120 ジャスミンの初依頼、村へ
私はさっさと移動しようと従魔を作り出す。
従魔は使う魔力で大きいのから小さいのまで作れる。
今回はこれから移動してその後に戦うことになるから、あまり魔力を消費するわけにはいかない。
オークの数は5体と言っていたけど、それ以上いる可能性もあるらしいし、他の魔物もいる可能性だってある。
相手によっては「吸魔」を使うほど近づけない可能性もあるから、ある程度は残しておかないといけない。
という事で、昨日魔物運搬をさせていた従魔よりも少し大きい従魔を2体作る。
「おお、これが昨日魔物を運んでいた従魔か。 一瞬で作れるんだな」
私の従魔をまじまじと観察する門にいた人間。
従魔自体は昨日見たでしょ。
「アンズはそっちに乗って、まあどっちも同じだけど。 それと、しっかり掴まる事。 途中で休憩を挟むけど、それまでに気分が悪くなったら従魔の背中をたたきなさい。 休憩の回数を増やすわ」
「うん、ありがとう」
お礼を言うと伏せていた従魔に乗る。
それを確認した私も従魔に乗ると、さっそく出発する。
朝に街を出て、太陽がちょうど真上に来た頃に村についた。
その間にアンズが気分が悪いと3回ほど休憩したので、私もかなり休憩できたからそれ以上の休憩は必要なかった。
アンズは休憩中ずっと濡らした布を目に当てて寝転がっていた。
村に行くための分かれ道を曲がったころに、またアンズの気分が悪くなっていて、そこからはゆっくり従魔を歩かせていた。
乗せて走るのは無理だろうし、本人に歩かせることもできそうになかったので仕方ない。
村までもうすぐみたいだし。
そして村に着いたとたん問題が起きた。
村が見える辺りまで行くと、人間が村から大量に出てくる。
どこか行くのかな?
そう思っていると、その人間たちは私たちと対峙するように並び始めた。
その手にはいろいろな道具が握られている。
これは私を敵と認識してる?
私がゆっくり従魔を進めていくと、人間の中から剣を持った他の人間より一回り大きい人間が前に進む。
話が通じるだろうか?
とりあえず従魔を止めて、私は降りてその進んできた人間に近づく。
するとその人間は剣を構えた。
「魔物憑き・・・・・・オークはキサマが差し向けたのか?」
今にも斬りかかって来そうな人間は、そんなことを言い出した。
なるほど、私がオークをけしかけたと思っているのか。
まあ、あまり見ることのない魔族に従魔もいるしね。
「何か勘違いしてるみたいだけど、私は冒険者よ。 オーク討伐の依頼を受けてここへ来たわ」
「冒険者だと? ならギルドカードを持ってるだろう、見せてみろ」
私は言われた通りカードを出す。
人間はカードを出したことに驚くが、すぐに元に戻り、剣を構えたままゆっくり近づいてくる。
「ほ、本物か。 しかしこの魔物は・・・・・・」
私のカードを確認すると警戒を緩めるが、私の従魔を見て難しい顔をしている。
「この子たちは私が魔力で作った従魔よ、魔物じゃないわ」
「従魔・・・・・・そういうのもあるのか。 いや、申し訳ない、急に魔物に乗った魔物憑きが来たから、オークを差し向けた元凶が攻めてきたのかと思ってしまった。 本当に申し訳ない」
そう言うと人間は剣をしまい頭を下げてくる。
私としては敵対されないなら別にいい。
ちゃんと謝ってくれたし。
「村が襲われてるんだから警戒するのも仕方ないわね。 で、村の中には入れてもらえる? どうすればいいか聞きたいんだけど」
「ああ、すぐ村長の所へ案内しよう、付いて来てくれ。 あ、その従魔は解除できないか? 村にそのまま入ると騒ぎになるかもしれん」
「消せるけど、再度作ると魔力を使うから、この後移動や戦うことを考えるとなるべくそのままにしたいのよね。 もしどうしてもダメそうなら消すけど」
新しく作ると魔力を消費するとはいえ、それが原因で人間ともめては意味が無い。
それに、魔力だったらユリアから貰った魔石だってあるし。
「うーん、じゃあ村長と相談してからという事でいいか? とりあえず村長の所まではそのまま付いて来てくれ」
「わかったわ。 もう1人が気分悪くなってて歩ける状態じゃないし」
「そっちの嬢ちゃんは大丈夫なのか?」
「乗り物酔いみたいだし、休んでればそのうちよくなると思うわ」
「そ、そうか」
話がまとまると、その人間は他の人間に向かって大声で冒険者が来てくれたと伝えていた。
すると他の人間たちは喜びながら村に戻って行った。
カードは見せたけど、そんなに簡単に信じていいの?
村に入ると、そのまま村長の家があるという場所まで案内してくれた。
その道中村を見た感じ、被害があるようには見えない。
他の場所なのかな?
「ここだ。 おーい村長、冒険者が来てくれたぞ」
私は従魔を家のそばに伏せさせ、そのまま降りる。
アンズもフラフラしながら降りてきた。
もう少し休んでたほうがいいんじゃない?
案内してくれた人間が村長を呼んで少しすると、建物のドアが開く。
「おお、もう来てくださったのか。 ありがたい・・・・・・」
出てきた村長と呼ばれてた人間は、私たちを見ると固まってしまった。
どうしたんだろう?
「村長、幼く見えるがちゃんとランクCの冒険者だ、カードは確認した」
「そ、そうか。 失礼しました。 お話をしますのでどうぞ中へ」
村長が中へと言うので、アンズと2人で中に入る。
案内してくれた人間はそのまま帰って行った。
中に入るとテーブルに案内されたのでそのまま座る。
アンズは背もたれに寄りかかって上を向いている。
村長が飲み物を持ってくると私たちの前に置き、村長も席に着く。
「本日は来て頂きありがとうございます。 私は村長のボーラと申します」
「私はジャスミン。 こっちはアンズよ」
「それで、依頼の話・・・・・・をしたいのですが、そちらの方は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、依頼を受けて急いできたから乗り物酔いで気分が悪くなってるだけ。 放っておけばよくなるわ。 それにもともと依頼を受けたのは私で、アンズはついてきただけだし」
「そ、そうですか。 では依頼の話をしましょう。 実は、この村は数か月前にもオークの被害を受けていまして、依頼を出していたことがあるのです。 しかしたまたま村に寄った冒険者の方に討伐して頂きました。 オークロード率いるオークの大軍を1人で倒した少女の姿はとても神々しく見えたものです」
「オークの大軍を1人でって、少女って獣人とかだったの? 人間の子供には無理よね?」
「私も詳しく聞いてなかったので、はっきりと人間だとは言い切れませんが、獣人ではなかったと思います。 モウイの街に住んでいると言ってましたので、そちらの冒険者ギルドに聞いていただければユリア様の事もわかると思います」
「ん? ユリア?」
「ご存じですか?」
「知ってるとどころか一緒に住んでるわね」
「おお、そうでしたか。 ユリア様はお元気ですか? ユリア様のおかげでこの村の食糧事情が改善しただけでなく、国王様直々にジャガイモの生産量を増やすようにとのお達しが来たのです。 何でもユリア様が国王様にジャガイモのおいしさと安全性を伝えたことで、国中でジャガイモの生産を増やすことになったと聞きました。 更にその事で国から村に支援金までいただけまして、本当にユリア様には感謝しているのです。 もしよろしければ、ユリア様に村の者たちが感謝していると伝えて頂けませんか?」
「わ、わかったわ。 帰ったら伝えておくわ」
興奮気味にユリアの話をする村長。
びっくりしたけど、ユリアがこの村のためにそれだけのことをしたというのは伝わってきた。
「それで、その時の生き残りがいたって事?」
「すみません、それはわからないのです。 あの時村にいたオークはユリア様がすべて討伐してくださいましたが、それ以外にいたかどうかまでは・・・・・・数日前までは一度もオークは来ませんでしたし、新しいオークたちではないかと思っておりますが」
「ふーん。 まあそのオークがどこから来たかはどうでもいいわ。 居たのは討伐するだけだし」
「おお、ありがとうございます」
さて、オークの討伐だけど、気を付けないといけないのはオークメイジなどの魔法使い系。
オークは近接パワータイプだけど、中には魔法使いなんかもいる。
私は「物理攻撃無効」しかないから魔法を大量に打たれると耐えられるかわからない。
まあそんなに大量のオークメイジがいたら今頃この村は全壊してるでしょうけど。
「それで、オークはどれくらいいるの? 依頼では5体ってなってたけど」
「今確認されているものだけで7体です。 もちろん差異分の報酬はお支払いいたしますのでご安心ください」
正直お金はどうでもいい。
ユリアが受け取ってくれないなら大量にあっても仕方ない。
問題は何体倒したらいいのかがわからないこと。
7体と言われて7体倒したのに、他にもいて討伐してないから失敗とか言われたら堪ったもんじゃない。
「じゃあ7体倒せばいいの? もちろんその場にそれ以上いれば倒すけど『オークを全部倒した』という判断をどこでするのか聞きたいわ。 オークが来ないのを何日も待って確認しなきゃいけないのは困るし」
「そ、そうですね・・・・・・では現状確認できている7体討伐で完了とさせていただきます。 もしその場にそれ以上いた場合は討伐をお願いする、という事で。 依頼の5体を超えた分の報酬は追加報酬としてギルドに報告しておきますので、お受け取りください」
「わかったわ。 それで、そのオークはどこにいるの? あとオークに魔法を使うのがいるかの情報も欲しいわ」
「オークはどうやら村の北東にある岩場を住処にしているようで、その辺りから来ていると報告があります。 魔法を使うオークに関しては現在確認されていません」
オークの住処がわかっていて魔法使うのもいない、と。
それなら特に問題はないわね。
「ならこのまま向かうわね。 その北東の岩場はすぐに見つかる?」
「はい、村の北東に丘がありまして、そこにのぼれば北側に岩場が見えるかと」
「わかったわ。 アンズ、オークの所に向かうけどここで休んでる?」
「うぅ、わがまま言ってついてきたのに何もしないわけにはいかないし、ついて行く・・・・・・」
「無理してついてくる方が邪魔なんだけど」
「もしよろしければ酔い止めの薬を飲みますか? すごく苦い物ですが効果はありますよ」
そういって村長は小さな筒を1つ持って来た。
「だってアンズ、どうする?」
「すみません、いただきます。 おいくらですか?」
「いえ、それで村が助かるのでしたら安い物です。 どうぞお気になさらず」
「その分アンズには頑張ってもらわないとね。 このままだと私にも村にも迷惑かけただけだし」
「うぅ、頑張る・・・・・・にっが!」
ぐでっとしていたアンズが受け取った薬を飲むと、口元を押さえて呻いている。
どれだけ苦いんだろう・・・・・・見ている私まで渋い顔になってくる。
「あー息も苦い。 うー、余計気分悪くなりそう・・・・・・」
「苦いですが飲んで少し休めばすぐよくなりますよ」
村長がアンズを見てそういうので、しばらくそのまま待つことにした。
テーブルに突っ伏していたアンズを眺めていると、ガバっと起き上がる。
「あ、酔いは無くなったかも。 まだ口の中が苦いけどもう大丈夫そう」
「じゃあ、さっそく行くわよ。 アンズのおかげでここに来るまでも時間かかってるし」
「うージャスミンちゃん辛辣~」
「本当の事でしょ。 ダメな人間だと思われたくなかったらこの後活躍しなさい」
「うん、頑張る・・・・・・」
落ち込んでいるアンズと一緒に家をでる。
そして家を出たところで思い出す。
あ、従魔のことを聞くの忘れてた。
「ねえ村長。 今更だけどこの従魔で街の中を移動しても大丈夫? この子たちに乗って移動してたから依頼を受けてすぐに来れたんだけど」
「そういえばそんなことを言ってましたね。 他の事に気を取られていましたが、ずいぶんと速いんですね。 わかりました、従魔については村中に話をしておきます。 ただ、従魔に乗っていただくのを条件とさせてください、そのままだと魔物と勘違いされてしまいますので」
「わかったわ。 じゃあ乗りなさいアンズ、オークの所へ行くときは少しゆっくり行ってあげるから」
「ごめんね、ありがとう」
「村人に説明するついでに私も村の入り口まで同行しましょう」
そのまま村長を先頭に北東方面に村を歩く。
その途中村長は出会う村人に安全だと説明をし、その事を広めるようにとお願いしていた。
村長が一緒だと騒がれないのはいいけど、歩きに合わせてるから遅い・・・・・・
村の入り口まで来たところで村長と別れ、北東の丘へ向かう。
歩きに合わせると遅いと思っていたけど、アンズの事を考えると村を出てからも結局速く移動できないわね。
北東にある丘の上まで行くと、周りを見渡してみる。
今いる場所から北には広い岩場があり、その更に北側には東西の果てまで続く広大な森があった。




