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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第四章 僕は扉を開けたくない
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5.アイビーは訝しむ

 扉が開いた。

 そこには、髭の男が立っていた。



 質実剛健が服を着たような男性が、ビシリと背筋を伸ばして立いる。


「どうも、アリウムさん」

「ああ、バンクシアさん!」


 バンクシアと呼ばれた彼は「修理をお願いしたいのです」と持っていた物を差し出した。


「せっかくお借りしていたのに、墓を荒らす魔獣に壊されてしまったようで……」


 おそらく姉さんの生み出したヤドリ器だろう。

 部品が外れてしまっている。


「アリウム先生の作品をこんな目に合わせてしまい……誠に申し訳ない」

「いやいや! 謝らないでくれ!」


 姉さんはヤドリ器を受け取り、作業台まで運んでいく。


 バンクシアは部屋の中をぐるりと見回し「失礼、来客中でしたか」と僕達に声をかけた。


「インディゴ村の配達員、バンクシアと申します!」

「初めまして、えっと、ビーです。はじめまし――」

「なんと! アリウムさんにこんな可愛らしい妹さんがいらっしゃったとは」


 バンクシアと名乗った男はニッと笑いかける。


「こんな辺鄙な『守り人の地』までよく来られた」


 彼の言葉にティオーラ姉さんがボソリと呟く。


「んむぅ、さっきの人もだけど、こちらが名乗る前から()だって知ってるんですねぇ」


 クローも頷いて言葉を返す。


「きっと村で聞いたんでしょうな」

「じゃあ、白々しく偵察しに来たって事ですかぁ?」

「さっきの女性も、修理の相談にかこつけて、様子を見にきたんじゃないですかね」

「まあ、小さな村に余所者が来たらそうなりますかぁ」


 姉さんの居所を訪ねて回る時、僕らは三人共アリウム姉さんの妹だと名乗った。

 

 ただでさえ、村では余所者は目立つ。

 クローが傭兵であると知られると、警戒されてしまうのでは、という事で、彼女も姉妹の一員となった。


 インディゴは狭い村だ。

 余所者が尋ねて来た事も、その理由も素性も、一人に話せばあっという間に広まったのだろう。


(それにしても、わざわざ偵察に来るなんて凄いな)


 僕らがそんなやり取りをしている間も、アリウム姉さんはヤドリ器の故障箇所を覗き込み、ペンライトで照らしている。


(なるほど……本来はああやって使う物なのか)

 

 こんなすごいアイテムを、あえて吟遊詩人の舞台で観客に持たせるだなんて発想は、なかなか思いつかない。

 ミャーマが《緋色の賢人》と呼ばれているだけの事はある。

 

(発想力が異世界レベルだよなぁ)


 確認が終わったのか、姉さんは楽しそうにウヒェイッと笑い声をあげた。


「これなら直せそうだ! 早速修理に取り掛かろう!」

「ありがたい。ご連絡お待ちしておりますぞ」


 バンクシアは踵で音をたてて敬礼をし、その勢いのまま去って行った。


 客人が帰ったのを確認して、奥からコバがのそりと出てくる。


(……? コワニーからも隠れていたな……人見知り、だからなのかな?)


 僕は作業台に近づき、姉さんの手元を覗き込んだ。


「それもヤドリ器ですか?」

「ああ! 村の墓が魔獣に荒らされているから、魔獣避けになるような物を貸してくれと言われてね!」

「どんなヤドリ器なんですか?」


 アリウム姉さんは待ってましたとばかりに早口で説明を始めた。


「これはだね、動きを感知するヤドリ器なんだ! 魔獣が近づくと光と音を発して威嚇する装置だよ」

「そんな事できるの?」


 クローとティオーラ姉さんも驚いて顔を見合わせる。


「考えてもみてくれ! 墓が荒らされるのを防ぐためには見張りが必要になる! もし魔獣が来たとしたら、一人では危険だから、二人以上が交代で見張らなければならない……来るか来ないかわからないのにな! それでは大変だろう?」 

「……つまり、このヤドリ器は『人の代わりになる』という事ですな」


 呟くようなクローの言葉に、アリウム姉さんは「その通りだ!」と頷く。


「人の代わりになる装置。これからはこう言ったものが必要になってくると思うんだよ!」

「ねえ、姉さん。さっき言っていた『英雄は作れる』って、どういう事なの?」

「ああ……そうだな! ウチはね、人を英雄に『変身』させようと思うのだよ!」

「変……身……?」


 訝しげな僕に、姉さんは「さっきもちょっと話したがね!」と首を揺らす。


「変身にまつわる物語というのは、世界各地にあるらしいのだがね!『人に変身する』物語と『人が変身する』物語があるらしいのだ!」

「人が変身……ですか?」

「ああ……ヤドリ術とは、別の生物を寄生させ、その力を借りるものだ! これはまさに、自分の一部を変化させ戦う――変身だと言えるだろう!」


 姉さんがそう説明をしている時だった。


 ゾワリとした悪寒が背中を走った。


()()()()


 そう、僕の口がつぶやく。


 しかし、それは僕であって僕ではない。

『彼』の言葉なのだ。


(まただ……また身体を乗っ取られた)


 二度も『彼』に身体を乗っ取られているので、僕なりに『彼』ついて考えているけど、わかっていることは数少ない。


 一つは前兆。

 ゾクゾクとする寒気に襲われた直後、『彼』はやってくる。


 それから、『彼』が現れると僕はヤドリ草を使えるようになると言う事。

 『彼』が去ってしまうと僕はヤドリ草を使えなくなる。


 そして、乗っ取られると、僕の力では『彼』から逃れられないと言う事。

『彼』が飽きるまで身体を操られてしまう。


 しかし、どういうわけか、今回はいつもと違った。


『良く見るんだ。目がついているだろう』


 僕の中の『彼』はそう言った。

 まるで、僕に向かって言っているようだった。


「ん? 何だい? 何か言ったかい?」と、アリウム姉さんが僕を覗き込む。


 すると、ガクっと身体の力が抜けた。

『彼』が去ったのだ。


(……? どうしたんだろう。いつもより乗っ取られる時間が短いな……)


 何があったのか理由を知りたかったが、考えたところでわかるはずもない。


 僕は考えるのを諦め、首を傾げているアリウム姉さんを誤魔化す事に専念した。

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