41 マリー襲来2
「どうしたの? 大丈夫?」
テーブルに突っ伏しているマリーに声をかける。
「落ち着いたらお腹空いたわ」
「あ、お腹空いただけなのね。 じゃあ何か作るからちょっと待ってね」
「チーズパンをお願い。 今まで食べたことのない美味しいパンだって聞いたわ」
「え? 誰から聞いたのそんなこと」
「え、い、妹よ」
まてまて、私が王都でチーズパンを食べさせたのは王様と宰相とお姫様と隊長さんだ。
その中でこの子より小さい女の子はお姫様のデイジーしかいない。
そうなるとこの子はお姫様という事になる。
え、お姫様が家出とか騎士たちが全力で捜索するレベルでしょ。
私何も言われないよね?
大丈夫だよね?
「妹・・・・・・か。 そうなるとあなたは王女様って事かな? ね、アマリリス」
「な、何で名前知ってるのよ! もしかして私が王女だって知ってて知らないふりしてたの!?」
なぜか怒り出した。
そんなに怒らなくてもいいでしょ。
「あなたが王女だってことは知らなかったよ。 自分で全部喋ったんじゃない。 王都に住んでること、妹のデイジーからチーズパンの事を聞いたこと。 私は孤児院の子以外にチーズパンを食べさせた女の子はデイジーだけだもの」
「・・・・・・」
「それじゃあ夕食はチーズパンでいいのね」
「怒らないの・・・・・・」
「何に?」
「嘘ついてここに来たこと」
「別に怒る事でもないでしょ。 妹の知り合いに美味しいパンを作る人がいるから食べに来ただけでしょ? 王様たちの了承得てるなら私から言うことはないし。 本当に家出したなら怒るのは王様の役目で、私はあなたを引き渡すだけ」
「お父様にはちゃんと言ってあるわ。 だからすぐに行って帰って来られるように、一番速い馬を借りてきたんだもの」
私が王都に行ってデイジーにパンを食べさせたのが3日前の午前中。
速い馬がどれくらい速いのか知らないけど、速い馬車で3日の距離を今日入れて3日程度で来たという事は、当日か、遅くても翌日にはこっちに向かったって事になる。
そこまでするほど気になるのかな?
あ、でもデイジーは食べるの好きそうだったし、その姉も同じなのかもしれない。
「ずいぶん来るのが早いと思ったら馬に乗ってきたのね。 まあ許可もらってるならいいよ、遠慮なく食べて泊まっていって」
「ありがとう」
デイジーが食べてたチーズパンとジャムパン、それだけだと寂しいのでキャベツ、キュウリ、うちで採れたコーンに王都で買ってきたトマトを使ってサラダも付ける。
「本当にいい匂いのするパンね。 いただくわ・・・・・・あっつ! 何これ熱すぎでしょ!」
妹と違って熱いのはだめみたいだ。
王様はチーズパンは大丈夫だったみたいだから、王様より熱いのだめみたいだね。
いや、王様の時は温めただけで出来たてではなかったかな。
「妹はもっと熱いジャムパンもそのまま食べてたけど、お姉ちゃんの方は熱いのだめなのね」
「私は家族で一番熱いのが苦手なのよ。 妹はどんなに熱い物でも平気で食べるわ。 でもあの子は食べることに興味が無いのよ・・・・・・」
「え、私が初めて会った時は部屋の外から匂いを嗅ぎつけて謁見の間に飛び込んできたけど?」
私が初めて会った時は「食べるの好きなんだな」という印象だった。
謁見の間の扉は結構厚かったけど、その扉の外から匂いを嗅ぎつけてきたし。
いや、それは好きとはちょっと違う気もするけど。
でもあの食べ物に目がない感じは食べるのが好きなんだと思うよね?
「デイジーは何を食べてもおいしいとは言わないわ。 特に感想もなく必要だから食べる、そんな子だったのよ。 だから私はお忍びで屋台の食べ物をデイジーと一緒に食べてたの。 デイジーが好きなものが見つかるかもしれないと思って」
わがまま王女かと思ってたけど、優しいお姉ちゃんじゃないか。
と言っても屋台で売ってる物なんてお肉の種類が違ったり、スープの材料が違うくらいでほとんど同じだ。
季節で野菜や果物が多少変わる程度かな?
それに野菜は生野菜のサラダは売ってないし、パンだって大体堅いパンだ。
まあ冷やす物が無ければ生野菜は出せないよね。
「それと、お城で出る料理は熱い物ってないのよ。 万が一にも火傷したら困るからって。 だから他の人は知らないと思うけど、屋台で食べてるときもデイジーはアツアツのスープだって冷まさずそのまま食べてたわ。 それでも屋台巡りに誘った私にお礼は言ってくれるけど、どれもおいしいとは言わなかったわ」
話しながらうつむいてしまったマリー。
そのまま眺めていると、急に顔を上げた。
「それなのに数日前、急に美味しいパンを食べたって嬉しそうに話してくれたのよ。 何を食べてもおいしいと言わなかったデイジーが。 私はあなたに嫉妬したわ。 今までいろいろな物を食べさせてあげたけど、一度も聞けなかった美味しいって言葉をあなたは簡単に引き出してしまった。 でも、嫉妬よりもどれほど美味しい物なのかが気になったの。 あの妹が絶賛するほどの食べ物だもの。 それでお父様にお願いしてここへ来たのよ」
確かにこの国は味が薄いというかシンプルだ。
まずくはないけどどれも特別美味しいわけではない。
それはお城でもあまり変わらないのかな?
「なるほどね。 それならちゃんと食べて感想聞かせてほしいね。 あなたにとっても美味しいかどうか」
「そうね、そのために来たんだもの。 ちょうどよく冷めてきたし頂くわ」
そう言って食べ始めるマリーに合わせて私も食べ始める。
ディアは話を聞いてなかったのかもうほとんど食べ終わっていた。
「本当に美味しいわね。 これがカビで作ったっていうチーズと、あの悪魔の野菜と言われたジャガイモなのね。 そしてこっちがリンゴのジャム・・・・・・普通にリンゴを食べるより味が濃くて確かに美味しいわね」
パンは気に入ってもらえたようだ。
これで満足してくれたかな?
「この唐黍、今まで食べてた物より甘くて瑞々しいわね。 どこで買ったの?」
「この唐黍はうちで育てた物だよ」
「さっきの畑で作ったの!? こんなに高品質な物を作れるなんて・・・・・・あなたは農家でも料理人でも生きていけそうね。 うちで栽培と料理をしない? お父様に頼んで最大級の待遇をしてもらうわよ?」
「私はここでのんびり自由に生きると決めてるから、どこかに仕える気はないの」
「そうなの? 残念ね・・・・・・」
会った時の強引さならもっと食い下がってくるかと思ったけど、意外とあっさり諦めてくれた。
「たまにでいいなら王都まで遊びに行くよ。 食べたい物があったら作ってあげるし」
「本当!?」
「王都のお店を見て回りたいから王都には行くつもりだし。 この前行った時は急いで帰って来ちゃったから武器屋とかも見れてないしね」
「武器屋なんて何しに行くのよ。 もしかして武器を眺めたりするのが好きな人?」
「私は冒険者だよ? 壊れない丈夫な武器が欲しいの。 この前魔物に壊されちゃったから」
「え、私とそんなに変わらない見た目なのに冒険者してるの? 危ないからやめなさい。 そんなことしなくても、王都に住めばお城にいなくても私が一生面倒見るわよ?」
「私はこう見えてもランクBの冒険者だからね。 心配はご無用だよ」
言っても信じないだろうからギルドカードを見せる。
「13歳でランクBっておかしくない!? Bって凄く強い人なんでしょ? その中から優秀な冒険者を国が選んでAにするって聞いたけど・・・・・・」
「ねー、おかしいよね。 私依頼なんてほとんど受けてないのに。 出会った魔物をたまたま倒しただけでBになっちゃったもの」
「いったい何を倒したら13歳でBまで行くのよ・・・・・・」
「えーと、最初は森に行ったときに遭遇したキラービーだったかな? あ、その前にポイズンキャタピラー倒したか。 その次がジャガイモ買いに行ったらたまたま出会ったオークロードとオーク53体の集団?部隊? 後は数日前森でフォレストタイガーが出たから倒してほしいってギルドに言われて倒してきたね」
「・・・・・・」
マリーはテーブルに肘をつき頭を抱えてしまった。
どうしたんだろう?
「それは本当にあなたが倒したの? 支援してたとかではなく?」
「支援も何も1人だったからね。 最初のポイズンキャタピラーの時はランクGの子と一緒だったけど」
「何でランクGと一緒にポイズンキャタピラーと戦ってるの!? おかしいでしょう!」
「いやいや、別に倒しに行ったんじゃなくて、近くの森に薬草採取しに行ったら遭遇したんだよ。 当時私はランクFで初めての依頼だったし」
「薬草採集するような場所でそんな危ないのがいるわけないでしょ! どれだけ奥に行ったのよ」
このお姫様は魔物や冒険者に詳しいね。
そういう勉強もあったりするのかな?
「本当に森の入り口にいたんだよ。 ギルドでも問題になって森が一時立ち入り禁止になったほどだし。 疑うならこの街のギルマスって人かスズランていう受付嬢に聞けばいいよ」
「Bランクなのは事実だから信じるわ。 でもそれほどの冒険者ならお父様から声がかかるんじゃない? 地位も名誉もお金も手に入るわよ? 街や国を護れば英雄として持て囃されることだってあるだろうし」
「ギルマスさんには言ったけどまったくもって興味ない。 私は誰かの下につく気はないし、もししつこく国が勧誘してくるならこの国から出ていくつもり」
マリーの話に真剣な表情で答えると、マリーはため息をつく。
「はぁ、そこまでの覚悟があるなら私は何も言わないわ。 お父様がその話をしてたらダメだと釘を刺しておいてあげる」
「いいの?」
「デイジーのためでもあるからね。 これからも機会があれば美味しい食べ物持って来てちょうだい」
「わかった。 マリーの分も一緒に持っていくよ。 そういえば名前はマリーでいいの? 偽名しょ?」
「偽名じゃないわ、家族に呼ばれてる愛称よ。 だから友好の証としてそのままマリーでいいわ」
それを咄嗟に使ったのか・・・・・・
「じゃあこれからもよろしくねマリー。 そういえばこっちも自己紹介してなかったね。 私はユリア、この子は私が育てることになったデアソリット」
「妹とかではなかったのね。 似てないとは思ってたけど」
「私が母親としてこの子を育ててるの」
「なるほど、それじゃあ私はお邪魔だったわけね」
「なんで?」
「その子私を歓迎してないどころか、お母さんを取られまいと私を敵視してるし」
「そこまでわかるんだ。 結構見てるんだね、マリーは」
「当り前よ、王族や貴族は他人の視線には敏感なんだから」
「でも大丈夫。 マリーがいる間は、街の外に行かないでこの子のそばにいると約束して納得してもらったから」
「・・・・・・そういう事にしておくわ。 じゃあお邪魔虫はさっさと寝ようかしらね。 部屋はある?」
「二階上がってすぐの部屋が私たちの部屋だから、奥の部屋を使って。 あ、ベッドを用意するね」
二階へ行き、マリーの使う部屋にベッドなどを置いていく。
収納に少し驚いていたけど、特に何も言ってこなかった。
一階に戻りしばらく2人でのんびりした後私たちも寝ることにした。
あ、結局油作ってないじゃん。




