3.アリウムは説明する
「えっと、その『反ヤドリ主義』っていうのは……?」
僕が尋ねると、答えたのはティオーラ姉さんだった。
「まあ、読んで字の如くってやつですよぅ」
ティオーラ姉さんは綺麗な顔を歪めて、吐き捨てるように言った。
「他の生物を身体に寄生させるのは『自然に反している』なんてばかばかしい事を言ってる奴らがいるんですぅ」
クローも乾いた声で言う。
「主義主張のために過激な行動に出る奴らなんでね。気をつけた方がいいでしょうな」
二人の言葉に、アリウム姉さんは頭を揺らした。
「まあな!『自然に反している』などと言われても、自然界には、他者に寄生して生きている者などわんさかいるからな! 生き残るためになりふり構わずなんでもやる、という姿勢こそがある意味自然であるとウチは考えているぞ!」
姉さんはドアの方に視線を向けた。
アンバー色の瞳が輝く。
「ウチはね、無力な人の味方でいたいのだよ!」
姉さんの声には、強い意志と、それからひとさじの悲しみが混ざっているようだった。
「ウチは父上のような英雄になれなかった! 父上のように強くない! そうさ、英雄というのは誰でもなれるわけではない。選ばれた存在だからな! だがな、発明の力を借りれば、誰でも父上のような存在になれるかもしれないんだ!」
「誰でも……ですか」
「たとえ才能がなかったとしても、努力によってカバーできる、そんな未来を作りたいんだ!」
姉さんの瞳は、キラキラと輝き、前を見つめていた。
「才能がなくても、知恵と努力で戦える! ウチはね、英雄を作りたいのさ!」
そう言って姉さんは、ウヒェイと笑った。
屈託のない笑顔だった。
「ウチらはヤドリ草やヤドリ獣の力を借りてヤドリ術を使うだろう? 火を起こすにしても、水を使うにしても、ヤドリ術に頼り切っている! しかし、だ。誰でもヤドリ術が使えるわけじゃないだろう?」
姉さんの言葉に、僕は内心ギクリとした。
僕はまだ自力でヤドリ草をコントロール出来ていない。
ヤドリ草を使えるのは、あの正体不明の『彼』に身体を乗っ取られている時だけだ。
その事を指摘されたような気がした。
もちろん気のせいだ。
そんな事、アリウム姉さんが知っているわけがない。
「腕力があれば、石を割り、岩を砕き、木を倒す事が出来る。ヤドリ術を使えれば、火を灯し、水をため、傷を癒す事が出来る。でも、腕力のない人やヤドリ術を使えない人でも、発明の力を借りてそういったことが出来るようになれば、生活がもっと豊かになる! そう思わないか!」
姉さんの熱のこもった言葉に僕らは気圧されたまま頷く。
「ウチもな! 本当だったらクローみたいな剣士になりたい! ただな、才能がなかった」
「いえ、あたしはアリウム様みたいな――」
「いやいやいやいや! やめてくれよ、『先生』の次は『アリウム様』かい! そんな仲じゃないだろう!」
姉さんの頭上でピコピコと髪の毛が跳ねる。
「ウチらは元々同級生じゃないか! それに君らだって――」
「え? 待って同級生?」
思わず僕は話に割って入った。
「それって、父さんの作った『ジャルダン学園』の事? ウチらって事は、アリウム姉さんも、ティオーラ姉さんも、クローも通ってたの?」
確か、フラン姉さんもジャルダン学園の出身だったはずだ。
僕の言葉に、アリウム姉さんは一瞬黙り込んだ。
「ああ……まあウチは卒業できなかったんだがな!」
「え?」
「卒業できたのは、クローだけさ! なあ、ティオーラ」
「……そうですぅ。私は逃げ出したのですぅ」
初耳の事が多すぎて、頭がついていかない。
アリウム姉さんは、お構いなしに話を続ける。
「クローは卒業後はずっと父上の元にいたんだろう?」
「ええ、屋敷で護衛を」
「ウチはな、学園から離れた後も研究の日々だ。と言っても、一人ではないぞ! 勉学の友と共同研究に明け暮れたんだ!」
「勉学の友?」
「そうだ! クラスメイトだよ! クローもティオーラも知ってる子さ! うまくやって行けると思ったんだがな……」
アリウム姉さんはそう言って、頭からゴーグルを外した。
あちこち跳ねていた白茶の毛がさらに乱れる。
「ダメだったよ。あの子とは前提が違ったんだ。結局仲違いさ」
ゴーグルのレンズを服の袖で拭きながら、アリウム姉さんはため息をつく。
「それですっかり嫌になってね! 何のために研究をしたらいいのかわからなくなって、逃げるようにしてこの村に移住したのだよ! ウチは、あの子の研究にはどうしてもついていけなかったんだ! あんなものは発明ではない! ヤドリ術に囚われた操り人形さ!」
「あの……それってどんな……?」と僕は恐る恐る訊ねた。
アリウム姉さんは首を振って「あの子は、開けてはいけない扉を開けようとしたんだ!」と言葉を吐き出した。
「禁断の研究の虜になってしまったのさ!」
その時だった。
入り口の扉がノックされた。




