109 ギルマスと今後の話
二階に上がってからすぐスズランさんは戻って来て「許可がもらえたので二階に来てください」と言うので、登録のために離していたジャスミンの手を引いて二階に上がっていく。
二階に上がると、スズランさんが部屋の扉を開けて待っててくれたので、私たちはそのまま部屋に入る。
「おう、さっきぶりだな。 好きに座ってくれ」
ギルマスさんに言われて、私はソファの真ん中に座る。
シアは抱っこしたまま膝の上に、ディアは私に寄りかかるように座っている。
ジャスミンは私の隣に座り、私の手を握ったまま腕にしがみついてくる。
囲まれてて動けない。
ギルマスさんは正面に座り、スズランさんがその斜め後ろに立っている。
「じゃあ話を聞こうか」
さっきまでの笑顔ではなく、真剣な表情になっている。
「カーミトの街は知ってますか?」
私は本題に入る前に、カーミトの街についてどこまで知ってるのかを聞いてみた。
「カーミトの街って言うと、何年か前に大型の魔物に襲撃されて壊滅した街だよな。 神罰だとか言う輩もいたらしいが、特に悪事を働いていた街ではなかったはずだ。 で、その後・・・・・・2~3年前だったか?にその魔物を倒すために冒険者と騎士を大勢送ったが敗北した。 それ以降その街の近くは進入禁止の危険地帯になっている。 これがちょっと前まで知られていた話だ。 だが、最近その魔物が討伐されたらしい。 しかし詳しい事は知らされてない。 王都で素材が出回ってるから、嘘でないことはわかっているがな。 その結果今まで大型魔物と言われていた魔物が、フェンリルという大型魔獣だということがわかった。 ここまでは知ってるやつがそれなりにいる話だが・・・・・・」
そこまで言って、ギルマスさんは目を細めて私を見る。
討伐したのはお前じゃないのか?と目で訴えられてるようだ。
「私もその話は聞きましたね。 誰がどうやって討伐したのかは知りませんが、商人の話では販売していたのは国らしいので、王族と関係のあるAランクの冒険者か騎士様だと思うんですよね。 でも、それならだれが討伐したのかも一緒に広まると思うんですよ。 同行したB以下の冒険者であれば絶好の昇格機会ですし、上がらないとしても名を売る事が出来ます。 騎士様であれば国の威光を示すいい機会ですし」
「討伐したのは冒険者だという話だ。 しかしこれは箝口令が敷かれていて、知っているのは王族と、上位貴族とギルドの一部だけだ」
「ちょっと待ってください! 箝口令が敷かれているのに話したらまずいですよ!」
「まあそうなんだが・・・・・・その討伐したのはユリア、お前じゃないのか?」
ギルマスさんは確信してるのか、箝口令が出てるのに普通に話している。
当たってるんだけど、もし違ったらどうするんだろうか。
スズランさんは、ギルマスさんが箝口令が敷かれている話をしちゃったことと、その話の討伐者が私じゃないかという話を聞いて、目を白黒させながら私とギルマスさんを見ている。
「違うって言ったらどうするんですか?」
「違うのか?」
確信しているようで、即座に返される。
「・・・・・・はぁ。 そうですね、私です。 特に口止めはしてなかったんですけど、箝口令まで出てるんですね。 王都でフェンリルを出した時、解体のために結構な人がいたので、すぐ広まっちゃうと思ってましたし」
「陛下の気遣いだろ。 事が事だからな。 話してから口止めしたかったと言っても遅いだろ? すぐに広まっちまうからな。 だから広まっても大丈夫なら、ユリアの口から話せばいいようにしたんだろ。 普通ならそんな話をしても嘘つき呼ばわりされるが、王族や上位貴族などのお偉いさんが証人だからな。 あとから正体を明かしても問題ない」
そこまで考えてくれてたんだ。
特別隠す気はないけど、その気遣いは嬉しいね。
今度何か持って行ってあげようかな。
「まあそんなわけで街の周りが安全になった、という話は知っているが、その程度だな」
「なるほど・・・・・・実はその街なんですが、私が王様から譲ってもらったので、今の所有者は私なんですよ。 なのでそっちに引っ越して大きな畑を作ろうかな、って思ってるんです」
「冒険者をやめて領主になるのか? それだけ強いのにもったいないな」
ギルマスさんは渋い顔をしながらそんなことを言う。
「街の管理をする領主は別の子に頼んでますよ。 私にはできませんし。 ただ所有者が私というだけです」
「それなら所有権も譲ってしまった方が楽なんじゃいいか? 所有権だけ持ってるより売っちまった方が面倒事も無くていいだろうに」
「これは誰にも言ってないんですが、領地を守るため、ですね。 領主が発表されればすぐにわかる事なので話しちゃいますけど、新しく領主になるのはこの街の孤児院にいるサクラなんですよ」
そう言った瞬間、二人が驚愕の表情で私を見る。
まあそういう反応になるよね。
「まてまて、何をどうしたら孤児が領主になるんだ。 無理やりねじ込んだにしても、孤児に領主なんて無理があるだろう」
「普通の孤児だったらそうだと思いますが、サクラは王様に頼んで領主教育を受けてるんですよ。 なのでそこは問題ないと思います。 領主の補佐として宰相の娘さんをつけてくれると言ってましたし」
教育の話はしたけどサクラが元貴族なのはとりあえず黙っておく、サクラの過去の話だしね。
「わざわざ孤児に教育するのをよく許可してくれたな・・・・・・」
サクラは元貴族とはいえ、ずっと教育は受けていなかった。
そう考えると、領主は国が用意するものだと言っていたとはいえ、一からとまでは行かないとしても教育してくれた王様には感謝だね。
「そんなわけで新しく領主になるのは子供のサクラなんです。 なので、他の貴族が何かして来た時に私が土地の所有者として排除しようと思ってるんです」
武力での解決ができなかったとしてもこっちには精霊がいる。
領主の館に土の精霊送ってジャングルにしたり、水の精霊を送って毎日雨にすることもできる。
やってくれるかはわからないけど、ディアとシアならある程度手伝ってくれるとは思う。
「なるほどな、その街に手を出すと戦技大会で優勝した冒険者を敵に回すことになるって事か。 それは確かにユリアの事を知っていれば抑止力になりそうだ。 それで、いつから引っ越すんだ? あとはこの街にはどれくらいの頻度で来るのかも知りたいな」
カーミトの街は畑を移動して、家を建てるだけなら今日からでも住むことができる。
カーミトの家とモウイの家のゲートを使えば、いつでもこっちに来ることはできるし。
問題はギルマスさんたちにもゲートの話をするかどうかだけど、今の所教えなくてもいいかな?
今までもギルドはそんなに来ることもなかったし。
そういえば。
『ねえ』
『どうしたの?』
『何?』
私の念話に2人が反応する。
シアが今日でディアと同じサイズまで大きくなっていたけど、成長したからか3人で念話することができるようになったんだよね。
『ディアやシアって精霊と意思疎通できるんだよね?』
『できるの』
『できるわね』
『それって属性とか距離とか制限はあったりする?』
『違う属性でも意思疎通は普通にできるの。 でも同じ属性の方が届きやすいの』
『まあ違う属性でも海の向こうとかでもなければ届くわよ』
『そうなんだ、ありがとう』
という事は、何かあればスーちゃん経由でディアたち→私に連絡が取れるという事だ。
私とディアたちが離れていても念話はできるみたいなので、家にいるディアたちと連絡が取れれば私にも連絡が取れるということ。
緊急時はそれで呼んでもらえばいいかな。
普段から呼ばれたら受信拒否してもらうけど。
「引っ越しの日程についてはまだ決めてませんが、そんなに遠くないうちに引っ越すと思います。 でもジャスミンが冒険者活動するならこの街に頻繁に来ると思いますけど」
ゲートでね。
「あと、もし緊急の用件があるなら、スズランさんの精霊からうちの精霊に伝言してもらえれば来ますよ」
「そんなことができるのか!」
私の話を聞いた後、ギルマスさんは勢いよくスズランさんの方を見る。
それにびっくりしたスズランさんはただ首を振るだけだった。
「できないみたいだが?」
「スズランさんがスーちゃんに伝言をお願いすれば、スーちゃんがうちの精霊に念話で伝えてくれますよ。 私はうちの精霊たちと念話で話ができますので、たとえ近くにこの子たちがいなくても私に伝言は届きます」
「おいスズラン、さっそく部屋から出て試してみろ」
ギルマスさんに言われ、頷いたスズランさんは部屋から出て行った。
しばらくするとディアとシアが反応する。
「本当にスーちゃんから伝言なんてできるのかな? あー、それにしても小腹空いたな。 うーん、この辺りでいいかな。 えっと、なんていえばいいんだろう? とりあえず聞こえてますかー、っと。 スーちゃん、これでいい? って念話が来たの」
「用件だけじゃなくて、あの人間が言ったこと全部伝えてきたみたいね」
スズランさんの伝言と言うか呟きをそのまま伝えたスーちゃん。
そして、それをそのまま言葉にしたディア。
それを聞いて呆れているシア。
ギルマスさんは「何言ってんだこいつ」って顔をしている。
これスズランさんに伝えていいんだろうか、すごく恥ずかしいよね?
でも伝えておかないと今後も全部念話で飛んできてしまう。
やっぱり言わないとダメか。
そんなことを考えているとスズランさんがノックして部屋に入って来た。
「どうでした?」
「おう、お前さんの空腹と共に伝わったみたいだぞ」
「なっ!?」
スズランさんはお腹を押さえ、顔を赤くしながらスーちゃんを見ている。
「伝言する場合は何を伝えたいか言っておかないと、話したこと全部伝えちゃうみたいですね。 でもこれで伝わるのはわかったと思います」
「は、はい・・・・・・」
恥ずかしそうにしながら最初に立っていた位置まで移動した。
「まあ何はともあれこれで連絡できるのはわかったし、緊急時は活用させてもらう。 危険な討伐や調査以外に治療で呼んでもいいか? もちろん普通の怪我などであれば治療魔法使いに頼む。 だがあまりに怪我がひどい時など、手に負えないような状況で、その怪我人が大金を出してでもお願いしたいと言った時だけ呼ぼうと思う。 もちろんそれなりの金額は要求するつもりだ、切られた腕だって治しちまう治療だからな」
「頻繁に呼ばれないのなら構いませんよ。 値段などはギルドにお任せします。 治療の相場とか知りませんし」
「もちろんだ、ギルドとしても一冒険者に頼りっきりというのは良くないから、できるかぎり自分たちでやるつもりだ。 でないと他も育たないしな。 治療の値段に関しては今ある治療費に加えて、怪我の状態と本人と相談だな」
それなら別にいいか。
これで紹介も引っ越しの話もしたかな。




