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44 精霊契約

「ママ、提案があるの」



 少し悩んでいたディアがこちらを見る。



「揚げパン食べたい?」

「違うの。 あ、揚げパンは食べてみたいけど、その事じゃないの。 精霊を雇って農地拡張しようという提案なの」

「他の精霊を雇うって、そんなことできるの?」

「できるの。 精霊も報酬があれば手伝ってくれるの。 畑仕事から収穫した物の加工まで、難しい事じゃなければできるの」

「うーん、今の所そんなに大量に作っても消費するのが難しくなっちゃいそうだしな・・・・・・収納しておけば期限は問題ないけど、どんどん貯まっていく一方だし」



 現状私とディアの2人なら十分すぎる収穫速度と量だ。

 今後種類を増やすなら、ディアの負担軽減のために収穫のお手伝いはいてもいいかもしれないけど。


 あ、でも加工できるなら収穫した物をそのまま加工してもらえたりするかも?



「もし雇うとして、報酬って何をあげればいいの? お金なんて使わないよね?」

「ママなら体を維持するための魔力を与えればそれが報酬になるの。 あとは果物とかも喜ぶと思うの。 それは精霊ごとに違うから契約時に決めるの」



 畑の物を現物支給でもいいのか。

 雇うのはいいけど大量に収穫してどうする?

 ナノハちゃんのお店に卸す?

 正直私が今後何するかもわからない状態で長期契約はしたくないんだよね。

 短期でもいいというなら問題ないんだけど。


 カーミトの街だって何とかしないといけないし、復興を手伝うとなるとここにいる時間も減る。

 サクラがカーミトの街に引っ越すなら私も引っ越すかもしれないし。

 土地を頼んでくれたリーアには悪いけど。


 精霊がうまく加工できるのかも気になるし、うまくできるなら私がやる必要がなくなる。

 野菜も果物もどうせ余るだろうから、精霊にあげて代わりに砂糖や油の加工をしてくれるならむしろあり?



「試しに雇ってみようか。 私たちの必要分だけ収穫する量を決めて、それ以外で野菜や果物から精霊が欲しいものをあげるって事でどうかな?」

「そんなにあげていいの? 満腹とかないからあげたらあげただけ食べちゃうの」

「それで頑張ってくれるならずっと収納してるより有効的でしょ」

「わかったの、ママがそれでいいならその条件で雇うの。 私は畑の補佐をしてほしけど、ママは何をしてほしいの?」

「さっきの砂糖や油を作れるならお願いしたいかな。 無理そうならディアの補佐だけでいいよ」

「仕事内容は砂糖と油を作るのと、畑の手伝い。 これで雇っていいの?」

「いいよ。 魔力をあげるってどうすればいいの?」

「契約すれば解除するまで自動で魔力を与えるの。 だから意識して魔力を与えないようにする、とかしなければ、特にすることはないの」

「わかった、ならお願い」

「じゃあ呼びかけるの」



 ディアが目を閉じて黙る。

 これで意思疎通してるの?って思ってたら、すぐ目を開いた。



「条件が良すぎて応募殺到だったの。 その中でも比較的まじめで力の強い精霊を選んだの」

「あの短い間にそんなことまでしてたんだ・・・・・・選ばれなかった子たちにも今後追加で雇うかもって伝えてくれる? せっかく来てくれたのにかわいそうだし」

「言っておくの」



 今はそこまで野菜も種類が多くないけど、いずれはもっといろんな野菜や果物を栽培したい。

 そうなれば人手も必要になるし、加工する物も増えるかもしれない。

 なら早めに雇っても問題ないよね。


 あれ、うちがどんどん農家になってきてる気がする・・・・・・



 自分の今の状況に悩んでいると、目の前に小さな子供4人が浮いていた。

 見た目で属性がわかるような髪をしている。

 火のように揺らめく赤とオレンジの髪の子。

 流れる水のような青く長い髪の子。

 不思議な靡き方をするウェーブがかった緑髪の子。

 ディアと同じような茶髪のくせっ毛の子。



「この子たちが雇った子たち?」

「そうなの、弱い精霊は喋れないけど言葉はちゃんと通じるの。 精霊からの意思疎通は私経由でするの」



 あれ、さっき強い精霊って言ってなかった?

 応募があった中でって事かな?

 でも応募殺到だったって言ってたし・・・・・・

 もしかして、ディアよりも弱いって意味?


 そんな事を考えながらディアの方を見ていると、この子たちの名前を考えてなかったことに気が付く。



「この子たちにも名前を付けたほうがいいんだよね?」

「逆なの、付けちゃダメなの。 この子たちはお手伝いなの。 精霊と多く契約できるのは強さの象徴だけど、その分体への負担が大きくなっちゃうの。 特にママは魔力の強い存在だから、名前を付けたらみんなが喜んで『魂の契約』しちゃうの。今後も増やす可能性があるならやめておいた方がいの」



 魂の契約ってディアがした契約だっけ?

 違いがよくわからないけど、ディアがやめた方がいいと言うならやめておこう。



「そうなんだ。 じゃあ名前を付けるのはちゃんと考えてからにするね」

「それじゃあこの子たちに指示を出してほしいの。 畑の事はわたしが指示できるけど加工の指示は出せないの」

「うん、わかった」



 精霊4人に挨拶した後、私は4人を連れて家に入る。

 コロッケと作っていた道具を全部しまい、サトウキビから砂糖を作る工程を教える。

 まだ菜種はないから油は今度教えることにする。


 教えた後、持ってるサトウキビを渡すと、さっそく作り始める。

 まず風の精霊が周りの皮を切り落として細かく切る。

 さすが風の精霊、切ったりするのが早い。

 私も包丁じゃなくて風魔法で切れば良かったんだね。

 今更だけど。


 次は土の精霊が細かくしたサトウキビを土魔法で先端が網状になっている筒と棒を作って搾っていく。

 私のハンドジューサータイプではなく、ところてんの様な方法で圧縮している。

 というか私も土魔法で圧縮すればよかったのか。

 それなら身体強化要らなかったし。


 最後は漉して加熱。

 一番時間がかかる作業だ。 

 しかし、水の精霊が水分を含め余計な物を取り除き、白い砂糖を作ってしまった。

 水の精霊は水の成分を一部だけ取り出せる?

 すごい能力だ、頑張って湯煎してたのは何だったのか・・・・・・


 水の精霊は白い砂糖を見て、首を傾げながら私に見せてくる。

 私はそれを少しつまんでなめてみる。

 あ、普通の砂糖だ。

 黒糖と違った純粋な甘さ。



「すごいね、白い砂糖を作れるとは思わなかったよ。 ありがとう」



 精霊たちの頭を撫でてあげるが、出番のなかった火の精霊が撫でられながら複雑そうな表情をしてる。

 まあ何もしてないからね。



「油の方では火の力をけっこう使うと思うから、その時に頑張ってね。 砂糖の時は材料のサトウキビや細かくしたサトウキビ、完成した砂糖を運ぶ役をお願いね」



 火の精霊にも役割を与え、サトウキビを端の方に積んでおく。

 さっきの速度で作ると、すぐに全部なくなりそうだ。


 完成した砂糖を入れる枡もいくつか作り、置いておく。

 サイズは縦横15cm程度で、高さ10cmほどの物。

 細かい規格とか知らないけど、この世界にはないだろうから適当でいいでしょ。


 そのまま眺めていると、15分もしないで用意した桝5個中4個半分砂糖ができた。

 私のあの苦労は何だったのか・・・・・・

 収穫したあと作る時は、木箱か樽を用意しておいた方がいいかな。



「みんなお疲れ様、凄く早いね。 片付けしちゃうからちょっと待っててね」



 砂糖をしまい、サトウキビの切った皮部分と搾りかすを小さめの木箱に入れる。



「すごい量だね・・・・・・どうしようかこれ」



 この搾りかすは肥料にできるのかな?

 ディアに聞いてみるか。


 搾りかすをどうするか考えていると、火の精霊が何か伝えようとジェスチャーで意思表示してくる。



「えっと、このサトウキビを・・・・・・食べる? これを食べたいって事?」



 火の精霊が頷く。

 これを食べるのか・・・・・・精霊なら問題ないのかな?



「食べるのはいいけど大丈夫?」



 再び頷く、本人が大丈夫と言うならあげてみよう。



「大丈夫なら食べてもいいよ」



 私が許可すると他の精霊たちもサトウキビの搾りかすを食べ始める。

 美味しそうに食べてるけど本当に大丈夫だろうか・・・・・・搾りかすをなめたり口に入れて味を吸うとかでなく本当に食べている。


 しばらく眺めていたけど、特に問題なく食べ続ける。

 土の精霊は搾ったカスではなく、最初に切った皮部分を食べていた。

 硬いだろうし青臭くはないんだろうか・・・・・・



「美味しい?」



 聞いてみるとみんな笑顔で頷く。

 そうか・・・・・・美味しいならいいか。



「そんなに美味しいなら今度からも砂糖作り終わったら残りは食べていいからね」



 私としても片付ける手間も省けるし、精霊たちは大喜びだ。

 でもこれが報酬でいいんだろうか?

 一口が小さいし咀嚼時間が長いから、消費するのにかなり時間がかかると思う。

 今回の分なら夜までかからないだろうけど、収穫した後の量だと一日中食べるだけの量になるんじゃない?

 ディアに聞いてみようか。


 食べてる精霊たちを家に残して畑に行く。



「ちょっといい?」

「大丈夫なの」



 声をかけると近づいてきたので、いつも通りしゃがんで精霊たちの事を話す。



「精霊たちに砂糖を作ってもらったんだけど精霊の力ってすごいね。 私が長い時間かけて少しの砂糖作ったのに、それより短い時間で残りを全部砂糖にしちゃったよ。 それで報酬なんだけど、サトウキビの搾りかすが欲しいっていうからあげたけど、あれでいいの? まだ果物は育ってないから、手持ちの買ってきた果物あげようと思ってたんだけど」

「問題ないの。 人間にとって食べられるかどうかは精霊には関係ないの。 体を得た精霊は美味しければ何でも食べるの。 本人たちがそれで納得してるならそれでいいの」

「うーん、仕事してもらった後に生ごみ食べさせてるみたいで、ちょっと複雑な気持ちなんだけど・・・・・・」

「それなら野菜や果物も少しあげればいいの。 ママは正規の報酬を与えられて安心、精霊は追加報酬で嬉しいの」

「じゃあサトウキビ食べ終わったら野菜や果物も渡すようにするね。 今後の収穫量次第では食べきれるのかわからないけど。 相談に乗ってくれてありがとう」



 お礼を言って頭を撫でるが、ディアの表情が少し暗い。

 何かあったのかな?

 畑失敗したとか?



「どうしたの? 何か悩み?」

「・・・・・・実は、ママに内緒にしてたことがあるの」



 おっと、これは重い話?

 私に解決できるだろうか。



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