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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第五章 僕はわがままを聞きたくない
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7.ユーリは呼び出す

『どうやったら誰も入れない檻の中にいたカムを殺せたのかーー』


 僕の口が小さな声でそう呟く。


『たとえば自殺』


 僕であって、僕でない声はそう続ける。


『もしくは、()()()()()()が手を下したか』


 僕の意思と関係なく動く口。

『彼』が僕の身体を乗っ取っているのだ。

 食堂の片隅で、誰にも聞かれない小さな声で『彼』は僕の口を使ってささやいた。

 なんとも奇妙な会話だ。こうやって最近『彼』は僕に話しかけてくる。


『《大箱(おおばこ)》は、誰も入れない。でも宿主のユーリは違う』


 確かに『彼』の言う通り、ユーリだけは好きな時に《大箱(おおばこ)》を開けられる。

 けれど、僕はユーリが犯人だと思えなかった。

 それよりも、僕の頭を占めているのは別の事だった。

 僕は、書庫で見たあるページの事をじっと考えていた。


 みんなの目前で死んだアングレ。

 二人きりの室内で死んだデジー。

 誰も入れない檻の中で死んだカム。


 いろんな考えが交差する。

 その時だった。


「アイビー、ちょっと……一緒に来て欲しいんだ」


 ユーリが声をかけて来た。

 それをきっかけに『彼』は僕の奥底に戻り、身体の自由がきくようになる。


「僕、これからツィーと話さないといけないんだけど……」


 ユーリの顔に浮かんでいる表情を何と呼べば良いのか、僕はわからなかった。

 覚悟の決まった顔、と呼べば良いのだろうか。


「ぼ……わたしでいいのかな?」

「うん、アイビーが適任だと思う」

「適任?」

「他の皆は、ツィーの事を庇うだろうから……君に来て欲しい」

「どこへ行けばいい?」


 ユーリは、上を指して言った。


「屋上へ」


 僕は、ゆっくりと頷いた。

 僕も、覚悟を決めなくてはいけない。


「クローと、ティオーラ姉さんも一緒でもいいかな」


 これから起こる事に思いを馳せながら、僕は静かにそう言った。


 そう。

 二人は絶対に必要なはずだ。

 なぜなら、クローもティオーラ姉さんも、ことの真相に気がついているはずだからだ。



   ♢   ♢   ♢



 屋上に出ると、強い風にあおられた。

 制服のスカートがはためく。

 ユーリは、よろけないように両脚に力を入れて、堪えるようにして立っていた。


「僕……僕、ツィーに聞かなくちゃいけないことがあるんだ」


 ユーリはそう言ってツィー姉さんをすがるような目で見つめた。

 屋上には、ツィー姉さんとユーリと僕。そしてクロー、ティオーラ姉さんが、ことの成り行きを見守るためにいる。


(いや、見守るだけじゃダメなんだ……)


「ツィー、君はアングレが殺された時、警備隊を呼びに行かせたと言ったね」

「ええ、ふもとの町の警備隊を……」

「誰が呼びに行ったんだい?」


 ユーリの問いかけに、ツィー姉さんは無言になる。


「今、僕ら以外の生徒はみんな食堂に集まっている。そこにいるのは全部で十五人。その全員に聞いたよ。誰も警備隊を呼びに行っていないらしい」


 ツィー姉さんが何か言ったようだったが、僕の所まで聞こえなかった。

 何処かから聞こえてくる鳥の声と冷たく吹き付ける風の音が、ツィー姉さんの声をかき消してしまった。


「そうだよ。呼べるわけがないんだよ。だってそうだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ユーリは大きく息を吸い、何かを諦めるように吐き出した。


「だってこの学園は、僕のヤドリ草《大箱(おおばこ)》に守られているんだから」


 ユーリのヤドリ草――《大箱(おおばこ)》。

 殺人の容疑をかけられたクローを閉じ込めた牢獄。

 透明化する事で、魔獣を捕える罠としても使えるヤドリ草だ。


 宿主のユーリが許さない限り、外に出ることも中に入ることも叶わない透明な箱。

 その巨大な葉が、この学園をすっぽりと覆っていたのだ。

 

 ユーリは僕らの方を見て、申し訳なさそうに言った。


「黙っていてごめん……僕、本当は、あんな小さな箱じゃなくて、もっともっと大きな箱を作ることが出来るんだ。この学園が収まるぐらいの《大箱(おおばこ)》を」

「わたし達がここへ来た時、ユーリがその《大箱(おおばこ)》を開けてくれたんだね」

「うん、クローもティオーラも、印象が変わっていたから、最初わからなかったけど、ツィーから開けるように合図を出されたんだ……」


 僕が、どんなヤドリを植えつけたのかユーリに尋ねた時、彼が『内緒』と答えたのは、まだ僕を信用してなかったからだろう。

 自分がこの学園の影の門番なのだと、僕に教えるわけにはいかなかったんだ。


(僕だけが、勝手に打ち解けた気持ちになっていたんだな……)


「なぜだ?」


 そう聞いたのはクローだった。


「ユーリ。なぜ君がそんな事を?」


 質問と言うより確認のために、と言った口調だった。

 ここにいるみんなが、聞かなくてもその答えを想像出来たからだ。


――どうして、学園まるごと《大箱(おおばこ)》に閉じ込めたのか?


「ツィーに頼まれたから」


 ユーリの返事は、思った通りだった。


「ツィーに言われたから、僕は《大箱(おおばこ)》でこの学園を包んだ。僕は、誰も入って来ないようにするためだと思ってた。でもツィー。違ったんだね? ()()()()()()()()()()()()()()()()、僕を利用したんだね?」


 ツィー姉さんは何も答えない。

 ただ遠くの鳥の声だけがぎゃあぎゃあとうるさく感じる。


 この学園は要塞だった。それと同時に牢獄だった。

 侵入出来ないが、脱出も出来ない。

 そんな、閉じられた学園。


「ツィー、どうして三人は死ななきゃならなかったの?」

「みんな、どこかへ行こうとするの」


 ツィー姉さんは突然口を開いた。


「それじゃ困るわ。わたし、わがままなの。みんなには、ずっとここにいてもらわないと」

「ツィー、何を……」

「みんなどこかへ行こうとするの。アングレは外の世界で力試しがしたかった。デジーは外の世界で名を残したかった。カムは外の世界の知識が欲しかった」


 姉さんは「わたし、わがままなの」ともう一度言った。


「みんなみんな、外へ出て行こうとするの。だから閉じ込めなきゃならなかったの」

「だから彼らは死んだの? そのせいなの?」

「違うわよ。言ったじゃない。侵入者のせいよ。反ヤドリ主義者だって。そいつらのせいよ」

「そんな奴ら、どこにもいなかったじゃないか。そうだよね? アイビー」


 ユーリに話を振られて、僕は返答に困る。

 学園内に、侵入者はいなかった。その通りだ。


「僕の《大箱(おおばこ)》が守っていたんだから、侵入者はいないはずなんだ」


 姉さんは、ユーリに歩み寄り「ねえ、ユーリ。私困っちゃって」と甘えるような声を出した。


「……何がだい?」

「ケンドー先生のレポート、再提出になっちゃったの」


 ユーリは、困惑したようにツィー姉さんをみつめる。


「……ツィー、何を言ってるの?」

「もう何度やり直したかわからないわ」「何度やってもうまくいかないの」「私一人じゃ無理かもしれない」


 姉さんは微笑みながら、ユーリに手を伸ばす。


「やめてよ!」


 ユーリはそう言って、ツィー姉さんの手を払いのけた。


「……君なのか、ツィー。みんなを学園に閉じ込めて、一人ずつ殺していったのは……君なんだね、ツィー」


 ツィー姉さんは、ユーリに払われた手を胸に抱え込み、黙ったままだ。


「この先も、外の世界に出て行きたがった人から殺すつもりなの? それとも、全員殺すつもりなの? だから都合が良いように、みんなを食堂に……一ヶ所に集めたの?」


(もう……終わりにした方がいい……)


 僕は、前に一歩踏み出した。


「待って、ユーリ」


 そして、僕の中の『彼』に話しかけた。


(いいかい、僕の中にいる『君』。今日は『君』に頼らず、僕が話す。だから待っていてくれ)


 返事はなかった。

 けれど『まったく』とため息をついているに違いない。


「ユーリ、違うんだ。もう、殺人は起こらないんだ」

「なんでそんな事がアイビーにわかるの? まさか君が……」

「落ち着いてくれ。……ちゃんと話そう。いいかい、ユーリ。殺人は起こらない」


 僕は、ゆっくりとユーリに向かっていった。


「だって、もう決まっている事だから」

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