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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第五章 僕はわがままを聞きたくない
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6.アイビーは耳をすます

「どういう事です? 何があったんですか?」


大箱(おおばこ)》から解放されたクローは眉をひそめている。


 今更になって僕は、ティオーラ姉さんの言っていた「クローの無実を証明する方法」に思い至る。

 クローが閉じ込められている間に、またもや殺人があった事で、不本意ながら彼女の無実が証明されたのだ。

 

 青ざめた顔の僕とユーリの肩を、ティオーラ姉さんが心配気にさすってくれている。


「僕の後ろで扉が閉まって……開けるまでほんの少しの時間だったはずだ……」


 貯蔵庫の中には、誰もいなかった。

 隠れるスペースはなかった。

 あの時、貯蔵庫にいたのは、二人だけ。


 デジー。

 そしてカムだ。


 僕はそっと《大箱(おおばこ)》に目をやる。

 ほんの少し前までは、クローが罪人として囚われていたヤドリ草で作られた檻。


 今、その中に囚われているのは、青い顔をしたカムだった。


「カムはアングレの双子の弟だよ? 殺すわけがないじゃないか……」


 震える声のユーリに対して、当事者のカムは思いの外冷静だった。


「状況的に僕が疑われるのは仕方がない。デジーと僕の二人きりの部屋で、デジーは死んだんだ」


 カムは、兄アングレの死を誰よりも悲しみ、誰よりも怒っていた。

 そんな彼がアングレとデジーを殺すはずがない。


(いや、待てよ)


 ふと僕は考える。


(もし訓練場でアングレを殺したのがデジーだったら? 兄を殺された復讐に、カムがデジーを殺したのかもしれない……)


「カムではないわ」


 僕の考えを否定するかのようにツィー姉さんがゆっくりと首を振る。


「殺したのは侵入者よ」


 ツィー姉さんは「私……怖いわ」と身震いをし、周りの男子生徒達が口々に慰めの言葉をかけている。


「侵入者に殺されないように、皆で一ヶ所に固まっていた方がいいわ。食堂に集まりましょう」


 ツィー姉さんの提案に、周りは大きく頷く。

 誰も、姉さんの言葉を疑わない。


(でも、僕らは学園中を探し回ったんだ。侵入者が潜んでいた形跡なんか見つからなかったぞ)


「……じゃあカムも一緒に――」

 ユーリが《大箱(おおばこ)》を開けようとしたのをツィー姉さんは優しく止めた。


「待って? その《大箱(おおばこ)》は、檻でもあるけれど、要塞でもあるでしょう。だってこの中には誰も入れないのだから」

「え……でも」


 だから、カムはこの中にいるべきだと言うのだろうか。

 姉さんの考えが汲み取れないのはユーリも同じようで、戸惑いの表情を浮かべている。


 そこへ、意外な方向から声がかかった。


「このまま閉じ込めていてくれて構わない」


 それは、膝を抱えて座るカムだった。


「ユーリ、僕はここでしばらく考え事をしたい。このままにしていてくれ。ツィーの言う通り、この中はある意味安全なんだから」


 ユーリは、《大箱(おおばこ)》があらゆる斬撃を跳ね返すと言っていた。

 それは中からも、そして外からの攻撃にも強いと言う事なのだろう。

 頑ななカムの態度に折れて、ユーリはそのまま食堂へと歩いて行った。


(それにしても、犯人は本当に侵入者なんだろうか)


 ヤドリ術を使えば、何でもありだ。

 不可能を可能にしてしまう。

 どんなヤドリ術が使われたかもわからない状況で、犯人を探すなんて無理だ。


(そうだ、書庫にあったヤドリ獣の図録……あの中に、何かヒントになりそうなものがあるかもしれない……)


 僕は、ゾロゾロと食堂に向かって階段を上る皆からそっと離れ、もう一度書庫に向かう事にした。

 僕がいない事がバレないよう、クローとティオーラ姉さんはそのまま食堂に向かって誤魔化してもらう事にした。


 書庫に向かう途中、人の声がした。

 一瞬ギクリとしたけれど、落ち着いて耳をすますと、それはさっきまでいたピロティから聞こえて来るのだとわかった。

 吹き抜けになっているせいで声が届くのだ。


「ツィー、僕は知っているんだ……」


 吹き抜けを上ってくる声はカムのものだった。


「知っているってなにが?」

「君がユーリにやらせていた事だよ」


 僕は、盗み聞きに罪悪感を覚えつつも、立ち止まって耳をそばだてる。


(話している相手はツィー姉さんだ)


「なぜ隠しているのかわからないけれど、僕はどうこう言うつもりはないよ。ただ心配なんだ、ツィー。君は優しいから」

「そんな事ない。私はわがままよ」

「ツィー。僕は、君のためならどんな事でもしてあげたいと思ってるよ」

「ほんと? 嬉しい」


 ツィー姉さんは、甘い声でカムに言った。


「じゃあ、ずっとここにいてくれる?」


 姉さんの問いかけに、カムは即答しなかった。


「……学園を出れば、ここの書庫なんか目じゃないくらいの知識に溢れている。僕は、早くここを出て、さらに多くの事を学びたいんだ」

「そう……そうなのね」


 それっきり、声は聞こえなくなった。

 きっと姉さんはカムとの会話を切り上げて、食堂に向かったのだろう。


(急がなくちゃ)


 僕は、足早に書庫へと急ぐ事にした。

 どこかから聞こえる鳥の声に、なぜか胸がざわめいた。


 この時僕は、ピロティまで戻ってカムと言葉を交わしておくべきだったのかもしれない。

大箱(おおばこ)》に囚われたままのカムの安否を確かめるべきだったのかもしれない。


 なぜなら、その後書庫での用事を済ませ、食堂にそっと紛れ込んだ僕は、暗い顔のクローとティオーラ姉さんから知らされたからだ。


 カムが殺されたと言う事を。


 彼は、誰も入れないはずの《大箱(おおばこ)》の中で亡くなっていたのだった。

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