表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第六章 僕は何も知りたくない
PR
62/67

6.ミャーマは打ち明ける

 ミャーマは小さくため息をついて黙った。

 僕は、しばらく言葉が出てこなかった。


(異世界……? ミャーマが別の世界からやって来た?)


 混乱する一方で、どこか「ああ、だからか」と納得する自分もいた。

 手に握っていた『ペンライト』に目を落とす。

 妙な物語をたくさん知っていて、人と違った発想をする、『緋色の賢人』や『知の英雄』と呼ばれるミャーマ。


「……じゃあ、ミャーマ様は……えっと……」


(そうか、本名はミヤマだから……)


 口ごもる僕に、ミャーマは笑い「ミャーマでいいわよ」と言った。


「こっちの人達には馴染みのない発音だったのかしらね。最初はミヤマって名乗っていたんだけど、みんなが『ミャーマ』って呼ぶから、それでもいっか!って諦めたの」

 

 ミャーマが髪をかきあげる。

 手首の赤い石が軽い音を立てる。


「でもね、こっちで色々勉強しているうちに、気づいちゃったのよ。あたし、自分が異世界に『転生』したのかと思っていた。()()()()()()()

「違った?」


 ミャーマは「そう」と呟き、身を起こした。


「この若者の身体に、あたしという()()()()()()宿()()()()――これって、何かに似ていない?」


 そう言われて僕は「あっ」と声をあげた。


「まさか……()()()()……」

「その通りよ」


 ミャーマは仄かな笑みを浮かべて頷いた。


「これってヤドリ術にそっくりなの。あたしは、この身体の持ち主の、命のスペアにされたのよ」


 僕は、アリウム姉さんの話を思い出す。

 空っぽの器に、魂を注ぐ研究していたアリウム姉さん――。


「あたしはね、転生したんじゃない。()()()()()()()()。あたしは、ヤドリなのよ」


 そう言うと、ミャーマは大きくため息をついた。

 僕はハッとして彼(――いや、本当は彼女か)の額に手をやる。


(――熱い)


 傷のせいだろうか、熱が出て来ている。

 僕は荷物から水を取り出しミャーマに飲ませる。


 ミャーマは一口水を飲んだ後「ねえ、続きを聞いてくれる?」と言った。


「ダメですよ。大人しくしていなきゃ」

「お願い。今、話さなきゃいけない気がするの」


 熱のせいで子供っぽくなっているのか、ミャーマは引かない。

 僕は布を水で濡らしてミヤマの額に当てた。


「自分がヤドリだと気がついた時、ショックでね。アキレアに詰め寄ったわ。なんでちゃんと説明しなかったんだって。何が『己を知れ』だって。なんであたしを無理矢理こっちの世界に連れて来たんだって」


 そう言えば、ジャルダン学園が襲撃される前にミャーマは学園を去っていたはずだ。

 その辺りの事も関係しているのだろうか。


「いいから全部知ってる事を話してちょうだいって詰め寄ったらね、アキレアは話してくれたのよ。彼と二つの()の話を」


 ――(まゆ)


「そう。これは、昔々のお話よ」


 そう言ってミャーマは、熱で潤んだ瞳のまま、勇者の物語を語り始めた。



   ♢   ♢   ♢



「その昔、黄金の勇者は、各地を冒険しながら魔獣を倒し人々を救った功績を認められ、王の使いから褒美を受け取りました。


 それは二つの《(まゆ)》でした。


 王の使いは言いました。


『この繭には、魂が封じられている。大切な者の命がこぼれ落ちそうになった時、この繭を使いなさい』と。


 ある時、黄金の勇者は、将来有望な剣士に出会いました。

 彼は、才能ある妹に嫉妬し、彼女に毒を盛って亡き者にしようとしました。

 勇者はその企みを防ぐため彼と対決し、その結果、若き剣士は瀕死の重症を負いました。


 しかし、勇者は彼のような若者を亡くすには惜しいと考えました。

 そこで、王様からもらった繭を彼の身体に寄生させたのです。


 繭は羽化し、新しい命が彼の身体に宿りました。


 髪と瞳は黒く染まり、彼は別人のように新しく生まれ変わったのです。


 勇者は、羽化したヤドリを《ヤドリ魂》と呼ぶ事にしました」



 ミヤマはそこまで言って一息つくと、洞窟の天井を見上げた。

 苔と岩の間を小さな虫が這い、遠くの方で微かな水音がする。


「その繭から羽化したのが、あたしなの。本当、むいむいよね」


 僕は学園の図書室で見かけた本を思い出す。

 あそこにはなんて書いてあっただろうか。

 専門的な用語が多くてほとんど理解できなかったけど、確か『種や卵の他にも、植え付けられるヤドリがある』と書かれていたはずだ。


 種から発芽するヤドリ草。

 卵から孵化するヤドリ獣。

 そして、繭から羽化するヤドリ魂。


 そういう事なのだ。


「あたしの身体の持ち主は、瀕死の状態だったっていうから、この身体はあたしの魂が支配しちゃったんでしょうね。でも、もし生きている人に繭を植え付けたら、どうなるのかしら。一つの身体に魂が二つ。それは、どんな状態なのかしら」


 ミャーマは「むいむい、むいむい」とうなされるように呟いた。


「ミャーマ様、もう休みましょう。熱があがってしまいます」

「話はここからなのよ」


 ミャーマは、うめきながら身動きをする。

 シャラン、シャランと身につけている石が音を立てる。


()()()()()()()()()


 ミャーマはそう言った。

 そして黙った。


 続く言葉を待っていた僕は、その意味を考え、そして凍りついた。


――もし、生きている人間に繭を植え付けたら――

――一つの身体に魂が二つ――


 いくつもの欠片が繋がっていくような気がした。


――五歳の頃、僕は暗殺されかけた――

――父さんはその事をずっと黙っていた――


 二つあったヤドリ魂の繭。

 

――突然身体を乗っ取る『彼』――

――命のスペア――


「父さんが、繭を植え付けたのは……()?」


 声がかすれた。

 手が震えているのが自分でもわかる。


「僕の身体を乗っ取る『彼』……あの『彼』が、繭から羽化したヤドリ魂――僕に寄生したヤドリ魂――そういう事ですか?」 


 僕の問いかけに、ミャーマは悲しげな視線を向けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ