54 リンゴの発酵
「じゃあ試しにちょっとやってもらってもいい?」
「わかったの。 ハッコウ?させるから止めてほしい時は言って欲しいの」
ディアがやってくれるみたいなので、発酵しやすいように少し気温をあげるために風の魔法で部屋を暖める。
ディアが容器の方に両手をかざし、そのままジーっとしている。
これで発酵してるんだろうか?
そのまま10分ほど見守っているとリンゴの皮から小さな泡が出始めた。
え、もう発酵したの!?
「1回中断して」
蓋をしっかり押さえつつ少し振って軽く混ぜたあと元に戻す。
「1回目はこれでいいかな、もう1回お願い」
再度発酵を促進してもらい10分ほど。
泡が少し強くなったので再度中断してふたを開けてみる。
シュワシュワ泡立っているのでこれで酵母の完成だ。
次はリンゴの果汁を使いたいので、さっき切ったリンゴをハンドジューサーで搾っていく。
搾ったかすをどうしようかと思っていたら、精霊たちがよって来て食べたいと目で訴えてくる。
なのでサトウキビ同様精霊たちにあげた。
再度大きな容器を用意して果汁を入れて酵母も入れる。
入れすぎると味が薄くなりそうだったので、酵母はそんなに入れてない。
容器を密閉したら再度発酵促進してもらい、泡が強くなってきたところでまた中断する。
どんな感じか試しに飲んでみることにした。
コップによそい、冷やして飲んでみる。
あ、リンゴの炭酸ジュースだ。
少し酵母?の香りがするけど美味しい。
「ディアも飲んでみる?」
「飲むの。 う、口の中がビリビリするの・・・・・・でもリンゴのいい香りはちゃんとするの」
最初口に含んだ時は眉間に皺を寄せていたけど、ちびちび飲んでいるうちに表情が柔らかくなっていく。
炭酸としては微炭酸だけど、慣れてないとそれでもビックリしちゃうかな。
「このシュワシュワは慣れてくると癖になるの」
「いいでしょ、リンゴの炭酸ジュースだよ。 このシュワシュワが暑い時に欲しくなるんだよね」
お酒やお酢にしようと思ってたけど炭酸ジュースができたので、もう1つ同じものを作ることにした。
さっきと同じように発酵して混ぜてを繰り返し、今度は砂糖を追加する。
上限があるみたいだけど、この砂糖の半分くらいがアルコールになるらしい。
砂糖を入れた後そのまま発酵を続けて、50分ほどたったところで終了する。
蓋を開けてみると、さっきほどではないけどシュワシュワとしながらもアルコールの匂いがする。
酸っぱい匂いになってないから多分成功だ。
ただ作ったはいいが自分では飲めないので、今度誰かに試飲してもらおうかな。
酵母、炭酸ジュース、お酒が完成したけど、まだお酢は完成していない。
今度はリンゴを皮つきのままざっくり切って水に浸けていく。
少し蓋を開けた状態で発酵促進してもらう。
何度か混ぜて発酵を繰り返し、しばらくして蓋を開けると少しお酢の匂い?はするけど、まだまだ完成ではなさそうだ。
本当にこれは時間かなるな・・・・・・
さらに何十分か経ったところで、かなり色がついてきたので一旦中断。
ここからは中身を取り出して発酵させる。
容器が大きいのでザルとボウルも大きい物を用意した。
リンゴは取り除きつつ搾りたいので、ザルはできるだけ目の細かい物にしてある。
次は最初から目の細かいザルもセットで設置しておけばボウルに移さなくてもよくなるね。
次回への改善点を意識しつつ、ボウルに移してザルでリンゴを取り除いたら、液体は元の容器に戻す。
容器に戻したらザルをボウルに戻してリンゴを手で押して搾っていく。
搾り終わったらボウルに残った液体も容器に戻して蓋をする。
あとはこのまま3か月分ほど放置だ。
今までの時間を考えると数時間かかるか・・・・・・さすがにそれを頼むのはちょっと申し訳ない。
今度暇なときにでも少しずつやってもらえばいいか。
「ありがとう、今日はこれで終わりにしようか」
「これで完成なの?」
「まだだね。 このまま3か月ほど発酵させるんだけど。 今までの時間を考えるとかなりの時間がかかっちゃうから、今日はこれで終わりにして、残りはディアが暇なときに少しずつ手伝ってもらおうかなって」
「もうただハッコウさせるだけなら全力でできから今までよりも早くできるの。 今までは途中でママが手を加えてたからゆっくりハッコウさせてたの」
「え、そうなの? いままででも十分早かったと思うけど」
「ママの魔力貰っていいならさらに早く終わるの」
すごいな精霊、何でもありだ。
魔力あげて完成が早くなるならいくらでも使ってくれていい。
「うーん、じゃあディアが大丈夫ならお願いしようかな」
「わたしは大丈夫なの。 始める前にも言ったけど、この作業は精霊にとっていたずらと同じだから遊んでるのと変わらないの」
そう言いながらディアが再び手をかざしている。
さっきより早く発酵を促進してるらしいけど見た目は変わらない。
それから数十分が過ぎたころ、ディアが手をおろした。
「これでママの言ってた3か月分のハッコウが終わったの。 でも、これ本当に飲むの? だいぶ匂いもきつくなってきてるの・・・・・・」
蓋が少し空いているので離れていてもお酢のツンとした匂いがしてくる。
リンゴの香りがわからないほどお酢の香りだ。
「これはそのまま飲むんじゃなくて調味料として使うんだよ。 もちろん飲んでも体にいいんだけど、なれないときついと思う」
そういえば私はお酢をほとんど使ったことがないかも。
ギョーザに使うくらいかな?
あ、でも近い物としてポン酢はお肉に、黒酢はサラダに使ってたことがあるか。
ギョーザか・・・・・・餡はあるものでいいし塩もあるから小麦粉があれば作れるかな?
前回買ったのは・・・・・・強力粉か、薄力粉って売ってるのかな?
あ、ギョーザ作っても醤油が無いや・・・・・・
「次は醤油に挑戦かな。 ディアにはまたお願いしちゃうと思うけど」
「またさっきのハッコウをするの? 今度は何をハッコウさせるの?」
「次は稲と大豆が収穫できてからかな。 そしたらまた手伝ってね」
「わかったの、栽培もハッコウも頑張るの」
今でも畑はほぼディアにお願いしてるし、今後発酵までお願いしたら余計に作業が増えてしまう。
ディアは気にしないかもしれないけど私が嫌だ。
「うーん、ここまでディアにお願いばかりだと申し訳なくなっちゃうから、何か私にしてほしいことない?」
「私はママが近くにいて美味しいもの食べられるだけで十分なの」
「じゃあ今度からはなるべく日帰りで行ける場所だけ行くようにしようかな。 最低でも夜は一緒にいられるように」
「一緒にはいたいけど、ママの行動を制限する枷にはなりたくないの。 ママはママのしたいように生きて、一緒にいられるときだけ一緒にいてくれればそれでいいの。 人間にとって人生は長いものかもしれないけど、精霊からしたら人間の人生は短いものなの。 だからママには自分のやりたいことを優先してほしいの」
そう言いながらディアがしがみついてくる。
そういえば私が不老不死だって言ってなかったっけ?
今言っちゃうか。
「ディア、実は私ね、不老不死なの。 だからずっと一緒にいられると思うよ」
「ママ不老不死なの!?」
「そうだよ、だからずっとこのまま成長もできないんだけどね。 その代わりディアとずっと一緒にいられるならそれも悪くないかな」
そう考えると最初に不老不死を選んだのは正解だったかもしれない。
ハズレとか思っていたけど、ディアとずっと一緒に居られるなら逆に大当たりなスキルだ。
「精霊も肉体を得た時だけ成長するけど不老不死と似たような存在なの。 それじゃあずっと一緒にいられるの?」
「ディアが嫌になって出て行かない限りずっと一緒にいられるよ」
「やったの! うれしいの! ずっと一緒にいられるの!」
しがみついてた手に力がこもる、嬉しすぎて興奮してるようだ。
ディアにしては珍しい反応だ。
私は背中を撫でて落ち着かせる。
しばらくしてこもってた力が抜けると、ディアが話しかけてくる。
「ずっと一緒にいられるなら尚更ママの好きなように生きてほしいの。 今までは生きてる間になるべくママと一緒にいたいと思ってたけど、ママには自分の人生を謳歌してほしかったから我慢してたの。 でも不老不死ならいつまでも一緒にいられるから、今一緒にいることに拘る必要はないの」
心底嬉しそうな表情で抱き着いている。
そんなに喜んでもらえるとこっちもすごく嬉しいし、より愛おしくなる。
そうなるとなるべくそばに居てあげたいけど、この世界は移動に時間がかかる。
走れば1日で王都までは行けるけどずっと走ってると飽きてくる。
何か移動手段が欲しい・・・・・・
「さっと帰ってこられるような移動魔法とかないものか、空飛んだり転移したり」
意図せずそんなことを呟いていた。
既に試してるから魔法にそんなものはないのは知っている。
もしかしたらやり方が違うとか条件があったりするかもしれないけど。
習得条件が足りなくて覚えられていないスキルだってあるだろうし。
「空は飛べないけど、わたしとの契約で今は地脈移動ができるようになってるはずなの。 それを使えば街に帰ってくるのは簡単なの」
「え、なにそれ・・・・・・」
聞いたことのない単語がディアの口から出てきた。




