108 ジャスミンとギルド2
「おう、早かったな、もう戻って来たのか。 それで、優勝したんだってな。 とりあえずはおめでとう。 まあ優勝まで行かなかったとしても、上位には行くだろうと思ってたけどな。 で、陛下は何か言ってたか?」
下りて来たギルマスさんが私を確認すると、歩きながら話し始める。
「何か?」
優勝した時に言われたことって言うと、ダンジョンの事だろうか?
「ランクの話や国お抱えになるとか、そんな話はなかったか? 地方の街に居るだけの冒険者が優勝したんだ、召し抱えられてもおかしくはない。 それに大会にはAランク相当の実力者もいたはずだし、優勝者がランクBのままっていうのもおかしな話だろう」
そう言われるとそうなのかもしれないけど、特に何も言われていない。
スキルについては言ってた気がするけど、ランクについては何も言ってなかったと思う。
私が前に面倒だからAランクになりたくない、と言ったから王様が気を使ってくれたのかもしれないね。
それに、冒険者の事はまだ詳しくないけど、戦闘力だけあってもダメなんじゃないかな?とも思うし。
「上位4人でダンジョン攻略をお願いされたくらいで、他は何も言われてませんね」
「あー、あの強いだけで旨味の無いダンジョンか。 ん? 攻略するのに帰って来たのか? それともわざわざ報告するためだけに帰って来たのか?」
「4人での攻略なら断ってきました。 長期間王都にいられませんし」
「は!? 陛下の頼みを断ったのか? よく無事だったな」
ギルマスさんの言葉にスズランさんが信じられないという表情をし、周りの冒険者たちもざわつき始める。
「断ったのは4人での攻略で、1人での攻略は落ち着いたらする約束はしましたよ」
「いや、だとしても陛下直々のお願いは命令みたいなものだし、断れば周りの騎士や貴族連中だって黙ってないだろ」
「そうなんですか? 特に何もありませんでしたけど。 王様も元々断られるのがわかってたみたいですし」
そう言った私に、ギルマスさんは眉を寄せながら口を開く。
「・・・・・・ユリア、ここに来る前は王族だったりするのか? それならその対応もわからなくはないが。 まさか王太子妃になったとか?」
「私は一般人ですよ。 王太子妃って王子のお嫁さんでしたっけ? ありえないですね、考えただけで寒気がします」
王子は初めて会ったとき以来話はしてない(と思う)。
その時は「もう関わりたくないな」くらいにしか思ってなかったけど、時間がたつにつれて嫌いな人、怒りの対象になっていたようだ。
自分でも知らない間に王子をどんどん嫌いになっていたみたいだけど、別に王子には用が無いし、関わることも早々ないだろうからこのままでもいいと思っている。
「王太子妃になれれば次期王妃殿下だぞ? 王子はユリアと年も近かったはずだし、ユリアは冒険者として活躍してるしな。 今は貴族じゃないが、その年齢なら今から成人まで教育もできるだろう」
「どんどん変な方向に話を進めないでくださいよ。 正妻だろうと側室だろうと、王子と結婚なんてするつもりはありませんよ。 そもそも、私が王子を良く思ってないのは王様も知ってますし」
「そうなのか?」
「初めて王子と会った時、喧嘩を売られたので、買って脅してやりましたし」
「いやいや、王子にそんなことしたら陛下や騎士が黙ってないだろ」
冗談だと思ったのか、笑われてしまった。
「王様の目の前でしたけど、仕掛けた王子が悪いって事でお咎め無しでしたね」
「・・・・・・うーん、話を聞いてるだけじゃよくわからんな」
私の話を聞いても理解できないようだ。
私としても王子の話はどうでもいいので、さっさと目的を果たしてしまいたい。
「もう王子の話はいいので、話の続きをしてもいいですか?」
「話? あー、大会の報告か。 と言ってもまだこちらに情報が来てないからな。 ギルドとしては話を聞くだけで褒賞などもまだ渡せないぞ」
「ただ大会の結果報告に来ただけですよ。 そもそもギルドから褒賞なんてあるんですか?」
今回の大会参加は、マリーの招待で行っただけでギルドは関係ない。
一応冒険者として参加してたみたいだから報告に来ただけだ。
でも、領主のロイドさんが箔が付くとか言ってたから、ギルドとしても何かあるのかもしれない。
「活躍した冒険者を登録したギルドと、所属しているギルドには王都ギルドから報酬がもらえて、その報酬の半分が冒険者にも渡されることになってる。 ユリアは登録後に移籍してないから今回の対象はうちだけだな。 どれくらい貰えるかは、もちろん何をしたがで変わる。 だが今回はBランクで伝統ある戦技大会優勝だからな。 それなりに期待してもいいと思うぞ?」
そう説明するギルマスさんは満面の笑顔だ。
それだけ報酬がもらえるってことなのかな?
「大会優勝でも貰えたのに、更に貰えるんですね。 今後お金を使う予定なのでもらえる物は貰っておきますけど」
いや、大会でもらったのは国からで、ギルマスさんの言ってる報酬は王都のギルドから貰えるのか。
「おう、活躍した冒険者への正当な報酬だ、ありがたく貰っとけ。 それで、もう1つの挨拶?だったか。 そっちの話をしようか」
笑顔のまま私からシア、ジャスミンと視線を移動する。
「まずはこの子ですね。 見てわかると思いますが、水の精霊です。 ディアに次いでこの子も家族になりました」
私はシアを抱えたまま体を動かし、ギルマスさんの方に少しだけ移動する。
しかしシアは話に加わる気はないようで、目を閉じたまま頭を私に預けている。
「やっぱり水の精霊だったのか。 不思議な髪だから人間じゃないとは思っていたが、これが水の精霊か・・・・・・風の精霊はスズランが連れてるから見慣れてるが、水の精霊は髪が綺麗というか幻想的だな」
「綺麗ですよね。 ディアのもこもこのクセッ毛は可愛いくて、シアのキラキラと波打つような髪は綺麗なんですよね」
「名前はシアというのか?」
「あ、シアは愛称ですね。 この子はシャウリットですよ」
「という事はディアとは土の精霊の愛称だったって事か」
シアの紹介でディアの事もわかったようだ。
名前の説明ってしてないんだっけ?
覚えてないや。
「その大きさの精霊を2人も契約するって、ほんと信じられない魔力量だな。 でも精霊が2人もいるなら大会で優勝できるのは納得だな。 賢者3人を1人で相手にしてるようなものだし」
「大会では1人で戦いましたよ?」
「え? なぜだ? 精霊使いが精霊と一緒に戦わなかったら意味ないだろ」
「私の戦闘職業は魔法使いで、精霊使いではないですよ。 それに、大会で全力で戦うのはダメだと王様に言われましたし」
「ちょっとまて、手加減してAランクの冒険者に勝ったのか?」
「まあそうなりますね」
結局模擬戦をした騎士の隊長さんも、準決勝の魔法使いのお爺さんも、決勝のAランクの人にも負けなかった。
あの大会で出てきた人たちがこの国やこの世界の最大戦力というわけではないと思うけど、今の所私が負けるような相手ではなさそうだ。
まあAランクの人は、私が防御スキル持ってたから勝てたけど、無ければ初手で負けてたと思う。
動きが見えなかったし。
「って、また話が脱線しちゃいましたね。 もう1人も紹介します、というかこっちの子が今日来た一番の理由です」
私の手を両手でつかんで、斜め後ろに隠れているジャスミンの手を少し引き、私の横に移動させる。
「こっちの子も気にはなってたんだが、魔物憑き・・・・・・だよな? まだ生き残りがいたんだな」
ギルマスさんが、そういってジャスミンの方へ少し顔を近づけると、ジャスミンが握る手に力を込めて少し下がる。
「いじめないでください」
「いやいや、そんなつもりはない。 話に聞いたことはあるが、初めて見るからつい、な」
「この子も私の家族として引き取ったので、何かあれば私が許さないよ、という忠告も込みで紹介に来ました」
「昔ならともかく、今は魔物憑きに危害を加えたら普通に犯罪者だからな?」
「そうなんですか?」
ジャスミンは両親を殺されて、自分が殺される前に一矢報いようと王都の襲撃をしたはずだけど・・・・・・もしかしてその両親が殺されたのがギルマスさんの言う「昔」なのかもしれない。
「人攫いや盗賊のような奴らは気にせず手を出すだろうが、冒険者や兵士たちが危害を加えることはない。 もちろん魔物憑きが街や人の脅威となった場合は討伐命令が出るだろうが」
という事は、ジャスミンが何もしなければ森で自由に生きられたのかもしれない。
でも、それを知らないと、森の中で命を狙われてるかもしれない状況でただ怯えて暮らすのは、精神の方がまいってしまう。
私の所にいれば精霊たちもいて安全だし、結果として私の所に来れて良かったのかもしれない。
「ならジャスミンが襲われたら反撃してもいいんですよね?」
「もちろん状況によるな。 さっき言ったように人攫いや盗賊なら問題ない。 しかし、人間側が軽い挨拶のつもりでも、その子にとっては敵対行動となる可能性もある。 だから、何かあればなるべくは捕まえてくれると助かるな」
「だって。 ジャスミンはそれで大丈夫?」
「・・・・・・人間を無力化するだけなら簡単だから大丈夫よ」
緊張してるのか警戒してるのか、声が小さいがちゃんと答えてくれた。
「恐ろしいことをサラッというな。 何なら君も冒険者になるか? 冒険者になって功績をあげれば、その分ギルドが味方になってやれる。 もちろん犯罪には手を貸さんがな。 戦えるなら魔物を倒して稼ぐこともできるぞ」
無理に戦わせる気はないけど、この子も森で狩りをして生活してただろうから戦うことはできると思う。
お金を稼がせる必要はないけど、外に出てできる事が何かあってもいいと思う。
冒険者になれば横の繋がりもできるだろうし。
「お金・・・・・・私でも稼げるなら冒険者になりたい」
「お金はともかく、何かやりたいことや出来る事を始めてもいいかもね。 ずっと家にいてもつまらないでしょ」
「まだ飽きるほどは住んでないけど、いつかは何かしたいと思ってたし、ちょうどいいから登録したいわ」
飽きるほど住んでないとは言ってるけど、ジャスミンが来てから結構経っている。
家どころか、ベッドしかない部屋にずっとこもってたのは、正直凄いと思う。
私の場合、ゲームも本もない部屋に1人だと、数日どころか1日と持たない自信がある。
「ならやる気のあるうちに登録しちまおう。 スズラン、この子の登録をしてくれ。 ついでにユリア同様この子の担当もお前に頼む」
「あ、はい、わかりました。 では登録をしますね」
スズランさんは、ジャスミンを受付カウンターに誘導すると、受付の中に戻っていく。
カウンターはジャスミンにはちょっと高いので、踏み台を用意してあげた。
しかし、ジャスミンは読み書きができないようなので、私が代りに読んであげる。
まあ人間の使ってる文字なんて知らなくても仕方ないし、読むと言っても登録された内容を教えただけだ。
当然年齢も問題ないので、Fランクに登録された。
他にも長寿の種族を知っているのか、スズランさんはジャスミンの年齢に特に何も言わずに対応していた。
「それでは冒険者の説明をしますね」
そういってスズランさんは私にしたように依頼の受け方や納品の仕方、ランクの上げ方やなどを説明していた。
ギルマスさんは途中で「あとは任せた」と言って、二階に戻って行った。
「これで説明は終わりですが、わからないことがあればお気軽に聞いてくださいね。 朝と夕方の忙しい時間以外はむしろ話し相手になってくれると嬉しいです」
「私は、冒険者もそうだけど、人間の事も詳しくわからないし色々聞くかもしれないわ」
「私で教えられる事でしたら冒険者の事以外でもお答えしますよ。 でも一緒に住んでるなら、ユリアさんに聞いた方が早くないですか?」
「ユリアは忙しいみたいで、あまり家にいなかったのよね。 私が特に聞こうとしてなかったのもあるけど」
「そうなんですか?」
ジャスミンと話していたスズランさんが私に話を振ってくる
家にいなかったのは大会中だけで、整地中は朝から夜までは外にいたけど、毎日家には帰っていた。
ジャスミンは、魔力を与えるとすぐにベッドに戻ってしまったし、たまに「外に行きたくなったら言ってね」とか、そんな一言しか話していなかった。
まんま引きこもりの子供に対する母親と同じ事としてたんだね私・・・・・・まあジャスミン的にはただ休んでただけだから、引きこもってたつもりはないのかもしれないけど。
「新しく住む予定の場所に行ってたんですよ」
「え、ユリアさん街を出ていくんですか!?」
「そうなりますね。 この街にある家はたまに使うつもりなので、そのままにするつもりですけど。 本拠地として使うのは新しい街の方になると思います」
「この街じゃダメなんですか?」
引き止めたいのか食い下がってくる。
引っ越しは確定してるので、今更なしにはできない。
王様にもいろいろ頼んじゃってるし。
「まあ隠してもすぐわかる事ですし、スズランさんにもお話しますね。 どこか話ができる部屋はありますか?」
「それではギルマスの部屋にしましょう。 内容的にギルマスにも知らせないといけないことですし」
「わかりました、私はそこで大丈夫です」
「じゃあすぐに確認取ってきますので、少々お待ちください」
そういってスズランさんは階段を駆け上がっていく。




