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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第四章 僕は扉を開けたくない
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6.アイビーは散策する

 アリウム姉さんから「今日は家に泊まるといいよ!」とありがたい申し出があった。


「ちょっくらヤドリ器の修理に取り掛かりたいからね! 良かったら村の様子でも見てきたらどうだい!」


 そこで僕らは決して大きいとは言えないインディゴ村をウロウロと歩き回る事にした。


 畑仕事中の村人に挨拶し、北へ向かって歩いているうちに高台に着いた。

 そこからは村の北側が一望出来た。


 空と、木々、そして人間の営みの終着点だ。


 そこから見える際限のない景色を前にして、僕らはしばらく無言になった。


「なんだか自分がちっぽけに感じますぅ」


 ティオーラ姉さんがポツリと呟いたのをきっかけに、僕らは来た道を引き返した。


 そのまま村の中心へと戻ると、広場を中心に小さな商店や教会があった。

 広場で小さな子供達が木の枝を振り回している。


「おいお前、攻撃当たっただろ! 早くしねよ!」


 物騒な声が聞こえてきた。

 見ると、一人の子が不満そうに他の子を指さしている。

 どうやら戦いごっこ中のようだ。

 木の枝の攻撃を受けたにも関わらず、いつまでも倒れない友達に文句を言っている。


(なんだか懐かしいな)


 僕も小さい頃、クロー相手に一日中、戦いごっこをしていた気がする。

 文句を言われた子供は、生意気そうに言い返した。


「しなないよー! おれ、まだ命が二個残ってるんだからー!」


 指を二本たてて、相手の子を煽っている。


「なんだよそれ!」

「おれ、命が三個あるんだよー!」

「そんなのズルいぞ!」


 そのまま彼らは、戦いごっこから追いかけっこに遊びを変え、どこかへ走って行った。


 賑やかなら彼らが走り去ると、教会の裏手で何人かの声がした。


「んむぅ、何ですかねぇ」

「行ってみようか」


 質素な教会の裏手には数人の男たちと、年若い司祭がいた。


「おや、あなたは……」


 司祭がいち早く僕らに気がついた。

 僕は急いで「アリウム姉さんを訪ねて参りました、妹のビーと申します」とお辞儀をした。


「ああ、アリウム先生の妹さんでしたか。『守り人の村』までようこそいらっしゃいました。私は司祭を勤めておりますハチスと申します」


 司祭は柔和な笑顔を向けて近寄って来た。


「あの……どうかされたんでしょうか」

「ああ……実は墓を荒らされてしまったようでして」


 司祭達の足元には空の棺が置かれていた。


「んむぅ、さっき配達員の方が言ってましたねぇ」

「ああ、そう言えば……」

「おや、バンクシアさんにお会いになられましたか」


 ハチスはため息をついて首を振った。


「これまでにも何度か、墓を荒らされてしまいまして……私たちとしても困っている所なんです」

「……この匂い……」


 横で、ティオーラ姉さんが鼻をスンスンさせている。


「どうしたの? 姉さん」

「んむぅ、なんだか嗅ぎ覚えのある気が――」

「気のせいじゃない?」

「酒飲みってのは鼻が効くんですよぅ。酒の深みを嗅ぎ分けられますからねぇ」

「嘘くさいな」


(正直何を飲んだところで、姉さんにとっては同じなんじゃないかと思う)


 ハチスは他の村人達に何やら指示を出し、僕らの元に戻ってきた。


「私達は『守り人』なので、魔獣にやられてばかりもいられないんですよね」

「大変なお仕事ですよね」


 僕の言葉にハチスは照れ笑いを浮かべた。


「いやはや、墓を荒らす魔獣だなんて、まるでアキレアの物語のようですよ」


 その言葉に僕は思わず「アキレアの物語ですか?」と聞き返す。


「ええ、この地域に伝わる黄金の勇者の伝説ですが……良かったらお聞かせしましょうか?」

「ぜひお願いします!」


 僕は前のめりに返事をした。

 後ろでクローとティオーラ姉さんが肩をすくめているけれど、気にしない事にした。


(父さんも、もしかしたらこの村に来て、さっきの高台からの景色を見たのかもしれない)


 ハチスは僕らを教会の中に案内して、そこで父さん――黄金の勇者の物語を語ってくれた。



   ♢   ♢   ♢



 ある村に、墓を荒らす魔獣が出ました。

 魔物は、夜になると村へやってきて墓を掘り返し、死体を喰らうのです。

 人々は怯え、苦しんでいました。


 そんな村に勇者アキレアがやってきました。

 彼は魔獣退治のため、墓場の棺の中に隠れ待ち構えました。

 そして魔獣がやってくると隙をついて飛び出し、その腕を切り落としたのでした。


 アキレアは魔物が残していった腕を村に持ち帰りました。

 腕を切り落とされては、もう墓を荒らすこともないだろうと村人達は喜びました。


 そして翌朝、魔獣を退治したアキレアを称え、皆で祝杯をあげようとしていると、村の司祭が現れました。


 司祭は言いました。


「おそらく、魔物はまだ生きているでしょう。そして腕を取り返しにやってくるに違いありません」


 村の人々は恐怖で震え上がりました。

 勇者は静かに「我々はどうしたらよいでしょうか」と司祭に訊ねました。


「魔物は今夜にも、この村を訪れるでしょう。家の扉も窓も全て塞ぎ、夜の間はけっして扉を開けてはいけません。今夜だけ、なんとか乗り切るのです」


 司祭は何度も念押ししました。


「いいですね。絶対に、扉を開けてはいけませんよ」


 そしてその夜の事。

 村のありとあらゆる窓や扉を塞ぎ、人々は家の中で息を殺していました。


 アキレアは、魔獣の腕を木箱に入れ、厳重に封をしました。

 そして、窓も扉も固く閉ざし、部屋の中央に座り込みました。


 すると……


――ドン、ドンドン


 扉が強く叩かれました。


『おい、ここを開けろ。開けないとお前を八つ裂きにするぞ』


 そして、魔獣の腕を封じた箱からは音がしました。


――カリ、カリカリ


 箱を内側から引っ掻くような音でした。

 まるで、元の身体に戻りたくて、箱を開けようともがいているような耳障りな音。


 勇者は微動だにせず「帰れ! 化物め!」と怒鳴りました。

 魔獣は扉を強く叩き続けましたが、アキレアは決して扉を開けませんでした。


――コン、コンコン


 しばらくすると、扉が弱々しく叩かれました。


『お願いです。ここを開けてください。助けてください』


 聞こえて来たのは女の声でした。


『私は村長の娘です。父が魔獣に襲われました。私も逃げてくる時に怪我を負いました。どうか助けて下さい』


 悲痛な声で助けを求められ、アキレアは立ち上がりました。

 しかし、腕を封じた箱を見ると


——カリ、カリカリ


 そう、中を掻くような音がします。

 勇者は考え直し、家の外に向かって叫びました。


「お前はきっと、魔獣が化けたのだろう。とっとと帰れ!」

『違います、信じてください! 開けて下さい…開けて……』


 そのうち、扉を叩く音が強くなっていきました。


――コンコン……コン……ドン、ドンドン、ダン、ダンダン、ダァンッ!


『開ケテ……アケ…ロ……アケロ、アケロアケロアケロアケロアケロ!』


 魔物は扉を強く叩き続けましたが、アキレアは決して扉を開けませんでした。


――トン、トントン


 また、しばらくすると、扉を叩く音と共に『おい、俺だ。わかるか?』と声がしました。


 アキレアは驚きました。

 昔、彼と共に数々の魔獣を討伐した仲間の声だったからです。


「どうせまた魔獣が化けているのだろう。化物め、とっとと帰れ!」

『おい、よく聞け。お前は騙されているんだ』


 仲間の声は必死にそう言いました。


『いいか、墓を荒らす魔獣なんていなかったんだ』


 勇者はゆっくりと腰をあげ、扉の前に立ちました。


『魔獣の腕なんてないんだ。それは幻だよ。なぜなら、墓を荒らしていたのはお前自身だからだ!』

「何を言ってるんだ!」


 勇者は怒鳴りました。

 しかし、仲間はなおも言葉を続けます。


『お前は、英雄と呼ばれ続けたかった。勇者であり続けなくてはならなかった。だから、自分で魔獣を作り出したんだ。でも、全ては幻だ。お前はお前に騙されているんだ!』


 アキレアは、腕を封じた箱に目をやります。

 その中身が空だとは、どうしても思えません。


『俺の言葉が嘘だと思うなら、その箱を持って出てこい。俺が一緒に見てやる』


 仲間の言葉に、勇者は箱を持ち上げました。


――カリ、カリカリ


 中からは音が聞こえます。


「嘘を言うな! 魔獣の腕が箱の中を掻く音がするじゃないか」


 アキレアの言葉に、仲間は必死に答えます。


『だから、それは幻聴だ。騙されるな。英雄に対する執着が、お前を騙しているんだ』


――カリ、カリカリ


『開けてくれ。お願いだ。目を覚ますんだ。ここを開けてくれ!!』


——カリ、カリカリ、カリカリカリカリカリカリ


 アキレアは扉を開けませんでした。

 そして、剣で木箱を勢いよく突き刺したのです。


『ぎゃああああああぁぁぁ』


 つんざくようなその悲鳴は、扉の外から聞こえました。


 そして、扉を叩く音も仲間の声も、ぱたりとしなくなりました。


 朝になって外に出てみると、黒っぽい灰の山が、扉の前にありました。

 木箱から剣を抜き、陽の光の元で開けてみると、中には同じような黒い灰が残されていました。

 掻き出してみると、風に舞ってどこかへ消えてしまいました。


 木箱の中には、爪で引っ掻いたような痕が無数に残されていました。

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