30 酪農の村で一悶着
「すみません、旅の者ですが何があったんですか?」
私をどかさずに避けて入口へ向かおうとしたした兵士に声をかけてみる。
「邪魔だ! 道を開けろ!」とか言われるかと思ったけど、そんなことはなかった。
「ん? この村は腐った物を販売していたのだ。 それが国王陛下の耳に入り、村長含む首謀者達を犯罪者として拘束することになった。 大量の現物も確認したので、このまま犯罪奴隷として終生鉱山労働をしてもらうことになるだろう」
意外とあっさり教えてくれたな。
腐ってる物って何だろう?
酪農の村で腐敗・・・・・・発酵?
乳製品で発酵と聞いて真っ先に思いつくのは・・・・・・
「それってもしかしてチーズだったりします?」
その声に反応したのは連行されていたお爺さんだった。
「お嬢さんはチーズを知ってるのか!?」
「静かにしろ!」
急に大声をあげたお爺さんは、兵士に怒鳴られておとなしくなる。
「名前なんてどうでもいい。 カビの生えて腐った物を食べ物だと売っていたのは事実だ。 我々は王命によりこの者たちを連行しなければならないのだ、邪魔をしないで頂きたい」
隊長らしき装備が少し違う人が説明しながら近づいてくると、仕事の邪魔をするなと睨まれた。
私としてもチーズを作ったのが犯罪だと言われたら、今後食べられなくなってしまう。
なので見過ごすわけにはいかない。
「冤罪で捕まるのは見過ごせないですね。 まずはチーズを見せてもらえませんか?」
「カビが生えているのは我々が確認した。 その必要はない」
「あなたはチーズを知りませんよね? 今の話を聞いた限りだとチーズはカビの力を使って発酵させ、カビを取って中を食べる物じゃないですか? 私は他国からの旅の物ですが、私の国では大人から子供まで食べたことがない人がいないほど人気な食べ物ですよ?」
「あんなカビの生えた物を食べるのか? 正気の沙汰とは思えんな」
「中を食べるって言ったの聞いてましたか? あなたは狩ってきた魔物に対して『毛皮なんか食えるか!』というんですか? 言いませんよね? 中のお肉を食べられることを知ってるんですから。 チーズも同じですよ」
鼻で笑っていた兵士の表情が険しくなる。
「・・・・・・それが真実であれ王命が発令されているから、はいそうですかとはいかない」
「なら、私が妨害しましょうか?」
「なに?」
再び兵士が睨んで来る、今度は剣に手をかけて。
戦う?私強いよ?
「あなた方が引いてもらえないのであれば力ずくで行ってもいい、と言ってるんです」
「何の冗談だ? 少数とはいえこちらは王都の騎士だ。 小娘にやられるほど貧弱ではないつもりだぞ?」
「そうですか。 私もこう見えてBランクの冒険者ですから、そのあたりの小娘よりは強いと思いますよ?」
左手でギルドカードを見せながら右手に少し大きめの火の玉を出す。
「・・・・・・国王陛下の命令に反抗するというのか? 冒険者ユリア、名前も覚えたぞ」
「私は冤罪で捕まりそうな村人を助けただけで、間違ったことはしてませんから逃げも隠れもしませんよ。 モウイの街の孤児院の近くに住んでますので、何かあればそっちに来て下さい」
「・・・・・・」
隊長らしき人は目を閉じてどうするか考えているみたいだ。
Bランクの冒険者とこの少数で戦ったらどうなるか、勝てたとしても甚大な被害が出ることはわかるだろう。
年齢が幼くとも、大きめの火の玉を見せられたのだから。
「今回は引こう。 ただ今回の事は国王陛下にすべて伝える。 それでいいな」
「伝えるならちゃんと伝えてくださいね。 適当に報告されて勘違いされると困るので」
「わかっている。 どんな結果になろうと近日中にモウイの街に兵が向かうことになるだろう」
「日中は家にいるかはかわりませんが夜は確実に要ると思いますよ」
「それも伝えておこう。 おい!縄をほどいて解放しろ。 解放次第撤退する!」
最初は「え?」って顔をしていた兵士たちだが、渋々といった様子で縄をほどいてくれた。
「我々は撤退するが、勝手にチーズとやらの販売はしないように。 それが撤退するこちらからの要求だ」
村長にそう伝えると、兵士たちと共に馬に乗って村を出て行った。
これで終わりではない。
私はここの国王がどんな人なのかを知らないし。
もしかしたら問答無用で邪魔をしたと捕まえに来るかもしれない。
そうしたら兵士、騎士?ボコって最悪国外逃亡かな・・・・・・
「話が通じる人だといいんだけど・・・・・・」
そんなことを呟いていると村長が近づいてくる。
「この度は助けていただきありがとうございます。 何とお礼を言っていいか・・・・・・」
「無事で何よりです。 今度兵騎士たちが捕まえに来たら先に私の所へ来るように言ってもらえます?」
「よろしいのですか?」
「よろしいも何も私も目を付けられちゃってますからね。 それに武力で来るなら喜んで相手しますとも」
この世界に来てからかなり好戦的になった気がする。
昔から売られた喧嘩は買ってたけど、自分から首を突っ込むタイプではなかった・・・・・・と思う。
強くなったせい?
「そうだ、この村に来た目的を忘れてましたね。 ここでバターが買えるって聞いたんですけど売ってますか?」
「バターですか? 売ってますがあまり日持ちしませんよ?」
「それは大丈夫なので買えるだけ買いたいんですけど。 チーズも欲しいですが販売するなって言われちゃいましたからね、それはまた今度です」
「こちらとしては買って頂けるのであれば助かります。 日持ちしないせいで街等にも売りに行けませんでしたから」
「あ、そうだ。 バターを少し高めの値段で買いますので、チーズを無料で頂けませんか? 無料でもらえば売ったことにはなりませんし」
「それで騎士様が納得されるでしょうか・・・・・・」
「販売はしてないので約束は破ってません。 もし何か言ってきたら私に無理やり持ってかれた、とか言ってもらってもいいですよ」
「・・・・・・わかりました。 助けて頂いたお礼もしたいですし、バターの値段はそのままにチーズはお譲りしましょう」
「いいんですか?」
「はい、助けられたままお礼もしないのはこちらとしても落ち着きませんし、ぜひ貰ってください」
今のところ自分では作れないので、容器に入ったバターを多めに買い、チーズをいくつか丸のままもらった。
後は頼んで牛乳も樽1個分売ってもらった。
樽はもちろん自作。
「ありがとうございます、乳製品が一気に買えてよかったです」
「いえいえ、こちらも助けていただいたうえにこんなに買って頂けるとは。 本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる村長と別れて街に帰る。
家についたのはお昼を過ぎたころ。
ディアがどうしてるか気になったので、家に入る前に畑を確認する。
するとディアは畑でしゃがんでいた。
土の精霊だからか畑にいるのが好きみたいなんだよね。
「ただいま」
「・・・・・・おかえりママ」
振り返って私に気が付くと、浮いて私の所に来たのでそのまま抱っこする。
「少し育ったの」
「ディアが? 確かに少し大きくなった気がするけど」
「大きくなったけど違うの。 畑の作物なの」
言われて私は畑を見ると緑の芽が出ていた。
「ジャガイモがちゃんと育ってるみたいね。 それはいいんだけど、何で唐黍やサトウキビも育ち始めてるの?」
異世界のジャガイモがどれくらいで育つのかは知らないけど、数日で芽が出たのはまだいい。
魔力がたまってたとか言ってたし、それが影響したのかもしれない。
でも唐黍とサトウキビは昨日植えたばかりだ。
こんなに成長が早いの?
私が疑問に思っていると。
「ここに溜まってたママの魔力を使って精霊の力で育てたの。 もともと土の精霊がいると作物が早くより質の良い物が育つの。 でもママの魔力を使うともっと効率よく育てられるの、驚きの成長速度なの」
私の魔力とディアの精霊の力があれば作物は結構簡単に育てられるようだ。
「2人で力を合わせれば食べ物育て放題って事か。 ちなみにその早く育つ範囲はどのくらいの土地まで効果あるの?」
「範囲が狭ければより早く良い物が、広げれば効果が弱くなるの。 今のわたし1人だと、最大まで範囲を広げればこの街全域くらいにはできるの。 それより広げることもできるけど、そうするといつもよりちょっといい程度の効果になるの」
「範囲はうちと孤児院の辺りまででいいかな。 うちは2人しかいないし速度より質、孤児院は質はそのままで速度だけ早くするみたいなことはできる?」
自分で言っておいてなんだけど、かなり無理難題を言ってる気がする。
「できるの」
できるのか、土の精霊凄いな。
「それならこのジャガイモが育ったら孤児院の方も農地作ろうか」
「離れると成長補助ができなくなるから、わたしはなるべく家にいるようにするの」
「家族になってまだ2日目なのに離れるのは寂しいよー」
サクラやリーアや孤児院の子供たちと仲良くなれた相手は多いけど、家族はディアだけなのだ。
「街の中にいる間は大丈夫なの。 街の外に行くときだけお留守番するの」
「うーん・・・・・・それならまだいい、かな」
私が家にいる間は一緒にいられるわけだし。




