5 サクラの街案内
この世界に来て二日目の朝。
カウンターで洗面所の場所を聞いたら、お湯で濡らした布を配布してくれるという。
これはうれしいサービス。
朝食は昨日の夜と似たようなメニューだった。
朝からお肉が多くて気分的にちょっと重い。
生野菜や目玉焼きが欲しい。
食事を終えた私は、今日何しようか考えながら宿屋を出る。
するとサクラがいた。
「こんな朝早くにどうしたの?」
「ユリアちゃんの予定が無ければ街を案内しようかと思って。 聞きたいこともあるかもしれないし」
「いいの?」
「うん、約束したから。 それに時間が経ってからだと、聞きたいことも減って来ちゃうと思うし、教えられるのは今だけだから」
体の前で両手で握り拳を作り、やる気満々なサクラ。
気を使わせないためにと適当に言ったことだけど、そこまでまじめに考えてくれてたんだね。
でも、こちらとしてはすごく助かる。
「そういう事ならお願いしようかな」
「任せて!」
「まずはどんなお店があるか教えてもらえる?」
「うん」
サクラはまた私の手を引いて歩きだす。
サクラは手をつないで歩くのが好きみたいだね。
そして歩きながらサクラの説明が始まる。
まず、ここは「商店通り」と呼ばれていて、主に食料品や衣類や日用雑貨を売っているお店が多い場所。
収納スキルとお金があるので、必要そうな物はどんどん買っていく。
タオル用の布や毛布に木製の食器、椅子や机まで。
収納を隠さないことにしたので、目についたものはどんどん買って行く。
何も持ってなかったし仕方ないよね。
あー買い物楽しい!
服に興味はなかったけど、買い物自体は普通に好きだよ。
そして買い物していて気づいたんだけど、驚いたことに銀貨のさらに下があった。
昨日サクラが貰っていた茶色いコインだね。
あれが銅貨というらしく、銅貨100枚で銀貨1枚らしい。
つまり私は10億枚の銅貨を持ってることになる。
買い物した感じこの銅貨が最低額のようなので、銅貨が1円相当の価値なのかな?
でもそうなると宿屋1泊300円? 2食付きで?
かなり安いね。
銅貨がもうちょっと価値があるのかな?
他は・・・・・・食材は今のところ自分で料理する場所が無いのでスルーして、屋台の完成品を買っていく。
屋台で買い物をしていたらサクラのお腹が鳴ったので、串焼きとスープを買ってあげる。
最初は遠慮していたけど、空腹には勝てなかったようで喜んで食べてくれた。
椅子など用意されていないので基本立ち食いだ。
しかし、宿屋で食べた物と大差ない物だったので、私は少しがっかりした。
商店通りで買い物を終えた私達は、そのまま別の通りに行く。
ここも「商店通り」らしいけど、武器や防具、冒険に使う道具のお店が多く、この街では「冒険者通り」と呼ばれてるらしい。
とか言いながら冒険者通りに入ってすぐの所に本屋があった。
まだ冒険者については詳しくはないけど、冒険者に本が必要なんだろうか?
とりあえず何かいい物があるかもと思い、中に入ってみる。
サクラもこのお店に入るのは初めてみたいだ。
「いらっしゃい、欲しいものが決まってれば持ってくるよ」
腰の曲がったお婆ちゃんが入り口すぐのカウンターにいた。
欲しい本と言われても、どんな本があるのかわからない。
えっと・・・・・・魔物とかいるみたいだし、動物図鑑のような物とかあるのかな?
それと地図とかもあると便利かも。
あ、あとは魔法の本とか見たいね。
「えっと、魔物の本や地図。 あとは魔法の本とかがあれば欲しいですね」
「ちょいとまってな」
お婆ちゃんは見た目とは裏腹に、軽快な動きで本を探しに行く。
が、すぐに戻ってくる。
「はいよ、これが魔法の本でこっちが魔物の本。 で、地図はこれしかない。 詳細な地図は国家機密になってるから、どこに行ってもこれ以上の物は無いよ」
おばあちゃんが説明しながらカウンターに並べてくれたけど、私はその本を見て固まってしまった。
本と呼ぶにはあまりにもお粗末な紙の束だった。
表紙は動物の皮のような物を使っていて、背表紙部分は木の板になっていた。
本というより、資料をまとめたクリップボードに近い感じだろうか。
間に挟んである紙は、今まで見たこともないほどザラザラしていて、本当に紙なのかと疑ってしまうような物が上部を紐で縛ってあった。
「これが本なの?」
誰に言うでもなく思わず言葉に出てしまった。
「なんだ、本を見るのは初めてかい? 昔は魔物の皮なんかに文字を書いて丸めた物だったが、今は植物から作った紙を使った物を本と呼ぶんだよ」
「そう、ですか・・・・・・」
これは本当の事?
それとも無知な奴だと思われて騙されてる?
私はどうしようかと、サクラの方を見る。
「どうしたの?」
「いや、私の知ってる本とは結構違うなと思って」
「あー、わたしが小さい頃見たのはもっと質の悪い物だったから、ユリアちゃんの知ってる本もそれじゃないかな? これは結構いい紙が使われてるみたいだし、最近作られたものだと思うよ」
どうやら騙されているわけではなく、これがこの世界での高品質な紙で作った本のようだ。
というか、今も小さいサクラの小さい頃っていつの話?
「うーん、じゃあ全部ください」
「全部かい? 紙の本は高いんだから、全部買うと結構な金額になっちまうよ。 この中で一番必要な物を選んでちゃんと所持金と相談しな」
「あ、大丈夫です。 ちょっと物に驚いただけで、金額的には問題ないので」
このお婆ちゃんも騙しているようには見えないので、そのまま買うことにした。
私はお婆ちゃんにお金を渡して本?を受け取ると本屋を出る。
材質についてはちょっと気になったけど、これで魔法について調べられる。
本屋を出たあとは、少し歩いたところに武器屋があったので、今度は武器屋に入る。
今は素手なので、何かちょうどいい武器があればほしい。
お店に入ると、私より少し大きいくらいの筋肉質なおじさんがこちらに気付く。
体格より髭の方がすごい。
ファンタジーに出てくるドワーフのような人だ。
もしかして本当にドワーフだったりする?
「なんだ?」
私がおじさんをジーっと見ていると、眉を寄せて少し不機嫌そうな表情なる。
「あ、すみません。 武器を見せてもらおうと思って。 いいですか?」
「ここはおもちゃ屋じゃないぞ、子供が買うもんは置いてない」
女の子2人で来るような場所じゃないことは私でもわかるから、この対応もまあ仕方ない。
「自分に合う武器を探してるんです。 合うのがあれば買おうかと」
「なんだ本当に客だったのか。 ふむ、護身用の短剣か? 魔法使い用の杖はここにないぞ」
「護身用じゃなくてメインで使う武器が欲しいんですけど、扱いやすい武器なら何でもいいですね」
ゲームでは色々見たことがあるけど、リアルの武器については全く知らない。
知ってることと言えば、刃物は斬る角度などをちゃんとしないと、刃こぼれや折れることがあるっていうのを何かで読んだ・・・・・・ような気がする程度の知識である。
「扱いやすい物か・・・・・・嬢ちゃんみたいな小さくて力のないやつならメイスの細めなやつなんかどうだ? 普通は片手に持って盾なんかと一緒に使うが、これを両手で使えば嬢ちゃんでもそれなりの威力になるしな。 長い刃物系は剣術の心得が無いとうまく切れないし、すぐ刃がダメになる。 それに金属の大きい武器は、見た目以上に重いしな」
私のにわか知識も間違ってはいなかったみたいだ。
私はおすすめされたメイスを観察眼で見ていく。
どれも形状が違うだけで、全部材質は銅だった。
特に変わった効果などは無し。
ゲームみたいな炎属性とか攻撃力アップみたいなものはなかった。
というか鉄製の武器ってないのかな?
私は少しでも丈夫そうな、先端が細い板がつてるような奴じゃなく、比較的丸くなっていていかにも金属の塊って感じのメイスを選ぶ。
短くして少し太くしたバットみたいなやつ。
子供用の玩具にプラスチックでそんなバットがあった気がする。
「これ持ってみてもいいですか?」
「かまわんが、もっと小さい方がいいんじゃないか?」
私は片手で棚からメイスをとるが重くない。
普通に片手で振り回せそうだ。
見た目に反して軽く感じるのは、何かスキルの効果なのか、神様が作ったという私の体が怪力なのか。
まあとりあえずこれなら問題ないかな。
「これください」
「嬢ちゃん・・・・・・見た目によらず力がすごいんだな」
片手で持ってたのを見てたようで、驚きの表情で私を見ている。
おじさんからの視線が痛かったので、さっさとお金を払い、他の武器を眺めていたサクラを連れてお礼を言って足早にお店を出ていく。
この後どうしようかと思ったけど、日用品は買ったし、武器も買ったから戦うのにも生活にも困らない。
そして本を買った事を思い出し、さっそく読んでみたくなった。
という事で、帰るために元の商店通りまで戻ってきた。




