39 討伐報告
「こんばんは」
「こんばんはユリアさん。 今日はどうしました?」
「フォレストタイガーを倒してきたので依頼達成報告に」
「えー! 昨日の夜お願いしたのにもう行ってきたんですか!?」
スズランさんの大声でギルド内が静まり返る。
「王都から帰って来たばかりで特にやること決めてませんでしたからね。 外に出るついでに菜の花も採集してましたけど」
「菜の花を摘んできたんですか? ユリアさんも女の子ですね」
微笑みながら言われるけど、油用に摘んできただけだから、スズランさんの想像してる用途には使わないと思う。
あ、でも畑に植えてれば花畑になるのか。
収穫されるけど。
「それで、フォレストタイガーは裏に持っていけばいいですか?」
「はい、お願いします。 確認のためギルマスにも立ち会ってもらうために呼んできます。 なのでユリアさんはそのまま解体所へ向かってください」
「わかりました」
ギルドから出ようと振り返ると、そこにいた冒険者みんながこっちを見ていた。
私が睨むとみんな目をそらしてひそひそと話し始める。
そんな冒険者たちを無視してギルドを出て裏に回る。
が、なぜか野次馬冒険者が何人かついてくる。
別にみられて困るものでもないし、そのまま解体所に入って行く。
「おう、来たか。 台に乗るなら台に、乗らないならその辺の好きな場所に出してくれ」
台は大きいのと小さいのとあり、大きい方の台なら乗りそうだったのでそっちに乗せる。
大きいと言ってもオークロードほどではないし、手足や尻尾が多少はみ出るくらい問題ないでしょ。
比べる対象が縦にも横にも大きすぎるけど。
「こんな大きなタイガー種が森にいたのか・・・・・・」
ギルマスさんが驚いている。
他を見たことないけど結構な大きさみたいだ。
「スズランさんから聞いてた通り木を使っての移動は速かったですね。 目で追えませんでした」
「そんなのどうやって倒したんだ?」
「私防御には自信があるんですよ。 なので防いで反撃ですね。 あとは木が鬱陶しかったので周りの木は風魔法で切り倒しました」
「そういえばオークロードの攻撃を防いでたんだっけか・・・・・・ほんと魔法使いとは思えんな。 そういえば何で強力な魔法が複数使えるのに、上級じゃなくて普通の魔法使いなんだ? 俺が知ってるだけでも3つ使えるみたいだが」
前回オークロードの時に氷魔法の事は話してるし、治療ができる事も知られてるので光魔法の事も知っている。
そして今回風魔法で木を切ったことを知ったから3つ以上になるんだね。
「新人が上級なんて名乗るのも変かな?って思って魔法使いで登録したんです。 そういえばランク上げる時にしか変えられないって言われましたけど、もうBなので変える機会がないですね。 A以上になる気ないですし」
「新人詐欺すぎるな・・・・・・まだギルドに入って3~4週間くらいか?」
この世界の1週間は6日なので18~24日。
もうそんなに経ったんだ。
「そうですね。 最初はサクラと一緒に任務受けるのと身分証目的で登録しただけでしたけど」
「まあどんな理由でも優秀な冒険者がいてくれるなら構わん。 よし、魔物は確認したから受付で報酬を受け取ってくれ。 今回はまた魔石だけ持ってくか? 毛皮や肉はどうする?」
「魔石は記念に欲しいですね。 美味しいならお肉もある程度欲しいです。 希少な魔物なら毛皮も欲しいですね」
「フォレストタイガーはタイガー種でもかなり希少だな。 そもそも森から出ないし、森だと倒せる者がほとんどいない。 ただタイガー種の肉は希少性の割に特別うまくはないな」
「ならお肉は味見程度でいいです」
「よし、じゃあ魔石と毛皮、そして肉の塊を1つを今度来る時までに用意しておく。 それ以外は買取りでいいか?」
問題ないので頷くと、ギルマスさんが解体指示を出しに行ったので私は表に回る。
ついてきた冒険者たちはフォレストタイガーを見ているみたいだ。
受付に行くと、すでに布袋が置かれていた。
毎回用意が早いね。
「ユリアさん、急な依頼にもかかわらずこんなに早く解決してくださってありがとうございました」
そういって頭を下げるスズランさん。
「予定を入れる前に依頼してくれましたからね。 予定があったら後回しにしてたかもしれません」
と言っても、街の近くに危ない魔物が居るなら優先して討伐に行っていたかもしれない。
その魔物が街に来ても困るし、サクラが何かの拍子に森に行ってしまう可能性も0ではない。
「ちょうどいいタイミングで声をかけられたってことですね」
「そうかもしれませんね。 あと、一応討伐後もさらに奥へ行ってみましたけど、猪がいたくらいで特別危険そうなのはいませんでしたね」
「調査までしてくださったんですね。 本当にありがとうございます」
「調査と言うほどの事はしてませんよ、討伐後少し奥に進んだだけですから」
「そもそも奥に進むこと自体が難しんです。 森の奥、特に暗くなる辺りはなぜか光魔法が使えず、迷いやすいのでなかなか調査ができないんですよ」
え、普通に光の魔法使えたけど?
使える条件とかあったのかな?
まあ余計なことは言わなくていいか。
「そうなんですね。 一応今回は洞穴のある辺りまで行きましたよ」
「洞穴のある場所ですか・・・・・・どの辺りかわかりますか?」
場所を聞かれたので、自分の地図を見ながらスズランさんの出してきた地図に指さして教える。
「ここって森の中心辺りですね。 暗い森の先ですので、今までたどり着いた人はいなかったんですが、洞穴があったんですか・・・・・・」
「洞穴と言っても大型の動物がねぐらにしてるような物だったのでそこまで広い物じゃなかったですね」
「そこにフォレストタイガーが住んでたんでしょうか・・・・・・それともほかの大型の魔物がまだ?」
私の報告を聞いて、他の魔物の事を考えるスズランさん。
「少し南の方から森に入りましたけど、中心までほとんど魔物がいませんでしたね、さっき言った猪が1体出てきたくらいです」
「その事もギルマスに報告しておきますね。 今日は本当にありがとうございました」
何度目かのお礼を言われた後、大きな布袋を収納しギルドを出る。
私は菜の花から油を抽出するためにそのまま急いで家に帰った。
「ただいま」
畑にいたディアに挨拶をした後、いつも通りに抱っこして家に入る。
椅子に座った後、ディアを抱き締めたり撫でたりまったりしてたら、急いで帰ってきた目的を思い出した。
「あ、そうだ。 菜の花を取って来たから、できればこれも畑に植えたいんだよね」
収納からいくつか菜の花を出すと、ディアが不思議そうに葉の花を見ている。
「お花も育てるの? 奇麗でいいと思うの」
「あースズランさんにも言われたけど、これは油を作る材料なんだよね。 つまり他の野菜たちと同じで、食べるためね」
それを聞いたディアが優しい表情で私を見る。
「ママも食べ物以外に興味があったのかと思ったけど、結局食べ物でママらしいの」
「ちょっと待って。 私食べることしか考えてないように見られてるの?」
と言うかその話をしたときディアもいたよね?
「違うの?」
「美味しい物食べたいと思うのは普通じゃない? 材料がなければ作るしかないでしょ? この国は食材が少なすぎるし」
この国は食材、特に野菜や果物が少ない。
少ないなんてレベルじゃなく量も種類も少ない。
あるのはお肉ばかりだ。
そのお肉も量が多いだけで種類は少ない。
で、野菜が無いのなら作るしかない。
作る力があるなら尚更。
「普通の人はある物で何とかするの。 自分で作ったりしないの」
力説していた私に、ディアは呆れたように笑っていた。
見たことのない表情だ。
なんかかわいい表情。
「ちゃんと食べ物以外にもディアの事も考えてるよ」
膝に乗っているディアをギュっと抱きしめると、いつもの笑顔になる。
「じゃあさっそく種を取っちゃうの」
膝に乗ってるディアがテーブルの方を向き、作業し始める。
私は土魔法で種を入れられる入れ物を作って出す。
ディアは花に何かをしているみたいで色が変わっていく。
その後小さなさやから種を取り出す。
王都で買ってきた物もこんな感じで種を取ってたのかな。
精霊凄い。
「それが種なんだ、小さいね」
「これを適当に撒くだけでも育つの、他の部分は細かくして肥料にするの」
「あ、花以外は料理に使いたいかも。 あと種を油用にも残しておいて欲しいかな」
「ママはこんな物まで食べるの・・・・・・?」
ディアがなんとも渋い顔をしている。
そんな表情も可愛いのはずるい。
「いや、食べたことはないけどおひたしにして食べられたはず」
「じゃあ全部取っちゃうから全部出してほしいの。 ママは種を取った物を料理用にしてほしいの」
「うん、わかった」
種を取った後の茎をもらい、枯れた部分を取る。
枯らしてたの?
というか、枯れた部分をむしったら茎だけになってしまった。
食べたこともなかったので、とりあえず最初の1本を調理してみる。
「適当な長さに切って茹でるだけっと・・・・・・かたいなこれ・・・・・・」
何とか切った後、茹でてる間ディアの手伝いをしながら待つ。
数分茹でてるけど茎部分が柔らかくならない。
「うーん、まだ硬い気がするな・・・・・・」
土魔法で作った菜箸でつまんでみるが、なかなか柔らかくならない。
もうしばらく茹でると少し柔らかくなってきた。
「そろそろいいかな」
木で作ったザルにあげて、水で冷やした後、手で絞る。
なんか硬くない?
「できた、さっそく食べてみようかな」
ディアが本当に食べるの?って目で見ている。
菜の花のおひたしは聞いたことあるから大丈夫。
ザルにあげた物をそのまま1つ口に放り込み、咀嚼すると・・・・・・
「・・・・・・うー、筋っぽくて硬いし苦くてまずい」
「種が取れるほど成長した物は硬いの。 食べるならせめて花が咲く前の方がいいと思うの」
「そうなんだ・・・・・・でも花が咲く前だと種が取れないんだよね。 仕方ない、おひたしは諦めるか」
食料用に菜の花を育ててもいいけど、そこまでして食べたいわけではないので諦める。
醤油とかもないし。
種を取った物は細かくして肥料にすることになった。
茹でた物も一緒に。
結局やる事がなくなってしまった私は、作業をしているディアを眺めながら種を取った後の菜の花を箱に詰めるだけだった。
菜の花の種を取り終わったころには結構いい時間になっていたので、今日はこのまま寝ることにした。




