35 モウイの街へ帰る
私が今いる王都は、入り口が北にある。
その門から王都の中央辺りまでの大通りが全部商店通りだ。
かなりの店が並んでいる。
しかし全部見て回る時間はないので、見る場所を厳選しないといけない。
「うーん・・・・・・一番見たいのは食材、かな? そして次は・・・・・・武器屋。 王都ならミスリルだっけ?もありそう。 他のアダ何とかもあるかもしれないし。 あ、王様に欲しい物として聞いておけばよかった・・・・・・まあ武器屋で聞けばいいか。 王都の道具屋も見てみたいけどそれは次回かな」
行く場所を決めたら門へ向かって中央通りを歩く。
しかし露店で売ってる物はそんなに変わらなかった。
スープの具材が少し違う以外売ってる食べ物はモウイの街と変わらないので、わざわざここで買う必要はない。
なので食材屋を中心に回って、モウイの街にない物を買っていく。
野菜だとトマトとピーマン、果物だとビワとイチゴが売っていたけど、他は同じだった。
お店を眺めながら門まで来たけど、武器屋が無い。
「あれ、武器屋って王都にないのかな? それとも冒険者通りみたいな場所があったのかな? もしかして途中大きな交差点があったから、そこを曲がった場所に有ったのかな・・・・・・」
早歩きとはいえ王都中央から買い物しながら門まで来たので、もうお昼になっている。
今から戻って武器屋を探して見ている時間は無い。
「仕方ない、今度来た時でいいか」
武器は諦め、王都から出て村に向かって走る。
そのまま日が傾くまでずっと走っているけど、さすがに飽きてくる。
動いてる分馬車にただ座ってるよりはましだけど・・・・・・
景色を眺めながら走るのも最初は楽しかったけど、森か丘ばかりでたまに川があるだけだ。
「私も何か楽な移動手段が欲しいなぁ。 でも、馬車は遅いんだよね・・・・・・空を飛んだり転移の魔法みたいなのは使えないのかな?」
空を飛ぼうと意識してみたり、村の場所を思い浮かべながら転移したいと思っても何も起きない。
風魔法を使って飛ぶことはできたけど、ただ吹っ飛ばされてるだけで、少し調整を失敗しただけでその後転げ回ってしまって全然うまく移動しない。
山なりに飛んでもうまく着地できずに余計に時間がかかるし、痛くなくても落ちるの怖い。
そんな実験をしながらも村に着いた私は、村長に会いに行く。
走る以外の移動手段はまた今度考えよう。
「こんばんは。 村長さんにお話があるんですけど、どこにいるかわかりますか?」
村に入り、家に帰ろうとしていたおじさんに聞いてみる。
「こんな時間に嬢ちゃんが何の用だ?」
「私は冒険者のユリアです。 チーズの件で村長さんとお話がしたいんです」
「冒険者? この前村長を助けてくれたって冒険者の女の子か?」
村長さんに聞いてたのか、私の事を知ってるようだ。
「チーズの時なら私だと思います」
「そうかそうか、村長を助けてくれてありがとな。 村長の家はこっちだ、付いて来てくれ」
おじさんは感謝の言葉と共に村長宅まで案内してくれる。
そのまま村の真ん中あたりの少し大きい家に着いた。
おじさんは入り口のドアをたたき、村長を呼ぶ。
「村長! この前言ってたチーズの嬢ちゃんが来たぞ!」
チーズの嬢ちゃんてなんだ。
私がチーズを売ってるわけではない。
そんなことを考えていたら家の中でばたばた音がして、勢いよくドアが開く。
「あの時のお嬢さんが来たのか!?」
「こんばんは、こんな時間にすみません」
出てきた村長に挨拶をする。
「いえいえ、構いませんよ。 こんな時間に来たという事は急用ですかな?」
こんな時間に急に訪ねて来たことに少し訝しむ。
日が傾き始めてるから、この国の常識だったら翌日改めてってするだろうしね。
「村長さんに早めに渡したいものがあったので、暗くなってきましたが直接来ちゃいました。 という事でこれをどうぞ」
私は村長にお城でもらった販売許可証を村長に渡す。
「これは?」
「お城に呼ばれて王様に会って来たんですよ。 で、その時村にこれを持っていくと言ってたので、私が代わりに届けに来たんですよ」
村長は嫌な想像をしてるのか、緊張した表情で縛ってある紙の紐をほどき、内容を確認する。
読んでいた村長の手がだんだん震えてきた。
「これは・・・・・・本当の事ですか?」
「私はその手紙の内容を知らないので、本当かと聞かれても答えられないですね」
私が内容を確認したのは権利書の方だけで、村に持っていく方は見ていない。
封蝋とかされてたわけではないけど、奇麗に縛ってあったし。
「この手紙には国王様から冤罪で捕まえようとしたことを撤回するのと、チーズの販売許可並びに国王様自らチーズを宣伝してくださると。 さらにお城でもチーズを買い付けると書いてありますが・・・・・・」
「全部王様が言ってたことなので本当ですね。 王様も宰相さんも途中から乱入してきたお姫様もみんな美味しそうにチーズをのせたパンを食べてましたよ」
「なんと・・・・・・聞いてもまだ信じられません。 夢のようです」
「実際どれくらい宣伝してくれるのかわかりませんけど、お姫様が気に入ってたのでお城からは買いに来ると思いますよ」
「私たちが作った物が王家の方々に・・・・・・」
「私もチーズがなくなったら買いに来ますから、これからもおいしいチーズお願いしますね」
「助けて頂いただけでなく、国王様との話までしてくださって本当にありがとうございます・・・・・・」
村長は感動と嬉しさで泣きそうな顔になっている。
私はただチーズが買いたかっただけなんだけど。
「情けは人のためならず、ですよ」
「・・・・・・どういう意味でしょうか?」
「巡り巡って己が為。 私にとって助けたのは村に情けをかけることで、今後もチーズを買えるようにするという自分のためってことです」
「なるほど。 私が罪人として捕まればチーズの販売どころか生産もできなくなってしまう。 そうなるとチーズが買えなくなるから助けてくれた、と。 無条件で助けられるよりは目的があって助けてくれた方が安心して感謝できますな」
村長さんは笑顔で「ありがとうございます」と言ってくれた。
私としても今後もチーズやバターが買えればそれでいい。
「それじゃあ、用事も済んだので私は帰りますね」
「こんな遅くにですか? 部屋なら用意しますので泊って行かれては?」
「ありがたいお誘いですが、待っている子もいるので早く帰ってあげないといけないんです」
「そういう事でしたらお引止めはできませんね。 お気をつけてお帰りください」
「はい。 またチーズなどが少なくなってきたら買いに来ますね」
帰ってあげないとと言いつつ、実の所私が早く帰ってディアを抱っこしたい。
村長と別れて村を出た後、そのまま村から少し離れた辺りで街に向けて走る。
地図で場所はわかってるので道は無視して最短距離を突っ切って一気に街へ向かう。
楽に移動できないかの検証をしていたけど、最短距離を進んだおかげで王都→村も、村→街も予定より早く着いた。
しかし、門が閉じている。
王都の時もそうだったけど、暗くなると門が閉じるようだ。
王都に行った時は騎士の隊長さんが話をして入れてもらってたけど、一般人が話して入れてもらえるのだろうか?
とりあえず、私は門に近づいてみる。
すると、明かりを持った兵士が門の近くにある扉から出てきた。
「・・・・・・嬢ちゃんか。 こんな時間に帰ってくるなんて危ないぞ」
こちらからは良く見えないけど、私の事を知ってる兵士のようだ。
「私は戦えますので大丈夫ですよ。 それに待たせてる子もいるので、なるべく早く帰って来たかったですし」
「戦えると言っても、人攫いの集団にでも襲われたら多少戦えても太刀打ちできないだろう」
オークの集団を倒してるし、人間の集団に襲われてもたぶん問題ないと思う。
けど、心配してくれてるわけだし、ここは余計なことを言わない方がいいかな。
「そうですね。 今後遅くなりそうなときは、どこかに泊まってから帰ることにします」
そう言った私の言葉に「うんうん」とうなずきながら、門の近くの小さな扉に案内してくれる。
「気を付けて帰れよ」という兵士の人に会釈と返事をして、商店通りへ向かって走る。
予定より大分早く帰って来れたとはいえ、それでももう真っ暗で商店通りのお店は開いてない。
街は人通りも少ないので軽く走っていたら、急に声を掛けられた。
「あ、ユリアさん!」
「ん?」
立ち止まり声のした方を向くと、スズランさんがいた。
「こんばんは、お仕事終わりですか?」
この世界の労働状況を知らないけど、朝からいるのに帰りは夜なのか。
半日くらい働いてない?
「はい、さっきギルドを出てきたところです。 ユリアさんこそ騎士様に連行されたって聞きましたけど大丈夫でしたか? 見たところ問題はなさそうですけど」
「話をするためにお城へ呼ばれただけですよ。 なので王様とお話しをしてきただけです」
「え、国王様とお話をしていたんですか!?」
この驚き方からすると、王様というのは話をすることすら難しい存在なのかな?
貴族のリーアは普通に街を歩いてるし、話していても言葉遣い以外はサクラと話してるのと変わらない。
いや、サクラも元貴族だと思うけど。
なので貴族や王族という人達と一般人の距離感がいまいちわからない。
貴族は一般人に近くて、王族だけ遠くの存在なのかな?
「前に行った村で色々ありまして、その詳細などを話しに行ってたんですよ。 騒いでる貴族はいましたけど、王様とは普通に話をしてたので特に問題ないですよ」
「問題がなかったならよかったです。 それにしても国王様とお話しですか、私だったら緊張でまともに会話できないですね」
「イメージしてたより気さく、というか好意的なおじさんでしたよ。 問答無用で不敬罪だ!とか言う人ではなかったですし、途中で乱入してきたお姫様と一緒にパンを食べてましたし」
「え? 謁見の後食事もご一緒だったんですか?」
「いえ、王様がパンを食べてる匂いを嗅ぎつけて謁見の間にお姫様が乱入してきたんですよ。 その後、お姫様も一緒にパンを食べてたんです」
「・・・・・・すみませんちょっと理解できないです。 謁見の間で国王様が食事をしていてお姫様が乱入してきた、と? 自分で言ってても状況が浮かびません・・・・・・」
スズランさんが頭を押さえながら必死に理解しようとしている。
「あー順番に説明しますね。 今回呼ばれたのはそもそもとある食材の話だったんですよ。 私がその食材に詳しかったので、王様がそれを知りたくて私を呼んだんです。 で、安全なら王様もそれを食べてみたいというので、その場てパンに乗せて作ってあげたんです。 王様がそれを食べてたらお姫様も乱入してきて、お姫様もそのパンを食べた、という流れですね」
「はー・・・・・・国王様とお姫様に食べ物を渡すなんて怖くて私にはできませんね。 何かあればその場で首が飛んじゃいますよ」
「今回は食べても大丈夫だよっていう証明のために行ったわけなので、食べられない物なんて出しませんよ」
「いやいや、そうだとしても万が一という事もありますし・・・・・・」
「ちゃんと王様が食べる前に騎士の隊長さんと私が食べて毒見もしてますよ」
何かあっても治療できるし、もし許してもらえなかったら逃げる事だってできる。
「だとしてもそこで騎士の方に何かあれば同じじゃないですか・・・・・・」
「私のいた国ではよく食べられていた物なので、食べて平気なことはわかってましたし。 安全は王様も確認したのでその食材も広まると思いますよ」
「国王様とお姫様も食べた新しい食べ物となると気になりますね」
「食べてみます? まだ持ってますけど」
「いいんですか!?」
気になるようなので余ってたチーズパンを出してあげる。
お城でいくつか作ったけど朝食後だったこともありあまり食べなかった。
途中からジャムパン食べてたし。
「こんなパンがあるなんて・・・・・・すごくおいしいですね。 パンとお肉はわかりますがこの白いのと伸びる食べ物は何ですか? 食べてて楽しいですねこれ」
「白いのはジャガイモで、伸びるのはチーズと言って牛乳とカビで作った食べ物ですね」
「へ? ジャガイモってあの毒がある食べ物の? それにカビた食べ物って・・・・・・え、本当に大丈夫なんですかこれ」
「大丈夫ですよ。 私も孤児院の子も騎士の隊長さんも王様もお姫様も食べてますし、なんともありません。 安全な食べ方があるんですよ」
「そうなんですか・・・・・・安全ならとてもおいしいですが、材料を聞いちゃうとちょっと気になっちゃいますね」
「その辺りは慣れだと思いますよ? 実際ジャガイモの一部に毒があるのは事実ですし。 今うちでいくつかの食べ物を栽培してて、その中にジャガイモもあるので、機会があれば新鮮なジャガイモ料理をご馳走しますよ」
「それは楽しみですね、その時は是非お願いします!」
「わかりました、何か作ったら持ってきますね。 あ、そうだ。 私がいない間にサクラが依頼を受けたりしましたか? いない間に1人で受けてないか気になってて」
ちょうどギルドの受付嬢がいるのでついでに聞いてみる。




