第6話 もう、失いたくない
あれから、しばらく俺はユメに泣きついてひたすら泣いていた。彼女は文句も云わないままいつまでも俺に寄り添っていてくれていたがその影響で彼女の仕事に支障が出るほどの時間が過ぎていた。
今はせめてもの罪滅ぼしのために俺が遅めの昼食を作り、その間にユメは他の作業をやってもらっていた。
ジュウウウウ!!
鉄の鍋で薄切りにした肉を炒める。俺はようやく冷静になり現状を解析する。
ユメはあの時確かに死んだ…おそらく俺も…じゃあ今怪我一つなく生きて普通に日常に戻れているのは何故なのか…まず今はいつだ?今この世界は俺達が死んだ後の場所なのか…それとも死ぬ前の場所なのか…もしくは世界線が違う的なやつなのか…
俺は現実でのアニメやゲームの知識を頼りに色々な憶測を立てる。
ふと首を曲げ視線をユメにやる。彼女はハンディモップのような掃除道具で棚を掃除している。
後ろについている服のフリルがモップの振動に合わせて小刻みに揺れ鼻唄を口ずさみながら軽快に掃除を続けている。
そこで俺は1つの確認方法を思いつく。
ユメはあの時のことを覚えているのか?
現に俺は憶えているのでユメも、もしかしたらあの時の記憶が…もしかしたら俺の知らない情報を持ってるかもしれない。
その時ユメが俺の視線に気付いたのかこちらに振り向くと笑顔を向ける。
俺はその瞬間、あの日の…時計台での記憶が強く頭をよぎった。
夕方の塔の屋上……血まみれの服……そして……
俺は無言で顔を逸らす。
いや、云える訳がない。もし仮に俺が云ったことが引き金になって忘れていた記憶が呼び戻るようなことがあったら最悪だ。
このことは彼女には伝えず俺一人だけで解決しよう。俺一人だけで彼女を救ってみせるんだ。
するとふいにひょこっと彼女の顔がこちらを覗く。
「のわっ!?…どうしたんだ?」
そしてユメが真剣な面持ちで口を開く…
「トーヤさん…焦げて…ますよ?」
「え?あっ!?やべ」
結局半分焦げた肉は俺の皿で引き取ることになった。
俺達は手を合わせて料理を頂く。
「「いただきます」」
俺は焦げた肉をつつきながら思考する。
とりあえず時間の確認だ。この世界は正確に時間を把握するものはないため、時間は太陽の位置、季節はその時の気候で判断している。
だがこの世界の一日は大体は現実と同じだ。これは現実と異世界を生き来する俺だけが体感できる特権みたいなものだ。
それと現実で起きている時間、異世界で起きている時間は寝ている時間に比例しない。
異世界で朝から夜まで活動し就寝して現実で目覚めると大体7時間ちょっと、約6〜7時間という矛盾が発生している。
これに関しては正直驚きはしない、普通の夢を見ていた頃にもよくあった。夢の中で長時間滞在したつもりでも目覚めたら30分も経っていなかったとかだ。
そもそもこんな異世界と現実をいったりきたりしている事の方がおかしいのだ。だとすれば…
「トーヤさん?」
俺が無言でずっと食事に手をつけずに考えこんでいると不審に思ったユメが声をかけてきた。
「お?ああ、悪いちょっと考えごとしてて…」
俺は適当に箸で掴み口に入れる。
パクっ
苦かった。
食事が済んだ後、俺は彼女に用事があるからと留守を任せる。もちろん向かうのは事件があった現場だ。
できるなら2度と近づきたくはないような場所になってしまったが、ここで行かなきゃきっとまた同じことを繰り返してしまう…あれがただの偶然ではないことは火を見るより明らかだった。
本当は彼女を連れて行くべきなんだろうがさっきも言った通り彼女にこの事件のことはもう触れてほしくない。俺はユメに見送られるとその姿を目に焼き付け家を出る。
俺は街に続く山道を練り歩く。でもすぐに不安が押し寄せてくる。
本当にユメを置いてきて大丈夫だったのか?俺がいない間に彼女はまた同じ運命を辿るんじゃないのか?
俺は何度も来た道を振り返り、家の方向を見る。既に家は見えないが、今すぐにでも引き返したくてたまらない。
もう2度と彼女を失うのは嫌だ。
「クソッ!!」
俺は自分の両頬を強く叩き震い立たせる。
よし、行こう。終わらせるために。
覚悟を決め自分の迷いを断ち切り歩を加速させる。 俺は少し傾いた太陽を確認しまだ目的地まで半分以上も残っている道のりを進む。
街につくと辺りを見渡す。特に変わった様子はないがいつもよりも露店が少なかった。いつもこれくらいの時間ならまだ賑わっている時間帯のはずだ。
俺は少し疑問に思いながらもまず一番に確認するべきことがあった。
あの塔のことだ。
あそこに少なからずの情報、もしくは答えがあるかも知れない。
俺は震える手を抑えながらいつもとは違う方向に切り替え向かった。
そして結論から云うと手がかりはなかった。
「これは…」
塔の目の前にまで来ると塔の周りには柵でバリケードが施され封鎖されていた。
塔の周りにも柵が張り巡らされ景観さえよくわからい。
俺は考える。これは誰かが意図的に入れなくしたと云うよりはまだ入れる状態になっていない…ということはここは…過去?それも数日やそこらじゃない…最低でも数カ月前の…
「トーヤ君も気付きましたか?」
後ろから、突然男の声が響く。
なっッッ!?誰だ!?俺の行動がバレた?こいつはここで起きることを知っている?というより何故俺の名前を!?…まさか…こいつが…事件の…
俺は背筋が凍り、恐る恐る後ろを振り向く。
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登場人物紹介
主人公の両親 年齢60代後半くらい
主人公の親で彼がほとんど家に家賃やまともな職につかないため、定年してからもそれぞれパートで働いている。
ある時主人公が帰ると首を吊っていた。
主人公とは最近、会話はあまりないが昔は仲のよい家族だった。




