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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第六章 僕は何も知りたくない
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8.ランプは追い詰める

 ――ドゴオオォン!


 爆風が辺りの霧を蹴散らす。

 音の正体は、ココの《砲閃花(ホウセンカ)》による砲撃だった。

 相手に命中させる事が目的ではない。

 砲撃による爆風――それによって視界を覆う霧を一時的に散らすのが目的だった。


 視界が晴れていく。

 そして、その向こうにいた敵の姿が露わになった。

 

「……ようやく、追い詰めた……」


 ランプが口の端をクイと上げる。

 彼女の背後ではクローが、ティオーラが、そして三人の少女達が、それぞれ自分のヤドリを発動させ、臨戦体制となる。


 相手は油断ならない化け物だ。

 皆に緊張感が走る。


「……『迷霧の樹林』で次々にハンターが消える……その噂は随分前からあった」


 ランプのハスキーボイスが、周囲に低く響き渡る。


「……霧に惑い、魔獣にやられたのだと、誰もが思っていた。それだけ危険な地帯なのだと……けれど、私は聞いたんだよ。ここの出身者に……」


 敵の唸り声が何重にも聞こえてくる。

 恐ろしげな牙も見える。

 けれど、ランプの声は落ち着いていた。


「……『迷霧の樹林』には()()()がいる……そいつらが、樹林を訪れるハンターを次々に狩っているのだ、と……」


 ランプは編み込まれた夕陽の色の髪を横に払った。

 彼女のうなじには瘤があり、茜色に光を放っている。


「……さあ、おいで。化け物狩りの時間だ……」


 ランプの声に応えるように、彼女の瘤の光は明るさを増す。


 その輝きの中から、ヤドリ獣が姿を現した。


 初めに見えたのは、前足だった。ついで鼻先が現れ、獰猛そうな目が瞬く。

 唸り声を合図に、ヤドリ獣が躍り出た。


 白銀の毛並み。

 鋭い爪が地面を踏み締める。

 口元から覗く、まるで月のように光る大きな牙――。


 ()()()()()()()()()()()》が、勢いよく飛び出し咆哮した。


「……『迷霧の樹林』を狩り場として、訪れるハンター達を次々に襲い、命と所持品を奪う化け物共……」


《銀月虎》はランプに身体をすり寄せながらも、その目は敵を捉えたままだ。

 その恐ろしげな姿を目にした敵達が、一歩後ずさるのが見えた。

 ランプは唸るように告げる。


「お前達なんだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()ってのはさ」


 ランプの言葉に、今まで黙って聞いていた()()()()は口を開いた。


「誰に聞いた知らんが、そこまでわかってるんだったら、生きてこの樹林から逃すわけにはいかねぇな」


 オルテンの横に並ぶドランとジオンも、敵を狩るために身構える。


「お前達、狩りの時間だ。家族のために戦うぞ」


 その言葉を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。



   ♢   ♢   ♢



 オルテンの《風迅狼》がランプに飛び掛かった。

 ランプは身体をバネのように使って跳躍し、狼の顔を踏みつけるようにして地面に向かって蹴り飛ばす。

 《風迅狼》は身体を回転させながら衝撃を受け流しつつ着地し、唸り声をあげてランプの右足に噛みつこうとする。

 しかし、《風迅狼》は横に跳ね飛ばされる。《銀月虎》の前足が、横腹を殴りつけたのだ。

 勢いよく二、三度地面に叩きつけられる《風迅狼》。

 トドメを刺そうとするせまる虎の牙に、鎖が巻き付いた。

 オルテンだった。

 鎖の正体は彼の手から伸びたヤドリ草《緊鎖(キングサリ)》だ。

 

 オルテン=レイン。

 樹林を訪れるハンター達を次々に襲う、犯罪ファミリーの(かしら)


 ハンター狩りは家族(ファミリー)で行う。

《風迅狼》達が、獲物に襲いかかり、気を逸らしている間に、オルテンの《緊鎖(キングサリ)》が背後から霧に紛れて一人ずつ捕える。

 そのまま殺す事もあれば、他のハンターへの人質として使う事もある。


『迷霧の樹林』はハンターの絶好の狩り場だ。

 市場で出回りにくい希少な魔獣が多く生息している。

 ハンター達は危険に備えてしっかりと装備品を揃えて、何人かでパーティを組み、『迷霧の樹林』へと挑む。


 そんなハンター達の装備品は、品質も良く裏の世界で高く売れる。

 オルテン達はそうやって生きて来た。


 だが、今日の狩りはいつものようにいかなかった。


 そもそもの始まりは、赤い衣服を着た妙な一団を襲った時だった。

 子連れだと甘くみていたが、思わぬ反撃にあった。およそ戦闘とは無関係そうな少女達が、ヤドリ草を使いこなしていたのだ。

 こちらの隙をついて彼女達は逃げ出した。

《風迅狼》をけしかけ、追いかけようとしたが、叶わなかった。


 間の悪い事に、霧の中から《銀月虎》を連れたハンターの女が現れたのだ。狼の声を聞いて、こちらの居場所を見つけたらしい。

 混乱した長男のハインが女に襲い掛かり、そして返り討ちにあった。

《銀月虎》の牙は、的確にハインの腹を貫いていた。


 そこからは、オルテン達の陣形が崩れてしまった。

 赤い一団には逃げられた。

 しかし、追う余裕はなかった。

 《銀月虎》は元より、ハンターの女や連れの剣士もかなりの手練れだったからだ。


 一度逃走し、体勢を立て直したオルテン達は、再度奇襲を仕掛けた。

 一度は相手を侮っていた。

 けれども、霧に隠れて背後から襲えば、二度目はいつものように上手くいくと思っていた。


 その結果が、惨敗だ。


 妻のタンシアは《銀月虎》に噛みつかれ、首から血を吐き出しながら崩れ落ちた。


 つまり、これは三度目の戦闘だ。


(正直、分が悪い)


 今まで、襲った獲物は一度も逃さず始末して来た。

 だからこそ、長い間《迷霧の樹林》を狩り場にしてこれたのだ。

 

(俺らの事がどこから漏れたんだ?)


 オルテンは内心で毒づく。

 

(まさか、アナベルか? いや、アイツにそんな事出来る度胸はないはずだ)


 オルテンは背後をチラリと見る。

 そこには、凍りついたように棒立ちになっている末息子がいた。


「おい、アナベル! お前いつまでそうしているつもりだ!」


 オルテンはいつものように彼に怒号を浴びせた。


「どうしてお前は他のきょうだいの様に出来ない!? 誰が狩りの心得を教えてやったと思ってる!」


 レインファミリー。

 彼らはチームワークの取れた狩りの技術により、生き延びてきた。

 オルテンとタンシアの夫婦は、時に厳しく時に優しく、子供達に狩りの技術を教えた。

 生き延びる方法を、敵の仕留め方を、そして獲物への感謝を。


 オルテンの背後から、ナイフを構えたランプが斬りかかる。

 オルテンは両手の間に張った鎖でランプの斬撃を受け止め、反動を生かしてランプの足元をねらって蹴りを入れる。

 ランプは攻撃をよけ、一度オルテンから距離をとる。

 その隙に、オルテンはアナベルの元へ駆け寄った。


「ハインも、タンシアも、あのハンターの女の虎にやられたんだぞ! 二人の仇を取ろうと思わんのか!」

「オレはやらない!」


 アナベルは裏返った声で叫んだ。


「オレはやりたくない! 人殺しなんか……可哀想じゃないか!」

「この臆病者が!」


 オルテンは拳を握り締め、アナベルを殴りつけた。

 いつものように、何度も何度も。


「今まで誰が食わしてやったと思ってるんだ! お前の食事を買ったその金は、どこから出てきたと思ってるんだ! 俺達が命懸けでハンター共を狩って、そのおかげで生き延びてきたんだろうが」


 アナベルの姿に、オルテンは自分の弟の姿が重なって見えた。

 人を殺して生き延びる事など出来ないと、ファミリーを飛び出して行ったオルテンの弟。

 

 あどけない少年の、こちらを軽蔑するような金の瞳が、アナベルの姿を借りてこちらを責めているように感じた。


 一際力を込めて、オルテンは末息子を蹴り付けた。

 そして、ランプの方を振り返る。


「……俺達は家族だ」


 両の手で《緊鎖(キングサリ)》を掴み、ギンッと音を立てて引く。

 

「俺達は家族だ。乗り越えられる――俺達は強い絆で結ばれた家族だ」


 オルテンの《風迅狼》が、威嚇するように咆哮した。

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