36 ギルドからの指名依頼
「そうでした! ユリアさんを呼び止めた理由を忘れてました!」
「あ、用事があって呼んだんですね」
私がサクラの依頼の話をしたら、依頼と言う単語を聞いて用事を思い出したようだ。
「いえ、心配だったのは本当ですが、ユリアさんにギルドからの依頼があるんですよ」
「ギルドからの依頼ですか?」
「はい。 ポイズンキャラピラー、キラービーと最近西の森が物騒になっていますよね? それでギルドでも調査に力を入れていたんです。 そしたら森の奥でフォレストタイガーが発見されたんですよ」
「名前があがるってことは危険な魔物って事ですか?」
毛虫、蜂と並んで名前があがった森に住む虎。
その虎も大きかったりするんだろうか?
「す・ご・く危険なんです。 この魔物は名前の通り森に出没するんですが、他のタイガー種と違って木を使って縦横無尽に攻撃してくるんです。 しかも木を使った移動がもの凄く速くて、剣士などが反応できずに攻撃されます。 今回遭遇したパーティーは魔法使いが2人いて、2人でずっと土魔法で防御してたら諦めていなくなったそうです。 しかし剣士の1人が初撃で防具ごと爪で切り裂かれてしまい、今は重症なんです。 フォレストタイガー討伐と、この方の治療が依頼です」
「そのタイガーについてはわかりましたが、今は重症ってどういう事ですか?」
防具ごと切り裂かれたと言っていたから、傷が結構深くて出血のし過ぎって事かな?
「最初は直感によるとっさの回避と防具のおかげで傷が浅かったらしいんです。 しかし治療薬の効果が薄く、時間がたつとどんどん傷口が腫れていったんです。 毒消しなども試しましたが効果が無く、手の施しようがない状態なんです。 フォレストタイガーは猛毒を持ってないはずなんですが、特異種の可能性もありますし・・・・・・」
時間が経って傷口が腫れてるなら何らかの感染症の可能性もあるんじゃないかな?
「今から森に行くのは無理ですが、その人の治療はしましょうか?」
「できるのであればお願いします」
ギルドから帰る途中だったスズランさんと一緒にギルドへ向かう。
中に入り、部屋に案内される。
すると思っていた以上に傷口が大きく腫れている男の人と、そのパーティーだろうか、魔法使いの男女と剣を持った女性が1人いた。
「ユリアさんを連れてきました、容体はどうですか?」
「ああ、スズランさんか。 さらに腫れがひどくなってる。 その少女が助けられるのか?」
剣士の女性はイライラしているようで睨むようにこちらを見る。
来た時からイライラしてたから、助けに来たのがこんな少女なのか?と怒っているわけではなさそう。
「まずは診せてもらいますね」
観察眼で見ると「パスツレラ症他多数」と書かれていた。
ネコ科の感染症だね。
「うわぁ・・・・・・」
「どうした! ダメなのか!?」
状態異常の多さに驚いていると、剣士の女性が私の肩を掴んで詰め寄る。
その言葉を聞いた魔法使いの青年は目を閉じうつむいてしまい、魔法使いの少女は泣きだしてしまった。
「症状としては毒と同じようなものですが種類が多いですね。 (この世界で)一般的に毒と呼ばれているのは、虫や動物により刺されたり噛みつかれたりして毒を注入するヴェノム系のようです。 ただ今回はそれとは少し違い、毒草や細菌などを含む、体内に入ると人間にとって毒になるものですね。 こちらはトキシン系で、ヴェノム系の亜種みたいなものだと思ってもらえればいいと思います。 私も詳しくはないのでその程度の違いしか知りませんが。 毒消しも軽い毒は治療してくれたはずです。 魔物の本に載ってた程度の知識なので、実際の毒消しが何を直してくれるかっていうのは細かく知りませんけど」
「すまん、内容が全く理解できなかった。 なんか違うという事しか・・・・・・」
私の肩を掴んでた女性の力が緩み、困惑の表情を浮かべている。
「私も専門じゃないので確かそうだった、という程度の記憶です。 簡単に言えば引っ掻かれて毒を注入されたんじゃなくて、その傷口にばい菌が入っちゃったってことです」
「あーそういう事か、それならわかった。 しかしこんなになるものなのか?」
「動物はばい菌をいっぱい持ってますからね。 軽く引っ掻かれた程度でも早めに洗ったり消毒したりしないと、ひどいと死んでしまいます。 さて、それじゃ症状もわかりましたし治療しちゃいますね」
「あ、すまない。邪魔をした」
「いえいえ。 では、パナシーア」
治療の魔法を腫れている肩にかけていく。
すると、少しずつ腫れが引いていき、傷口は小さくなっていった。
腫れが引いたところで今度は傷を治すためにリカバーをかける。
これでいいかな。
観察眼で見ても正常になっている。
「終わりましたよ。 無事完治しました」
「こんなに早く治るのか・・・・・・」
「前に村人の治療をしたと聞きましたが、ここまで凄腕の治療魔法使いだったとは・・・・・・」
パーティーの3人とスズランさんが驚いている。
他の治療できる人を知らないんだけど、これって凄いの?
確かに村では腕くっ付けたりしたけど、今回は普通に治療しただけだ。
「村では切断された腕をくっ付けたりしましたし、治療魔法ならこれくらい簡単にできるんじゃないですか?」
「え、切られた腕ってくっ付くんですか・・・・・・?」
あれ、もしかして余計なこと言った?
魔法でも普通はできない?
「切られてもその部分が生きてればくっ付くと思いますよ」
「・・・・・・知りませんでした」
スズランさんと話をしていたら怪我をしていた男性が起きる。
「ここは・・・・・・ギルドか?」
「マクシム! 体は何ともないか!?」
魔法使いの青年が駆け寄る。
マクシムと呼ばれた男性は状況が理解できていないみたいだ。
「おいおい、いったいどうしたんだガルス。 俺がフォレストタイガーに襲われて肩を怪我したのは覚えてるが、報告に戻ってきたあと空き部屋を借りて寝てただけだろ? 傷ももう治ってるみたいだし、治療薬も効いたみたいだな」
肩に触れてながら腕を回している。
「いや、お前が寝てる間に怪我が悪化して肩が大きく腫れていったんだ。 治療薬も毒消しも効かず時間と共にどんどん大きくな」
剣士の女性がマクシムと呼ばれた男性に今までの事を説明したいた。
「おれ、そんなにひどい状態だったのか・・・・・・それでこの少女が治療してくれたと。 リンドウが冗談を言うとは思えないし、本当なんだな」
魔法使いの男性はガルス、剣士の女性はリンドウというらしい。
「助けてくれてありがとな。 俺たちはあちこち旅をしてる冒険者で、一昨日この街に来たんだよ。 これでも一応ランクはCだ。 この街の周囲の事情も知りたかったから、ギルドの調査依頼を受けて行ったらこのざまだ」
「私はユリア、最近冒険者になった新人です。 この街を拠点にしてますけど、私も他の街を見に行ってみたいと思ってるんですよね」
「新人なのにすごい治癒魔法が使えるのか・・・・・・冒険者より治癒魔法使いとして活動したほうが安全だし稼げるんじゃないか?」
私は別に冒険者になりたかったわけではなく、身分証が欲しかっただけだ。
なので別に身分証がもらえるなら治癒魔法使いでも何でもいい。
でもその場合どこに登録するんだろうか?
「あーマクシムさん。 とてもいい難いことなんですが。 ユリアさんは冒険者になったばかりの新人というのは本当ですが、既にBランクの実力者なんです。 キラービーやオークロード率いる50を超えるオークの大部隊を単騎討伐しています。 今回のフォレストタイガー討伐依頼も、ユリアさんにギルドから指名依頼が出ているほどです。 さらに治癒魔法も使えるので、マクシムさんの治療も一緒に依頼に含まれていたんです」
「「「「・・・・・・」」」」
4人とも信じられない物を見る目で私を見ている。
仕方ないのでギルドカードを見せる。
「おい、本当かよ。 ほんとにBランクだぞ。 しかも13歳って未成年の子供じゃないか」
「年齢より少し幼く見えるしハーフエルフ・・・・・・じゃないよな、目も髪も違うし」
年齢より幼くて悪かったね、これは神様が作った体だよ。
いや、よく考えると体は前の体を元に作ったって言ってたし、17歳から13歳になってるから前と違って「少し幼い」で済んでるのか。
そこは感謝すべきなのか、もう少し大きくしてよと文句を言うべきか・・・・・・
というかハーフエルフなんてのもいるのか、エルフは会ってみたいかも。
それよりも。
「治療も終わったのでもう帰っていいですか?」
早くディアに会いたいので用が終わったのなら帰りたい。
「あ、はい。 わざわざありがとうございました」
スズランさんに聞くと帰っても大丈夫と言うので帰ることにする。
「ちょっとまってくれ、まだお礼も報酬も渡してないんだが」
帰ろうとする私をマクシムさんが引き留める。
「私はギルドの依頼で治療しただけなので報酬はギルドからもらいますよ。 それに報酬と言ってもメインのフォレストタイガーがまだ解決してませんし」
「だが、俺は命を救ってもらったようだし」
「命がけで情報持ってきただけでも十分じゃないですか? その情報が無ければ他の冒険者が犠牲になってたかもしれませんし」
「そうかもしれないが・・・・・・」
「有力な情報を持ってきたから無償で治療してもらえたと思えばいいんですよ。 まあギルドが治療してやったんだからと金銭の要求したらわかりませんが」
そう言ってスズランさんを見る。
「え? いやいや、ギルドは何も貰いませんから。 ユリアさんが治療対象から直接『感謝』を受け取るのは止めませんが、有力な情報も持って来てくれた冒険者にこちらから治療費を要求はしませんよ」
「だそうですよ。 誰も要求しないみたいなので気にしなくていいんじゃないですか?」
「・・・・・・わかった、今回は感謝の言葉だけにしておく。 だが今後俺たちの手を借りたければいつでも言ってくれ、できる事はするから。 旅をしてるから同じ場所には長期滞在しないが、ギルド経由の伝言でも何でも良いから伝えてくれれば手を貸すと約束しよう」
「その時はお願いしますね。 では子供も待ってるのでそろそろ本当に帰ります」
「え!? ユリアさんお子さんいたんですか!?」
もう帰りたいんだけど・・・・・・
「私が産んだ子じゃないですよ? 引き取って育てることになっただけで、ただの育ての親です」
いや、私の魔力で生まれたみたいなこと言ってたし、生みの親なのかもしれない。
だけど早く帰りたいので余計なことは言わない。
「それでも見てみたいです! いくつくらいですか? かわいいですか?」
「詳しい年齢は知りませんが大きさだけならまだ1~2歳くらいでしょうか。 すごくかわいいですが人見知りしますね」
年齢は0って表示されてたけど、多分体を得てからの年齢って事だと思う。
なので、精霊としてどれだけ生きてるかは知らない。
「ぜひ今度ギルドに連れてきてください! 私も会いたいです!」
「本人が嫌がらなければ連れてきますよ」
ディアを今度紹介すると約束をして、やっと解放された。
さて、家に帰ろう。
商店通りを小走りに抜け、その後は家まで走って帰る。
家に近づくと畑がかなり育っているのが見えた。
もう収穫できそう?
畑にはディアが1人で土いじりをしている。
こんな時間まで外にいたんだ。
「ディア、ただいま」
声をかけると振り返りながら立ち上がり、フワッと浮かぶとそのままふよふよと近づいてくる。
あれ?
「ねえ、また大きくなってない?」
「精霊は魂の状態ですでに成長してるから体はそれに合わせてすぐに成長するの。 体がどこまで大きくなるかは精霊と魔力の提供者で変わるの」
「どこまで大きくなるかはわからないんだ」
「わからないの。 でも体を得た時からすでに異常な大きさだったの」
「そうなの? 私は他の精霊を見たことないからわからないんだけど」
「精霊は大きく育っても今のわたしの半分程度なの」
そうなるとディアは生まれた段階ですでに最大サイズの精霊を超えていたって事か。
今は70cmほどの大きさになっている。
「大きいと何かまずかったりするの?」
「大きさは力を表すの。 大きいという事はそれだけ精霊として力があるって事なの。 欠点は狭い所に入れないのと、ママに抱っこしてもらえなくなるの」
「あー確かに自分と身長同じくらいになると抱っこはさすがにきついかな。 バランス的にも周りの視線的にも。 でも、大きくなっても家なら気にする必要ないし寝る時はギュッとして寝られるよ」
少し寂しそうにしているディアを抱っこしながら背中を撫でる。
「うん・・・・・・」
大きくなってからの事を考えてるのか表情が暗い。
精霊としてどれだけ生きてきたのかわからないけど、精神的にはまだまだ子供って事かな。




