116 ジャスミンの過去と現在
私はユリアに抱き着いて幸せをかみしめた後、階段を駆け上がり自室に入る。
そしてそのままベッドに潜り込んだ。
顔が熱い。
胸がドキドキする。
お風呂に入った時よりも頭がボーっとする。
ユリアと出会ってから、私の生活は一変した。
最初この家に連れてこられた時、ここに一生監禁されるんだと思っていた。
だってこの家のドアは結界だか封印だかで開けられなくなってたし。
でもそれは違った。
さんざん「外に行かないの?」と聞いてきたユリアの言葉を、ずっと拒否してきた自分のせいで登録できないだけだった。
それ以外もユリアはずっと私の味方だと言ってくれていた。
最初は私を懐柔するために言ってるだけだと思っていた。
でもそれも違ったみたい。
さっき扉に登録してもらい、自由に外に出ていいと言われた。
私が問題を起こさないと信じてくれているって事だと思う。
その事を思い出すと、嬉しすぎて落ち着かない、気持ちが爆発しそうになる。
気持ちを落ち着かせるため、私はベッドの上で大の字になり、深呼吸する。
そのまま天井を眺めていると、だんだん気持ちが落ち着いてくる。
「はぁ・・・・・・」
私も何かユリアの役に立ちたい。
ユリアにずっとそばに居てほしいと思ってもらえるような存在になりたい。
「でも、私に何ができるのかな・・・・・・」
戦闘面で私は種族的に人間より強い。
しかし強いと言っても「普通の人間たちより」と言うだけだ。
ユリアのそばには私の従魔を一蹴したスライムがいつも一緒に居る。
それ以外にも精霊王女様が2人もいて、更に上位精霊様が12人もいる。
そしてその精霊様14人と契約して平然としているユリア。
はっきり言って私がこの家で一番弱い。
だから戦闘面でユリアに協力できることが何もない。
「物理攻撃無効」のスキルを使ってユリアの盾になる事はできるかもしれないけど、それならスライムがいつも一緒に居る。
しかもあのスライムはフェンリルの姿になって戦闘も移動もできる。
魔法だってユリアの方が魔力含めて圧倒的に強いみたいだし、それ以前に私は光属性以外が使えない。
たとえ使えたとしても、精霊様と言う文字通り桁違いな威力の魔法を使える存在が14人もいる。
その中でも精霊王女様がその気になれば、人間の街の1つや2つ一瞬で更地にできると思う。
さっきまでの幸せな気分から一転、自分の無力感に悲しくなってしまう。
何か他の事で力になれないかな・・・・・・
他にユリアが好きなことと言えば食べる事。
食べる量は少なめだけど、食べ物にはこだわりがあるように見える。
私は食べてないけど、精霊様がこれだけ集まっている畑で収穫した食べ物はかなり美味しい物なんだと思う。
しかし人間の食べる物に関しては、戦闘以上に役に立てない。
作業や手順を覚えれば手伝いくらいはできると思うけど、どれだけ慣れたとしても精霊様の足を引っ張る事しかないと思う。
話を聞いている限り、精霊王女様2人が野菜などを育て、上位精霊様が収穫の手伝いや加工をしているみたい。
実際加工は家の中でしているので見たことがあるけど、奇麗に連携してるから手出しできそうもない。
今日帰ってきた時に、精霊王女様2人が畑をいじっていたのを初めて見た。
能力なのか魔法なのかはわからないけど、私に手伝えるような事じゃないのだけはわかった。
「私はこの家にいていいのかな・・・・・・うぅ」
自分の無力さと、大好きなユリアに何もしてあげられない悔しさで涙が出てくる。
ユリアにとって私は、押し付けられただけの邪魔な存在なのでは?
ユリアがうちに来るかと言ってくれたけど、それは私を野放しにできないから仕方なく引き取ってくれただけなのでは?
その考えが浮かんだ瞬間から、悲しくて涙が止まらなくなってしまった。
だめだ、今は何も考えずに寝てしまわないと。
~過去~
私はジャスミン。
私たちは魔族と呼ばれる種族で、魔法の扱いに長けた者だ。
と言っても、私が扱えるのは光属性しかないけど。
そして魔族にはいろいろな種類がいる。
一つ目だったり、角が生えていたり、翼が生えていたりなどなど。
そんな魔族はだいたい数十人くらいの集団で行動する。
もちろん私たち家族も、他の種類の魔族たちと一緒に森の中で暮らしていた。
その中で私の両親は蝙蝠のような羽と、鋭い牙を持っている吸血鬼と呼ばれる種類だ。
当然その吸血鬼の子供の私も吸血鬼だ。
しかし私は変異種と呼ばれていて、かなり低い確率だけど全然関係ない別の種類が混ざってしまうことがあるようだ。
変異種の私は両親のようなカッコイイ羽も牙もない。
その代わりに変異種として追加された、夢魔と呼ばれる種類の特徴である巻き角が2本付いている。
集団の中に夢魔がいなかったので、話を聞いた程度の知識しかないけど。
だからどうという事はなく、両親たちからは愛情を注がれていたし、他の魔族とも関係は良好だった。
そんなある日の昼。
私たち家族は食料である血や魔力を求めて狩りに出ていた。
狩りと言っても獲物を捕って食べるわけではなく、噛みついて血や魔力を吸うだけで、命までは取らない。
軽い貧血になるくらいだと思う。
しかし私には両親とは違って小さな牙しかないので、吸えないことはないけどなかなか難しかった。
けど私には生まれつき「吸魔」のスキルがあり、触れただけで魔力を吸うことができる。
しかも夢魔の特性で寝ている相手なら多少離れていても魔力を吸うことができた。
さらに私には「物理攻撃無効」のスキルもあり、突進してきた魔物の攻撃を正面から防いでそのまま魔力を吸っていた。
私の手際の良さを両親はいつも褒めてくれた。
しかし、それが嬉しくて調子に乗ってしまったのだ。
私たちは普段森の中心近くにいる。
それは中心から離れると、狡猾で残忍な人間族が来る可能性があるからだと教えられていた。
事件のあったその日、私は褒められた嬉しさで、次の獲物を探しながら知らないうちに中心からかなり離れた場所まで来ていた。
両親が止まるように言っていたが、いつもの追いかけっこをしていると思ってしまい、そのまま走り回っていたのだ。
走り回って疲れたので、止まって両親が来るのを待っていると、必死に走ってくる両親が遠くに見えた。
その必死に走る表情が面白くて笑ってみていると、走っている両親の横の草むらから、剣を持った人間が両親に向かって走って行った。
「え?」と思った次の週間、両親が剣で斬られていた。
両親は私の方に意識が向いてたからか、草むらから出てきた人間に反応できずに斬られ、倒れた。
その光景を見た私は怖くなり、見つからないように木の陰に隠れていた。
どれくらい経っただろうか、今は何も音が聞こえない。
頭を抱えて震えていた私は恐る恐る隠れていた木から覗いてみると、そこには誰もいなかった。
周りを警戒しつつさっき両親が居た場所まで行ってみる。
そこは辺り一面血の海になっており、両親も居なかった。
それからのことはよく覚えていない。
気が付いたら私は魂が抜けたように木に寄りかかっていた。
ここがどこなのか、どうやってここまで来たのかもわからない。
そして、意識がはっきりしてくるとさっきのことを思い出す。
声は出ないが、呼吸が早くなり、涙が流れてくる。
私が調子に乗って森の外の方まで行ってしまったせいで、大好きな両親が殺されてしまった。
後悔してもしきれない。
いくら謝っても誰も許してくれない。
泣き叫びたいけど声が出ない。
私はただただ涙を流していた。
それから何日経っただろうか。
もう涙も枯れ、動く気力すらない。
そして気が付くと、目の前には大きめのウルフがいた。
私はそのままウルフに喰われてしまおうと思い、目を閉じる。
しかし私の「物理攻撃無効」のせいでウルフの牙が私に刺さらない。
それでも私が抵抗しないので、喰おうと必死に噛みついてくる。
喰われないままいつまでも噛みつかれていると、だんだん怒りがこみあげてきた。
いい加減鬱陶しい。
私は怒りが爆発し、全力でウルフを殴り飛ばした。
かなり効いたようで、ウルフは立ち上がれずにフラフラしている。
そんなウルフに私は怒りの全てをぶつける。
ウルフの頭や体を殴り、蹴る。
ウルフは逃げようとするので足を噛みちぎる。
さっき散々噛みついてきたお返しだ。
今度はキャンキャン騒ぐので、のどを握り潰す。
ウルフはピクピクと震えた後、動かなくなった。
私は生まれて初めて命を奪ってしまった。
なのに、特に恐怖や後悔はない。
あるのはより強い怒りの気持ちと、復讐の気持ちだけだ。
今度はあの人間たちを殺してやる。
その日以来私は見かけた魔物は片っ端から殺していった。
食事のためではなく、爆発しそうな怒りをぶつけるために。
あとはどうやって復讐するかを考えていた。
人間は単体では弱いくせに、とにかく数が多い。
どれだけいるのかは知らないけど、そう教えられた。
だから人間を殺してしまうと、集団で討伐に来ると言う。
しかし望むところだ、私の命を懸けて人間に復讐してやる。
復讐後に死のうが関係ない、少しでも多くの人間を道連れにしてやる。
向こうが数で来るならこっちも数を用意するまでだ。
~それから約50年~
毎日少しずつ作り続けた従魔は、自分でもどれだけいるかわからない。
魔力を消耗すると消えてしまうので、大人しく待機させていた。
そのまま増え続けていた従魔がだんだん森の外に近くなっていく。
そうなると当然人間が討伐に来るわけで、作った従魔たちが倒され減っていく。
最初の内は作る方が早かったけど、だんだん作る以上に倒され始めて行った。
これ以上時間をかけても数は増やせないと思い、私はすべての従魔たちを人間の王都があるという方向に特攻させた。
私も特攻させた従魔たちを追いかけるように王都へ向かう。
森の出口辺りでいったん止まり、森の外の様子を確認する。
すると、すでに人間たちが先に突撃していったウルフ型の従魔と戦っていた。
思っていたより人間の数が多い。
いや、あの数に攻められる前に行動できてよかったのかもしれない。
そのまま様子を見ていたけど、聞いていたよりも人間どもが強く、ウルフ型従魔はかなり削られてしまっている。
私の襲撃を察知して精鋭を送って来たのかもしれない。
これはまずいと思い、急いで増援を送る。
私は後ろから走って来ていた二足歩行の従魔をさらに急がせる。
二足歩行の従魔が森から出て、もうすぐ合流できると思った時、巨大な魔獣が現れた。
何? 敵? それとも第三勢力?
焦りながらその魔獣をよく見ると、なんとなく知っているような気がする。
いや、それよりも背中に人間が乗っているじゃないか。
という事は敵確定。
しかもあの大きさの魔獣使いとなるとかなりまずい。
数が多いだけの人間相手だと思って強い従魔は作っていない。
強さよりも量で押し切るつもりだった。
しかしあの大きさの魔獣相手では、弱い従魔がいくら集まっても怪我1つ負わせられないかもしれない。
だからと言って放置するわけにもいかないので、とりあえずは予定変更。
あの魔獣の機動力を削がないとこっちが蹂躙されてしまう。
とりえずウルフ型従魔たちには人間の足止めを、それ以外の従魔たちは全員で魔獣に向かわせた。
しかし想像以上にあの魔獣が強い。
こちらの攻撃は通ってるようには見えないのに、あの魔獣の一撃一撃がこちらの数を確実に削っている。
従魔たちが少しでもダメージを与えて機動力を落としてくれれば、最後は私が突撃して「物理攻撃無効」と「吸魔」で仕留められるかもしれない。
そう思い心の中で従魔たちを応援しながら様子をうかがっていると。
さっきまで赤い靄を纏っていた魔獣が、茶色い靄を纏い始めた。
今度は何する気?
茶色い靄を纏った魔獣は遠吠えのような姿勢になる。
けど何も聞こえない。
特定の相手にしか聞こえない音?増援が来る?と思った瞬間、地面が割れた。
それで理解した。
赤い靄の時は炎を吐いていたが、茶色い靄になったとたん土魔法を使ってきた。
つまりあの色はどの属性を使うかを表していたんだと。
しかし理解した時にはすでに遅く、従魔はすべて地割れに飲み込まれてしまい、あとには何も残らなかった。
終わった。
一瞬の出来事だった。
約50年かけた私の復讐計画は森を出てすぐ終わってしまったのだ。
はぁ、もういいや。
あの魔獣の魔法なら簡単に死ねるかもしれない。
「まさか全部倒されちゃうとは思ってなかったわ」
森から出て行った私は、特に意識せず魔獣に乗っていた人間に話しかけていた。
すると魔獣使いの人間は魔獣から降りて近づいてきた。
止めを刺しに来たんだろうか?
というかこの人間小さくない?
人間じゃなくてハーフエルフ?
確かエルフやドワーフには人間と一緒に住んでる者もいると聞いたことがある。
その人間?の少女からは敵意を感じず、おとなしく捕まるかと聞いてきたので、一族の掟で勝者に従うと言った。
もちろんそんな決まりはない。
自分で考えるのが面倒になっただけだ。
どうせ殺されるんだ、もうどうでもいい。
すると少女は私を王都に連れて行くという。
今回の騒動の元凶を晒し者にするって事か。
どのみち私に選択肢は無いので、少女に従っておとなしくついていく。
私たちを乗せた魔獣は、ものすごい勢いで人間の王都らしき場所まで走って行く。
さすがに魔獣に乗るのは怖かったけど、どうやら魔獣ではなくスライムのようだ。
でも何でスライムがあんなに魔法使ってたの?
そんな疑問をよそに私は王都の街の中を連れていかれる。
物珍しく周りを見ていると、一軒の大きな建物に入って行く。
そこは広い空間があり、机や椅子がいくつも置いてあった。
集会でもする場所なのだろうか?
少女と机の向こうの人間の話を聞くかぎり、この建物は今回の騒動対策のために人間たちが集まっていたようだ。
つまり森の外にいた人間たちはここから来たという事か。
ここで引き渡されるのかと思っていたけど、報告だけして建物を出てしまった。
私はまたも手を引かれて人ごみを歩いていく。
今度来た場所は一番大きな建物がある門だった。
ここが一番偉い人間がいる場所なのだろうか?
少女が門にいた人間と軽く話をすると、再度私の手を引いて中へ向かう。
そのまま建物の中に入って行き、かなりの距離を歩いたところで、1つの扉の前で止まる。
どうやらここに報告する相手がいるようだ。
ここからしばらくジャスミンのターンです。




