2 サクラとの出会い
「いや、それよりもこれからのことを考えないと」
冷静になったことで、この後どうしようかと考える余裕が出てきた。
夢から覚める気配もないし、このままじっとしていても仕方ないので、私は森の中を当てもなく歩くことにした。
さすがに正面にあったとはいえ、真っ暗な洞穴に入ろうとは思わない。
「まずは水と食料を何とかしないとね。 あれ、不老不死って餓死もしないのかな? そうなると食べるまでずっと空腹で苦しむの? もう不老不死いいことないじゃない・・・・・・」
不老不死の外れスキル感に絶望したが、逆にこれだけを選ばなくてよかったと安堵もする。
歩いている森はかなり高い木が並んでおり、日の光が届いていない。
しかし、なぜか森の中は明るかった。
けど「不思議だな~」と思う程度で深くは考えない。
だって神様だの魔物だのスキルだのがある世界なんだもん「光が少ないけど明るい」なんてこともあるでしょ。
私って意外と順応力高い?
それからかなりの距離を歩いているが、いくら歩いても森から出られない。
ステータス画面には時間らしきものも表示されていて、目が覚めて最初にステータスを表示したのが午前9時ごろ。
それから2時間程歩いていた。
周囲を見ながらゆっくり歩いてるとはいえ、結構な距離を歩いてると思うんだけど・・・・・・
それに白い花は咲いているが、木の実のような食べられそうな物が無い。
もしかしたらこの花が食べられるかもしれないけど、空腹を満たすには物足りなそう。
まだ空腹にはなってないし結構歩いた割には疲れてないけど、気持ちは沈み続ける。
彷徨う様に歩き続けているとどこからともなく物音が聞こえた。
私は音の聞こえた方に進むと、少し離れたところで女の子が尻餅をついていた。
転んだのかな?と思っていると、その奥から狼が一匹近づいていた。
「うわ、狼じゃん」
私は咄嗟に後ずさるが「小さな子供をこのまま見捨てるわけにはいかない」と踏み留まり、女の子に近づく。
今までも友人や子供たちが絡まれたときは助けてきた。
中学や高校での友達は可愛い子たちが多く、遊びに行くとよくナンパされていたのだ。
私?相手にされなかったどころか「そこの妹ちゃんも一緒でいいからさ」とか言われて引っ叩いたことはある。
そんな感じで、そういった輩でしつこい奴らを物理で排除してきたのだ。
小さい頃からなぜか力が強く、動体視力も良かった。
そんなことを続けていたら、男の子からは避けられ、女の子から告白されるようになってしまったけど。
いや、今はそれどころじゃない。
何か武器になりそうな木の棒でもないかと、周りを見回していると、ふと思う。
私ならそのままでも勝てるんじゃない?と。
さっき膝から崩れ落ちた時も痛くなかったし、もしかしたら狼の攻撃も痛くないかも。
普段の私だったら動物相手に素手で挑むなんてことはしなかったはずだ。
でも今は現実感が無いというか「大丈夫だ」と思ってしまった。
そして私はすぐに走り出し、女の子を庇う様に前に出る。
「私が相手になってあげる」
私は狼相手に指をくいっとし、かかってこいと合図する。
挑発がわかったのか、狼は牙をむき出しにして突進してくる。
「てい!」
私は意識を集中し、突っ込んできた狼にチョップを叩き込む。
防御のことばかり考えていて攻撃が通じるのか気にもしてなかったけど、狼はそのまま小さな悲鳴と共に顎から地面にたたきつけられた。
行き当たりばったりだったけど、無事狼を倒せたみたいでよかった。
何だろう、動物を倒したのにまだ現実感が無くて、ゲームをしているような、一歩離れた場所から見ているような感じがする。
しばらく警戒し、狼が動かないのを確認すると振り返る。
女の子は薄いピンクの髪のショートヘアで、目は髪より少し濃いピンクだった。
「大丈夫?」
「は、はい。 ありがとうございます」
女の子は生気のない瞳をしていたけど、私の声に反応すると、瞳は光りを取り戻してこちらを見た。
本当に大丈夫だろうか?
顔も赤いし今にも泣きそうなくらい目が潤んでいる。
まあ戦えない子供が狼に襲われたらそりゃ怖いか。
「あなたはこんな所で何してるの?」
「えっと、わたし、新人冒険者なんです。 でも戦う力が無いので、薬草採集などの依頼をしてるんです。 今日は気付いたら少し森の奥まで来ちゃったみたいで、そしたらウルフに見つかっちゃって・・・・・・」
そういって狼の方を見る。
なるほど。
冒険者が何なのかわからないけど、依頼を受けてるみたいだし仕事でここまで来たって事ね。
小さいのに頑張ること。
いや、それよりも「少し森の奥」って言ってたから近くに人の住む場所があるって事だよね?
「ねえ、この近くに人が住む場所はある? 私、森から出られなくて」
「あ、はい。 この近くにはモウイの街があります」
知らない名前の街だ、本当に異世界ってこと?
別の国に連れてこられたって可能性もあるけど・・・・・・それだとステータス画面の説明ができないか。
いや、ちょっとまって。
何で言葉が通じてるの?
この子日本語喋ってたよ?
異世界より夢の世界、明晰夢ってやつかな?の可能性の方に天秤が傾く。
あ、でも、ここが作った世界とか言ってたし、言葉を統一してあるとか?
いや、でもそれなら何で日本語?っていう疑問が残るし、夢の可能性もまだまだ・・・・・・
「あ、あの・・・・・・」
私が夢か現実か悩んでいると、女の子が心配そうに話しかけてくる
「あ、ごめんね。 その街まで案内してもらえない? 薬草採集が終わってなければ周りを見張っててあげるからさ」
「いいんですか?」
「いいよ。 それと、年も近そうだし敬語じゃなくて普通に話していいよ。 それじゃあ行こうか」
そういって未だに座り込んでいる女の子に手を差し伸べると
「はい、じゃくなて、うん」
と、笑顔で手を掴む。
「それで、このウルフはどうするの?」
私が手を引っ張り少女を立ち上がらせると、女の子は狼の方を見る。
「え、どうもしないけど? 死体なんて触りたくないし」
あ、でもこういうのってちゃんと埋めたりしないといけないのかな?
「そうなんだ。 ウルフ系は、お肉も毛皮も魔石も売れるからもったいないな・・・・・・」
女の子は後ろ髪を引かれるような表情でウルフの死体を見ている。
埋葬云々の処理のことじゃなくて、欲しいって事か。
これって収納できるかな?
できるなら持って行ってあげようか。
私はいらないけど、この子は欲しそうだし。
試しに手をかざして「狼を収納」と考えると、普通にしまえた。
気にしてなかったけど、触れる必要はないみたいだ。
死体に触れなくていいのは良かった。
「じゃあせっかくだし持っていこうか」
「う、うん。 収納持ちだったんだね、初めて見た」
そんな話をしていたけど、驚いたことに立ち上がったこの子と目線があまり変わらない。
つまり身長がほぼ同じだったという事。
細身なせいかもう少し小さく見えた。
それと、収納は珍しいらしく、持ってる人はほぼいないないみたい。
話を聞いた感じだと、収納には2種類あり「魔法で収納する」のと「収納の魔法を付与した魔道具を使う」だという。
しかし収納魔法使い自体が希少で、今では付与できる人がいないのもあり、収納の魔道具もかなり希少品のようだ。
つまりスキルの収納は無い、もしくは知られていない程レアな物だという事だ。
そして、私は薬草採集の続きをする女の子の周囲を見ながら、自己紹介と気になることを質問してみる。
「そう言えば名乗ってなかったね。 私はユリア。 あなたは? いくつ? なんで仕事してるの?」
小さい私と変わらない見た目という事は、年下の可能性が高い。
今13歳の私より年下で仕事をしてるって事になる。
「えっと、わたしはサクラ、10歳だよ。 今は孤児院でお世話になっていて、生活の足しになるようこっそり依頼を受けてるの。 稼いだお金はそのままだと怪しまれちゃうから、食材を買って、貰ったことにして渡してるの」
すごくいい子じゃないか。
確かに着ている服はちょっとボロい。
採集で汚れたのかと思ってたけど違うようだ。
いや、それよりもすごいことを聞いてしまった。
この子この身長で10歳!?
私と変わらないんだけど!?
いや、私が小さいだけで、この子は普通・・・・・・か?
今までに会った人たちの年齢と身長を思い出しながら考え込んでいたら、サクラの視線に気づき、思考を中断する。
「感謝の気持ちを忘れないなんて優しいね」
衝撃を受けた感情を端に追いやり、会話を続ける。
「その、孤児院が無ければわたしは生きていけなかったし・・・・・・」
褒められたのが恥ずかしいのか、顔を赤くして少しうつむいてしまった。
しばらくお互い無言のままカゴがいっぱいになるまで採集し、いっぱいになった所で帰ることにする。




