第4話 底辺
俺は布団から飛び起きる。
「ッッ!!はぁ…はぁ…」
時刻は4時23分
カチッカチッカチッ
秒針時計が針を刻む。部屋は真っ暗で、もちろん両親も就寝している。
身体は真冬だと云うのに汗だくで服に絡んで気持ちが悪い。
「ちっ…なんなんだよ…たく」
俺は時計を見ると苛立ちを覚えた。いつもなら寝たら朝までぐっすりのはずなのに…
明日もはやいのによぉ…
俺はもう一度毛布をかけ眠りにつく。
カチッカチッカチッ
眠れない…
すっと上体を起こし、頭をポリポリと掻く。
仕方なく眠りを誘発させるために掛けてあったジャンパーを着ると、親を起こさないようにそっと外出する。
外はまだ真っ暗で、人通りもほとんどない。
「さむっ」
空を見上げると小さな星が幾つも散らばっている。
彼女でもいればこの状況もいくらかマシなのかもしれない。
だが今の俺は無精髭を伸ばし、脂ぎった髪とヨレヨレの服とズボンを身に纏い顔には目糞まで付着している。
これが昼間だったら通報されるかも知れない。
特に目的もない俺は近くの公園にやってくると等間隔で置いてある遊具を一瞥し端に置いてあったベンチに腰を下ろす。
もちろんこんな早朝に公園に来るようなもの好きはおらず俺は一人孤独に空を見上げていた。
不思議なもので空を見上げると空っぽだった心が少しマシに思えるようになる。
それにしても寒い。早朝なんてのは一番冷え込む時間であり、俺は1枚しか持ってこなかった上着を後悔しながら手繰り寄せ暖を取る。
手がかじかみジンジンする。ふと手のひらを見つめると真っ赤に腫れ上がっており完全な霜焼けに陥っている。
「ハァ〜ハァ〜」
吐息で何とか温めようとするが白い煙だけが大袈裟に出るだけで、何の効果もなかった。
「…何してんだろ俺」
ズルル
鼻水も出てきた。こんなので明日体調不良になっては元も子もない。
これなら帰ってテレビでもみていたほうがマシだ。
俺は帰路につくため重い腰を上げようとする。
「あの」
突然声がした。
「うわっ!!」
横を振り返ると人がいた。さっき見回した時には誰もいなかったのに…
しかもおかしいのはそれだけじゃない。
こんな真冬だというのに、病人服のような格好で、体全体を包帯でぐるぐる巻きにしていた。
そして包帯の奥からギョロギョロと目玉が動きこちらをみている。
明らかに異質だ。関わってはいけないとそう身体が判断する。
「あの…」
しきりにそいつが訪ねてくる。なぜだ?何のために?
だがこの時の俺は謎の好奇心でその呼びかけに応えてしまっていた。
「お、俺…ですか?その…寒くないですかね?」
俺は自分でもわかるくらい気持ち悪い笑顔を浮かべその包帯人間を見つめる。
「………」
反応がない…本当はこいつは何かのロボットで実は遠隔で誰かが操っているんじゃないか?それで俺を嘲笑ってるとか?俺は辺りを見渡すが特にそういった感じはしなかった。
ただ動かない包帯人間と動けなくなった俺が対峙している絵面がそこにはあった。
俺は興味本位でそいつに近づいてみた。やっぱりどうみても人間とは思えない体躯をしており、包帯の奥の瞳は瞬きを一瞬たりともしない。
すると突然そいつはこちらをギョロっと覗くと俺に向かって近づいてきた。
「ヒィ」
野太い短い声を上げて俺は尻もちをつく。
すぐに立ち上がって逃げ出したい気持ちはあるものの足がすくんでうまく立ち上がれずにいた。
奴は転んで動けない俺を暫くみつめると、再び歩みを進め俺に近づいてくる。
必死に這いずりながら距離を取ろうとするもどんどんとその距離は狭まっていった。
ヒタ
ヒタ
ヒタ
公園の街灯に照らされてより不気味さを増すそれが俺のすぐ目の前まで迫る。
奴は暫く俺を見下ろす。そして腰を下ろして耳元で囁いた。
はやく…○○に…帰ってきて
何か云ったような気がしたが包帯人間の声はまるで機械音のような雑音が入り聞き取りづらいのにその声は俺の耳から直接脳にまで響き、不気味さをより確実なものにした。
「…うわぁぁぁ!」
俺はションベンをチビリながら、最後の力を振り絞って何とか立ち上がり逃走する。
どこをどう走ったかなんで覚えていない。けれども俺は何とか家までたどり着いた。
俺は家の扉を力強く開けるとそのままドタドタと部屋まで駆け込み、布団を被る。
まさか…ここまでやってこないよな?
俺はブルブルと震えながら結局一睡もできずに朝を迎えた。
チュンチュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる。
時刻は7時28分
結局あれからあいつは姿を見せることなく朝を迎えた。
「……仕事…いかなきゃ…」
俺は睡眠不足でぶっ倒れそうだったが昨日の今日で来なかったら確実に無職になるため嫌々でも出勤することにした。
シャワーを浴びて髭を剃り、冷蔵庫にあったいつのかもわからないようなおにぎりを無理やり身体に押し込むと出勤する。
まずは昨日の失態を謝罪すべく本部に向かう。
俺は必死に愛車「チャリ」を走らせる。
本部に到着しドアを開けるとまるで待ち構えていたかのように怒声が響いた。
「なあ…なにやってんの!クライアント様が作業遅れて帰れなくてカンカンだったんだぞ!!」
俺の派遣先の担当である加藤さんはスーツ姿で俺を睨みつけながら鬼の形相で言葉をぶつける。
俺はただ下を向き必死に謝り続けた。
「すみません、すみません、すみません」
すると加藤さんは小馬鹿にしたように口を開いた
「で?君、昨日何で一人だけ帰ってきたの?」
は?
「いや、向こうに確認したら帰宅しろって云われて…」
すると加藤さんは周りをぐるりと見渡し大きな声で呼びかける。
「おーい、昨日こいつと一緒にいた奴ー」
そして昨日同じ配属になった奴らがポツポツと手を挙げる。
「昨日、こいつ先に帰ったんだけど、誰か理由しってる奴いるかぁ?」
誰も手を挙げない。
は?
「いや、昨日担当の社員が俺に云ったんですけど…」
すると加藤さんはにっと笑うとそいつを呼び出した。
「なぁ、昨日こいつにそんな指示したか?」
加藤さんが優しい邪悪な顔で問う。
すると直後に驚きの答えが返ってくる。
「いえ、云ってません。こいつ昨日俺達に責任押し付けて先に帰りました」
淡々と平然と嘘を吐くコイツに流石に俺も我慢の限界だった。
「ああッッ!?お前何言って!!ーー」
俺はそいつに殴りかかろうとするが周りの大人複数人に取り抑えられる。
「仕事もできないし、勝手に帰るわ、嘘はつくわ…挙句の果てに暴力って…君いくつよ?」
俺は無言でそいつを睨む。
「じゃあ、日本語も喋れない様だから私が変わりに云ってあげるね」
スマホを取り出すと、加藤は俺がここに入る時に入力したプロフィールをみる。
「あっ…マジ!?俺よりも歳上?31?」
すると周りがざわつく。
やばっ…
その歳でなにもできないの?
人生詰んでんじゃん。
周りから飛び交う声に俺は耳を塞ぎたくなる。
うるさい、うるさい!!黙れ!
そして加藤が不敵な笑みを浮かべ苦笑しながら喋り出す。
「まあ、そうゆうことだからさぁ。君、もういらないわ。じゃあね人生の先輩」
そして俺は会社の外に放り出される。
「ぐはっ」
放り出された衝撃で、俺は手を擦りむいた。
「ってて…」
俺はチャリに跨り帰宅する。
家のドアを開けると人の気配はしなかった。
両親は俺を遅く産んだこともあり既に現役は引退なのだが、俺というお荷物が足枷となり、2人を働かせざるおえない状況にしていたのだった。
俺は怒りのまま、部屋を突き飛ばすように開けると壁を思い切り殴った。
クソが!!死ねや!!どうしようもないことくらい、俺だってなぁ!!俺だってわかってんだよ!!
俺は布団にくるまると大声をあげ発散させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
暫く立つと俺は声も枯れてしまい、全てがどうでもよくなっていた。
なのに、眠れなかった…こんなにしんどくて疲れているのに睡魔だけは一向に襲ってこないのだ…
暫くすると辺りは夜になっていた。
叫びすぎたせいで腹が減る…
俺は財布を確認する… 315円…
今の物価じゃ弁当も買えやしない。仕方なく俺は家のキッチンに向かう。
床は老朽化のせいかきゅうきゅうと音を立てておりいつ抜けてもおかしくないという状況だった。
上の戸棚を開ける。 何もなし。
二段目の戸棚 同じく何もなし。
冷蔵庫を開ける。賞味期限切れの牛乳と熟して黒くなったバナナが剥き出しで入っている。何もない。
思えば今日食べたおにぎりが最後の食料だったのだ。
俺は諦め部屋に戻りゲームで時間を潰すことにした。
更に数時間後
外は完全に夜に包まれており、家の中では自分の部屋のみが照らされていた。
腹の音が鳴りやまない。
両親もまだ帰ってこない…クソ…実の息子を飢え死にさせる気かよ…
俺は空腹でこの狭い部屋に閉じ込められていたら気が変になりそうだったので、とりあえず外に出た。
行く宛などもちろんないがあそこにいるよりマシだった…
ふらふらと彷徨い続け、小1時間ほど空腹に耐えながらただひたすら歩いていた。
俺は何を血迷ったのか、昨日の(厳密にゆえば今日だが)公園に来ていた。
もちろん昨日の奴はいなかった…あいつは一体なんだったんだ?俺に何を伝えようと…いくら考えてもわからない。
というより昨日見たあれは本当に現実だったのか?もしかしたら最近のストレスで俺がおかしくなってただけじゃないのか?
結局あの時の包帯人間は現れず俺は時間を無駄にし金もないし行くとこもないので気乗りはしないが再度家に引き返す。
流石にそろそろ両親も帰っているだろう。申し訳ないが頭を下げてご飯を食べさせてもらおう…そして今度こそまともに働こう。
そう心に誓ったのだった。
家につく。おかしい、まだ電気がついていない。
いくらなんでも帰りが遅すぎる。まさか…事故に?いやそれだとしても2人とも違うところで働いているはずだから片方は帰ってきてるはずだ…まさか…
俺を捨てた?
確かに最近は両親を避けるようにしてきたから遭ってはいなかった…だとしてらいつから。
俺はさっきの約束などなかったかのように暴言を吐き捨て家に入る。
「くそ!ふざけんなよ!!一体いつからッッ!!」
俺はダンダンと音を立てて両親のいる襖を開ける。
両親はどちらも家にいた。
だが宙で浮いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
人物紹介 加藤 幸雄 二十代後半くらい
主人公の派遣の担当の人
気性が荒く、気に入らなかったらすぐに切れたり責任を押し付けるため、会社では嫌われているがこの派遣会社の社長の息子のため皆口出し出来ない。
人が苦しむ顔をみるのが好きなタイプで派遣社員を使ってストレスを発散している。




