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65 精霊契約

「ありがとうディア」



 私のために怒ってくれたのが嬉しかったので、ディアのほっぺにキスしてあげる。

 一瞬何が起こったのかわかってなかったディアの表情が、次第にふやけていって、両手で頬を抑えながらもじもじしている。

 ヤバ可愛いすぎる。



「デアソリットちゃん強くないですか? その年でランクBも防げない魔法を使うなんて・・・・・・」



 騒動を見ていたスズランさんがディアの強さに驚いている。

 いや、ギルマスさんも含めて冒険者たちみんながディアを見ている。

 しかし当の本人は未だに幸せに包まれていて、まったく気づいてない。

 気付いていても気にしないだろうけど。



「まあ私の子ですからね。 というのは冗談で、この子精霊なんですよ。 私の魔力で実体化したから私が母親なんだそうです」



 スズランさんにディアの事を簡単に紹介する。



「ユリアさんは精霊使いだったんですね・・・・・・その強さも納得です。 それにしても精霊ってこんなに可愛いんですね。 私も精霊契約できればユリアさんみたいにかわいい子のお母さんになれますか?」

「どうなんでしょう。 私も精霊の事は詳しくなくて・・・・・・」



 私がディアの方を見ると目が合う。

 私の言いたいことがわかったようで、ディアがスズランさんの方を見る。



「わたしと同じような契約はできないの。 普通の精霊は体の半分を自然の魔素、もう半分を契約する人間の魔力で作るの。 そうしないと自然の魔素を取り込めないし、契約者との魔力のやり取りもできないの。 だから普通の契約だと半分親子なの。 でもママの魔力は自然の魔素を取り込めるから、ママの魔力だけで体を作っても自然の魔素を取り込めるの。 だから私の身体はママの魔力だけでできてるから、ママの子供なの」

「そうなのか、初めて聞いたな・・・・・・」

「私の魔力ってどうだかわかります?」



 ディアの説明にギルマスさんは驚き、スズランさんは自分にもできるか質問している。

 スズランさんの質問を聞いてもディアは無反応だ。

 さすがに可愛そうだったので、ディアに教えてあげるようにお願いする。

 チラっと見えた表情はすごくいやそうだった。

 なぜそんなに嫌がるんだろう。


 ディアをカウンターに乗せると、スズランさんに近づいていく。

 そしてそのままスズランさんに触れる。



「何の変哲もない普通の魔力なの。 魔力保有量に関しては、契約が無理なくらい少ないの」

「そんなー」



 無慈悲な宣告にスズランさんが崩れ落ちる。

 これは私にはどうしようもない。 

 崩れ落ちてカウンターに突っ伏すスズランさんを無視してディアは戻ってくるので、また抱っこしてあげる。

 そしていつもの定位置に。


 もう用はないと言わんばかりに私の肩に頭を乗せて休息モード。

 と思ったら何かを思い出したかのように急に起きる。



「もし精霊と契約したいならわたしが呼ぶことができるの。 でも2つ条件があるの」

「精霊と契約できるんですか!? 私にできる事なら何でもします!」



 何を思ったのかディアが精霊を呼ぶとか言い出した。

 今までの反応的に普通に呼ぶとは思えないんだけど・・・・・・

 それに、呼ぶとしてちゃんとその精霊の了承は得て呼ぶの?



「1つ目は精霊と仲良くするの。 呼んであげられて契約できそうな精霊は小さくて弱いから当然喋れないの。 だから意思疎通できないからって捨てちゃダメなの」

「もちろんそんなことはしません!」



 1つ目の条件を聞いたスズランさんは、カウンターに両手をつき、身を乗り出しながら答えた。



「2つ目はママを優先、優遇してほしいの」

「え、何それ?」



 そして2つ目の謎の条件に最初に反応したのは私だった。

 だって私関係ないし。

 それに優先や優遇ってなに?



「優先や優遇っていうのは具体的にどうすれば・・・・・・」

「特に基準も何もないの。 ただ何かあった時にママを優先してほしいの」

「いやいや、私の事はいいでしょ。 ディアのしてほしい事をお願いしなよ」

「わたしの願いはママの役に立つ事なの。 だからギルドをママの味方につけようと思ったの」

「スズランさんを味方につけてもギルドまで味方にはならないと思うよ?」



 契約するのはスズランさんだけだ。

 それなのにギルド全体を動かすことなんて絶対にできない。



「うー、私1人でギルドなんて大きな組織動かせませんよー」



 2つ目の規模の大きさにスズランさんが再び崩れ落ちる。

 しかし、その横で聞いていたギルマスさんが話に入ってきた。



「こちらからも条件を出してもいいか?」

「ん? 聞くだけ聞くの」

「1つ目はユリアが悪事に加担していた場合、ギルドは協力しない。 今までのような活動をするなら優遇しよう。 2つ目は精霊契約をこの場でやってほしい。 これは俺の好奇心だ、実際の契約を見てみたい」

「いいの。 ママは悪いことしないし、契約は移動するのが面倒だからもともとここでするつもりなの」



 悪いことする気はないけど、ここまできっぱり悪いことしないといわれると、普段の行動を振り返ってしまう。

 悪いことはしてないよね?



「わかった、ならギルマスとして宣言しよう、悪事に加担してない限り何かあった場合当ギルドはユリアを優先すると。 ただしこの街に限らせてくれ、他の街でまで優遇させるほどの権限は俺にもない。 そしてスズランをユリアの専属に付ける。 専属と言ってもユリアがいる時は優先してユリアの相手をするというだけだ。 通常時はいつもどおり働いてもらう」



 スズランさんが私の専属になるそうだ。

 当人たち置いてけぼりで話が進んでいく。



「わかったの、それでいいの。 じゃあ始めるから、水を掬うように両手を出して魔力を込めるの」

「は、はい! でも、契約できない程魔力が少ないんじゃ・・・・・・」

「契約の魔力はわたしが周囲の魔素を使って補助するの。 契約さえできれば、維持だけなら今の魔力でも問題ないの」

「ありがとうございます!」



 ディアの言葉にお礼を言った後、ディアの指示に緊張しながら両手を出し魔力を込めている。

 私も背伸びをしながら覗き込んでそれを見る。 

 いつのまにか周りにも冒険者が集まってきていた。

 一生に一回も見れないかもしれない事だし仕方ないね。

 私の時も、ディアは気づいたらいたし、他の精霊たちはディアが契約してくれたからちゃんとした契約は見てないし。


 ディアはスズランさんの前に座ると、魔力を込めているスズランさんの手に自分の手をかざす。

 目を閉じて集中しているようだ。


 しばらく何も起きないまま時間が過ぎていき、周りの冒険者も何も起きないことにざわつき始める。

 私はディアだし大丈夫だろうとそのまま眺めていると、スズランさんの様子に異変が起きる。



「うっ・・・・・・何ですかこれ。 魔力が、どんどん、無くなって・・・・・・」



 苦しそうなスズランさんに動揺が走るが、ディアは動じずに集中している。

 スズランさんが苦しみ出してから少しすると、スズランさんの手の上で光るものがうねうねしだす。

 これが精霊の体を生成してる状態なのだろうか?

 ディアの時は朝起きたらいたので見るのは私も初めてだ。

 あれ、うちのお手伝い精霊呼ぶ時こんなのならなかった気がするけど?


 うねうねした物がだんだん人型になっていく頃には、スズランさんの額には脂汗が滲んでいた。

 だいぶ苦しそうだ。

 はっきりと姿がわかるようになると光も収まり、今までうねうねしていた精霊が動き出す。



「うまくいったの」

「「「「「おおーーーー!!!」」」」」



 ディアの言葉に周りで見ていた冒険者たちは歓声を上げる。


 新しく生まれた精霊はうちでお手伝いしてる精霊よりもはるかに小さい。

 周りのにぎやかさにおろおろしていて可愛いね。

 スズランさんは虚ろな目で微笑みながら精霊を指で撫でていた。

 喜ぶ元気もないようだ。

 なんか出産後のお母さんみたいだ。


 このまま放置して帰るわけにはいかないので「リカバー」をかけてあげる。

 魔力切れにはあまり効果なさそうだけどないよりはいいでしょ。

 まだ本調子ではなさそうだけど起き上がってくれたから良しとしよう。



「私のために治療魔法を・・・・・・ありがとうございますユリアさん」



 私にお礼を言いながら手の上に乗っている精霊の方を見ながら微笑む。

 色的に風の精霊かな。

 スズランさんを心配してるのか指にしがみついて顔をこすりつけている。



「これが精霊か・・・・・・小さいとは言っていたがユリアの精霊よりだいぶ小さいな」

「条件が悪すぎてなかなか集まらなかったの。 結局一番小さい精霊しか来てくれなかったの」

「ちょ、条件が悪いとか言わないの」



 ディアの発言に耳元で注意するが、スズランさんは気にしていなかった。



「いえ、最初に魔力が普通とか少ないと聞いていたので、誰も来てくれない可能性も考えていましたから・・・・・・それでも来てくれたんです、この子は一生大切に育てます」



 笑顔で精霊を見つめるスズランさん。

 その言葉に精霊も笑顔になる。

 そんな2人を眺めているとディアが話始める。



「喜ぶのはあとでいいの、そろそろ名前を付けてほしいの」

「名前? この子に名前はないんですか?」

「精霊に名前はないの、契約した時に一時的な名前を与えてあげると契約完了なの。 つけないとただ精霊が近くにいるだけの人なの」

「名前、ですか・・・・・・名前・・・・・・名前・・・・・・」



 スズランさんがうんうん唸っている。

 名前つけるのって難しいよね、何からつけるか悩む。


 ただ、私は気になったことをデアソリットに小声で聞いてみる。



「ねえ、名前を付けるのって特別な契約なんじゃないの?」

「特別な契約になるかは精霊次第なの。 精霊が特別な契約をしたいと思った場合のみ魂の契約になるの。 それ以外は名前を付けてもただの契約なの」

「そうなんだ」

「ママの場合は条件が良すぎて名前を与えると全員が魂の契約をしちゃうの。 だからママの場合は名付ける相手は選ばないといけないの」



 そう言えばそんな事言ってたね。



「なるほどね。 気を付けるようにするね」

「決めました! この子はスー。 スーちゃんです」



 私とディアが話し終わると同時にスズランさんが名前を決めたようだ。

 名前を付けられた精霊も喜んでいるみたいでよかった。

 でもディアの時のように光ったりはしなかった。

 これが普通の契約なのかな?



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