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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第六章 僕は何も知りたくない
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9.クローは斬り結ぶ

 ランプとオルテンが対戦している一方――。

 クローは、ドランとジアンの姉妹と対峙していた。

 笑みを浮かべたまま、クローはティオーラに声をかける。


「そっちの狼は頼みますよ。この二人は、あたし一人で充分でしょう」

「はっ! 随分馬鹿にしてくれるわね」


 クローの言葉にドランとジアンは顔を引きつらせる。素早く視線を交わすと、二人同時にクローに斬りかかった。

 

「……じゃあ、お任せしますよぅ」


 ティオーラはクローの背中にそう言って、二頭の《風迅狼》と向き合った。

 傍には、三人の少女達がそれぞれヤドリを構えている。

 

「それじゃあっ! こちらも戦闘開始ですっ!」


 跳ねる声と共にモモが《捕斧木(ホオノキ)》を振るった。

 飛び退いた狼に向かってティオーラが《酔閃(スイセン)》を投じる。

 地面に突き刺さった《酔閃(スイセン)》の上を飛び越え、もう一頭の狼が牙を剥き出しにトトを狙うが、彼女は《鉄扇(クレマチス)》を広げ、舞うような動きで《風迅狼》の爪と牙を防ぎきった。

 くるりと勢いをつけて回り、その勢いのまま閉じた《鉄扇(クレマチス)》で《風迅狼》の目を狙うが、今度は狼が《鉄扇(クレマチス)》に噛みつき、その攻撃を防ぐ。


「ちょ、ちょっとこの……放しなさいってば」


 身動きが取れなくなったトトに、すかさずもう一頭が狙いをつける。


 慌ててモモが《捕斧木(ホオノキ)》を振るが、《風迅狼》の毛の先を薙いだだけで、空振りで終わる。


「やばっ!」


 その声に反応したティオーラが《酔閃(スイセン)》を再び投じようとした瞬間、爆音と共に狼が二頭とも転がった。


 ココの《砲閃花(ホオセンカ)》が、狼を吹き飛ばしたのだ。

 ただ――


「ちょっと! なんで私まで巻き込むのよ!」


 トトが顔に泥をつけ、勢いよく起き上がる。


「ココ! あんた何考えてんのよ!」

「威力弱い。別に死なない」

「そういう問題じゃないっての!」


 ココの《砲閃花(ホオセンカ)》は、攻撃は派手だが、なにぶん魔力が低く経験も浅いため、そこまでの殺傷能力はない。

 今はせいぜい、爆風で敵を飛ばすぐらいしか出来ないのだが、小物の魔獣を威嚇するには充分だ。

 大体が、音と風に驚き、敵の方が逃げ出してしまう。


 だが――。


「気をつけてくださいねぇ。わんちゃん達、まだまだ元気いっぱいみたいですぅ」


 ティオーラが少女達に警告する。

 泥にまみれた二頭の《風迅狼》が、唸り声をあげてこちらを睨んでいる。

 ティオーラはやれやれと肩をすくめた。

 どうも少女達との共闘は緊張感に欠ける。


「んむぅ。犬と子供と泥んこ遊びなんて、私には向いてないですぅ」

「お姉さん、そんな事言わないでくださいよっ!」

「こんなの、酒のつまみにもならないですよぅ」


 ティオーラはそう言って、ローブを跳ね除け両腕を横に広げた。


「げっ!」


 モモが口を押さえて飛び退く。

 ティオーラの左右の腕がボコボコと波打ったのだ。

 いくつもの瘤が光と共に膨れ、その中から《天眼鼠》達が、こぼれ落ちるように飛び出して行く。


「……お姉さん、結構気持ち悪いですねっ」

「ちょっと、失礼よぅ」


 ティオーラはそう言って、狼達にぴしりと指差す。


「わんちゃん達を、足止めして下さいよぅ」


 わらわらと鼠の群れが、狼に向かって飛びついて行く。

 何匹かは噛みついているようで、狼が不快そうに爪を振り回す。

 一つ一つの攻撃は致命傷にならないまでも、無視できる量ではないのだろう。

 

「ヤドリ獣ってのはね、無理に倒す必要はないのよぅ。結局は宿主を倒せばいいんだからぁ」


 ティオーラは、少女達に頷いて見せる。


「あと少し時間稼ぎをしておけば平気よぅ」

「時間稼ぎ?」

「そう。もうすぐ決着がつくはずだからね。ただねぇ」


 ティオーラはチラリと、クローの方に目をやる。


「時間潰しに飲むお酒って、あんまり美味しくないのよねぇ」



   ♢   ♢   ♢



「くそっ!」

 

 ドランとジアンの姉妹二人は、息のあった動きで次々にダガーを繰り出す。

 しかし、クローのヤドリ草《太刀花(タチバナ)》は、全ての攻撃を受け止め、弾き返す。

 クローの口の端には浮かんだ笑みは消える事なく、その余裕な様が、姉妹を追い詰めて行く。

 

 二人は、自分達の劣勢を理解し始めていた。


「アナベル……アイツさえちゃんとしていたら!」


 息をあげてクローから距離を取ったドランは、吐き捨てるように言った。


「アイツは――新入りだから」

「新入り?」


 クローがその言葉を聞き咎める。


「そうさ。アイツはファミリーに入りたて。ヤドリ獣だって孵化したばかりだ。まだまだひよっこだ」


 ふとクローは、アナベルと呼ばれた少年の方に目をやる。

 アザだらけの痩せた四肢。頬のこけた顔。

 目だけが爛々と暗い光をたたえ、やけに大きく見える。


 隙を狙うように、ドランとジアンの姉妹がダガーを振りかぶるが、クローはなんなくそれをかわし、二人の腹にそれぞれ蹴りを入れる。


 たまらず呻きながら二人は後退する。


「……お前ら、きょうだい――ではないのか」

「きょうだいだよ? 私達は家族だ。絆で結ばれているのよ!」


 ジアンは一瞬で直立して叫ぶ。

 その反応は、まるで訓練された兵士のようだった。


「孤児院を出たばかりの私を、父さんと母さんは拾ってくれた。そしてたくさんの事を教えたくれた。生き延びる方法を、敵の仕留め方を、そして獲物への感謝を」


 ドランもゆらりと立ち上がってダガーを構え直す。


「みんなそうだよ。父さんと母さんに家族にしてもらったんだ。そうやって私達は家族同士支え合って生きてきたんだ」


 なるほど――とクローは思う。


 黄金の勇者アキレアは、孤児院出身の子供達を学園に呼び寄せた。

 緋色の賢人ミャーマは、追い詰められた子供達を一座に招き入れた。

 そして、ハンター狩りのオルテンは、行き場のない子供達を犯罪集団に抱き込んだのだ。


(家族という報酬を餌にしたんだな)


 一人だけアザだらけのアナベルという少年。

 おそらく彼は、家族の団結力を深めるために役割を与えられていたのだ。


 家族のためにならなければどうなるか、という見せしめの役割を。


「……胸糞悪いな」


 クローは吐き捨てるように言った。

 流石に、その顔から笑みが消えていた。


「どんな賭け事も、全ては()が儲かるように出来ている」

「……は? なんの話よ」

「あんたらは利用されてんだよ。わからんのか?」


 クローの言葉に、二人は一瞬黙った。

 そして、ぐしゃり、と顔を歪めるとそのまま爆笑した。


「何言ってるの? そんなのわかってるわよ。わかっててやってるのよ!」


 ジアンの言葉にドランが続く。


「私達は家族の一員なの! 家族のために命をかけてるの! ハイン兄さんはそうした。母さんもそうした。二人だけじゃないわ!」


 そう、二人だけじゃない、とドランは繰り返す。


()()()()()()()()()()()()()! アナベルやドランが来る直前に、二人の兄と弟が死んだわ! ハイン兄さんよりも年上だった姉は、獲物から返り討ちにあって、私がとどめをさしてあげた。それが家族だから!」


 姉妹の目はどこか誇らしげにクローを見つめている。

 まるで、歴史ある家系図を見せびらかすかのようだった。

 ドランは言葉を続ける。


「いくつかの孤児院にあたりをつけておくのよ。で、もうすぐ十二歳になる子がいれば、チャンスね。孤児院を出た所で母さんが迎えに行くのよ。警戒されないように、女きょうだいの誰かがついて行く事が多いわね」

「……そうやって、子供をさらっているのか」

「違うわ」


 ジアンが馬鹿にしたように鼻で笑う。


「家族になろうって誘うの。無理矢理連れて来るわけじゃないわ」

「父さん達だってそうなんだから」


 ドランは自慢げに言った。


「父さんだって、孤児院出身よ。父さんが来る以前から、ファミリーはあった。ずっとずっと、家族は続いて来たの。絆は繋がって来たの」


 鎖のように、強く、抗えない繋がり。

 家族という絆。


「父さんはたくさんの兄と姉と弟と妹と育ったの。みんな、家族のために命をかけて、そして死んでいったそうよ。ああ、そういえば――」


 そこでドランは言葉を切った。


「――そういえば、昔一人だけ、逃げ出したヤツがいたって父さんが言ってたわ。父さんの弟分だったらしいけど。もしかしたら、私達の事をチクったのもそいつかしらね」


 クローは、ただ小さく首を振った。


「……手遅れか」


 ドランとジアンは、満面の笑みを浮かべる。

 対してクローは、苦虫を潰したような顔だ。

 先ほどとは逆転したその光景に、後ろからティオーラが声をかける。


「クロー、手を貸しましょうかぁ?」

「いや、必要ないですな」


 短く答えたクローに向かって、ドランとジアンは恍惚とした顔で飛びかかった。

 

「私達は、家族のためにあるの」

「家族は、私達のためにあるの」


 クローの《太刀花(タチバナ)》が閃いた。

 次の瞬間、二人は声もなく地面に伏した。

 もう、ピクリとも動かない。


 こうしてレインファミリーのドランとジアンは、笑顔のまま切り倒されたのだった。

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