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パラサイトな僕の十九人の姉さん達  作者: 輪二
第四章 僕は扉を開けたくない
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4.アリウムは修理する

 扉が開いた。

 そこには、日に焼けた大柄な女性が立っていた。



「どうも、アリウム先生」

「おや! コワニーさん! どうしたんだい!」

「ちょっとヤドリ器の調子が悪くてね。見てもらいたいんだ」


 コワニーと呼ばれた女性はそう言うと、自分の背後をクイッと示した。


 扉から出て行く姉さんにつられるようにして、僕も外の様子を伺い見る。

 ふと後ろで何かが動く気配がする。

 振り返ると、コバがのそりと動き、扉の外から死角になる位置に身を隠している。


(……? コワニーとか言う女性から隠れているみたいだ)


「強風にあおられて墜落してから、どうも上手く飛べなくてね」とため息をついたコワニーは、僕らに気がつくと「おや、噂の妹さん達かい?」と言ってニカっと笑いかけてきた。 


「あんた達の姉さんはすごい人なんだよ。こんなもんをパパーっと作っちまうんだからね」


 彼女の指し示す先にあったのは砂埃にまみれた小型のヤドリ器だった。


「ウヒェイ! ちょっと羽根部分を調整してみよう!」


 そう言って姉さんは道具を取り出し早速作業に取り掛かる。


「……あのぅ、墜落って事は、あのヤドリ器って飛べるんですかぁ?」


 ティオーラ姉さんの質問に、コワニーが「その通りさ」と頷く。


「アリウム先生のヤドリ器ってのは本当に大したもんだよ。先生がやって来てから、村は大助かりさ」


 コワニーは「それにしても」と僕ら三人をしげしげと見つめる。


「あんたら、姉妹なんだって? アリウム先生と、あんまり似てないねぇ」


「ほっといてくれ」と、クローが肩をすくめる。


「いやいや、冗談だよ。アリウム先生の妹さんってのはべっぴん揃いだねぇ。あんたらもこの『守り人の村』に住むつもりかい?」

「いえ、私達は姉に会いにきただけでぇ――」


 二人がコワニーと話している隙に、僕はそっとアリウム姉さんに近づいた。


「姉さん……もしかして『緋色の賢人』のミャーマ様と知り合いですか?」

「ん? ああ、もちろんさ! 古い友人だよ!」


(やっぱりそうだったんだ!)


 クローの前でミャーマの話はしない方がいいだろう。

 ミャーマから、クローの前で名前を出さないように頼まれていたので、僕はこっそりと作業中の姉さんにささやいた。


「あの……まさか、さっき言ってた禁断の研究している人って、ミャーマ様の事ですか?」

「いやいやいや! それは違う! ()()()とミャーマは全然違うんだ!」


 僕はそれを聞いて少しホッとした。


「ミャーマは変わった奴でね! あいつから聞いた面白い話はウチの研究のヒントになる時もある!」


 姉さんは作業の手を止めず「例えばだな」とミャーマから聞いたという物語を話し始めた。



「ある時、美しい娘が老夫婦の家を訪ねてきたそうだ。

 娘はそのまま家に居付き、見事な布を織りあげる。

 ただ『絶対に部屋の扉は開けないでくれ』と言い、はた織中の姿を見せてはくれなかったそうだ。

 娘の織った布が高く売れるおかげで老夫婦は暮らしむきがよくなったそうだ。

 しかしだよ。

 ある日老夫婦は約束を破り、中の様子を覗いてしまった。

 部屋の中ではたを織っていたのは、昔、命を助けたことのある鳥だったそうだ。

 鳥は、自分の羽をむしりその羽で布を織っていたのだ。

 姿を見られてしまった鳥は、そのまま老夫婦の元から飛び去ってしまったそうだよ」


 姉さんは「開けてはいけないと言われると開けたくなるんだよな!」と首を振った。


「この話は、いわゆる魔獣が人に変身した物語だが……人に変身する魔獣もいれば、魔獣に変身する人もいるのだよ!」

「魔獣に変身する人……ですか?」

「ああ、それがウチの研究とも関わってくるんだが……ちょっと待っていてくれ」


 姉さんはそう言うと、「終わったぞ!」とコワニーに声をかけた。


「多分これで大丈夫だ! ちょっくらスイッチを入れてみようじゃないか!」


 姉さんがヤドリ器を地面に置いた。

 するとうなり声のような音がして、ヤドリ器が浮かび上がった。


「すごい……本当に飛んだ……」


 僕はポカンと口を開けた上空を見上げる。


「これはだね! 《浮葉(ふよう)》を使ったヤドリ器なんだ。《浮葉(ふよう)》の種を動力に使い、鳥のように空中を浮遊して、畑に種をまくヤドリ器だよ!」

「種をまく? このヤドリ器が?」


 バッチオークの屋敷には、背中に《浮葉(ふよう)》を植え付けて、蝶のように飛んでみせた使用人がいた。

 彼は「高いところの窓をふく時便利ですよ〜」なんて言っていたけど、あの《浮葉(ふよう)》を使ってこんな事が出来るとは。


 しばらく空中を浮遊した後、それはゆっくりと地面に降りて来た。


 てっぺんに羽根ような物が四枚取り付けてある。

 おそらくこの羽根が高速回転する事で浮かび上がったのだろう。

 羽根の下の部分に種を入れる箱のような物が取り付けてあった。


「使ってみてまた何か不具合があれば、すぐに来てくれ!」

「ありがとよ。そうそう。いつもお世話になってるからさ。よかったらこれ、食べてくれよ」


 コワニーは荷車に載っていたカゴを姉さんにドサっと渡した。

 中には畑で採れただろう作物が山盛りに入っていた。


「アリウム先生は、発明家としては一流だけど、畑仕事のレベルはまだまだだからね」


 そう言ってコワニーは豪快に笑った。

 彼女を見送った後、僕らは家の中に戻った。


「アリウム姉さんは、村の人に、自分がアキレアの娘だって事は話してないの?」

「話してないね!」


 姉さんはそう言い切った。


「この村に来てから、父上とは一切連絡をとってない! 迷惑をかけるからね!」

「迷惑?」

「まあ色々さ。頼るつもりもないよ!」


 アリウム姉さんは、ウヒェイッと笑った。


「大事だから迷惑をかけたくない。家族ってそういうものだろう!」


 ティオーラ姉さんを見ると、聞こえないフリをしているのか天井を見上げている。


(実家に酒代をたかっている姉さんからしたら、耳の痛い話だよな)


 ごちゃついた部屋を眺めながら、僕はどこか安堵を覚えていた。


 今まで出会った姉さん――ティオーラ姉さん、フラン姉さん、キョウ姉さんは、みんなどこか張り詰めていて……何と言ったらいいかわからないけれど、アキレアの娘である事に負い目を感じているようだった。


 それは僕の抱いている劣等感とは重さが違うようで、踏み込めないでいた。


 けれど、アリウム姉さんは違う。

 新しい生活に馴染み、前を向き、自分のやりたい事に没頭している。

 姉さん曰く「家族みたいなもの」であるコバという彼も、かなりの人見知りのようだけど、きっと変わり者同士、アリウム姉さんと上手くやっているのだろう。


 何よりも、僕と出会った瞬間からアリウム姉さんは僕の事を『弟』と呼んでくれた。

 僕の事を認めてくれたんだ。


 姉さんも、アキレアの子どもである証を僕に渡してくれるだろうか。


 もしあの部屋のどこかにあるのだとしたら、探し出すのは至難の技だろうけれど――。


(――ん?)


 心の底で何かが引っかかった。

 何か、大切な事を見逃しているような――。

 それが一体何なのか、首をひねったその時だった。



 扉がノックされた。

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