48 リーアの依頼、昼食後
どうやってリーアを元気づけようか考えていると、視線を感じた。
気になって振り返ると、遊んでいた子供たちが近くに来ていた。
何だろう?
「どうしたの? 私たちに何か用?」
威圧的にならないように笑顔で聞いてみる。
「えっと・・・・・・」
子供たちは5人で5~8歳くらいだろうか、孤児院の小さい子たちと同じくらいかな。
一番年上らしき女の子が遠慮がちに答えてくれる。
「すごく、いい匂いがしたから。 何を食べてるのかなって」
途中からどんどん俯きがちになり声も小さくなっていく。
あー、食べ物の匂いにつられてきたのね。
なら軽く用意してあげようか、自分たちの分はほとんど食べちゃったし。
結構焼いたはずのパンも結局リーアがほとんど食べてしまった。
収納からパンを取り出し5人分切ってジャムを塗って焼く。
ロードのお肉は量が多いわけではないので、パンで我慢してもらおう。
焼いたパンを横からフォークを刺し持ちやすくする。
さっきまで遊んでて手も汚れてるだろうし。
「はい、ジャムパンだよ。 熱いから冷ましながら食べてね」
「いいの?」
「いいよ、1人1つずつね」
この子たちの昼食が終わった後なのかこれからなのかわからないけど、あまりいっぱい食べさせるわけにはいかないからね。
あ、人数分用意するからパンにしたけど、お肉も一口サイズに切り分ければそこまで焼く必要はなかったか。
「ありがとう!」
一番上のお姉さんがお礼を言って受け取ると、他の子たちも続いて受け取ってくれる。
最初はおそるおそる食べていたけど、美味しい物だとわかって笑顔になっていく。
「パンの上に乗ってたのは何? すごくおいしかった」
「それはリンゴだよ」
「リンゴってあの高い果物?」
確かに食べ物としてはちょっと高い気がするけど、そこまでかな?
わからないのでリーアに聞いてみる。
「そんなに高いの?」
「特別高いわけではありませんが、リンゴを買うくらいならその分お肉を多めに買うと思います。 少なくともユリアさんのように頻繁に食べる物ではありませんね。 果物はたまに食べる贅沢なものですよ」
いや、精霊たちにあげることは多いけど、自分ではそんなに食べてない。
パンは基本バターかチーズだし、たまに食べたくなった時にリンゴジャムを使ったりカットしたリンゴを食べるくらいだ。
「前に孤児院で高いようなことは聞いた気がするけど、そこまで気にしてなかったよ。 もうすぐうちでもリンゴ採れるし」
「個人で作るには広い畑だとは思ってましたが・・・・・・ああ、あの奥にあった木はリンゴの木なんですね。 ただの木だと思ってました。 え、という事はユリアさんは美味しいリンゴが食べ放題ですか?」
「そんなにたくさん食べるかわからないけど、リンゴはいろいろ作れるからそっちが楽しみかな」
リンゴ酒やリンゴ酢、リンゴ酵母ってのも聞いたことがある。
作り方は知らないけど観察眼で調べれば出るでしょ。
「そうなんですか? リンゴはそのまま食べる物だと思ってました。 確かにジャムは美味しくて驚きましたけど」
「果汁やお酒やお酢に酵母。 ジャムはもう作ったからあとは焼きリンゴにアップルパイ。 りんご飴も作れるかもね。 あと熱い時はシャーベットもいいね」
「リンゴってそんなにいろいろ作れるんですか。 それにも驚きですがそれ以上にユリアさんの知識量に驚きです」
「お姉ちゃんは料理の人?」
リーアとの会話を聞いてた女の子が質問してくるが、別に料理が得意なわけではないし特別好きなわけでもない。
元の世界では面倒だったからほとんど作ったこともないし。
「知識が多少あるだけで料理が得意なわけではないかな。 私のいた国では私以上に料理できる人なんて数えきれないほどいるし。 私は普通だと思うよ」
こっちに来てから作った物は観察眼で知った物が多いし。
「ユリアさんほど料理ができる人がそんなにいっぱいいるなんて羨ましい国です。 うちに1人くらい来てくれないでしょうか」
「いたとしても遠すぎて連れてくるのは無理かな」
そもそも世界が違う。
「あ、ずいぶん話し込んじゃったけど、おじさん待たせてたんだった」
「そういえばそうでした。 馬の餌を探しに行くんでしたね」
「それじゃあ私たちはもう行くね。 そうだ、よかったらこれどうぞ、家で食べてね」
子供たちにリンゴを1個ずつあげる。
「リンゴまでもらっていいの?」
「これはお店で買ったものだけど、うちでも育ててるから遠慮なくどうぞ」
出したものを収納している間、横で子供たちがぴょんぴょんしながら喜んでいる。
喜ぶ子供は見ててこっちも嬉しくなる。
その様子を見ていると、在庫処分とは口が裂けても言えないね。
収納し終わって立ち去ろうとした時、こちらに向かって大きな声を出す人がいた。
「あなたたち、こんな所で何してるの!」
20代半ばくらいの女性がこちらに近づいてくる。
何か怒ってる?
「あ、お母さん。 このお姉ちゃんにリンゴ貰ったの」
一番大きい女の子のお母さんのようだ。
「リンゴを? 本当貰ってよろしいのでしょうか?」
女の子の話を聞いた後こちらに確認してくる。
女性の口調が丁寧になったけど怒ってるわけではない?
よくわらない状況。
「リンゴをあげたのは本当ですよ」
「ありがとうございます。 その、娘が何か失礼なことはしませんでしたか?」
「特に何もないと思いますけど?」
「それを聞いて安心しました。 貴族様に失礼があっては大変ですので」
あーなるほど、私たちを貴族だと思って子供たちが近くにいたから心配してきたのか。
いや、リーアは貴族だけど。
「私は貴族ではありませんよ。 ただの冒険者です。 こっちは友達のリーア、あー、えーっと・・・・・・フリージア、だっけ?」
「ユリアさん・・・・・・わたしの名前を忘れてたんですか?」
「いや、そもそも初めて会った時からリーアって呼んでたから本名はほとんど聞いてないんだよね。 それでも覚えてたほうがすごくない?」
「確かにすごいかもしれませんが、忘れられていた身としては複雑です。 いえ、ちょっと待ってください、ギルドでもさっきの馬の飼育してる方もわたしの名前言ってましたよね?」
リーアに言われて視線を逸らす。
リーアはリーアだから本名で呼ばれていても頭に入ってこない。
私はそこまで記憶力も良くないんだから。
「そうでしたか、勘違いしてしまいすみません、でし、た?」
そんなやり取りを見て微笑んでいたお母さんの表情が変わった。
「どうしました?」
「フリージアさんて、もしかして領主様の?」
「えっと、まあそうですね。 領主の娘のフリージアです」
リーアは少しためらいながら正直に答える。
貴族だって知ったらまたお母さんの胃にダメージが行くんじゃないかな?
お母さんは「失礼しました!」と勢いよく頭を下げていて、子供の頭も抑えて頭を下げさせる。
何か助け舟を出してあげないと・・・・・・
「リーアは貴族ですが子供の相手をしてたのは私ですので、リーアの事は気にしなくても大丈夫ですよ」
「しかし・・・・・・」
「わたしはすぐ怒る人間だと思われているのでしょうか。 ちょっとショックですね・・・・・・」
「そ、そのようなことは決して・・・・・・」
お母さんの態度にリーアが悲しそうな表情になってしまった。
それを見てあたふたするお母さん。
どうしようこの空気・・・・・・とりあえずここから離れるか。
「それじゃあ私たちは予定がありますので行きますね。 バイバイ」
お母さんに別れを告げ、子供たちに手を振ってリーアの手を引きながら馬の飼育場所まで移動する。
移動中リーアはずっと無言だった。
ちょっとショックと言っていたけど結構ショックだったみたいだ。
飼育場所にある家に着き、中に入ると、おじさんが鎌を腰に差して待機していた。
「お待たせしました。 広場で子供たちと話してたら遅くなってしまいまして」
「いえいえ、暗くなるまでに森を出られればいいので、時間は大丈夫ですよ。 では行きましょうか」
おじさんは家の外に出て、家の裏に置いてあったリアカーを引っ張って歩きだす。
私とリーアはその後をついていく。
「徒歩で30分ほどですが大丈夫でしょうか?」
「私は大丈夫ですよ、リーアは大丈夫? また運んであげようか?」
「だ、大丈夫です、それくらい問題ありません」
落ち込んでいたリーアが慌てて手と首を振る。
孤児院まで普通に歩いてくるし、体力はあるのかもしれない。
「では、このまま行きますね。 もしつらくなったら荷車に乗ってください。 結構揺れますし乗り心地もよくはないですが、足は楽だと思いますので」
「ありがとうございます」
村を出て東に向かう。
その間にリーアの元気を取り戻したい。
何を話せばいいだろうか。
冒険者の話?討伐以外何もしてない気がする。
採集くらい?
そんなことを考えていたらリーアの方から話しかけてきた。
「ユリアさん、わたしはそんなに怖い存在なのでしょうか?」
「うーん・・・・・・私もよくわかってないけど、貴族相手ならあのお母さんの反応は普通なんじゃないかな? この前王様と謁見したときも、私に失礼だなんだと文句言ってくるうるさい貴族がいたし。 そういう貴族が普通にいるなら、刺激しないように接するのも仕方ないと思う」
「確かにそうかもしれませんが、わたしはそんなことしませんよ?」
「私はリーアがそんなことしないって知ってるよ。 モウイの街の人も知ってると思う。 けどあまり来ない村の人はたとえ領主の娘が優しいと聞いてても、どう優しいのかわからないでしょ」
「そういうものでしょうか・・・・・・」
「そうそう、ああいうときは笑顔で『大丈夫ですよ』とか言ってやり過ごせばいいんだよ。 悩むのはその後でいいんだから。 そうすれば第一印象が優しい領主の娘になるし」
「なるほど! 助言ありがとうございます。 次からは気を付けますね」
「あのお母さんの反応が普通だと思って、気にしないように笑顔で振るまえれば立派な貴族なんじゃない?」
「はい! わたしも頑張ります!」
リーアが元気になってくれたみたいでよかった。




