53 収穫したリンゴ
家に着いたとき、ディアはまだ外にいた。
「ディアただいま。 遅くなっちゃってごめんね」
声をかけると「おかえりなの」といいつつ飛びついてきた。
珍しくアグレッシブだ、どうしたんだろう?
「ご機嫌みたいだけど何かいいことあった?」
「あったの。 やっとリンゴが生ったの!」
「おお、やっとできたんだね。 おめでとうディア」
ディアを持ち上げて2人でしばらく喜んだあと、リンゴの木に向かう。
さっき家に向かってるときはリンゴが見えなかったけど、そんなに多くは生ってないのかな?
「これなの」
そういってディアが指さしたのは、大きな石の箱に入れてあるリンゴで、それがいくつもある。
もう収穫してたのか。
だから家に向かってる時に気が付かなかったのね。
それにしても結構な量を収穫できたみたいだ。
このままにしておけないのでとりあえず全部しまう。
「すごい量だね」
「ビックリするくらい多くのリンゴが生るの。 ママ、さっそく食べたいの」
「まだ食べてないの?」
「一緒に食べたかったからママが帰ってくるの待ってたの」
ホント可愛いなもう。
「それじゃあさっさと水撒きしてリンゴ食べようか」
「わかったの」
「あ、そうだ。 これも新しく育てたいんだけどできるかな」
水を撒きながらディアに大豆と稲を渡す。
「こっちの大豆は問題ないの。 ただこっちの稲は水稲だから水が大量に必要なの。 ママの負担が多くなっちゃうの」
精霊は大豆も稲も知ってるのか、というかスイトウって言うのかこの稲。
「大豆はまあいいとして、この稲はスイトウっていうの? 普通のと何が違うの?」
「普通というか沼とかの水気が多い場所で育てるのが水稲で、水はけのいい場所で育てるのが陸稲なの。 食べたことはないけど、どっちも硬いだけで特別美味しくはないみたいなの」
水の多い場所で育つか少ない場所で育つかって事か。
で、これは沼に生えてたほうだから水稲と。
なるほどなるほど。
「水は私がちゃんと用意するからこれも育てよう。 もしうまくいけば色々美味しい物が作れるから」
「そうなの?」
「あー、ディアが好きそうな甘いものはあまりないかも?」
ご飯を使ったお菓子といってもお煎餅くらいしか思いつかない。
お餅をお団子っぽくして甘いたれをかけるとか?
砂糖はあるし小豆があれば餡子とか作れるんだけど・・・・・・あ、枝豆があるからずんだは作れるかも。
「甘いものが一番好きだけど、ママの作るご飯も美味しいから好きなの。 だから甘くなくても美味しいなら食べたいの」
「そんなこと言われたら頑張るしかないね。 ディアが喜ぶ美味しい食べ物作るからね」
「今から楽しみなの」
笑顔のディアがフヨフヨ移動して使ってない畑に向かう。
どうしたんだろう?
何をするのかと思っていると大豆を撒いていた。
地面を操作できるから適当に撒いても好きな位置に種を移動できるんだろうけど、知らないと同じ場所に投げてるようにしか見えない。
というか渡したのは緑の枝豆だったのに撒いてるのは茶色い大豆んなんだけど・・・・・・相変わらずすごいな土の精霊。
「ママ、こっちに追加で水を撒いてほしいの」
「はいはい、任せて」
私が大豆を植えた場所に水を撒いていると、すでにディアが近くからいなくなっていた。
撒き終わってどこに行ったのかと探していると、道を挟んで反対側にいた。
道と言っても踏み固められて道のようになってるだけなんだけど。
それにしても何であんなところに?
「ディア、そんなところで何してる、の?」
ディアの方に近づいていくと、広い範囲を畝のような物で囲っていた。
これはもしかして水田を作っているのかな?
「水稲を植えるための場所なの。 あ、ママはここに入らない方がいいの。 この中は普通の土じゃなくて水分を含んだ泥状の土だから汚れちゃうの」
私の服は汚れないけど、ディアが気を使ってくれてるので畔の外から見守る。
畔での囲いが完成するとディアは戻って来た。
稲を育てた事なんてないと思うけど、どうやれば育つかはわかるのかな?
「ママ、今度はここに水を撒いてほしいの」
「撒くだけでいいの? 溜めなくていいの?」
「最初から水でいっぱいにすると、芽が出ても腐っちゃうの。 だからある程度育つまで溜めないの」
そうなんだ。
田植えって言うと苗を水張った田んぼに植えるイメージしかない。
ディアに言われた通りこっちにも水を撒くとさらに土を乗せていき、最後に何かを投げていた。
あれが稲かな?
「これで様子見ながらやるの」
「お疲れ様、それじゃあ家に入ろうか」
ディアを抱っこして家に入る。
家に入ると精霊4人がサトウキビの搾りかすを食べていた。
ほんとに好きだねそれ。
収穫量が多くなってからは当然サトウキビの量も増えてるので、食べ終わるまでに時間がかかる。
甘みのあるサトウキビの方がいいようで、それ以外の野菜などよりも優先して食べるから、想定より野菜の減りが少ないんだよね。
だから収納にたまっていく。
リンゴが収穫できるようになったし、そっちを食べるようになるかな?
お風呂と夕食を済ませた後、お待ちかねのリンゴタイムである。
皮と芯は切ってアップルティーの材料にしよう。
精霊用に小さく切ったリンゴと、私とディア用に切ったリンゴを用意してテーブルに持っていく。
「はい、みんなで育てたリンゴだよ」
精霊たちはみんな目を輝かせてリンゴを見ている。
そんなに楽しみだったのかな?
リンゴを一口食べた精霊たちは美味しかったのかはしゃぎ始めた。
ディアの方は目を閉じ幸せそうな表情で咀嚼している。
みんなの表情を眺めながら私も一口齧る。
・・・・・・うん、普通のリンゴだ。
この世界に来てから食べてたリンゴに比べれば確かに美味しい。
けど、元の世界のリンゴと比べるとそんなに大はしゃぎするほどではない気がする。
精霊の力や特別らしい私の魔力を使っても元の世界とそんなに変わらないということは、元の世界の食べ物の水準がいかに高いかがわかる。
私の特に反応のない表情を見てディアが心配そうにこっちを見ている。
「ママ、美味しくなかったの?」
「え? そんなことないよ。 この街で買って食べたリンゴに比べれば断然美味しいし」
「でも、あまり美味しそうじゃないの」
「あー、ごめんね。 美味しいのは本当だよ。 私のいた国で食べてたのとあまり変わらないなって思ってただけ」
「その国でもママがリンゴを育ててたの?」
「リンゴ以前に畑仕事自体したことなかったよ」
「ママと同じくらい質の良い魔力持ちが他にもいたなんてすごい国なの・・・・・・」
魔力も精霊の力も使ってないけどね。
農家の人たちと品質管理する人たちのおかげだと思う。
話していたらみんながリンゴを食べ終わっていたので、前回作って残っていたアップルティーを出してあげる。
これで最後だから新しく作らないと。
「リンゴの皮と芯で作った簡易アップルティーだよ」
精霊たち用に小さいカップも作ってあげる、ディアの前に出してあげるとそれをジーっと眺めている。
「どうしたの? 冷たい方がいい?」
「リンゴの捨てる部分で飲み物を作っちゃうなんてすごいの」
驚きながらも味わうように飲んでいるディアを見て、作りたい物があったことを思い出す。
「あ、そうだ。 飲み物で思い出した、リンゴが採れたら作りたかったものがあるんだった」
私は台所に行き、リンゴの皮と芯を厚めに切ってへたを取り、土魔法で作った少し大きめの容器を用意する。
そこへ皮と芯を大量に入れ、水魔法で水を入れていく。
淵いっぱいまで水を入れ、空気が入らないように蓋をする。
一応中が少しでも見えるように薄い蓋にはしてある。
うーん、見えなくはないけど・・・・・・ガラスが欲しい。
「まあいいや、これであとは発酵するまで放置でいいみたいだね」
「これは何を作ってるの? あとはっこうって何なの?」
菌云々の話をしてもたぶんわからないだろうし、何より私も詳しく知らない。
「発酵は・・・・・・そうねぇ・・・・・・時間をおいて変化した物?」
「腐らせた物?」
「それに近いかな。 私の国では時間がたって別の物に変わった場合、大雑把に分けて体に良い物が発酵で、悪い物が腐敗と呼んでたの」
「腐ってたと思ってても食べられるものがあるの?」
「パンと一緒に食べてたチーズだって発酵食品だよ」
「あのカビて腐ってる牛乳の?」
「だから発酵だってば。 でもチーズは食べられるし美味しいでしょ?」
「確かに美味しいの。 それじゃあリンゴもチーズみたいにはっこうさせて美味しくするの?」
「今回作る物は美味しいかどうかは微妙かも。 まあそれはできてからのお楽しみかな」
「そのはっこうが腐敗と同じ要領なら簡単にできるの」
「え、精霊ってそんなこともできるの?」
「できるの。 精霊の怒りを買った人間に罰を与えるために食べ物を腐らせたりもするの。 たまにいたずらで腐らせる精霊もいるの」
発酵が短時間でできるのはありがたい。
酵母の方はいいけどお酢の方は何か月もかかるみたいだし。
もしできるならお酢や酵母、お酒が作り放題という事になる。
それならリンゴの木をもっと増やしてもいいかもしれない。
精霊たちも気に入ってるみたいだし、おやつも兼ねられる。




