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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第五章 僕はわがままを聞きたくない
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1.アイビーは門をくぐる

 アザー丘陵に吹く風は冷たく乾いていた。


 思いの外強い風が頬に当たり、髪が舞い上がる。

 めくれそうになったワンピースの裾を両手で押さえ、そんな自分の仕草に僕はうんざりした。


(だんだんと、この格好にも慣れて来ちゃったなぁ)


 最近は、ティオーラ姉さんが細かく髪の毛を編み込んでくれたり、クローが賭けで儲けたお金で髪飾りを買ってきたりと、着飾り具合が増してきている。

 最初は文句を言っていたけれど、ここのところは歯向かうのも面倒で、されるがままになっていた。


 ふと前を見ると先を歩いていたクローが立ち止まり、こちらを見ている。


 つられて振り返ると、ティオーラ姉さんがゼイゼイと言いながら、少し遅れて丘を登ってきていた。


「姉さん……お酒買いすぎだよ」


 ようやく追いついた姉さんに、僕は呆れて物申す。

 ふもとの町で買い込んだお酒のせいで、姉さんの荷物はかなりの重さになっているはずだ。


「僕言ったよね? 余計な物は買わないようにって」

「ビー、何を言うんですぅ」


 姉さんは口元を引き締めて、僕をまじまじと見つめた。


「余計なものなど……一滴たりともありませんよ……ぅ」


 目が必死すぎる。

 命をかけている者の目だ。


「この私が……酒の重さなんかに……弱音を吐くと思いますぅ……?」

「息があがってるじゃん」

「すぐ飲んじゃうんで問題ないですぅ」

「それはそれで問題あるよ」

「背負ってるもんが重すぎたら、酒を飲めばいい。それが人生ってもんですぅ」

「名言っぽく言うのやめてくれない?」


 ダメだった。

 話が全く通じなかった。


 アザー丘陵のとある場所に、僕の姉妹の内の一人が暮らしてる。


 それを教えてくれたのは、アリウム姉さんだった。

 詳しい事は行けばわかる! と、それ以上の事は教えてもらえず、僕らは、ひたすら丘を登っていた。


 しばらく行くと黒い鉄格子の様な門が見えてきた。


「ああ、白い建物が見える。アリウム姉さんが言ってたのはあの建物かな?」


 僕の言葉にクローもティオーラ姉さんも黙ったままだった。

 疑問に思って二人の顔を仰ぎ見ると、心なしか青ざめている様だ。


「……? 二人共、どうしたの?」


 僕が尋ねたその時、澄んだ声が聞こえた。


「うそ……まさか、クロー? それにティオーラまで!」


 見ると、黒い門の向こう側にロングヘアの女性が立っている。


 ピンクがかったベージュの髪の毛が風に舞い、鈍い日の光に透けて輝いている。

 彼女の着ている白い服は、見たことの無い不思議なデザインだ。


「ツィー……?」


 かすれた声でティオーラ姉さんが呟く。

 近づいて来た女性を前に、僕は思わず固まる。


 大きな瞳に長いまつ毛。

 スラリと伸びた細い手足。

 小さく薄い唇。

 目を見張るほどの美人だった。


 彼女の目には涙が溜まっていた。

 感極まった様子で、潤んだ瞳を二人に向けている。


 クローがそっと僕にささやく。


「あなたの姉上のストレツィア様です」

「あ、えっと」


 僕は慌てて一歩前に出た。


「初めまして、姉さん。僕、弟のアイビーです」

「……私はストレツィア。ツィーと呼ばれているわ」


 返ってきたのは、凍りつくよう冷たい視線だった。

 予想外の反応に、僕は思わず再度固まる。

 恨むような、憎むような、そんな視線を向けた後、ツィー姉さんはフイと目を逸らした。


 姉さんは何もなかったかのように、すぐに笑顔を浮かべて他の二人に話しかけた。


「久しぶりに会えて嬉しいわ。今、開けてもらうから、ちょっと待ってね。中にいるみんなも二人に会いたいと思うわ」


 ツィー姉さんはどこかに手を振って合図を出している。

 その彼女に、ティオーラ姉さんが震える声で尋ねた。


「待って、この建物は……それに……皆? 皆が待ってるって……どういう事ですぅ……?」

「ふふ……この建物、見覚えがあるでしょう?」


 クローとティオーラ姉さんは顔を見合わせる。


「私はね、勇者アキレアの作ったジャルダン学園を、ここアザーの丘に移設したのよ!」

「な……!」


 ツィー姉さんの言葉に二人は絶句している。


「移設って、学園に何かあったんですか?」

「あら、聞いてないの? 移設前の学園は『反ヤドリ主義者』に襲撃されたのよ」


 僕の質問に、ツィー姉さんは冷めた目で僕を見下ろす。


「ヤドリ術について教えているって事で、奴らの標的にされたの。短絡的でくだらない連中だわ」


 そういえば、アリウム姉さんも『反ヤドリ主義者』を警戒していた。

 かなり過激な行動に出る奴らもいるからだと。


「そんな事より、来てちょうだい。私達のジャルダン学園が、まるまるここにあるんだから」


 黒い門がゆっくりと開いた。


 ツィー姉さんは、クローとティオーラ姉さんの腕を取り、じゃれつくように歩みを進める。

 わざとらしく片手でクローの腕を抱き、もう片方の手でティオーラ姉さんの指を絡めとるように引っ張っている。


 僕には一暼もくれなかった。


 二人も、どこか心ここにあらずといった様子で、引かれるがままに中へと足を進める。

 仕方なく僕も後へと続く。


(僕だけわざと除け者にされているような……)


 モヤモヤとした気持ちを抱えながら、三人について行く。


 

 どこかで、鳥の鳴き声が聞こえた気がした。

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