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黎明のウィレンツィア  作者: カワシマ キオ
第十一章 決戦の地ウィレンツィア
225/244

この日の為に 1

今回のお話は、エダルシア王国騎士団団長、オリバー視点のお話です。

「オリバー隊長、どうなさいますか?」


 後ろに控えている青い騎士服の上に鎧を纏う自国の騎士に問われ、オリバーはちらりとマーロウを見遣った後視線を指示を待つ自国の騎士達に向けた。


「連れて行け」

「「「はっ」」」


 抵抗することなく拘束されたマーロウと宰相と思しき人物、それに執務室内に居た兵士達を連行するよう伝えれば、部下達は彼等を連れて執務室を出て行った。


 城内で捕らえた者達は全員、とりあえず城の中庭に集めるよう指示してある。出来るだけ生かして捕らえるように伝えておいたので、結構な人数がすでに中庭に居ることだろう。

 正直、戦闘において殺さずに捕らえることは難しい。実力が拮抗していれば尚更だ。

 だが先程のマーロウの潔いともいえる降伏を見るに、ドルシグ帝国の者全てがエルヴィンのような悪ではないのかもしれないと思えた。

 だが例えエルヴィンの恐怖政治に従うしかなかったのだとしても、それを止められなかった罪はある。しかし全ての命を奪うまでではないだろう。


 そのため自国の騎士達には、敵を出来る限り生かして捕らえるように伝えてはいるが、抵抗が激しい場合ややむを得ない場合はその限りではないと伝えてある。

 殺さずを全うするために自身が重傷を負ったり命を落とすようなことなど、万が一にもないように言い聞かせてあった。

 きっと彼女も、自分を陥れた国の者達だったとしても、その全てを否応なく殺すことを良しとはしないだろう。けれど、その為に誰かが犠牲になる事はもっと心を痛めるはずだ。  


(国を背負う立場としては、優しすぎるがな)


 彼女の考え方は、一国を背負う者としては甘いと言わざるを得ない。

 けれど今この場で剣を振るっている者達は、そんな彼女の人柄に惹かれ、背負う宿命を知って、ならば力になりたいと立ち上がった者達ばかりだった。


 そんな者達故に、彼女のためにと今まさに帝都中で必死に敵を生かして捕らえようと戦っている。おそらく、多少の怪我や無理も厭わない心づもりいる可能性が高い。

 そのため一緒にやって来たオートレア王国からの医療団が、今頃中庭で必死になって自国の騎士も敵国の兵士も、怪我人は平等に治療しているはずだ。

 それ故、一刻でも早くマーロウが降伏したことを伝え、無駄な争いを今すぐ止めさせる必要があった。


「問題はどうやってこの混乱の帝都内に、マーロウ皇帝陛下の降伏を伝えるか、だな」


 ドルシグ領土内の他の町には無線などで状況を知らせることが出来るが、この混乱必至な帝都内にどうやって一斉にマーロウの降伏を伝えるかが問題だった。


「あ、それなら大丈夫っす」

 

 執務室前の廊下に待機していた人物が、ひょっこりと顔を覗かせヘーゼル色の短髪と同じ色をした垂れ目を細めると、ニカッと白い歯を見せて笑った。


 ここまでオリバー達を先導して一緒にやって来ていた、リックと呼ばれる人物だ。サンスタシア帝国領の町に住んでいるそうなのだが、元はエダルシア王国の間諜の補佐だという。

 だがオリバーとしては、騎士でもない者を最前線に連れ出すことは躊躇われた。

 しかし本人達が『絶対に役に立つ』と言うのと、エダルシア王国国王であるガルーラ陛下の後押しもあって、護衛の騎士の傍を離れないことを条件に渋々連れてきたのだ。


 すると顔を覗かせたリックを押し退けて、更に鳶色をした髪のもう一人の人物が執務室内に入ってきた。


「リックの言う通りだ。帝都の各所にはエダルシア王国で言うところの防災無線の様な物があるんだが、それが使えるだろう。……まぁこの国では、皇帝のありがた~いお言葉を帝都中に届けるために使うんだけどな」


 腕を組みながら現れたゲイリーは、オリバーの前でその歩みを止めた。


「まぁそれは置いといて、城内の放送設備で声明を出せば帝都中に響き渡るだろ。……マリー」

「はぁい!」


 ゲイリーが振り返って廊下の方に向かって呼び掛ければ、入り口に立つリックの更に後ろから、マリーと呼ばれた人物がこの緊迫した場面に酷く不釣り合いな可愛らしい声と共に執務室内に入室してきた。


「行けるな?」

「勿論!」

「あ、自分も行くっす」

「あ、あのっ!ちょっと!!」


 三人の中で何かが決定したらしく、マリーとリックが勝手に執務室前の廊下からパッと駆け出す。その姿に慌てたのは、二人を護衛していた数人の騎士達だ。

 あっという間に走り去った二人を追いかけて、護衛の騎士達は転がるように後を追いかけていく。

 その背中を見送った後、ゲイリーはオリバーを振り返って片側だけ口角を上げて笑った。


「まぁ問題ない。さっき連れてった皇帝を同行させて、声明を発表するだろうよ」

「……分かった」


 最初こそオリバーはゲイリー達のことをあまり信用していなかったのだが、今ではその言葉を全面的に信じていた。


 宣戦布告をしてドルシグ帝国に進撃を開始した際、オリバーは正直ゲイリー達のことを足手纏いだと思っていた。

 彼女のために何としてもドルシグ帝国本土の戦力を潰しておきたいのに、騎士でもない一般人を護りながらの進撃では作戦の迅速さに欠けると思っていたのだ。


 しかし蓋を開けてみれば、本人達が言うようにゲイリー達はエダルシア王国の間諜としてドルシグ帝国に住んでいたことがあるだけに、帝都内の地理を全て把握していた。

 それ故、腕っぷしはからっきしで戦闘になった際は空気のように端に寄っていたが、道中は複雑に入り組んだ抜け道を迷うことなく騎士団を先導して走り抜け、役に立つどころの話ではなかったのだ。


 作戦の立案段階では、ゲイリー達を現場に同行させず事前に道を教えてもらって騎士団だけで作戦を遂行する案も出ていたのだが、ゲイリー達を同行させたことで、敵の動きを見て裏道や抜け道を案内してもらうことが出来、おかげで予想より遥かに早く被害も最小限で皇帝の執務室まで辿り着くことができていた。

 

「で?オリバーさん。この後どうするんだい?」


 まるでオリバーを試すような口ぶりで、ゲイリーが不敵に笑う。敵側でなくて良かったと思わされる笑顔だった。


「声明が発表されるまで交戦は止まないだろう。我々もマーロウ皇帝陛下を連れ戻しに行った者達を追う。声明発表を急ごう」

「りょーかい」


 オリバーの言葉に鼻で嗤うと、ゲイリーは先陣切って部屋を出て行こうとする。ドルシグ帝都内の地理に詳しいだけではなく、城内のことにも精通しているようだ。

 ドルシグ帝国の城内の間取りなどどうやって知ることが出来たのかは分からないが、今はこれ程頼りになる存在もいなかった。


 勝手に進もうとするゲイリーを、慌てて護衛の騎士達が後を追う。そんな後姿を呆れたように見送って、深く息を吐き出すとオリバーは振り返って窓の外を見た。

 しかし窓の外はすでに夜の帳が降りており、真っ暗で何も見ることは叶わなかった。

 

「……今度こそ、貴方の助けとなることが出来そうです」


 そんな真っ暗で何も見えない空を見上げていると、オリバーの口からは小さな呟きが零れ落ちた。


 遠い空の向こう、ウィレンツィア王国でも今頃作戦が決行されている。

 オリバーはイリスの顔を思い浮かべ、そっと瞼を閉じた。

 八年前のあの時、オリバーは見ていることしかできなかったことを何度も後悔した。

 だが今少しだけ、本当に少しだけ晴れやかな気持ちで瞼を開き、今一度窓の外の空を見つめた。

 

 彼女は今まさに、自身の運命と決着をつけるために戦っている。オリバーは踵を返すと、自らもゲイリーの後を追った。

 今ウィレンツィア王国に援軍を送られる訳にはいかない。なんとしてもドルシグ帝国本土に居るドルシグ軍はここで足止めせねばならない。

 

 自分は自分に出来ることで彼女の助けになろうと、オリバーは決意も固く迷いなく歩き出した。






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