12 キラービー討伐
森で迷っている私は、今後の事を考えることにした。
魔物に負けることはないだろうけど、違う方向に進んでしまったら街には帰れない。
木が邪魔で走って進むこともできないうえに、森が大きければ出られたとしてもかなりの時間がかかってしまうだろう。
食べ物に余裕はあるけど何日分も持ってきてるわけじゃない。
ここに来るまでも薬草はあったけど、相変わらず食べられそうな木の実などが無い。
「どうしよう」としゃがみこんでいると、何かの足音がする。
そしてその音はこちらに近づいてくる。
「ん?」
何だろうと振り返ったらイノシシが背中に突進してきた。
「おっと」
私が微動だにしなかったせいか、衝撃が全部イノシシに行ったようで、ひっくり返って気絶している。
せっかくだから持って帰ろうと、止めを刺そうとした時、大きなハチがイノシシと同じ方向から飛んできた。
あ、これから逃げてきたのか。
もしかしてあれがキラービー?
近づくのを眺めていると大きさがはっきりしてくる。
「いやいやいや、大きすぎでしょ、キモイよ! しかもその氷柱みたいな針は何!? 毒以前に刺殺されるよ!」
近づいてきたハチは針抜きで2m以上あり、針は人間数人は串刺しにできそうなほど長い。
ギルドの話では昨日の毛虫を食べてた?襲ってた?みたいだけど、イノシシも食べるのかな?
いや、逃げてただけで食べられそうだったわけじゃない?
まあどっちでもいいか。
そんな事を考えていると、私の様子をうかがってフラフラしていたハチが、上昇しながら私の方へ飛ぶ。
そして針を私に向けて素早く落下してくる。
私はメイスを出し、蜂の攻撃を回避した後、メイスを腹部に叩きつける。
衝撃で蜂が吹っ飛ぶが、ハチの腹部が少しへこんだだけでまだ元気みたいだ。
見た目の割に硬い。
貫通攻撃の防御効果無視の防御効果って何なんだろう?
ウルフや芋虫は一撃だったから防御力無視なのかと思ってたけど、このハチを見ると違うみたいだ。
今度は身体強化を使い、メイスも両手で構え、再度飛んできたハチに思いっきり叩きつける。
すると「グシャッ」っという音と共にハチの腹部が吹っ飛び、頭部と胸部が私の目の前に落ちる。
達磨落としのようになってしまった。
一息ついてメイスを見ると、少し歪んでいる。
蜂が硬かったのもあるけど、銅製武器はちょっと脆くない?
値段の割に微妙な武器を買ってしまったとため息をつき、ハチを見る。
そのまま放置するわけにもいかないし気持ち悪いので、私はさっさとハチを収納する。
もちろんイノシシも止めを刺して収納したよ。
「ふう、これで終わりかな。 問題は戦ってたからおおよその来た方向すらもわからなくなっちゃったことかな。 どうしようか・・・・・・」
しゃがみながら木に寄りかかり、少し遅いお昼を食べていたら、白い花が落ちてるのに気が付いた。
「これはさっき採集してた癒し草の花か。 あ! これ辿って行けば来た方向わかるんじゃない!?」
私は周囲の地面に落ちた花を目で追って、落ちてる方角を確認した後、落ちてる花を探しながら進んでいく。
足元に集中しながら歩いて行くと、森の雰囲気も少し明るくなる。
出口が近いのかもしれない。
歩いていた方向にそのまま直進すると、森から出られた。
「おお! サクラに採集の方法教えてもらってよかったー!」
両手を上げて「やったー」と喜んでいると、ふと気が付く。
「ふふ、また迷子なところをサクラに助けられちゃったね」
私は昨日採集を教えてくれたサクラの事を思い出しながら街に帰る。
「おう、おかえり」
「戻りました」
門の人に挨拶をして光らせたカードを見せると、そのまま門を通り、ギルドへ向かう。
確か納品は昨日行ったギルドの隣の扉だったよね。
サクラと初めて入った方の扉に入る。
「常設の納品に来ました」
「おう、嬢ちゃんは収納持ちの子だったな。 魔物なら前回同様あっちに出してくれ」
おじさんに言われ、またカウンターにウルフとスモールボア(収納後に名前を確認した)を出す。
「今回はスモールボアもあるのか・・・・・・しかし昨日のウルフもそうだが、切り傷の無いきれいな魔物だな。 これなら・・・・・・解体手数料を引いても結構出せるな」
魔物のチェックをして、魔物の状態に驚きながらも買い取り額を教えてくれた。
「はい、お願いします。 あ、虫って買い取ってもらえたりします?」
カードを渡しながら聞いてみる。
あのハチは魔物みたいだけど売れるんだろうか?
「虫? 普通の虫は買い取らないな。 虫の魔物なら買い取るが」
「あ、じゃあこれも買い取ってもらえます?」
追加でカウンターにキラービー(これも収納後にちゃんと確認した)を置く。
「は!? おいおい、これってキラービーか?」
「そうみたいですね、森で襲ってきたのでグシャっとしてやりました」
「いや、してやりましたって、そんな簡単な魔物じゃないだろこれ」
潰れた腹部を見ながら「なんだこの潰れ方は・・・・・・」とつぶやいている。
「結構硬かったですね。 最初はちょっとへこんだだけでしたし」
「毒は大丈夫か? 体は何ともないか?」
おじさんが急に心配しだす。
「針には刺されてないので大丈夫ですよ」
「こいつは目に見えないような小さな毒の粉を撒くから、広範囲にいる者が麻痺と毒の両方をうける。 知らずに戦った者は麻痺して動けなくなったまま毒で徐々に死んでいく。 キラービーの大きい奴はかなり用心深くて、逃げる相手は追いかけるが、対峙してる相手にはなかなか近づいてこない。 離れたところから毒や麻痺の粉を撒いて、弱らせてから襲ってくるんだ。 それで毒も麻痺も効かないと逃げるか針を向けて襲ってくる、これは個体ごとの性格によって違うと言われているな」
最初のフラフラ飛んでたのは毒の粉を撒いてたのか。
で、私には効かなかったから針を使って襲ってきたと。
なるほどね。
「そうだったんですね、最初フラフラ飛んでいたので、様子見でもしてるのかと思ってました。 そしたら急に針で攻撃してきたんですよ」
「運よく嬢ちゃんに毒の粉が届かなかったのかもしれないな。 だとしてもキラービーを叩き潰す力はとてつもないが・・・・・・」
届かなかったんじゃなくて、スキルの効果で無効になっただけだと思うけど。
キラービーの腹部は2回目の攻撃で半分くらいに潰れていて、おじさんはそれを見ながら呆れたようにため息をついている。
「それで、このハチも買い取ってもらえるんですよね?」
「ああ、こいつも薬や食料になるからな。 珍しい物だしこれだけ奇麗に残ってるんだ、頭部を飾る貴族もいるだろう」
こんな頭が飾ってあったら完全にホラーだ。
自分の家には絶対飾りたくない。
「薬以外は賛同できませんね。 こんなの食べたくないですし飾るなんて気持ち悪いです」
「はっはっは、女の子にはきついかもな。 こいつはかなり高く買い取れる、さっきのと合わせて・・・・・・はいよ、買い取り額だ」
「ありがとうございます」
「Fで倒したのも驚きだが、どこでこんなの狩ってきたんだ? この近くにはいないだろ」
このおじさんは近くの森にハチが出たことをまだ知らないみたいだ。
知ってたら最初にもっと驚くか。
「私はよく迷子になるんです。 なのでどこで会ったかわからないんですよね。 森で会ったのは確かですけど」
「迷子って、よく無事に帰って来たな・・・・・・」
おじさんに呆れられてしまった。
本当に運が良かっただけで、ちょっと間違ってたらどうなってたかわからない。
サクラに会わなければこの街にはこれなかったかもしれないし、サクラに採集方法を聞いてなければ街に帰るのに何日も彷徨っていたかもしれない。
最悪火魔法で森を燃やすか風魔法で切り倒して脱出かな、すごく怒られそうだけど。
あ、土魔法で足場作れば遠くを見渡せたのでは?
頭の中で「ガーン」と響いた気がする。
まだ慣れてないのもあって、魔法を使って解決するという事がすぐに思い浮かばなかった。
意気消沈しながらもお金をもらい、ギルドを出た。
もう日が傾き始めているので宿屋に戻ることにする。
するとサクラがギルドに向かって歩いているのが見えた。
私には気づいてないようで、少し離れた場所をそのまま通り過ぎていった。
私は森で助かった嬉しさを思い出し、後ろからサクラに抱き着く。
「サクラ~、サクラのおかげでまた助かったよ~」
「え、なに!? 何ですか!?」
急に抱き着かれて目を白黒させるサクラだったけど、私だと気づくと落ち着いてくれる。
「ユリアちゃん。 もうビックリしたよ」
「今日サクラのおかげで助かったから、サクラを見たら嬉しくなっちゃって」
「わたし、何かしたっけ?」
私は森で迷ったことと、サクラに教えてもらった採集をしてたおかげで帰ってこられたことを話した。
「わたしの知識が役になてたのならうれしいな」
「えへへ」とサクラが笑う。
照れた笑顔が可愛い。
「そういえばサクラはこんな所でどうしたの?」
抱き着いたまま聞いてみる。
「あ、えっと、昨日の依頼が失敗したまま放置だったから、謝りに行こうと・・・・・・」
抱き着いてる私の腕をギュッと掴んでくる。
どれだけ怒られるのか不安なようだ。
これは伝え忘れてた私が完全に悪いね。
私は素直にサクラに謝る。
「ごめんサクラ。 昨日色々あってサクラに伝え忘れてることがあって・・・・・・」
そう言いながら、私は収納から昨日預かっていた木の板と金貨を取り出す。
「これは?」
「昨日サクラが気絶した後、宿まで運んだんだけど、その前にギルドにも寄ったの。 安全な場所に危ない毛虫がいたことの文句を言いに行ったのと、サクラの採集したものを納品してきたの。 その板に書いてあるのがその時の報酬額で、次回カードを見せれば達成にしてくれるって。 金貨の方はギルドからサクラへの謝罪の気持ちだって。 安全確保をちゃんとできてなかったからって」
本当は毛虫の買い取り額も入ってるけど、そのままサクラに渡す。
私は再び「ごめんね」と言って抱きしめる腕に少し力をこめる。
「助けてくれただけじゃなくてギルドの対応もしてたんだね、ありがとうユリアちゃん。 わたしのために怒ってくれたのもすごくれしいよ」
「でも、私がちゃんと伝えなかったからサクラを不安にさせちゃったよね?」
「確かにすごく怒られるかもって不安だったけど、依頼の事を思い出したのもさっきだから、そんなに長い間悩んだわけでじゃないよ。 昨日起きたときはわたしが宿屋に泊まってることで頭いっぱいだったし、今日の朝は院長先生に何か言われるんじゃないかって、今よりそっちの方が不安だったかな」
そう言って、サクラは笑顔で私の手を取る。




