第7話 血塗れの少女
「やあ、ごきげんよう」
振り返るとそこにはこの街の地主のおじさんであるゴルドさんが片手をあげて挨拶していた。
「あ…ああゴルドさん…こんにちは」
俺は拍子抜けし身構えていた肩を落とす。先程の気付いたというのはこの塔の存在のことだったのか…
「まだ最終調整が必要だけどそう遠くならないうちには完成するそうだよ」
ゴルドさんはウキウキしながら俺に語りかけてくる。
「ははは…それは楽しみです」
これで一つ確信した。ここは過去だ。しかも、かなりの時間を遡っている。
俺はあの時塔から落ちて死んで、現実世界からも落ちて死んで現在、数カ月以上前の異世界に戻っている。
これは俗にいう、タイムリープ…いや、死に戻りってやつか?
まだ発生条件に確信は持てていないが確実に時間の遡行が行われいる。つまりまだ事件は起きる前というわけだ。アニメやドラマやゲームなんかでは起きる直前に戻って手がかりを見つけ事件の謎を紐解いていくことがお約束だが…
数カ月以上前…それも詳細な時期は分からない…
これ、下手したら証拠どころか…まだ犯人の動機さえもないんじゃあ…
「あのう、トーヤ君?大丈夫かい?」
「え?ああ、はい!あまりに立派な塔なんで見惚れちゃってました!」
俺はでたらめな言葉ではぐらかす。
「それはよかった。実はここを街のシンボルとして、いつか多くの人に訪れてくれることを目標としているんだよ」
「ですよね!!この塔の屋上から見渡す街は格別でした」
すると先程までニコニコだったゴルドさんの眉間にシワが寄る。
「ん?君、まさかこの塔に登ったのかい?」
しまった…この時点ではまだ立ち入り禁止だった…
「え!?いや、これだけ高いんだったら格別だろうなぁって思っただけで…」
ゴルドさんが俺を睨む…
「その通り!いや私もまだ登ったことないんだけど完成したら一番に登らせてくれるように約束してるんだよ!!」
セーフ!!何とか誤魔化しきれた。
「ところで今日はユメ君は一緒じゃないのかい?」
「ああ…はい、ユメは今日は留守番で…」
「じゃあ君、今日は何したの?露店も出してないけど…」
ギクッ、以外に鋭いな、このおじさん
俺は逃げ場がないか周囲を見渡す。
「そりゃあもちろん、こんな素晴らしい塔があるなんて噂が広がったらここで商売してる身としては下見に来ないわけにはいかないですよ!」
ゴルドさんが再度俺を睨む…
「マジ?そんなにここ有名になってる?」
「そりゃあもう!俺の耳にまで届いてますから」
そうゆうとゴルドさんはニッコリと微笑む。
「そうか!そうか!そこまでになってるか!こりゃあこの街の繁栄も大分近づいたな!!ワッハッハッハ!!」
そうゆうとゴルドさんは上機嫌で帰っていった。
俺は胸を撫で下ろすと再び塔を睨む。
ここで俺達は数カ月後に…
これ以上ここで得られるものはないか…正直ここに手掛かりがなかったらどこにいけばいいのかわからないが…ゴルドさんには悪いけどここには長居したくない…
俺は来た道を戻り一旦家路に着くため街に背を向ける。
その時だった。
「おい!街の外で馬車が魔物に襲われてる!!」
街の住人が叫んだ。
「中にたくさん人もいるみたいだ!!助けないと!!」
住人達は急いで家から武器になりそうなものをかき集めると駆け出す。
「………………」
俺は背を向け立ち止まった。
こんなことをしてる場合じゃない…一刻も早くユメを助けないといけないのに…
俺は頭を掻きむしる。
「ああっ…もう!」
くるりと向き直ると急いで走った。
街の外に出るとそのすぐ向こうで大型の馬車が複数の魔物に襲われていた。
魔物は小さな子供くらいのサイズで手に刃物や、鈍器を持って馬車を襲撃していた。
既に馬とそれに搭乗していた男は殺されており、馬車の中のカーテンにもおびただしい量の血が付着していた。
「ゴブリンだ…」
街の住人がポツリと呟く。
数はざっと10匹以上、対してこっちは数人、街の住民達は立ち止まり眺めているだけだった。
「数が多すぎる…」
「ああ…それに乗っている奴らだってもう…」
住民達は正義面をしてきたものの相手の戦力差に気付いて今は集団心理のように互いに納得して固まっている。
俺達は助けようとした…けれど数が多すぎた…
これじゃあ犬死だ…俺達は悪くない…と
虫唾が走るッッ
これじゃあ現実にいた人間と変わらない。強いものに恐れ自分は被害が出ないように命令にただ従う…
俺達は悪くない
俺はこの場の空気が耐えられなくなり、前へ出る。
「おい…あんた…やめとけ…一人でいっても殺されるぞ…」
その言葉にカチンとくる。
「自分で何も選べないやつが命令するな」
馬車を襲っていたゴブリンがこちらに気付き俺を警戒する。
俺は携帯していたショートナイフを抜くと走り出す。
ゴブリンは俺が武器を持って走ってくるのを確認するとお手製の弓を俺に向け放つ。
俺は一投目をショートナイフで弾くとすぐさま向かってくる2投目をかわして避け、一番近くにいたゴブリンの喉を掻き切る。
「グェ、ごぼっ…」
ゴブリンは泣き苦しみ悶えながら大量の血を零して倒れる。
次に2体のゴブリンが鈍器と刃物を持って俺に襲いかかる。
俺は走るスピードを緩めることなく相まみえる。
先制を取ったのはゴブリンだったがジャンプして振り下ろしてきた鈍器にそのまま自分の拳を当てる。
すると俺の拳に負けた鈍器が砕けそのままゴブリンの顔面に鈍器より硬い俺の拳が貫く。
吹き飛んだゴブリンはそのままピクピクと震え断末魔をあげる。
その背後で刃物を突き刺すようにゴブリンが走ってきたので、俺は片手でその刃物の軌道を変えゴブリンの胸に突き刺す。
貫通したゴブリンはそのまま息絶えた。
「ふぅ」
俺は一呼吸入れると馬車の周りにいるゴブリンの群れを睨みつける。
ゴブリンは一瞬萎縮したがその後全員が束になって走り出した。
馬車からある一定の距離を取ったことを確認すると俺は口角を上げる。
「殺りやすくしてくれてありがとうな」
俺は馬車から角度をずらし後ろに飛ぶと、向かってくるゴブリンに左手をかざし唱える。
閃光瞬穿 レイディエント
刹那、俺の左手から星の煌めきのようなエフェクトを放つとそのまま前方に光の閃光が放たれる。
「ギョエ!?」
ゴブリンは自分が死んだことにも気づかぬ間に蒸発し、周囲一キロメートルの草木をも更地に変えた。
街の住民は声も出せず遠くから俺を見つめている。
俺は馬車に近寄るとその光景に絶句する。
酷い血の匂いの馬車には檻が壊され手錠をつけられた少年少女が無残に死体として転がっていた…
「……奴隷……」
鈍器で顔の形が分からないくらい潰された子供、全身穴だらけで倒れている子供、服が引きちぎられ、行為後に殺された子供までいた。
「…うっ……」
俺は再び吐き気を覚える。そしてそれと同時にまたあの時の記憶もフラッシュバックする。
俺は立ち去ろうと視線を離した時、中から声がした。
「…ひっぐ」
「!?」
俺はすぐさま馬車の中に入ると、無数の死体の山をかき分けていった。
俺の手はすぐさま真っ赤に汚れ血の匂いをつける。
ぐちょ、ねちゃ…
「…うっ……くっ…」
時々損壊した臓物に触れる感触に当たる度に気が変になりそうになるのを必死に堪えた。そしてー
「はっ……はっ…」
最後の死体をめくった時、血塗れの髪の長い少女がその赤い目で俺をじっとみつめていた。
「うっ…」
俺はその異様さに少し恐怖したが、少女は俺を瞳に一瞬映すとすぐに気を失った…
「お…おい!しっかりしろ!!」
俺はこの日1人の少女と出逢った。
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登場人物紹介 年齢不詳
ゴブリン
常に団体で動く。
個体での強さは大したことはないが、群れで襲われたらベテランの冒険者をも仕留める。
知能が高く、人間の武器や言語を理解し応用する。
若い人間が好きでよく巣に持ち帰ったりその場でなぶりものにする。




