111 ジャスミンと森へ2
ウルフにゆっくり近づいたジャスミンに、ウルフは飛び掛かって来た。
それをひらりとかわし、横っ腹に手を平を当てる。
何をするのかな?と思っていたら、ウルフがその場で倒れ、それと同時に地図の反応も消える。
どうやら倒したようだ。
アンズさんが驚いていたけど、私には何となく何をしたのかわかっていた。
多分魔力を吸い取ったのだろう。
「倒したの?」
「ウルフ程度攻撃する必要もないわ。 で、これを持って帰ればいいのよね?」
ジャスミンが振り返り私に聞いてくる。
魔力を吸うのは攻撃扱いじゃないのかな?
「そうだね。 解体して素材を持って行ってもいいし、そのまま持って帰って解体してもらってもいい。 それは人それぞれじゃないかな? もちろん解体してないと手数料引かれちゃうけどね」
「そのままでもいいならこのまま持っていくわ。 解体なんて時間かかるし」
そう言うと、ジャスミンはウルフの近くに一回り小さいウルフを魔力で作り、ウルフを乗せて運び始めた。
「え、なにそれ!」
当然知らないアンズさんは驚いている。
私は前に王都西の森近くで見たから知っているけど。
「魔力で作った従魔よ。 私はまだ収納が使えないからこうやって運ぶしかないのよ」
「少し小さいけど本物そっくり・・・・・・」
「魔物なら私が運ぼうか?」
討伐はジャスミンがした方がいいだろうけど、荷物運びくらいなら手伝ってもいいんじゃないかな?
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、今回は私がどこまでできるかも試したいから、倒した魔物を持って帰れるかも確かめたいの。 今までは倒しても運ぶことはなかったから、大量に運んだことはないし」
ジャスミンは真剣にできる事を確認しようとしているようだ。
そういう事なら余計なことはせず、見守っていよう。
それ以降もウルフやスモールボアが単体で出てくるが、みんなジャスミンに魔力を吸収されてあっさり倒れてしまった。
ジャスミンの後ろをついていくようにウルフやスモールボアを乗せた従魔が続く。
そのせいでジャスミンのすぐ後ろにいたアンズさんが私のそばまで下がっている。
「あの子凄いね。 魔物憑きの子供だよね? 初めて見たけどこんなことできるんだね」
アンズさんは素直に驚いていて、恐れたり敵対したりする様子はない。
王様やギルマスさんの言う通り、普通に人として扱われているのかもしれない。
それにしても子供って言ってるけど、ジャスミンの方が私たちより年上なんだけど。
まあそれを言ったら「私の子供」とか言ってるけど、精霊たちの方が年上なんだろうけどね。
「ジャスミンがうちに来たのは少し前ですけど、こうやって戦うところを見たのは初めてなので私も驚いてます」
「そうなんだ。 あれって魔力で生き物を模って操作してるんだよね? できる気がしないけど、頑張れば近いことはできるようになるのかな?」
魔法使いとしてジャスミンの魔力操作に感動してるようだ。
試しに私も土魔法でウルフを作ってみたが、ジャスミンのような本物っぽくはならず、ちょっと粗い石や木彫りの彫刻のようになってしまった。
あの運び方は私でもできそうだけど、あんなに精巧な物は土魔法では作れない。
ステータス画面を開いてお昼になったころ、中断してみんなでパンや串焼きで軽くお昼にする。
みんなと言っても主にアンズさんのためだ。
ジャスミンは朝と夜に魔力をあげればいいし、シアは基本何も食べない。
たまに果物などを食べるくらいかな。
ディアが唯一私と一緒にご飯を食べてくれる。
アンズさんは腰につけていたポーチのような物から干し肉を出して食べようとしていた。
でも1人だけ干し肉食べさせるのはかわいそうだったので、アンズさんにも食べ物を分けてあげた。
と言ってもたまに屋台で買うもので、私が作った物じゃないけど。
「いいの? ありがとう・・・・・・あれ、この串焼きもパンもまだ温かくない?」
「私は収納しても劣化しないんですよね。 なので買っておけばいつでも出来立てが食べられるんです」
「へー、魔法が得意だったり強かったりすると収納魔法にそんな効果が出るのかな? 私も収納使えるようにならないかな・・・・・・劣化なしとまでは言わないから、普通の収納が使えるようになりたい」
アンズさんは自分の手や杖を見ながらため息をついている。
私も収納魔法は試したけど、私が使っても時間は進んだからたぶんスキルじゃないと時間停止にならないと思う。
休憩が終わった後、ジャスミンにこの後どうするか聞いたらこのまま進むというので、再度ジャスミンを先頭についていく
それから数十分ほどで森が暗くなっている場所に着いた。
ここから木が多くなり、日の光が届かなくなってくる。
しかしジャスミンはお構いなしにそのまま進んでいく。
どうやら暗闇でも見えているようだ。
「ちょ、ちょっと待って。 こんな暗い所進むの?」
「私が明るくしますので大丈夫ですよ」
どんどん進んでいくジャスミン。
けど暗くてアンズさんが止まってしまったので、光の魔法で明るくしてあげる。
私も見えないしね。
光の魔法は私の周囲を明るくしているだけなので、ジャスミンの従魔は見えるけど、それよりも先頭にいるジャスミンまでは見えていない。
「そろそろ帰らない? こんなところまで来る冒険者居ないよね?」
「そういえばスズランさんが、暗くなっている先はほとんど冒険者が行ったことないとか言ってましたね。 私は前に来ましたけど」
「ただでさえ森で視界が悪いのに、更に光もなくなったら奇襲され放題だもん。 危ないでしょ?」
それもわかるけど、それでも調査できる人がいないと、前のサクラみたいなことが起きる可能性が高くなってしまう。
だからと言って冒険者が無理して奥まで来ても、それはそれで被害が大きくなってしまう。
いっそジャスミンにはモウイの街を中心に活動してもらうっていうのもありかも?
ゲートを使えばすぐに行き来できるんだから、夜は普通に帰ってくればいいし。
「ん、少し広い場所に出たわね」
私が今後の事を考えていたら、前回私が来た場所まで来てしまっていた。
地図は表示したままにしていたけど、赤いアイコンに反応して見ていただけで、地図としてちゃんと見ていなかった。
地図を縮小してみると、この洞穴まで来る方向が違っただけで、違う方向には私が通った時の地図が表示されていた。
街の方からすぐ森に入ると、私が前回通った場所より少し早く着くね。
そして、再び地図を拡大表示にすると、前回石が置いてあっただけで何もいなかった洞穴に今は魔物の反応がある。
「あそこの洞穴に何かいるわね」
ジャスミンも気づいているようだ。
しかし、今までと反応が違う。
警戒している?
「大丈夫?」
「今までのようには行かない魔物がいるわね。 何かはわからないけど、強そうな気配がするわ」
地図に表示されている名前はサーベルタイガーだ。
確かそんな動物がいた気がする。
牙が大きい虎だっけ?
「サーベルタイガーがいるね。 強いのかな?」
「ユリアはそんな離れた場所から何がいるかもわかるの?」
「いや、それよりも本当にサーベルタイガーがいるの? 確かタイガー種でもとくに噛みつく力が強くて、一度でも噛みつかれたら、鉄の防具でも助からないって言われてる魔物だよ」
「どうする? ジャスミンが厳しいようなら私が倒しちゃうけど」
「軽く言ってくれるわね。 そんなに優しい魔物じゃないわよ? でも今まで魔力は温存してきたし、全力で一気に仕留めてやるわ」
そう言うとジャスミンはゆっくりと近づいていく。
私が近づくと明かりで場所がバレてしまうので、私はこの場で待機する。
光を少し弱くして地図を見ていると、ジャスミンがサーベルタイガーのいる洞穴にかなり近づいていた。
気付かれないのだろうか?
「ちょっと、何で明かり弱くしてるの? 危なくない?」
「サーベルタイガーを刺激しないようにです。 離れてるので大丈夫だと思いますけど念のためです。 それと、話すときはもう少し小さい声でお願いします。 声がサーベルタイガーに聞こえてしまうかもしれないので」
「あ、ごめん・・・・・・」
光を弱くしたことに驚き、少し大きめにこっちに話しかけてきたアンズさんに注意すると、落ち込んでしまった。
フォローしてあげたいけど、今はそれよりもジャスミンの安全が優先だ。
『ねぇ2人とも。 ジャスミンが何してるかってわかる? 場所はわかるけど、何してるかまではわからないんだよね』
『・・・・・・草むらに隠れて様子を見てるの』
私の質問にディアが答えてくれた。 ジャスミンの近くにいる精霊に聞いてくれたようだ。
『勝てそうかどうかってわかる?』
『そんなのやってみないとわからないでしょ。 精霊は契約してない相手の場合、魔力をどれだけ持ってるかは何となくわかるけど、個体能力まではわからないし』
どうでもよさそうに、眠そうな声で答えたのはシアだった。
ジャスミンがいなくなって私の腕にしがみ付いているディアもただ頷いている。
どうしようかな、私が近くに行ってあげたいけど、明かりをつけたままだと見つかっちゃうだろうし、光を消すと何も見えない。
魔物がジャスミンに気付いた後なら、近づいても奇襲の邪魔にはならないと思う。
けど問題はアンズさんがいる事だ。
ディアやシアは強いし特に問題はないと思うけど、アンズさんが襲われたらどうなるかわからない。
土魔法で守るのが得意だって言ってたし、魔物が気づいたら自分を守りながらここで待機してもらう?
とりあえずアンズさんに聞いてみようか。
「アンズさん、魔物がジャスミンに気付いたら私は様子を見に行きますけど、アンズさんはどうしますか? 一緒に行くか、ここで壁作って待機するのか」
「サーベルタイガーは見てみたいけど、私が行っても足手まといになっちゃうよね?」
「私が狙われるなら問題ないですが、アンズさんが狙われた場合絶対に助けられるとは言えないですね。 なるべく護りますが、誰かを護りながら戦ったことがないので、できるだけ自分の身は自分で護ってほしいです。 怪我程度であれば治せますけど、即死しちゃった場合は多分どうしようもないと思いますし」
私の言葉でアンズさんは悩んでいる。
そんな危険を冒してまで見たいのかな?
もちろん一緒に行く場合、ディアとシアをアンズさんの護りにつけるつもりだ。
それでも確実に護れるかはわからない。
アンズさんが悩んでる間も地図は確認しているが、ジャスミンは動かない。
何してるんだろう?
しかしいつ動き出すかわからないので、アンズさんにはさっさと決断してもらおう。
「どうしますか? ジャスミンがいつ動くかわかりませんので、そろそろ決めてほしいんですけど」
「・・・・・・一緒に行くよ。 こっちに来そうだったらすぐに土魔法で壁を作りまくる」
「わかりました。 魔物が動いたら私も近づきますので付いて来てください」
「うん、わかった」
『という事らしいから、この後移動したら2人はアンズさんを護ってあげて。 私が間に合わなさそうだったらジャスミンも護ってあげてほし』
『めんどくさいわね、ママが行ってさっさと倒しちゃえばいいのに』
『ジャスミンの訓練も兼ねてるからね、全部手を貸しちゃうと意味がないし』
『はぁ・・・・・・ならディアはその人間を見てて。 私はあの魔族を見てるから』
『わかったの』
なぜかシアが仕切り始めた。
まあいいか。
『それで、そのスライムは使うの?』
『その予定はないけど、コウスラもいたほうがいいかな?』
『念話が使えないし連携は取り難そうね。 正面から戦うならいてもいいと思うけど・・・・・・今回はいなくてもいいわ』
『わかった。 じゃあ魔物が反応したら動くからね』
何だろう、シアはさっきまで眠そうにしてたのに、どんどん元気になっていく気がする。
こうやって指揮するのが好きなのかな?




