121 ジャスミンの初依頼、討伐
「あの岩場って事かな? 結構広いわね」
「うーん・・・・・・あ、近くまで行ってジャスミンちゃんが浮いてみてみるとか?」
「なるほど、あれくらいの高さなら行けるかもしれないわね」
浮遊と言うのは種族にもよるけど、そこまで高く浮くことはできいない。
私の場合は高くでも2階建ての人間の家の屋根に浮いて乗れるくらいしか飛べない。
それでもある程度は見渡せそうだったから、岩場の近くまで行き、浮いて高い岩場に移動して見渡してみる。
すると岩場の中心辺りに木でできた何かがある。
家、には見えないけど、屋根のように木を並べてある感じだった。
「どう? 何か見える?」
「木でできた屋根みたいなものがあるわね」
「オークは見える?」
「見えないわ。 音もここからだと聞こえないし」
今の所魔物の声や何かしている音は聞こえない。
「まあ場所はわかったしこのまま行くわよ」
「うん。 でも大丈夫かな、岩場だと急に出てくることもあるよね? 村で討伐だと思ってたから、ある程度開けた場所で戦えると思ってたんだけど・・・・・・」
「ある程度なら従魔が避けてくれるから、アンズは攻撃といざというとき自分を守ればいいわ」
「う、うん」
アンズが真剣な表情で杖を構えた。
それを見た私は岩場を進んでいく。
私1人なら従魔と共に突っ込むんだけど、アンズがいるからそれができない。
現状お荷物でしかないわね。
私たちは気付かれないように岩場を静かに進んでいく。
なるべく伏せて進み、岩同士を飛び越えたりもしない。
かなり時間がかかってしまったけど、木の屋根が見えるところまで来た。
そこだけ岩をどけたように開けていて、オークが7体いた。
5体は寝ていて2体は見回りをしているのか、太い木の棒のような武器を持ってうろうろしている。
うーん、ここからだと離れていて夢魔の能力が届かない。
見回りがいなければもう少し近づくんだけど・・・・・・
ただ、見た感じ杖を持ってるオークはいないから魔法は飛んでこないでしょ。
たぶん・・・・・・
私がどうしようか考えていると、アンズが小声で話しかけてくる。
「このまま突っ込むの? 合図をくれればそれに合わせて魔法撃って援護するけど」
どうしようかな、正直魔法使いのオークがいないなら1人でいい。
下手に魔法撃ってもアンズが狙われるだけだし。
「私がこっそり行くからアンズは周囲を警戒しておいて、まだ他にも居るかもしれないし」
「え、大丈夫?」
「大丈夫よ、強そうなのはいないし」
そもそもアンズと連携なんてできないので、自衛のためにも警戒しててもらう。
私はアンズと少し離れた場所に移動する。
そのまま突っ込むとアンズも狙われるかもしれないし。
ほんとに邪魔ね、この人間。
少し離れたら従魔から降りて様子をうかがう。
しばらくすると、見回りをしていたオークが私のいるほうに歩いてくる。
警戒はしてないから、見つかったというよりはこっちの見回りをしようとしているようだ。
私は岩陰に隠れ、オークが近くに来たところでオークに触れて一気に魔力を吸い取る。
魔力を一気に失ったオークはそのまま倒れる。
しかし、音がしても困るので、倒れきる前にオークを収納してみる。
まだ収納には入ったし、これでオークの死体は発見されない。
そのままもう1体の見回りオークの様子をうかがっていると、こっちのオークがいなくなったのに気が付いたのか、小走りでこっちに来る。
私は少し下がり、様子を見ることにした。
オークが近くまで来ると、キョロキョロと辺りを見ている。
しばらくキョロキョロしていたオークは武器を構えてゆっくり歩きだした。
よかった仲間を呼び起こされなくて。
2体目のオークが私の近くまで来た時、私はオークに向かって飛び出してオークに触れる。
オークが驚いてる間に、このオークの魔力も一気に吸い取る。
そのまま倒れたオークも収納し、木の屋根の方を確認する。
木の屋根の下ではオークが5体まだ眠っている。
多少物音はしたけど起きてはいないようだ。
こうなってしまえば私の独壇場だ。
今までの2体も一方的だったけど。
少し近づいて夢魔の能力で寝ているオークの魔力を1体ずつ吸い取っていく。
5体の魔力が吸い終わった所で従魔に乗って木の屋根の所まで行く。
確認もかねて収納してみると、無事に5体とも収納できた。
ちゃん倒せてたみたいね。
無事にオーク7体を討伐した私はアンズを乗せた従魔を呼ぶ。
「もう終わったの?」
従魔に乗ったままのアンズが近くに来た時にそう言ってきた。
「どうかしらね。 報告にあった7体は倒したからとりあえずは依頼完了よ。 あとはこの周辺にまだいるかどうかね」
「というかオークはどこ行っちゃったの?」
「収納したわよ」
「あれ、昨日は収納できなくて従魔に運ばせてなかった?」
「そうね。 でもユリアがあの運び方だとまた騒ぎになるだろうからって収納の魔石をくれたのよ」
「えー! ユリアちゃんそんな高い物軽くくれちゃうの!?」
この驚き様からすると、ものすごく高い物だったのかな?
「まあユリアはお金を持ってるみたいだから売って稼ぐ必要もないし、収納自体使えるから魔石なんて使わないだろうし」
「だとしても・・・・・・ん? その首から下げてる魔石が収納の魔石? 魔道具じゃないの?」
あー、この魔石ってユリアが作ったのよね。
あまり広めちゃまずいわよね?
適当にごまかしておかないと。
「よくわからないけどすごく特別な物だって言ってたわ」
「へー魔石だけで使えるのって初めて見たかも。 それとも、この小さな箱や細いチェーン部分が魔道具? うーん、ユリアちゃんの配下になれば私も収納とかもらえないかな・・・・・・」
「そんな気持ちで近づいたら私が追い出すわ」
「あはは、冗談だよ~」
かなり真剣そうな顔してたけど?
「ちなみに私に追い出されてる間に諦めておきなさい。 ユリアに悪意を持って近づくと精霊王女様に排除されるわよ」
「精霊王女様?」
「昨日森に行った時ユリアが連れてた2人の精霊様よ。 あの2人は精霊様の中でも特に強い精霊様で、人間の街なんて簡単に消滅させられるわ。 それ以外にも精霊様の加護をなくされたり、逆に強められたりしたらもう人間の住める場所じゃなくなるわね。 精霊王女様はユリアが大好きだから、あなたの軽はずみな行動で街や国1つ滅ぶかもしれないって事よ」
「ほんとに?」
「ほんとよ。 私だってユリアに引き取られて初めて精霊王女様に会った時、殺されるんじゃないかと思ったわ。 ユリアにとって危険な存在になるって」
精霊王女様と初めて会った時のことを思い出すと、今でも体が震える。
強い相手と対峙してるのとは違う、絶対的な存在と対峙している恐怖は、初めての経験だった。
「そんな風には見えなかったけど・・・・・・あ、でもユリアちゃんの子供がランクBの冒険者倒したって話を聞いたけど、もしかしてその精霊王女様?」
「ユリアの子供って言ったら精霊王女様のどちらかね。 一見おとなしそうだけど、土の精霊王女様はかなり攻撃的で口より先に手が出るようだから気を付けなさい」
「えー、私大丈夫かな、変なこと言ってないかな・・・・・・」
「アンズの事は話に出てなかったし大丈夫じゃない? 内心どう思ってるかは知らないけど」
「うぅ、こわいなぁ・・・・・・」
まあ精霊王女様が何かしようとしてもユリアが止めてくれると思うけど。
「ユリアの嫌がることしなければ大丈夫よ。 よほどユリアに何かしなければ、精霊王女様が怒ってもユリアが止めてくれるわよ。 たぶん」
私の事を引き取ってくれた優しいユリアの事だ。
よほどの事じゃないと怒らないと思う。
「まあアンズの事なんてどうでもいいわ。 周りを確認したら帰るわよ」
「えー!」
膨れているアンズは放っておいて、オークの居た場所を見てみる。
日差しを遮るように丸太の屋根があるくらいで他には何も置いてない。
しかし、よく見ると屋根の奥の方は岩に囲まれたスペースになっているようで、食料が保管されていた。
「これって人間の食べ物よね?」
「え? あ、うん、ジャガイモだね。 あとは処理されてるから何のかはわからないけどお肉だね」
「こういうのって持って行った方がいいの?」
「うーん、腐ってはいないみたいだけど、オークの持ってた物を食べたいかと言われるとちょっとね・・・・・・あ、でもこのままだと他の魔物が住みついちゃうかもしれないから、持って帰らないならこの場で処分した方がいいかも」
私にはわからないし村長にでも持っていけばいいかな。
「なら持っていくわ。 ついでにこの屋根の丸太も持っていった方がよさそうね」
「できるならその方がいいかな。 と言うかオーク7体も入れてまだ入るの?」
「さあ? 貰ったばかりでまだどれくらい入るかわからないのよね」
岩に囲まれていた食料を収納し、屋根に使われている丸太も全部収納する。
まだまだ余裕で入るわね。
しかもこれだけ連続で使ってるのに魔石の魔力も平気みたいだし。
「はー、こんないいものもらうなんてジャスミンちゃんは愛されてるね~」
「そ、そう?」
「じゃなかったらこんな良い物くれないと思うよ? 売らないにしても貴族や王族に献上すればいろいろと優遇してもらえるでしょ?」
人間の事はよくわからないけど、王都の大きな建物で会った人間が偉い人間よね?
それならユリアはもう仲がよさそうだったし、何ならユリアの方が立場が上みたいに見えたけど。
でも、それだけ凄い物をわざわざ私のために作ってくれたのかと思うと、嬉しくて頬が緩んでしまう。
「ふふ、ジャスミンちゃんはユリアちゃんが大好きなんだね」
「なによ、悪い?」
「ううん、良い事だと思うよ。 じゃあ村に戻ろうか」
そういってアンズは従魔の方に向かって歩き出す。
いまいち納得できなかったけど、私も従魔の方に歩いていく。
しかし、従魔の近くまで来た時、背中に何かが当たった。
何だろうと視線をあげると、アンズの背中に木の棒が刺さっていた。
そしてそのままアンズは血を吐きながら崩れ落ちた。
襲撃だと気づき後ろを見ると、弓を持ったオークが2体いた。
まだ残っていたようだ。
オーク2体は再度矢をつがえると、私めがけて発射する。
私は「身体強化」を使い、その矢を片手で払いながら一気にオークの近くまで走る。
そしてそのまま「吸魔」でオークを処理する。
1体目に「吸魔」を使っている間に2体目が殴りかかってきたので、殴られた瞬間2体目の方も「吸魔」で魔力を吸い取ってやった。
そのまま2体のオークを収納し、アンズの元へ戻る。
アンズは背中に刺さっている矢を抜こうと、必死に背中に手を伸ばしているが届かないようだ。
私はどうすればいいんだろう?
私に関係ない人間ならこのまま放置していくところだ。
危険を承知で勝手についてきたんだし自業自得でしょ。
でも問題はこの人間が死んだ場合、オークは倒したけど依頼は失敗になる?
それとも見捨てたと何か罰がある?
いや、そんなことよりユリアはどう思うだろうか。
見捨てたことを怒るだろうか?
知り合いが死んで悲しむだろうか?
そうやって考えている間にもアンズの吐血量は増えていく、結構深く刺さっているようだ。
どうしよう・・・・・・
少し考えたが、今回は助けることにした。
助けなくてもいいようなら次回から見捨てればいい。
でも助けないといけなかった場合、ここで見捨てたら取り返しがつかないことになる。
何よりユリアにどう思われるかが怖い。
助けると決めたからには急いで治療しないといけない。
矢を抜こうと暴れるように体をひねっているアンズを地面に押さえつけ、一気に矢を引っこ抜く。
矢はただ木を削っただけの棒で、返しの付いた石などはなかった。
矢を抜いたら急いで治療の魔法をかけて怪我を治す。
この程度の怪我なら私でも簡単に治せる。
治療をして怪我が治ると、しばらく荒い呼吸をしていたアンズが起き上がる。
「あ、ありがとう。 矢を抜いてポーションを使おうとしたんだけど、矢が抜けなくて本当に死ぬかと思った・・・・・・」
怖かったのか、震えながら肩で息をするアンズが弱々しくお礼を言ってくれる。
ポーションって見たことないけど怪我を治す飲み物だっけ?
「じゃあお礼の代わりにポーション見せてくれる? 見たことないのよね」
「え、ポーション? いいけど。 何ならあげようか? これはそこまで高い物じゃないからジャスミンちゃんなら普通に買えると思うけど」
「ポーションってただ治療するだけでしょ? 魔法で治療できるからいらないわ。 ただ見てみたいだけよ」
私がそう言うとアンズは、腰につけていた少し大きめのポーチから小さな箱のような物を取り出し、差し出してくる。
それを受けり確認すると、蓋がしてある手のひらサイズの木箱だった。
ふたを開けてみると、中には青っぽい?液体が入っていた。
これが治療するポーション?
確か飲めば全身を少し、怪我にかければそこを集中的に直すんだっけ。
意外と小さいのね。
ポーション自体は確認したので、そのまま蓋をしてアンズに返す。
アンズはポーションを受け取ると、そのままポーチへしまう。
まだ震えが止まらず、立ち上がることもできないようなので、アンズを抱えて従魔に乗せる。
ここでアンズが回復するまで待ってるといつになるかわからないから、このまま村まで運んでいくことにした。




