私はそれを止める。
どうせ私が勝たないと納得しないでしょ。
私は身体強化で反応速度を強化しておく。
男が剣を振り上げて斬りかかってくるので右手で刃を掴む。
左腕はディアを抱っこしてるから右手しか使えないんだよね。
刃を素手でつかんだことに驚いていたが、すぐに次の攻撃が来る。
今度は左手で殴りかかって来たので、掴んでいた刃をずらして左手の軌道上に持っていき、左手のパンチを防ぐ。
「小癪な! これならどうだ!」
今度は左手に短刀を持って突き攻撃をしてくる。
もうめんどくさいからさっさと終わりにしよう。
「エレクトリカルショック」
バチッ!っという音と共に男はその場に崩れ落ちた。
これでしばらく起きてこないでしょ。
「わたしにも勝てないのにママに勝負を挑むとかた、だのバカなの」
倒れている男を見下ろしながらため息をつくディア。
ディアに勝てないから1対1を挑んできたんだろうけど、私は受けてないんだからそのまま突っ込んで来たらまたディアにやられるだろうに。
「これどうしましょうか。 また外に捨てておきます?」
私はスズランさんとギルマスさんに聞いてみる。
「いや、そのまま放置で構わん。 問題起こしたこいつには罰を与えないといけないからな。 こちらで拘束しておこう」
ギルマスさんが男性職員を呼ぶと、男を拘束して二階の部屋に連れて行った。
「ギルドで戦った私も何か罰があったします?」
「冒険者ギルドでは冒険者同士の争いを禁止している。 多少の喧嘩くらいなら見逃すこともあるが。 今回最初に手を出したのはユリアの精霊だが、ユリアが攻撃指示を出したわけじゃないし、精霊は冒険者じゃないからな。 特に罰則はない。 その後ダーテのやつが斬りかかってきた時もユリアは剣を受けただけだしな。 ダーテは勝手に倒れただけだし、ユリアのせいで周りの冒険者やギルドに被害が出たわけじゃない。 なら罰する必要もないだろう。 逆に被害者としてダーテから金でも貴重品でも分捕ってもいい」
私が魔法を使ったのは見逃してくれるらしい。
と言うか魔法って気づいてない?
「特に何もないならいいです。 あのおじさんの所持品なんて触りたくもないので何もいりません。 もし何か回収するならギルドで回収してください」
「ずいぶんな言われようだな。 それよりも、あいつも一応まだ20代なんだ。 あまりおじさんおじさん言われると他の冒険者も、な?」
その言葉を聞いて周囲の冒険者を見ると、女性冒険者は笑っていて、男性冒険者は苦笑いしている。
その光景を見てギルマスさんは楽しそうに笑っている。
「あ、あの、お話し中すみません。 デアソリットちゃんとユリアさんにスーちゃんの事を聞きたいんですけど、いいですか?」
「スーちゃんの事?」
スズランさんが精霊を両手に乗せながら聞いてくる。
「スーちゃんの食事の事とか、お世話というか・・・・・・生活するうえで気を付ける事などを教えて欲しいです」
精霊の育成方法というか、付き合い方についてか。
私もディアから聞いた気がするけど、スズランさんは本人に聞けないからね。
「精霊に食事は必要ないの。 食べることはできるけど味を楽しむだけなの。 大きくなるまでは精霊が契約者の魔力に慣れるために触れてるだけでいいの」
「何もすることはないって事ですか?」
「ないの、勝手に育つの。 普段の生活も精霊が嫌がることをしなければ好きにすればいいの」
「好きに、ですか?」
「さっき食事はいらないと言ったけど、そもそも人間に必要な睡眠も水浴びも必要ないの。 だから一緒に何をしたいか、するかを2人で決めればいいの」
うちの畑の食材で作った食べ物中心に食べるのが好きで、湯船に浸かるのが好きで、一緒に寝るのが好きなディアが言っても説得力がないな・・・・・・まあ好きなだけで必要があってしてるわけじゃないんだろうけど。
「わかりました。 一緒に見つけていこうと思います」
スズランさんは優しそうな目をして精霊を撫でている。
あ、契約で思い出した。
コウスラを登録しないといけないんだった。
「あの、喜んでる所申し訳ないんですが、魔物の登録?っていうのをお願いしたいんですけど」
「魔物ですか?」
「はい、魔物の登録をしないと他の冒険者に討伐される可能性があると言われたので、この子をお願いします」
まあフェンリルになれるコウスラが討伐されることはないと思うけど一応ね。
「え!? その帽子魔物だったんですか!」
「よく言われますけど、この子はスライムです」
「へぇ、金属系のスライムでしょうか? でもこんなに微動だにしないスライムは初めて見ますね」
「見た目は金属系のスライムだな、ずいぶん希少な魔物を捕まえたじゃないか。 どこでこんなものを捕まえたんだ?」
私が頭の上からカウンターにコウスラを移動すると、スズランさんとギルマスさんがコウスラを観察している。
観察されていても全く動かないコウスラ。
「この子は鋼のスライムみたいです。 捕まえたというか、奇麗な石を持って帰ったら石が割れて中から出てきたんですよね」
魔力をあげて孵化?させたことは黙っておく。
いろいろ面倒なことになりそうだし。
「鋼のスライムか。 確かに記録には残ってるが、存在を確認したという者は知らんな。 石から産まれるスライムか・・・・・・もしかしたらその石の中に入っていただけかもしれんな」
「そんなスライムがいるんですか?」
ギルマスさんの見解にスズランさんが質問する。
「いや、俺は知らんな。 だがその石の中に何かがあって、それだけ取り込みたかったとか、ただ隙間に入りたかっただけという可能性も無くは無い。 あとはその石に鉄や石炭が含まれていて、それを他のスライムが吸収して鋼のスライムになった可能性もある」
「なるほど・・・・・・スライムは環境や吸収したもので特性が変わることもありますし、その可能性もありますね」
ギルマスさんとスズランさんで議論が始まってしまった。
このままだと話が進まないのでさっさと登録してもらって帰ろう。
「えっと、登録ってどうすればいいですか?」
「ああ、すまんな、ちょっと待っててくれ」
そう言うとギルマスさんはカウンターの下から登録の水晶板を取り出した。
あ、これで魔物の登録もできるのか。
「その大きさならこの水晶板に乗せてくれ」
私はコウスラに乗るように言うとゆっくり移動して石板の上に乗る。
「お利口なスライムですね。 会話ができるんですか?」
「この子の言ってることはわかりませんけど、こちらの言葉は通じますよ。 それで何か試験とか面接みたいなものはあるんですか?」
「特にないな。 ギルドまで手綱なしで連れてきて問題を起こしてない魔物なら安全だろう。 もし人を襲うようならここに来るまでに問題起こして討伐されている」
なるほど、ここに来るまでが試験みたいなものなのか。
いや、それって街に入る時止められたらどうするの?
おとなしくても見た目が怖かったら絶対止められると思うけど。
そんなことを考えていたら登録はあっさり終わってしまった。
「これがそのスライムの登録証だ」
ギルマスさんに見せられたのはコウスラのギルドカードだった。
コウスラの身分証に使えるのか。
カードの内容としては、名前と種族しか書く場所がなかった。
ランクや戦闘職という項目自体が無い。
それに自動入力ではないようで、手動で名前と種族を入力してもらった
「本来なら腕輪など一目でわかる装飾品を付けるんだが、スライムには付けられないからな。 証明用のカードだけだ。 だがこれでそのスライムはユリアの仲間や財産という扱いになる。 だからそのスライムが問題を起こしたわけでもないのに傷つけられた場合、普通に事件として報告してくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
終わったのでディアをカウンターに座らせ、コウスラに両手を差し出して呼ぶと、ぴょんぴょん跳ねて手に乗ってくる。
そのまま頭に乗せていつもの位置へ。
ギルドでの用事も終わったので、ディアを抱っこしてギルマスさんたちに別れを告げた後、ギルドを出た。




