第8話 赤眼が覗く
日もすっかり暮れ、闇夜が襲う。外の風は冷たく身体を冷やしていき、どこからともなくフクロウのような鳥の鳴き声が聞こえる。
森の影からは、いくつもの視線が俺を睨む。
「はっ…はっ」
当初の予定では想定していなかった荷物を抱え、急くように、だが負担をかけないようにと両腕の振動をなるべく最小限に抑えながら走る。
もしも現実の俺だったら5分たりとも持たなかっただろう。
そして家に到着する。
俺は額に汗をかきながら入口で息を整えると声を出す。
「ユメ!遅くなった!悪いが扉を開けてもらっていいか?」
しばらくすると中から足音が近づき扉が開く。
「トーヤさん!?遅いから心配しましたよ!!何か事件にでも巻き込まれたんじゃないかと思って私心配した…ん…ですから…?」
中からユメが慌てた様子で扉を開け口を開いたが俺が両手にボロボロの衣服に手錠をした汚れた栗色のくせっ毛のロング髪の女の子を抱きかかえている様子を見て言葉が詰まる。
「え…と…その…トーヤ…さん」
ユメが小刻みに震え少し冷ややかな目になる。
「?」
「…そーゆうのがお好きなんですか?」
「何が!?」
あの後、ただ1人の生き残りとして生還したこの子は俺を見るなり気を失ってしまい、俺は街の住民にこの馬車の詳細を聞いたが分からず、ここに置き去りにする訳にもいかないのでとりあえず目が覚めるまで預かることになった。
とりあえず付着していた血は街で洗い流したが、染み付いた匂いや、汚れ、所々のアザや擦り傷が目立ち痛々しい。
俺は今日のことをユメに話すと彼女は快く家に迎え入れてくれ、目覚めない少女の事を心配していた。
俺はひとまず少女についている手錠を怪我をさせないように慎重に破壊し、ソファーにその子を寝かすとユメが毛布をかける。
そして彼女と俺はソファーで小さな寝息を立てながら眠る少女を見つめ椅子に座ると口を開く。
「一体その馬車はどこに向かうつもりだったんでしょうか?」
心配した表情を浮かべるユメが俺に疑問を投げかける。
「さぁな、街の住民も知らなかったみたいだし、近くに寄れそうな集落もない…」
「聞いてはいましたがあんな小さい子がたくさん売られていくなんて…」
この世界で奴隷は珍しくない。特に若い奴隷は高値で取引きされる。
だが流石に表沙汰で堂々とは商売はできないため、力を持った権力者達の主催によって秘密裏に行われているらしい。
「まあ、なんにせよ近くにロクな奴がいることは確かだな。今はあの子が起きるまで待とう」
俺達は話しを切り上げ少し遅めのゆうげを取ると風呂に入り、少女の見張りのため俺はここで寝ると彼女伝えた。
そして深夜、一向に目覚めない少女を尻目に俺はあることに気付いた。
全く睡魔が襲ってこないのだ。
この現象は以前の時にもあった…そう、前回の現実にいた時だ。
あの時はここの記憶自体がないから疑問に思わなかったが、今は違う、ここにいる間は記憶の共有がおこなわれている。
今までどちらの世界にいたときでもこんなことはなかった。だが今回はどちらの世界でもそれが起こっている。そこで俺は1つの仮説を立てた。
ー 向こうの自分は既に死んでいて戻ることができないからなんじゃないか? ー
すると、俺は暗闇の中笑みが溢れ思わず呟く
「…やった」
もしかすると俺はこのまま向こうのクソったれな現実には一生戻らないんじゃないのか?ずっとこのまま愛するユメと2人で同じ時を過ごすことが…!
それは俺にとって一生眠らないという対価には大きすぎる恩恵だった。
だが…ふと違和感を感じる。歯車の噛み合わないような何かが俺の脳内をチクリと刺した気がした…
ガタッ
「ッッッ!?」
突然家の中で物音がした。俺はすぐにテーブルにおいてあったテーブルで周りを照らす。
しかし周りにはなにもいなかった…なにも…
「ッッいない!!」
先程までそこで寝ていた少女が消えていた…
俺は異変に気付くとイスから立ち上がりランタンの明かりを頼りに暗い部屋を探索する。
どこにいったんだ?まだ名前すら聞いていない…喋ってもいない…少女が何者なのかすら分からない…もし敵だったら…
俺は少女を初めて見た時の事を思い出す。血塗れで俺のことをじっと見つめるあの赤い目を…
俺は悪い予感がして焦りながら少女を探す。
グシャ…グチュグチュ
なんの音だ…?
俺はまるで何かをすり潰すような音のする方へ静かに歩く。
そして音が更に大きくなったところでランタンを前方が見えるように前にかざすと、少女が後ろ向きに座り込んだ姿勢で何かを咀嚼していた…
グチュ…グチュ…グシャ…ぼと
何か物体が落ちる。俺はいつの間にか自分の息が荒くなっていることに気付く。
「…おい…お前…そこでなにしてんだ」
俺がそう呟くと、少女は咀嚼をやめゆっくりとこっちを振り返る。
すると、ランタンの灯りに照らされあの時の大きな赤い眼球が暗闇で輝き俺をしっかりと捉え、口元には何かを食い荒らしたかのように真っ赤な固形の物体と液体が付着していた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
俺は絶叫する。
コイツ…何を食ってた?…なんだ…あの赤い物体…食い物…本当に?…そんな…もしかして…つまり…それって
この家には現在3人しかいない、そしてここにいるのは2人…俺はまた胃が苦しくなり…それが登ってくるのを感じ、口を抑えた。
「…うっ」
最悪だ…また護れなかったのか?もう2度と失わせはしないと約束したのに…俺が原因で…
「どうしたんですか?」
へ?
すると家の灯りが灯され、後ろでユメがきょとんとした顔で立っていた。
「え?ユメ…そんな…死んだはずじゃ…」
「勝手に人を殺さないで下さい!!」
ユメはぷんぷんと、いつものように怒っていた。
先程の少女の方に振り返ると、食べていたのはただのトメトだった…
「ひっ!…」
少女は俺をみるなり怯える。
「え?いや…俺は怪しいもんじゃ…」
俺の必死の弁明も虚しく少女はキッチンの隅で震える。
それを見かねたユメが口を開く。
「いきなり目覚めてそんな大声あげてたらそりゃ怯えますよ…ここは私に任せて下さい」
するとユメは歩き出すと、怯える少女の前までいくとかがむ。
「い…いやっ…」
怯える少女にユメは優しく微笑みかける。
「さっきは怖かったね。大丈夫、私達は怪しいものじゃないよ、お姉ちゃんはユメっていうんだ…あなたの名前を聞かせてくれるかな?」
少女は少し落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと小さく呟いた。
「メ…メル…」
「メルちゃんかぁ…いい名前だね。お姉ちゃんに教えてくれてありがとうね」
「うん…」
メルと名乗った少女の震えは止まり、変わりに赤い瞳が潤み大粒の涙が溢れる。
するとユメが彼女を優しく抱きしめる。
「あらあら、誰かさんとそっくりだね、よしよし」
ユメは誰かを連想したのか困り顔でクスッと笑うと優しくメルの頭を撫でていた。
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トメト
家庭でよく取り入れられる一般的な食材。
赤い見た目でみずみずしく甘い。
トーヤの家の周りにユメが自家栽培をしているのでよく食卓に並ぶ。
トーヤ曰く現実のやつよりも美味しいらしい…
メルの好物




