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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第六章 僕は何も知りたくない
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7.アイビーは知ってしまう

 僕の身体に別の魂が寄生していた。

 だから時々『彼』に身体を乗っ取られていたんだ。


 ミャーマは僕をじっと見つめる。

 黒い瞳に僕が映る。


「ねえ、悪いんだけど、お水をもう一杯もらってもいいかしら」

「え……ああ、もちろんです」


 ミャーマは水を一口飲むと、そのまま器を僕に差し出した。


「ビーちゃんも、少し飲んだ方がいいわ」


 礼を言って水を受け取り、僕も少し口に含む。

 ミャーマから聞いた話が頭の中をぐるぐると回る。

 ゴクリと喉がなる。

 なんだかそれ以上、水が喉を通る気がしなくて、僕はカップを両手で抱えた。

 洞窟の中に沈黙が訪れる。


「……ねえ、あたしが寄生する前、この身体にはね、ヤドリ草が植え付けられていたの」


 ミャーマが口を開いた。


「《悲願花(ヒガンバナ)》っていうヤドリ草だったらしいわ」

「《悲願花(ヒガンバナ)》……ですか」

「そうよ。でもね、あたしが羽化してから、そのヤドリ草、発動しないのよね」

「え?」

()()()()()()()


 ミャーマはこちらを見ずに言った。


「あたしも、ヤドリ術を使えないの。それもあって、学園では赤点ばかりだったわ。赤点ミャーマなんて呼ばれてて……今では『緋色の賢人』なんて呼ばれているのがおかしいわよね」


 ミャーマの声が、頭を通り抜けていく。


(ミャーマも、ヤドリ術が使えない? 僕と同じで?)


「待ってください、ミャーマ様――」

「アイビー。逆なのよ」


 ミャーマが、僕の名前を呼んだ。愛称でなく、本名で。


「そう、()()()()


 ミャーマの言葉に頭が熱くなる。

 反対に、身体が急速に冷えていく。


(そんな……そんな……)


「あたしはね、宿主の身体に寄生したヤドリ魂。()()()()()()()()使()()()()()


(それじゃあ……)


「それじゃあ……僕も……です…か……?」


 喉に張り付いたような、乾いた声だった。

 

「そうよ」


 ミャーマは、真っ黒な目でこちらを見つめている。

 仄暗い洞窟の中、ぼんやりと浮かぶミャーマのシルエットが僕には揺らいで見えた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(僕が――寄生している……?)


「あなたの身体に宿るもう一つの『彼』。『彼』こそが、バッチオーク伯爵の息子アイビー。あなたはね、五歳のアイビーの身体に植え付けられ、《繭》から羽化した、ヤドリ魂なの」



   ♢   ♢   ♢



 カップの水に映る自分を僕はじっと見つめた。

 湖のほとりにあった屋敷を思い出す。

 鏡の中から抜け出した偽物が、本物に取って代わる物語――。


(僕の方が……偽物だったんだ……)


 本物のアイビーは、きっと父さんと同じ金色の髪に金色の眼だったに違いない。

 僕が中途半端に寄生したことで、瞳だけが黒色に染まったのだ。

 ミャーマが若者の身体に宿った事で、髪と眼の色が黒く変化したのと同じように。


 僕の瞳の色は、僕が偽物である証なんだ。


 ミャーマが小さく腕を振る。

 腕輪についていた赤い石がシャランと音を鳴らす。


「この石はね、あたしが羽化した繭の欠片なのよ」

「え?」

「こんなにカチカチに固まるの。ちょっと面白いわよね」


 ミャーマの耳元で、首、足、腕、あらゆる場所に飾られている大小の赤い石。

 それは全部、繭の欠片だったのだ。


「あなたのその石もそうよ」


 ミャーマはそう言って僕の胸元を指す。

 僕の胸元には、いままで姉さん達から受け取った《証》――金色の石を紐に結んだものが首から下がっていた。


「……これ……僕が羽化した時の、繭の欠片だったんですか?」


 どうして父さんは、こんなものを、姉さん達に渡したんだ。

 自分の子供の証として――。


 ミャーマの目を見つめる。

 真っ黒な瞳に沈んでいくような気がする。

 そう言えばいつだっただろうか。

《鏡草》の水鏡に映るミャーマを見て、まるで自分の顔を見ているような錯覚に陥ったのは。


「ミャーマ様……僕達は、寄生し続けるしかないの? 僕達はどうしたらいいの? そもそもなぜ、僕達は繭の中にいたの?」

「……さっきも言ったけど、逆なのよ……」

「……どういう意味ですか?」


 ミャーマはため息をついて「まだ、ここから先はまだ話せないわ」と言った。


「本当に、むいむいよね」


 そう言ってミャーマは、懐を探り、何かを取り出した。


「ほら、コレをあげるわ」


 それは、金色の石の欠片だった。

 姉さん達から譲り受けた、繭の欠片と同じものだった。


「これはね、知り合いの子から預かってくれって渡されたのよ。どうやらこの欠片、あの子は持て余しちゃったみたいなの。重すぎたのね」


 僕は黄金の欠片をそっと受け取った。


「あたしは学園に居続ける事が出来なかった。あの子に知られたくなかった。あたしが、お兄さんの身体を奪ってしまったのだと。本物になりすましている偽物なんだと。それに――」


 ミャーマはゆっくりと首を振った。


「まだ終わってないのよ」

「……終わってない?」

「そうよ。ジャルダン学園を襲った奴ら、そして、アイビーとへデラ先生を襲った奴ら……」


 へデラ先生……僕の母親の事だ。

『反ヤドリ主義者』に襲われて、命を落としたと言う僕の母……。


「違うのよ。逆なのよ」


 まただ。またミャーマは同じ言葉を繰り返す。

 何がどう逆なのだろう。


「襲ったのは……暗殺者は『反ヤドリ主義者』じゃないのよ」


(……どういう事だ……ミャーマは何を言ってるんだ?)


 僕は混乱の渦に飲み込まれている。そんな中、ミャーマの言葉が意識の表面を上滑りしていく。


「だって逆だもの。へデラ先生が『反ヤドリ主義者』に襲われたんじゃないの。逆なのよ。へデラ先生が『反ヤドリ主義者』だったのよ」

 

 そう言われて、いよいよ僕の頭は、ミャーマの言葉を理解できなくなってしまった。


「……帰りたいわ。元の世界に。でも、もう帰れないの。知ってしまったのよ。あたしも、ヘデラ先生も」


 ミャーマの声は、泣いているように聞こえた。


「むいむい共が、むいむいしやがって、むいむいの癖に、むいむいのせいで、むいむいになった! 全部全部、むいむいなのよ! あたしはむいむいを許さない! 許したくないの!」


 ミャーマの言葉は、まるで受け止めてくれる人を探すかのように洞窟に反響した。

 そして迷子がうずくまるかのように、静かに暗闇に溶けていった。

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