107 ジャスミンとギルド
「ユリアは大丈夫? 重くなかった?」
ジャスミンを降ろした後、恥ずかしそうに聞いてくる。
「重くはなかったから大丈夫。 ただ、今でもちょっと収まらないし、ジャスミンが大きくなったら逆に私が抱っこされちゃいそうだね」
私の冗談にジャスミンは顎に手を当て、目をつぶる。
「それはそれで・・・・・・あり、かも?」
大きくなった自分を想像したのか、そんなことを呟く。
いや、さすがにこの年で抱っこは恥ずかしいんだけど・・・・・・
「それで、ジャスミンは外に行かない?」
話が一段落し、落ち着いたジャスミンに再び聞いてみる。
「抱っこしてくれる?」
「さすがに抱っこは厳しいかな、前が見えないし。 手をつないでいくくらいならいいよ?」
私が大きければ、ジャスミンを抱っこしても平気だったかもしれないけど、さすがに私の身長だと視界が悪すぎるしバランスも悪い。
「・・・・・・それでもいいわ」
ジャスミンの許可が出たので、ジャスミンの手を引いて外に出る。
外に出た私は、商店通りの方に行くとを伝えるために、畑にいるであろうディアの所に向かった。
「ディア、ちょっと出かけてくるね」
私の声にディアが振り返り、私の所に来る。
目の前で止まると、私とジャスミンを交互に見ている。
「・・・・・・ママは結婚するの?」
「え、しないよ。 なんで?」
「さっきその魔族の声が外まで聞こえたの」
さすがにあれだけ大声出せば外まで聞こえちゃうか。
「あーなるほど。 結婚はしてないけど、ちゃんと話し合った結果、ジャスミンも家族になったよ。 今まではうちで預かってただけだけど、妹分として一緒に暮らしていこうって事になったの。 ディアはいや?」
ディアは元々ジャスミンがいることを快く思っていなかった。
それが家族になる、となると反対するかもしれない。
さすがにディアが猛反対すると、私としても無理やりジャスミンを置くことはできない。
もちろんちゃんと説得はするけど、どうしてもディアが嫌だと言ったら、近くに家を建ててそっちに住んでもらうことになってします。
「・・・・・・」
ディアは再度私とジャスミンを見ている。
「反対はしないの。 でも賛成もしないの。 もしこの魔族ががママに何かしたら容赦しないの。 それでも良ければ私は何も言わないの」
ジャスミンの種族的に魅了とか洗脳とか使えそうな気もするけど、私は状態異常にならないし、今もステータス画面に異常はない。
だからディアの心配するようなことはない、と思う。
まあジャスミンが人間を襲えば私の責任になるけど。
「うん。 無理してでも仲良くしてとは言わないけど、いじめたりしないでね」
「そんな事をしてもママが悲しむだけなのはわかってるの。 だからそんな事しないの」
「ありがとう。 あ、この後商店通りいくついでにギルドに報告しに行くつもりなんだよね。 その時一緒にジャスミンとシアを紹介しようと思ってるんだよね。 ディアも行く?」
「みんなで街中回るなら一緒に行くの」
珍しくディアも一緒に来てくれるようだ。
まあ前に街から出ないならいいって言ってたしね。
「それならちょうどいいから、道中カーミトの街の話をしようか。 家の場所とかを簡単に決めたから、畑も移動しないといけないし」
私は念話でシアを呼び、開いてる方の手で抱っこする。
ディアは手を繋げないので、私の服の裾を掴んでいる。
商店通りまで歩いてる間に、ディアにはカーミトの街の大まかな配置を教え、畑を移動する場所の話もした。
畑の話が終わった後は、新しく建てる家に欲しい部屋などを皆で話し合った。
ディアとシアは、寝室やお風呂など私と一緒に使う部屋を広くする以外要望はないみたい。
お風呂は今でも3人で使うには十分な広さがある気がするけど、寝室は確かに広くしたいね。
ベッドのせいで他の家具が置けないし。
私の家から商店通りの入り口まで、普通に歩いても40分ほどなのに、歩きにくくて1時間ほどかかってしまった。
「どこか行きたい場所はある?」
ディアとシアは興味ないだろうし、ジャスミンは何があるかわからないかもしれないけど、一応何か希望があるかもしれないので聞いてみる。
「ママの行く場所についていくの」
「ん-、興味ないわ」
「私はそもそも人間の街に何があるのかわからないわね」
予想通りの返答に、私の行きたい場所に行くことにした。
まずは前に運動着を頼んだ服屋さんだ。
ここでカーミトの街に作る孤児院のために、服を頼む。
量が多くて受注生産だから、今から頼んでおかないと孤児たちが来るまでに間に合わなくなっちゃうかもしれないし。
「すみません、注文したいんですけど」
ジャスミンは触れないことを約束して、店内を自由行動させる。
「いらっしゃいませ。 また前回と同じものですか?」
「それもありますが、今回はちょっと量が多いんです。 前回お願いした服と、同じ生地で長袖長ズボン。 あと下着上下と靴下を、大きさ3種類で男女各50組ずつお願いしたいんです」
50セット×3種類×男女で300セットの注文だ。
私に注文に店員さんは思考が追い付いてないようで、固まっている。
「無理そうですか?」
「あ、いえ。 時間さえ頂ければ作ることはできます。 ですが、その、費用の方がかなりかかってしまいますが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。 受けてもらえるならお金は全額先に渡しておきます。 期間に関してはそこまで急いでませんので慌てなくて大丈夫です。 たまに寄った時にできてる分だけ回収する感じでいいので」
「・・・・・・わかりました、すぐに金額の計算をしますね」
店員さんは少し考えた後、受けてくれるようで金額の計算をしてくれた。
この世界に来て初めてこんなにお金を使ったけど、300セット頼んだ割には思ってたよりも減らなかった。
「では、お願いしますね。 もしかしたら追加で注文するかもしれませんが、その時はまた相談します」
服屋を出たあと、私はナノハちゃんのいるパン屋さんでパンを買い、食材屋を覗く。
最近来てなかったけど、新しくレタスが置かれていたので、私はいくつかそれを買って行く。
これでやっとサラダにレタスが使える。
しかもディアの話では、これも玉ねぎやキャベツのように再生栽培できるようなので、買う量はそこまで多くしないで、帰ったら栽培してもらおう。
服の注文とパンの補充や新食材を入手して満足した私は、ギルドへ向かう。
木や石で作れる物は自作できるので買う必要が無いし。
キョロキョロと周りを見ているジャスミンが、フラフラと離れないように気を付けながら商店通りを進んでいく。
ギルドに着いた私はそのまま中に入る。
入る時、ジャスミンが一瞬緊張して止まったが、すぐについてくる。
私は中を確認して、スズランさんのいるカウンターの方へ行く。
「こんにちは」
「ようこそギル・・・・・・あ、ユリアさん。 今日はどうしました? ずいぶんと大所帯ですが」
書類を見ていたのか、下を向いていたスズランさんに声を掛けたら、定型文の挨拶を言おうとして顔をあげたところで私と目が合い、定型文挨拶は途中で止まった。
その後、私と周りの3人を見て首を傾げていた。
「報告と挨拶ですかね?」
「報告と挨拶、ですか?」
首を傾げていたスズランさんが、私の言葉でさらに首を傾げる。
「王都の戦技大会でしったけ?に参加したので、その結果報告と、新しい家族を紹介しておこうかと思って」
「あ、そういえばユリアさんは戦技大会に参加していたんですね。 もう帰ってきてるという事は、予選突破はできませんでした?」
そういえば大会は昨日だから、今日いるって事は数日前には王都を出てるって思われちゃうんだね。
速く移動できるのは知ってるだろうけど、王都を出て翌日にいるとは普通思わないよね。
「大会は優勝しましたよ。 魔銀貨5枚と属性石貰ってきました」
王様からもらった魔銀貨と五常石を見せる。
「えっ!? 優勝したんですか!?」
スズランさんの大声でギルドが静まり返る。
元々人は少なかったが、雑談してた人たちも皆こっちを見ている。
「ちょっと待っててください、ギルマスに報告してきます!」
そういってスズランさんは二階に上がって行った。
「2人を紹介する前に行っちゃったね」
走って二階に行ったスズランさんを見ながら小さく呟く。
それに反応したのはシアだった。
「そもそも何でわたしまでこんな所に連れてきたの? わたしたちの事報告しないといけないの?」
特に怒っていたり不満というわけではなく、純粋に疑問に思っての質問みたいだ。
「前にディアを紹介したんだよね。 その時、ディアがさっきのスズランさんに精霊契約をしてあげたの。 鈴蘭さんと一緒に風の精霊がいたでしょ? で、うちにシアが増えたから、同じ精霊と一緒に居る者同士紹介しておこうかなって。 ジャスミンを連れてきたのは、私の身内だから手を出したら許さないよって話をするため」
「ふーん。 わたしは何もしなくていいのよね?」
「うん、話したかったら話してもいいけど、紹介だけのつもりだから寝ててもいいよ」
前回のディアの態度を考えると、シアは態度だけでなく口でもいろいろ言いそうなので、むしろ寝てたほうがいいのかもしれない。
ディアも口数は少なかった代わりに辛辣なことを言ってた気がするけど。
しばらく待ってると、二階から2人がおりてきた。




